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小さな発見は大きな事件3

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 お互いが些細な事で誤解し、すれ違い、仲が悪くなってしまたりする事は特段珍しい事でも無かったりする。
 誤解を誤解だと認識する事が出来れば関係を修復するのは難しい事ではないだろう。
 だが世の中には誤解したままで疎遠になってしまって関係の修復がままならない場合やそもそも修復を望まなかったりする事もある。
 これはとても寂しい事だと思う、お互いがもう一歩ずつでも歩み寄ってやる事が出来れば誤解やすれ違いも解決したかもしれないから。
 現代を生きる俺達は幸せだ、誤解やすれ違いを解消する為のツールを皆が持ってる。
 ひと昔前であれば一度疎遠になってしまえば中々話し合う機会や歩み寄る手段も限られていた。
 でもその便利なツールも使い方を間違えてしまえばツールが原因で誤解やすれ違いを生む可能性も秘めている。

 そんな便利ツールを<ベル>が<千尋>に付与するかどうかは今後の話し合い次第だ。


 ☆ ☆ ☆


 無事に和解する事が出来た俺達は今後の事を話し合う為に英美里が作ってくれたパウンドーケーキをアバターの俺以外は食べながら卓を囲んでいた。
 

「気合と根性と愛って具体的にどういう事か教えてくれ」
 ベルが肉体を持つに至った経緯が知りたい。
「はい!マスター!マスターが持つアバター作成と私の生成技術の融合によって無事肉体を得る事が出来ました!なのでこの肉体は本体では無く、あくまでも子機のような存在です。本体である私が無事であるならばこの肉体はDPさえあれば何度でも生成可能です!」
 良くは分からないが、目の前に居る<ベル>の体は俺のアバターのような存在と一緒ってことは理解出来た。
「つまり……アバターって事?」
「いいえ!マスター!この体は厳密にはアバターではありません。アバターは自分の肉体を元に作成しますが私には元となる肉体がそもそも存在していません、ですからモンスターの生成とアバター作成を元に新たな肉体を私が作りあげました。表現としては人造人間やホムンクルスの方が近いですね。それとアバターと違い生命としても機能していますので妊娠も可能だと思います!ですから是非一度マスターのお慈悲を頂きたく思います!」

 こんなにも美人なのに色気など全く感じさせないベルは本当に凄いと思う。
 きっと俺には理解出来ない技術で肉体が作られた事は理解した。

「ちなみにダンジョンコアはどうなってるんだ?」
「はい、マスター。コアはコアルームにあります」
「じゃあそっちが本体って事で良いんだよな?」
「そうですね、基本的にはその解釈で正しいです」

 どうにもまだ何かありそうな雰囲気のベルだが追及したところで理解出来そうに無く、面倒なので一旦この話は終わりにする。

「じゃあ次は千尋の事について話し合おうか」
「そうね、これから先の私の身の振り方について相談させてもらうわ」
「まずは巻き込んだ事は謝るよ、本当にすまない。だが力を貸してくれるとありがたい。これは俺の我儘だから断ってくれても良いし俺の事を外部に教えても構わないし、そうなったとしても俺は千尋に敵対もしないし害を及ぼす事もしないと誓うよ」

 千尋に土下座しながら謝罪と誠意を示しながら俺は自分の事が嫌いになりそうだった。
 ズルくて浅ましい事は自分でも理解している、千尋が断れない事も承知で頭を下げて懇願している。
 それでも俺はこの縁を手放したく無い。
 たとえ自分が嫌いになったとしても。
 たとえ千尋が断れない状況を作ったとしても。
 俺はこの家族も幼馴染も失いたくない。

「まこちゃん、顔を上げて。そんな態勢じゃ話がし辛いから」
 こちらの思惑を理解してない訳が無い、それでも優しく声を掛けてくれる千尋に甘えて顔をあげる。

「本当にずるいと思う、こんなの断れないよ。でもねそこまでして私を必要としてくれた事が嬉しいよ。惚れた弱みなのかもしれない、昔は逆だったのに気が付いたら私はまこちゃんに惹かれてた。高校に入ってバイトを始めてからまこちゃんは先輩の事が好きになった。振られてもまだ好きだと未練がましく私に相談なんかしちゃってさ、悔しかったし歯痒かったよ過去に戻って告白を受ければこんな事にはならなかったんじゃないかって何度も思った。だからネトゲを通じてストーカーみたいな事も始めた、社会人になってからは忙しくて段々とまこちゃんの事も過去の事だからって割り切れるようになったし、もうこのまま幼馴染のままでも良いかなって思ってたのに。ずるいよ……こんなに必要とされたら断れないしまだ私にも可能性があるんじゃ無いかって期待してしまう。だから私はまこちゃんの協力者になるよ……私の為に」

 千尋が語ってくれた。
 想いは受け取った。
 何かを決意して覚悟を決めた千尋の顔はとても凛々しくて辛そうだった。

「ありがとう……千尋」

「では!」
 英美里が大きな声を上げて仕切り直してくれる。

「無事に千尋さんとの協力関係も結ばれたので<怠惰ダンジョン>とご主人様の<怠惰>についての詳しい説明と今後の方針についてを話していきましょう!それと千尋さんに協力してもらう具体的な事も!」

