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日常を知る売国奴と屈しない王子

23.フォーズの領分、盗賊の領分

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 盗賊のアジトへ行ってから数日、なんか最近気持ちが浮き付く。
 生きている実感とでも言うのか、オリオセージで味わったことの無い気持ちを多く感じ取っている。正確に言えば、牢獄でルビヤに出会ってからだけど。

「何か嬉しい事でもあったんですか?」
「まーなぁー」
「なんですか!? 教えてくださいよ」
「教えま・・・せ~~んっ!」

 これが答えだとばかりにルビヤの頭をワシャワシャとしてやる。
 いつものように抵抗しながらやめるように言われるがやめた試しは無い。
 だってなんだかかんだで笑ってる表情を見ると喜んでるようにも見える錯覚があるし、俺もなんだか笑みがこぼれてしまってやめられる訳がなかった。
 いつか牢獄に戻る事になるのだから、今の内に堪能しておきたいのは当然だろう。

「も~う、今日はこれから村長さん達と結晶石の跡地に行かないといけないんですから~」
「あはははは、悪い悪い」

 手串で髪を整えるルビヤもまたいつもの光景だった。
 しっかりと手入れされているからか知らないが、ボサボサにしてやった髪はすぐにいつもの形に戻っている。

「あっ!そうだ、後でフォーズさんに渡したい物がありますので、楽しみにしていて下さいね!」

 満面な笑みをまた俺に向けてくれた。これもまた変わらぬ日常には欠かせない物であり、日常を実感させてくれる。
 良い事だよな。何があってもすぐに今までの形に戻るって。
 俺の人生も・・・戻ってほしくは無いな、うん。

 そんなくだらない事を考えていると、何があってもの、何が。が訪れたのだった。


「ルビヤ様!! ルビヤ様はいらっしゃいますか!!?」


 始まりは、血相を変えて現れた村長だった。
 俺とルビヤは、真剣な顔立ちをお互いに見合い、ルビヤを呼ぶ村長のもとへと向かったのだった・・・。







「出てこいルビヤァアアアアアアア!!!!!」

 耳に入った第一声は、俺が盗賊のアジトで出会ったお坊ちゃまだった。
 まさか、ルビヤの名前を叫んでるなんて思いもしなかった。うわぁ俺失敗したくせぇ・・・。

「パーズお義兄さん。な、何かあったのですか」
「何がじゃない!!」

 いや~お義兄さんか~~。エルターも一言くらい俺に言ってくれよなーわからんって。反射的に物影に隠れて正解だった。

「私に・・・この私にぃぃ!!!」

 パーズという男が暴れ狂っている姿を見てルビヤ含めてシアマ村の人々は言葉を発する事が出来ないでいた。
 むしろそれ以上にみなパーズの後ろに待機している連中に目線が行っている。
 そう、誰がどう見ても盗賊の連中である。

「ルビヤ!!権利書だ!! 権利書を寄こせ!!」
「な、何を急に・・・」
「良いから寄越せ!! この村を寄こせと言っているのがわからないのか!!!」

 パーズが目の前のルビヤ目掛けて手を上げた・・・。
 俺はすぐに物影から飛び出した。けれどここからじゃあ間に合わないか!?

「大将、まだそれは早いですぜ」
「あなたは・・・」

 大男がパーズの振り上げた手を止めていた。

 それを見て俺は、空かさずルビヤの身を引っ張り間に入る。

「ぉ!!? ぉま・・・お前は・・・!!? ぅっ・・ぁああ!!?」

 睨み付ける俺と目が合った瞬間にパーズは発作を起こしたかのように言葉を詰まらせ始めた。一応は効果はあったようでよかった。

 だが問題は、パーズなんかでは無い。
 俺は、パーズに向けていた視線を大男へと向ける。

「あの時は悪かったな坊主、まぁ前も言った通り俺も仕事だったんだ。無事で何より、と言っていいんですかね?」
「・・・はい、お心遣いだけは受け取っておきます」

 俺の背に居るルビヤの声色が変わった。
 そうか、話しに聞いていたルビヤをあの空間に放り投げた張本人がこの大男か。
 先日俺がアジトに行った時は居なかったが。リーダーってのはこいつって事だな恐らく。

 改めて殺意を少し込めて睨み付けるとリーダーさんは両手を挙げまるで敵意は無いかの様な仕草をし出した。それと同時にパーズが後ろへ逃げるように消えて行った。

「俺は、こいつ等のリーダーで"ドギア"ってんだ。一応今逃げて行った男から雇われて者だ」
「そうですか、ご丁寧にありがとうございます。僕は」
「えぇ、存じ上げておりますので説明は不要です」

 俺の腕を避けて前に出たルビヤが対面する。
 二回り以上の体格差に怯むこと無く盗賊リーダーを名乗るドギアに立ちはだかるルビヤ。
 村の人々は声を震わせ不安な空気に満たされる。
 口調は穏やかに聞こえるが、油断にならない輩だと俺の経験と直感が気を許す事はなかった。

「単刀直入に言いますと、うちの雇い主の言った事を受け入れてくれませんかね? 争い事を望まないあなたの為にも、ここは穏便に済ませたいのですが」
「申し訳ありませんが、お断りします。先に言っておきますとこれは権力を手放したくないからではありません。他の方に任せたくは無いからです」

 ルビヤの射抜くような眼差しがドギアを捕えていた。
 変わる事の無い想い、変えてはいけない想いを、ルビヤはぶつけた。

「託されたモノを簡単に投げ出す訳にはいかないんです」

 あまりにも強い眼差し。そんじょそこらの人間では到底出す事の出来ない瞳。
 どんな人間、どんな魔物が来ようと屈する事の無い瞳だ。その瞳は多くの人を魅了した物であり。

 そして、今目の前に対峙するドギアにとっては大きな壁へと変わる物だった。

「そう・・ですか。なら仕方ありませんね」

 大きな溜息を出すドギアと共に背後で待機していた盗賊達が一斉に手を伸ばした。伸ばした先は自らの得物、これから起こすであろう事の準備だった。

「ならここからは、盗賊の”領分”です。おわかり頂けますね」
「いいえ、解りたくもありません!」


「それは残念・・・ですねっ!!!」


 それは一瞬の出来事だった。
 ドギアと名乗る大男の手には大剣が握られ振り被る寸前だった。

「ほぉ~・・・こりゃ凄い」
「そりゃどうも、黙って傍観して居たかったんだが。そうはさせてくれなかったようで」

 ドギアが振り下ろす前に、腕を俺は止めた。
 強靭の肉体通りの力が受け止める腕から伝わる。それは恐らくドギア、俺の敵へと変わった大男もわかっているだろう。

「邪魔するって事だな?」
「いや、俺の”領分”にあんたが踏み込んできただけだ」


 火蓋は、とうに切られていた・・・。
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