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第34話 滅茶苦茶
しおりを挟む「あぁ~~~い、即日宅配リュールジス便でーすハンコくださーい。あ、サインでも結構でーす」
「・・・え?」
なんだなんだ。受取人がとんでもない事になってるな。
チラッと陸艦の方を振り返ると相変わらずな上司の声が響いて聞こえた。
「おぇええええええええええーー!!!!」
苦笑いが口から洩れてしまう。
バンジージャンプの次はジェットコースター。リッター・ミレスは絶対にやらないだろうなあの調子じゃ。たしかそんな名前だったかな? 誰かがそんな遊具が開発中とかなんか。
まあいいやそれよりも。
「サイン貰えますか?」
「・・・ふふ、いくらでも」
俺が差し出した手にマイスター・アーシャの手が伸びて掴む。
普通うちの上司が金を払ってでもお願いしたいシチュエーションだろうに、完全に逃してるよ。
マイスターを崖から引き揚げた途端、マイスターの足が縺れた。
「ご、ごめんね。つい」
「あんまりこうゆうキャラじゃないんですがね、俺」
マイスターを受け止めたはいい物のもの凄く気恥ずかしい。目が合わせられない。
プンの時もそうなんだけど、なんでこう女子って嗅覚から殺しに来るのだろうか。マイスターは女性って言った方がいいのか歳は知らないけど。
ずっと泥まみれ血塗れになってでも、俺の鼻を刺激する。なんて卑劣な。
「歩けます?」
「あ、うん・・・うん?」
完全に気が抜けたのか脱力したのか力が入っていない。
見た感じ魔力も尽きているようにも見えるし・・・。
マジか。
マジで俺やっちゃうの???
やらないとダメか!?
お・・お・・・お・・・!!!!
「おんぶで勘弁して下さい!!!!!」
駄目だった。俺にはまだそんなプリンセスな抱っこは早すぎる! ハードルが高すぎる!!
もはや俺はマイスターに対して正面を向くことすら出来ない程に情けない自分を恥じていた。なんかマイスター・アーシャに苦手意識が凄くあったのが更に苦手な気がしてならない気持ちでいっぱいになってきた。
ムニュ・・・。
あっ。
おかしいな。おんぶにして正解だったのかもしれない。
ロマンよりも欲に負ける。さらに情けない気持ちが支配し始めてきた。
「もういいからリュルさぁあああああん!!!!」
「早くして!!!早く!!! ゴーレムみたいなの起きる!!」
あ、完全に忘れてたわ。
陸艦の下敷きにしてたの忘れてたわ。
二人が警戒先に見ている前でブロックが積み上がっていくようにして再生が始まっていた。
めんどくさいな、出来ればそのままコア破壊出来ればと思ったんだけどな。
「リュル早く。マイスター・アーシャを」
「はいはい、行きますよ」
「え、何処に行くの?・・・というか、どうやって、ん?」
ようやく冷静さを取り戻したのかマイスター・アーシャは口をポカーンとし始めた。
説明するの凄くめんどくさいな。うん、全部うちの上司に任せよう。
「リッター・ミレスが説明してくれると思いますので、とりあえずそこまで連れて行きますはい」
「・・・うん、わかった」
ものわかりが早くて非常にありがとうございます。
一先ず急いでリッター・ミレスの所まで・・・"ブレイカーのハンガー"まで行かなくては・・・。
――― ――― ―――
リュル達が王城の玉座の間へと直行した時も、前線組は戦いを続けていた。
「くぅ!! やはり我がライバルの第3班が居ないと火力が足りないか!?」
「もう弱音ですか、なら目障りなので下がってくださるかしら?」
「言ってみただけだぁああああ!!!」
オウギフの第2班そしてナリヤゼス率いる第1班が大型のサソリ型のアンダーズを相手に善戦していた。
後方火力でサソリ型の巨大砲身を撃ち続け攻撃をさせないように見動きを止めつつナリヤゼスとオウギフ二人が本体への攻撃していた。
「これで4つ目!!」
「情報による艦隊の数から減算して・・・あと4つという感じかしら」
二人はサソリ型と戦闘を開始してから多くのコアを破壊していた。
