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エピローグ
しおりを挟むアンティオキア作戦の成功。
それは全人類、この世界に生きる者全てに聞き渡っていた。
大国の一つであるフリッズ王国がアンダーズという驚異から人類の手に戻すことが出来た。
アンダーズがこの世界に蔓延り人類に生きる希望を奪い続け十数年。
長い年月をかけてようやくの吉報が世界へと届けることが出来たのであった。
「よーし! 撤去作業は終わったな、次に行くぞお前達」
「はい!オウギフ様!」
多くの者が今もフリッズ王国への帰還を待ち望んでいる。だがそれには少しばかり時間を有する必要があった。
アンダーズに破壊し尽くされた瓦礫、魔力汚染された土壌浄化。
そして何よりも、奪還されたフリッズ王国を再び奪おうと動くアンダーズに対しての防衛。
作戦を成功に導いたとされる東寮の面々も今は、一人のリベリィ、一人の人間としてフリッズ王国に救援、支援として体を動かしていた。
「じ、自分・・・オウギフ様に付いてきて本当に、本当によかったです!!」
「俺も・・自分の手で祖国を奪還できたこと、オウギフ様のおかげで・・おかげで!!!」
誰もが涙しながら、作業を進めていた。
オウギフはそれは先日も聞いたと言いながらも仲間達を労う。まだまだ仕事は山積みであると言いながら、仲間達と喜びを分かち合っていた。
だが、オウギフにとってはまだまだ自分の力だけでは駄目なのだと痛感もしていた。
今回劇的に自分達が作戦の要になれたのはあの第3班のおかげだと考えているからだ。仲間達は自分の力がとは言っているが、オウギフは己の力の未熟さを今もなお感じている。
「まだ・・・我がライバルには遠く及ばない・・・だが」
自らの祖国を取り返す為にはもっと力を付けなくてはならない。
その為にも目の前の事をしっかりと向き合う事が大事だと学んだ、あの戦い。一騎打ちの敗北から学んだことはあまりにも大きかった。
その学びを生かした結果がこの自分が今立っているフリッズ王国の奪還に繋がったのだと。今もオウギフは心の底から想っていた。
「あの・・・すみません」
「ん? はい?」
一人の女性がオウギフに話し掛けたのだった。
女性は教会のシスターの格好をしていた。頭も被り物をし髪を出さないようにしているしっかりとしたシスターだった。
しっかりとしてはいたのだが・・・ある部位。シスターの服では隠しきれないある部位だけは、その主張をしっかりとさせなかった。
「こちらにユース・リベリィ、東寮のオウギフ様というお方がいらっしゃるとお伺いしたのですが。再建計画のお手伝いをして頂けると聞いていたのですが」
少しの動作だけで揺れ動くそのある部位に多くの者は手を止めその揺れ動く動作に目が釘付けになりながらも誰もがオウギフに目を向けた。
目線を集めるオウギフもまた顔を赤くしながらもコホンッと息を整えシスターに答えたのだった。
「はい、私がオウギフとでふ」
「・・・でふ?」
誰もがその場が凍り付いたのは言うまでも無かった。
――― ――― ―――
現地のフリッズ王国は大忙しなのは当然の事ながら、アンティオキア作戦の一番の功労者であるリベリィの総本山であるヘリオエール学導院もまたいつも以上に騒がしいことになっているのは言うまでもない。
「あんっ!!!? キメラだ!? てめぇーら、あれが扱えるくらいに魔力鍛練してきたのか?? ブレイカーに頼るよりも先にやる事があるだろうがぁああ!!!」
チシィの親父ことおやっさんが作戦で大活躍したチシィの発明を我先にと頼みこんでくる下っ端ユース達に一喝していた。
ほとんどの者達はその言葉で尻尾を巻いて逃げ惑う。
そんな中、一人のリッターがおやっさんの隣で寛いでいた。
「オヤジさん、少し手心という物はないですか。私達とは世代が違うのですから」
「ふん! どいつもこいつも娘の娘のって、寄って集りやがって。シリヲンてめぇーもだ!」
「そうですか? 確かにまだまだ精進する身ではありますが、人一倍鍛練を積んできたつもりではありますが」
「てめぇーの口先は世代とやらで成長したようだな、魔力が上手く使えなくて一人で夜な夜なブレイカー勝手に取り出してた洟垂れお嬢さんがよ」
「ははは、おやっさんには敵いませんよ」
久しぶりの学導院の空気を満喫しながらブレイカーの改良をお願いしていたシリヲン。
彼女もまたアンティオキア作戦の功労者の一人。それだけでは無く連合軍の軽率な作戦実行による被害者の一人だった。
