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世界が変わっても人間そんなに変わらない7
しおりを挟む目が覚めた時感じたのは布団の柔らかさと温かさだった。
「あれ……布団で寝たんだっけ?」
「おはようございます!ご主人様!」
英美里が何処からか挨拶してくる、体を起こして寝ぼけ眼で周囲を見やると彼女は料理の途中だったのか菜箸を持ってこちらを笑顔で見つめていた。
「おはよう……」
こちらも挨拶を返す。
「パソコンの前で寝ていましたので布団までお運びさせて頂きました、これからはちゃんとお布団でお休みなさって下さいね!」
「ありがとう気を付けるよ」
英美里が居れば何処で寝ても大丈夫そうだなと、全く反省するつもりなど無く適当に返事を返す。
「もうすぐ朝食の用意ができますのでまた後でお呼びしますね?」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
眠気を覚ますついでに顔を洗いに行き、再び部屋にもどる。
「そういえばステータス確認しとかなきゃ」
眠気もある程度覚めたところでステータスを確認する。
児玉 拓美 LV10
スキル 怠惰/ダンジョン用アバター作成/アバター操作/念話
加護 娯楽神の加護
G-SHOP
「レベルが遂に二桁になってる!」
レベルが二桁を超えており、自分がわくわくしているのが分かる。
「流石になにかスキル増えてるんじゃないか……」
G-SHOPを開いて取得出来るスキルを探すが何も無い。
「今日も新スキルは無しか……アバター関連はどうかな」
新スキルは無かったが正直どうでも良かった、本当なら自分の強化が最優先なんだが今はアバターの性能向上の方が興味があった。
<アバター> 残 27000SP
アバター修復 消費SP1000
味覚機能 消費SP10000
聴覚強化 消費SP15000
視覚強化 消費SP15000
触覚強化 消費SP15000
嗅覚強化 消費SP15000
身体能力強化 消費SP15000
身体能力同調 消費SP15000
魔力同調 消費SP20000
魔力強化 消費SP20000
魔力量同調 消費SP20000
魔力量強化 消費SP20000
新しく増えたのは魔力関連、消費は一律20000SPで残SPは27000、強化するものは決まっている。
「味覚機能と身体能力同調取得!同調したら今の自分がどの程度動けるのか疲れる事無く確認出来る!」
迷う事無くアバターの強化を終えて早速アバターで性能のチェックをしようとアバターを取り出し操作を開始した。
アバターで台所に居た英美里に「少し外に出てくる」と声を掛けてから外に出て、10年ぶりぐらいに全力で走る。
「はっや!マジか!今の俺なら陸上競技でオリンピック出れるんじゃね?」
自分が思っていた何倍もの速度で走れることに驚きながらも走って畑まで向かうと、エルフ達がもう作業を始めていた。
「おーい!昨日はごめん!寝てたみたいで行けなかったよ……それにしても凄いな!これがエルフ流マジカル農業かぁ……なんか良く分かんないけど凄い速度で成長してるし、成長しきった側から収穫されてるんだが」
エルフリーダーに声を掛けつつマジカル農業の様子を観察する。
「おはようございます児玉様!いえ、こちらも何も持て成す用意が出来ていませんでしたから、今度は持て成す用意がきちんと整いましたら招待させて頂きますので、そのときは是非いらしてくださいね!マジカル農業……魔法を使えばこのように素早く収穫できますよ!」
「ちなみにどんな魔法使ってるか教えてよ!」
魔法の事が気になったので聞いてみる事にした。
「はい、では軽く説明しますね最初に使うのは土魔法ですね。土魔法で肥料を使って土壌を整え、種や苗を植える場所を作ります。その後風魔法を使って種や苗を先程作った場所へと運び土魔法で土を被せます。植え終わったら植物魔法で生育を促進させるのですが、同時に土魔法と水魔法で土壌を整えながら行います、天気が悪い日は光魔法も使います。生育が終われば風魔法と土魔法で収穫します。細かい説明を省くとこのような流れになっております!」
素直に感心する、このマジカル農法がどれ程の難易度かは俺自身魔法が使えないので分からないが現代科学では太刀打ち出来ない事だけは分かる。
数十分程で土を整える所から収穫までが終わるのだ、マジカル農法が確立すれば世界の食料事情が劇的に変化する事は間違い無い。
「これは……普通の農家が見たら卒倒するな」
「植物魔法が使えるからこそのやり方ですからね!」
誇らしく胸を張るリーダーを見つめ思わずその姿に見惚れてしまう、自分の魔法に誇りがあるのだろう自信満々に胸を張っている大きな胸をこれでもかと強調していた。
リーダーの胸を見ていて気になる事を見つけた。
「そういえば……若干服のデザインが違うような?色も昨日より濃いか?」
「そうなんです!昨日ベル様に作業服を沢山頂いたんですよ!布や糸も!他にも生活で必要なものは全て用意してくださいましたし……ベル様は本当に素晴らしいお方ですね!」
笑顔でベルを称賛するリーダーはとても幸せそうだった。
その眩しい笑顔にやられそうになるがなんとか踏みとどまる。
物事には順序があると英美里に言われたその言葉が無ければ絶対に耐え得られない程の破壊力を持つリーダー、そんなリーダーがベルを手放しで称賛する<怠惰ダンジョン>は素晴らしいボスが治めているんだと俺自身も誇らしくなった。
「ちなみに昨日渡した種はどうだった?」