サソリ型のコアは複数のコアから出来ている複合型だった。コアの一つ一つは連合艦隊が使っていたコアリンクシステムの数分存在していた。
一つ一つ丁寧に破壊していくことがサソリ型の撃破に繋がる為、今もコアを砕く作業に徹していた。
「はぁ・・私も救出作戦の方に行きたかった。何でこんな負けたからネタキャラみたいな男と並んで戦わないといけないのかしら」
「どうゆう意味だ貴様!!! ネタキャラってなんだ!!?」
「オウギフ様!! ネタが豊富なキャラ、つまり多種多様の人って意味ですよ!!」
「なるほど!! そうゆう事か!! 褒めても何も出んぞナリヤゼス嬢よ!! はははは!!」
ゴミを見るような目でナリヤゼスはオウギフを見るがそれをオウギフが見ることはなかった。
何が起きたのかナリヤゼスの想像出来なかった。いや想像するのですら不愉快な思いに苛まれていた。
「残り3つ!!」
「いいえ、1つです。私が2つ破壊しました、残りは」
サソリ型のありとあらゆる箇所を攻撃しきった二人。
予測されるコアは残り一つ。その場所の見当は付いている。
サソリ型の象徴とも言える大型の砲身がある尻尾だ。
永遠と攻撃を続けていたのにも関わらず破壊がされないところを見るに、尻尾のコアが一番の核であると睨んだナリヤゼスは、一度距離を取り第1班に指示を出す。一気に畳み掛ける、大技を出すと。
第1班全体が攻撃の手を緩め魔術詠唱に入ろうとした瞬間、尻尾が急激な光に包まれた。
「させるか!! 孤高せし虎紅鋼壁!!」
単身で尻尾へとオウギフ。
手に持っていたストックを投げ捨て、シールドを両手で持ち飛び込んだ。
「ワンズ・ウォールティーガァアア!!!」
オウギフの魔術がサソリ型の攻撃一手に受け止めた。
放たれた巨大な照射砲撃をシールドから浮かび上がる紅い虎が全てを受け止めていた。
強大な砲撃を食らうようにしてオウギフは砲身へと近付いてく。
サソリ型の攻撃を一切の恐れを抱く無く、オウギフは自らのシールドを砲身へとぶつけ大爆発を起こした。
「今よみんな!!」
最大のチャンス。
ナリヤゼスはすぐさま手を上げ合図を送った。同時に第1班の全最大火力がサソリ型の尻尾へ向けて撃ち込まれ続けついに砲身のコアを剥き出しにすることに成功した。
そして最後の締めと、ナリヤゼスが一気に接近し魔術詠唱に入る。
「縛めし都雅ノ絶断」
ストックが魔力で光り輝き鋒が刃を形成し始めそれを振るう。刃は先から蛇腹状に分裂していきコアへと絡み付き出した。
剥きだしのコアが完全に覆われ再生速度が低下している今のサソリ型ではそれを振り切る事は出来ないでいた。
「アブソール・タイトゥン・・・これでおしまいです」
ストックから魔力で作られた蛇腹剣を切り離した瞬間、締め付けていたコアが同時に粉々に吹き飛んだ。
連合艦隊が用意しアンダーズに取り込まれたモノ達は今東寮の面々により難なく撃墜されたのだった。
苦戦を余儀なくされたサソリ型のアンダーズを見事討ち取った光景を、笑みを浮かべ複雑な気持ちで陸艦からモニタリングしていた人物がいた。
それは、ブレイカーの供給に戻っていたリッター・ミレスだった。ナリヤゼスにかつての三凛華の一人の姿が重なってしまい笑みを浮かべていたのだった。
「それにしても、噂の第3班というのはとてつもないな。君が作った新型ブレイカーもだが、あの飛行も君の発明か何かなのかいチシィ?」
リュルが居なくなったことで航空戦力からの制圧戦は出来なくなったが。最初の襲撃でかなりのアンダーズを撃滅させることには成功していた。
ナリヤゼスの提案である、陸艦二隻投入によってリベリィを多く運びこめたのが何よりも大きかった。最初の戦力には劣るが、それ以上にチシィが開発した新型量産ブレイカーのキメラがかなりの戦力として役立っている。
今もシリヲンのブレイカーの魔力供給をゆっくりしながらチシィと雑談することが出来るレベルでは一気に劣勢を覆していた。
「あー違う違う違う、まあ飛行に関してはいつか作りたいがね。あれは規格外。未知の領域。中身見たって何が何やらわからんし、あれは本人の力だとも思ったけど。知らん"機能"とかあり過ぎて下手に触れん代物だよ」