本来ならばアンティオキア作戦においての報告としてストライク王国に足を運ばなくてはならないのだが、連合軍の不穏な動きなどの事から現在はヘリオエールに待機していた。
報告などは、主にマイスター・アーシャが一人で行うという方針になってしまったことから、彼女もまた自らの未熟さを痛感したと共にあの作戦で必要のない犠牲になった者達を静かに憂えていた。
「・・・洟垂れは、変わってないみたいだな」
「手厳しいですね、おやっさん」
自分の不手際。誰もそんな事を思うことのないのにもシリヲンにとってはあの戦いで多くの仲間を失った事に変わりはなかった。
今までも多くの仲間を失っては同じように憂えたが、今回の作戦に至ってはそれだけに留まらなかった。
第3班の力が、作戦成功を導いた。
公にはその情報は出回らない事になったが、先ほど学導院のユース達がおやっさんの下に来たように噂が噂を呼んでいる現状だった。そんな噂を鵜呑みにしている者達が何を考えているかは当然わからない。
だが、シリヲンにとってはその事実が気持ちをより複雑化させていた。
「あ、いたいた! おーーいシリヲーーーン!!」
そのシリヲンの気持ちを複雑化させている原因の一人が現れた。三凛華の一人であるミレスだった。
ミレスは、ナリヤゼスとチシィの三人がこちらへと向かってくる。
「どうだった? 認可は降りそうなのかい?」
「うむ! キメラの量産化は無事に行われそうだ。これで私の野望も一歩前進ということだ」
「リッター・シリヲンも確かブレイカーのキメラ化をご要望だったかと記憶しておりましたが」
「何を言う、リッター・シリヲンには特注品を用意するに決まっておろう? もちろん、データ収集には手伝ってくれるますよね???」
ニヤニヤとまるで悪党のような目線を向けるチシィ。そして口をへの字に曲げて額に汗をかくナリヤゼス。
二人をポカンとした表情でシリヲンは固まってしまった。
そして、急についさっきまで思っていたの複雑な気持ちが少しずつ抜けていくのが良くわかった。
「シリヲン!」
ミレスがシリヲンの手を取った。
その時のミレスの顔が凄く眩しく見えた。自分が思っていた迷いを晴らすかのように。
自分の中にあった複雑な感情。横で共に戦っていたミレスが遠い存在になった・・・そんな想いを抱いていたが。
今のミレスの顔を見て全てが払拭された。
「あぁ・・・!」
ミレスは、今も昔も変わらない。
少なくとも今はその考えのみで頑張ればいい。その気持ちで更に精進していこうと決めたのだった。
あの戦いで犠牲になった者達を胸に秘めて、もっと強く。
ヘリオエールの三凛華の名に恥じない為に・・・。
――― ――― ―――
ストライク王国の王城。
それはその名の通りストライク王国の王家の城であると共にストライク王国の象徴の一つだった。
現在そこには他国の者達の王国の者も今では在住していた。当然フリッズ王国の王族達もまた同じ城で世界の情勢を見渡している。
そして今、フリッズ王国の一番の功労者として、マイスター・アーシャとその指導者であるキュベレス学院長が玉座の前で直に報告をしていた。
長い報告を行う二人の言葉に、王族の者達は誰もが黙って聞いていた。
ストライク王家の者達は当然の事ながら、他の国の王族達もまた同じように二人の言葉を一語一句取りこぼさんと目を閉じ聞き入っていた。
それは未来、自分達の国がアンダーズから取り戻す事が出来る事を想像している他ならなかった。
無理難題、絶望的な事、誰もが無理だと諦めていた事。それを今目の前にいる少女が為し得たのだと深く念頭に入れながら。
「―――以上です」
長い報告を終えた途端に大きな拍手が玉座の間に広がる。
誰もがその報告に喜び、そして未来を見据えながら手を叩き続けた。
「よくぞ成し遂げてくれたマイスター・リベリィ。此度の働き、みなが大手を振るう事間違いないであろう」
ストライク王国の現国王 カラン・エイ・フレンドス
今は亡きトゥールギス・ストライク国王の側近を務めていた者。
誰よりもトゥールギス国王の傍に付き従え、誰よりもトゥールギス国王の理解者だった。
お互い親友だったとされる二人の昔の話はまた別の時に話すとする。
カラン国王は立ち上がると共に学院長とアーシャに労いの言葉を送る。
このストライク王国が今もこうして存続出来ているのは彼のおかげである事は国民の誰しもが思っていることだった。中には生前のトゥールギス国王と二人の勇姿が見れない事に今も嘆いている者達が居るほどに前国王も現国王も多くの者から支持されている存在だ。