「昨日頂いた種は別の場所で魔法を使わずに普通に植えているものと先ほど収穫したもので分けております、検証の為にとベル様に指示されましたので!果物類も別の場所で分けて栽培しています、果物類は魔法を使ったものは後2日もあれば収穫出来ますよ!」
ベルが居てくれて良かったと思うのはこれで何度目だろうか、逆にベルが居なかったらどうなっていただろうかと考えてしまう。
ベルが居なければ俺は早々にスキルばれでもして馬鹿のように政府に良いように使われるか抹殺でもされていたのかもしれないなと怖い考えに行きついた。
「ありがとう!これからもベルを支えてやってくれ」
心からの笑顔でリーダーに告げる。
「はい!勿論です!」
俺が何もしなくても<怠惰ダンジョン>は安泰だ、むしろ俺が何かすると迷惑になる事を俺は理解している。
もしも世界中が敵に回ったとしても俺は変わらず何もしないだろう、だってベルが居れば何もしなくても良いのだから。
☆ ☆ ☆
マジカル農業の実演を見終えた俺は全力で家まで走って帰った。
アバターは凄い、どれだけ全力で走ろうが疲れもしないのだ俺は既にアバターの魅力に取りつかれていた、アバターを使っていると本当にフルダイブ型VRの世界に居るような気分になれた。
夢にまで見た仮想現実がアバターの力で実現している。
だから俺は忘れていた。
ここは現実世界で、世界の常識やルールが変わってしまった事を。
「あれ……動かない……なんでだ?」
家に着いて玄関で靴を脱ごうとしたら、急にアバターが動かなくなった。
動かないだけでは無く視界も本体に強制的に切り替わりアバター操作も強制的に解かれた、今までこんなことは起こったことが無かった。
意味が分からなかった、何が起きているか分からず焦りからか思考がうまく纏まらない。
「急に何が……まさか敵襲!攻撃されたのか?……気付かない内に……英美里も気付いて無い……?落ち着け……」
落ち着けと自分に何度も言い聞かせる、冷静さを取り戻すようにゆっくりと深く何度も呼吸を繰り返す。
(ふぅ……まずは何をすれば良い?考えろ今できる事を……ベルに連絡と英美里の安否とエルフ達の安否確認が最優先か……敵はどうしてアバターを攻撃した?いやまずはベルに連絡だ!だが待てよ……念話しても良いのか?傍受したり探知される危険性は?クソ!何もわからない!情報が無さすぎる!敵はどこだ?本体の俺が無事って事は俺が家に居る事に気付いて無いのか?よし!一旦押し入れに隠れよう!)
ぐちゃぐちゃな思考のままそっと音を立てないように押し入れへと身を潜ませる。
(これからどうする?念話は出来ればしたく無い……敵がどんなスキルを持っているかわかったもんじゃない!ならばまずは家の中に英美里が居るか確認しないと……無事で居てくれよ!)
意を決して英美里を探しに部屋を出る、部屋を出ると台所の方から物音が聞こえる。
(英美里か?なんだこの音は……何かが弾けるような音……クソ!わからんが……見に行こう!……敵だったらどうする……逃げ一択だが、とにかく音を立てずにゆっくり行けば……)
ゆっくりゆっくりとカタツムリが這うような速度で音を立てないように気を付けながら廊下から台所をのぞき込むとそこには英美里が何かフライパンで焼いていた。
(英美里!無事だったか……)
英美里を見つけ一瞬安堵するが敵がまだ何処にいるかわからない、ゆっくりと英美里に近づく。
「どうしたんですかご主人様?」
なんでも無いように、まるで敵に気付いた様子も無くこちらに振り返り声を掛けてくる。
咄嗟に英美里の口を塞いで、自身の人差し指一本だけを立て唇に当てがいハンドジェスチャーで静かにするように英美里に伝える。
英美里に無事伝わったのかコクコクと可愛らしく頷き返すが、状況が理解出来ていないのか困惑したような顔を浮かべているので小声で囁くように状況を説明する。
「英美里……敵だ、襲撃を受けた」
英美里が一瞬驚いた顔を浮かべるがすぐに真剣な顔でこちらに問い返してくる。
「申し訳ありません気付きませんでした……敵は何処ですか?この身に代えてもご主人様をお守りします!」
「いや……それがわからんのだ」
困惑顔で英美里が問い返す。
「わからないとは?襲撃されたのですよね?」
「あぁ、俺のアバターが急に動かなくなって操作も強制的に解かれた」
「ではアバターは今何処に?」
「たぶん玄関だ」
「敵を見ていないのですよね?ベル様に連絡は?」
英美里の顔が更に怪訝な顔になる。
「いや、念話は危険だ……相手がどんな能力やスキルを持っているかわからない」
「はい?」
英美里がキョトンと可愛らしく首を傾げる。
「どうした?」
英美里がにっこりと微笑みを浮かべながら俺の頭撫でてくる。
「なにしてる!今はそんなことしている場合じゃないだろ!」
小声で怒鳴るという荒業をやってのけた俺は敵にバレたかもしれないと周囲を見回すが敵の姿は見当たらない。
「ご主人様」
英美里が優しく微笑みながら俺の頭を抱きよせた。
「ご主人様、まずは冷静になりましょうか……そしてご主人様のスキル<怠惰>の効果を思い出してください、その後アバターの様子を見に行きましょう!ちなみにベル様は敵影無し、安全だと言ってますよ」
言われた通りに<怠惰>の効果を思い出す。
思い出して顔が赤くなっていくのが分かった、恥ずかしさでどうにかなりそうだったが英美里の胸に抱き寄せられている今はその温もりと柔らかさを少しでも堪能しようと黙り込む。
暫く経って胸の感触を大分堪能してからゆっくりと顔をあげて英美里に一言伝える。
「死にたい……」
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