飛行能力は自分の発明じゃないことを苦笑いを浮かべながら否定した。
リュルと出会ってからどうにかして新型に組み込もうとダッド含めて奮闘していたのだが、全くと言っていいほど参考データがめちゃくちゃで普通の技術屋が裸足で逃げだす程の物だとチシィは口にした。
だが、今回の作戦ではその力をフルに活用しようと提案したのは何を隠そうリュル本人立っての希望だった。
リュルにも施されたキマイラユニットに超大型特注ブースターを取り付け陸艦を自分が持ち上げて最速で作戦空域に到着させるという作戦だった。
そして更にマイスター・アーシャの事を聞き付けた途端にリッター・ミレスが無茶な命令を言い出した。
『特注ブースターまだあるわよね!? すぐに行くわよ!!!』
『どうやって???』
『なんでもいいから!!! 突撃でも特攻でもいいから!!!』
そうして発案されたのが。
「まーさか、陸艦ごと王城に突っ込むなんて流石の私でもドン引きしたわ。まあそれのおかげで一石二鳥だけどもね」
「おや? まさか、"例のモノ"完成したのかい?」
「まあ何とかだがな、本当ならもっと早くに渡せたんだが」
「そうか・・・なら。この作戦が終わったら"私のも"お願いしていいかな?」
はぁーと、胡坐をかいて頬杖をするチシィ。また仕事が増えるな。そんな事を思いつつもあまり心配では無いにしろ少し気になっている複雑な表情を受けべていた。
単純にチシィが完成させた物を無事に届けることが出来たのだろうかと。
つい先ほど王城方面で陸艦が激突した音が響いてきた。
自分の作った物とアーシャが心配で心配で、気が気ではなかったのであった・・・。
――― ――― ―――
「―――という、訳です」
「凄い・・・滅茶苦茶だね(なんか、私が言うのも何だけど、体張り過ぎじゃないかな)」
ミレスに治療を受けながら、ここまで来た経緯を聞かされていた。
アーシャにとって、シリヲン達が無事である事が何よりも安心した事だった。
そして・・・。
「うん、ありがとうミレス。後はもう大丈夫だから、みんなの所に行って」
「はい・・・でも」
「大丈夫、もう無理はしないから。安心して」
落ち込むミレスの頭を優しく撫でる。
いつもならそれで凄い笑顔を見せるのにも関わらず今のミレスは下を向きっぱなしだった。
本当ならもっと早くに来れた。ミレスは何も言わずにそう考えていた。
ここへ来れたのもここへ来ようと言ったのも、ずっと振り回されっぱなしなのも全てあのリュルージスという問題児のせいであり、おかげでもある。
彼の上司、上のグレードである自分はやはりまだまだなのだと。小隊を率いる器では無い・・・そう思い始めた時。
「ちょっとぉぉおぉ!!! リッター・ミレスさぁあん!!! 手が足りないんですけどぉぉお!!!?」
「おね・・・早く来て」
「まだ持ちますけど! あとどれ位持てばいいですか!!?」
「これ以上吐いてたらファン減りますよ?」
陸艦の外では第3班の全員がゴーレムと戦闘を繰り広げていた。
インカム越しだけでは無く物音から察するに陸艦を守りながら戦っていることが二人にはわかった。
「ほら、あなたを。みんなミレスを待ってるんだよ。リッターだからとか、班長だからとか、年上だからとか。関係ないんじゃないかなあの子達にとっては」
インカムから聞こえる声を聞いてアーシャは頭を撫でるのをやめていた。
そう。もう今目の前にいるミレスは自分の知る、リッター・ミレスでもなければ三凛華のミレスでも無い。
今は彼等のミレス。
精鋭小隊特殊班 別名 第3班 。
その班長、ミレス班長なのだから。
「私・・・行きます。行ってきます!!!」
「うん」
もうそれ以上アーシャは何も言う事はなかった。
ただ、涙を拭って走り去ったミレスを、成長したミレスを笑顔で見送ったのだった。
そして・・・。
アーシャは再び目を鋭くした。
まだ戦いは・・・終わっていない、と。
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