「・・・カラン国王陛下。発言をよろしいでしょうか」
「ん? ・・・うむ、発言を許す。マイスター・リベリィ」
カラン国王は一瞬横目に、自らの娘に視線を送り確認を取っていた。
その娘の一人が目を閉じ小さくコクリと頷いていた。当然アーシャはそのやり取りを当然知っていて、カラン国王の許可を煽ったのだった。
そして、アーシャは息を深く吸い込み目を見開いた。
「我々リベリィに新たなグレード・・"シード"の設立にご助力お願いできませんでしょうか」
マイスター・アーシャの言葉に各国関係者達は動揺を隠しきれなかった。
そしてそれはカラン国王もまた同じだった。
この場にいる中で動揺を示さなかったのは、キュベレス学院長と・・・。
先ほどカラン国王が確認を取った娘達であった・・・。
――― ――― ―――
「ふわぁああああ~~やっぱこの店の飯が一番美味い!!」
「欠伸しながら言うか普通?」
「ずっと軍支給品ばかりでしたからね」
「飽きた」
例の作戦から数日。俺達はなんかあっちこっち行き来していた。
殆どは我等が班長、リッター・ミレスの同伴だったが。それからもようやく解放された。
だけど、結果としてそれはあまり喜ばしい事ではなかった。
「なんだっけか、ダッドはチシィと一緒にブレイカー開発、ムーは魔術関連の発展の為・・・確かナリヤゼス嬢と同じ部隊。プンはミレス班長いや元班長と一緒に各地を飛び回る予定だっけか」
その結果とは。
精鋭小隊特殊班 第3班 解散。
どうやら元班長ミレスから最近聞いた話しだが、俺達が不思議と好き勝手色々出来たのは学院長が用意したその第3班という箱があったからだった。
先日行われたアンティオキア作戦の最後の切り札、なんて大それたことを言っていた気がした。無事にその任を俺達は全うしたということらしい。
第3班は作戦成功のみならず新型ブレイカーの開発、ヘリオエール東寮の統一と、多くの功績を上げた謎の特殊班としてその幕を閉じる事になった。
「はぁー・・・」
「最近溜息多いですね、解散がそんなに嫌だったんですか」
「そんなに嫌か? 別にヘリオエールに在籍している限る、また顔合わせる事になるだろうし」
「ルームメイト」
まあーそうなんですけどぉー。
今は色々ドタバタしている関係上、学院長にも姉上達からもこれからどうするのか一切連絡が無いからってのもある。
今までそんな事考えなかったからなんか気持ちが悪い。むしろ第3班の日常があまりにも俺の身体の一部のように馴染んでしまい、それを急に取り上げられた気分に苛まれているような感じだ。
ボンッ!!ボンッ!!ボンッ!!
外から何かが撃ち上がった音が店の中まで響いた。
「お祭り」
「そういえば城下町でお祭りがあるみたいですね」
「僕等がフリッズ王国解放したからね、そりゃお祭りムードにもなるよね」
世間はお祭りムード。
恐らく今ダウンしているのは俺だけなのかと思ってしまう。
あぁー誰もが喜び楽しんでいる音が今の俺には刃のように刺さってもうこの店から出たくないとさえ思ってしまう。
飯を食い終わりテーブルに蹲る。このまま居眠りでもかましてやりたいくらいだ。
「おーーい、リュールジス~~!」
「リュルさん、行きましょう!」
「お祭り、リュル」
ムー。
ダッド。
プン。
三人が俺を見て手を差し出していた。
俺の気も知らないで・・・コイツ等は・・・。
「だぁあああああー!!わかったよ!!! お前等おごりだからな!!!」
「「「ない」」」
「くそがぁあああああー!!!」
差し出された手に触れて俺は店を飛び出した。
気持ちはまだ整理しきっていない。けれど、今俺は手を差し出された。
手を差し出してくれる仲間がいる。
今はそれだけでいいのかもしれない。
探し物・・・もう少しで見つかりそうだ・・・。
きっと、その時。
ここにいる奴等もまた今と同じように笑い合っているだろう。
きっと・・・そうに違いない。
だから、今を・・・今をしっかりと大切にしよう・・・。
「毎度~~」
リュールジス達が出てすぐに、同じ店から一人の女性が姿を出した。
黒く肩まで伸びた可憐な髪に深海の海のような蒼い瞳をした者が城下町の祭りに笑顔を浮かべながら消えていくリュールジス達を見ていた。
「彼が・・・リュールジス」
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