 そこからは千尋に<怠惰ダンジョン>と<怠惰>についての説明と俺達がいままでやってきた事や今後の方針を話し合った。


 ☆ ☆ ☆


 途中昼休憩を挟みながらも話し合いは終了した。
 昼休憩の時にアバターを収納してからは俺も本体のまま話し合いに参加していた。
 今後の方針も大体決まり、千尋に協力してもらうことも決まった。
 3時のおやつを頂きながらゆったりとした時間が流れていく。
 おやつを早々に食べ終えたエルフルズは話し合いが終了したので仕事に戻ると言って畑に向かって行った。

 俺達もおやつを食べ終わり、今後の為に必要なスキルを千尋に付与する事にした。

「じゃあベル<念話>を千尋に付与してやってくれ」
「はい!マスター!念話と<隠蔽>も一緒に付与しておきますね!」

 初めて聞くスキルに戸惑う。
「隠蔽ってなんだ?」
「はい!マスター!隠蔽はステータスを鑑定で見られなくしたり存在をバレにくくするスキルです!後でマスターにも付与しますね!」
 いったいいつの間にそんな便利スキルが付与できるようになったのか気にはなったが今は千尋を優先する。

「では!」

 千尋が協力者になると決まってからは態度も大分軟化したベルが千尋の手を掴んだ。

「……付与完了です!」
 数秒程の短い時間で付与は完了した。

「じゃあさっき説明した通りに念話してみてくれ!」
「えぇ、やってみるわ!」

『どう?聞こえる?』
 千尋から念話が掛かってきた。
『聞こえるよ、成功だね!効果範囲の確認がしたいから家に帰ってからもう一度念話してくれ!』
『りょーかい!』

 無事念話が可能になり、聞きそびれていた<隠蔽>についてベルに質問する。
「結局、隠蔽ってどうなるんだ?この状態で俺が千尋に鑑定したら<隠蔽>が適用されてるのか?」
「はい!マスター!隠蔽は自分でステータスを開示する意思が無ければ発動してしまいますから隠蔽されている筈ですよ!」

 ものは試しで千尋に鑑定をかける。


   ?   LV?

 スキル ?
 加護 ?


「なるほど……名前もレベルもスキルも加護も?で表示されるようになるのか……隠蔽してるのバレバレじゃねーか!」

 思わずツッコミを入れてしまったが、隠蔽している事がバレたとしてもスキルや加護がバレるよりはましなので俺も付与してもらう。

「俺にも付与頼む!」
「はい!マスター!」

 言いながら突然ベルが俺に抱き着いてきた、咄嗟の事で回避出来なかったがまぁ良い。
 俺よりも少し低い身長、さらさらで艶のある髪、メリハリの聞いた体、俺も抱きしめようと手がベルの後ろに回る。

「そういのうのは後でしなさい!」
 あと少しのところで俺の腕は千尋に阻まれた。
 仕方がないので全身の神経を胸とお腹に集中して柔らかい感触を堪能する。
 
「なんか長くない?あと抱き着く必要無いよね?」

 外野が何かうるさい。
 ベルが付与してる途中でしょうが!
 少しは空気を読んで欲しい!

「いやいや私の時と違いすぎでしょ!もう終わったんでしょ?鑑定!……ほら!隠蔽出来てるから!おわりおわり!」

 もう付与は終わっていたのか、だが一向にベルは抱き着くのを辞めない。
 俺の胸に顔を埋めたまま動かない。
 見かねた千尋が引き剥がすまで抱き着きは続いた。

「私の気持ちを知っておいてこの仕打ちは流石に酷いと思う!」
 千尋が冗談を言っているのを聞き流して俯いたままのベルの顔を下から覗き込む。

「うへへへ」

 涎を垂らしながら何かうわ言をつぶやく恍惚の表情を浮かべたヤベー奴がそこに居た。
 流石にちょっと引いた、体ごと。


「良し!俺も隠蔽付与してもらったし、後はG-SHOPが入手出来るか試しにコアルームへ行こう!」

「では転移門で向かいましょう!」
 いつの間にか復活したベルが先導しながら転移門のある部屋へと移動した。

「これが転移門……門では無いみたいだけど大丈夫なの?」
 当然の疑問を抱く千尋を無視して説明する。
「この襖に触れると転移する場所の選択肢が表示されるから選択して転移するだけ!まだ襖の設置がこことコアルームしか無いから表示された所を選べば良いからな!」

 千尋が頷き襖に触れた。

「……なんにも起こらないんだけど?」

「「あっ……」」

 しまったと何かに気付いてベルと英美里が声をあげた。

「ご主人様、一度直接コアルームに訪れていないと転移が出来ないという事を失念しておりました」

 英美里が頭下げる。

「じゃあ歩いて行くか……俺はアバターで良いよな?」

 皆には先に外で待っててもらって一人部屋に戻ってアバターの操作を開始して玄関から外へ出る。

「よーし!じゃあ行こうか!」
「うん」
「「はい!」」

 ピクニック気分で山へと歩いて行く。
 千尋が協力してくれて本当に良かった。
 俺が強引に千尋に協力させているという可能性があるのは理解している、現に<怠惰>の効果が千尋にも適用されている。

 <怠惰>の効果で千尋が俺に協力的になっているのか、千尋の意思だけで協力してくれているのかは判断出来ないがそんなことはもうどうでも良い、これで<怠惰ダンジョン>に居る間は千尋の安全も保障してやれる。
 俺は俺の使える手札を使って俺の大事な者を守る。
 俺自身が弱くても最初程の不安は無くなった。
 俺自身が何も出来ずとも俺が居るだけでここは鉄壁なのだから。











「そういえば鬼人って生成しないの?」
「もうDPに余裕が無いので無理ですね!」




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