【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

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第21話 夢中とは夢の中と書く 

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「何だお前等こんな時間に」


 全員でチシィの作業場へと足を運んだらそこにはおやっさんが一人眠っているチシィを担いでいた所だった。
 親子じゃなかったら完全に犯罪的光景だ。


「あん?」

「何でもないです」


 睨まれて委縮してしまった。

 それじゃあ。と、俺達は作業場に入って各自のブレイカーに触れデータの収集作業を始めた。
 俺も言われた事以外の事をムーやダッドに聞いたり、プンが持ってきたブレイカーのマニュアルを参考にあれこれ思考錯誤していった。

 改めて真面目に自分のブレイカーと向き合って気が付いた。
 意外にこれ面白いかも知れない。

 専門的な物はチシィ達のような専門家に任せればいい。そう考えていたが、こうして一からブレイカーに触れて内部構造やら魔力の流れ方などを理解しながらいじっていると新しい発見も出来て面白いな。とは言っても俺のブレイカーは特注も特注でちょっと特殊でわからんことの方が多いけど。

 みんなから色々教えてもらいながら作業を進めていると、突然作業場に息を荒げたリッター・ミレスが現れた。


「はぁ!はぁ・・・! やっと見つけた・・・!!」


 その今にも起きました感満載の彼女を見てみな手を止めた。
 そして、誰もが想像した。何かあったのか、まさか・・・と。


「アンダーズ・・! 急遽、はぁ・・・交代要請!」

「行くぞお前等!! これは又と無い好機であるぞ!!」


 俺はすぐさま立ち上がり指揮官の如く柄にも無く言い放った。
 みなノリノリ承諾し、すぐさま出撃準備に取り掛かった。

 リッター・ミレスはそれを見て目を点にしていた。


「あれ・・・嫌がるかと思ったんだけど」

「お姉ちゃん早く」

「え、あ、はい」


 今宵の俺達はいつも以上にやる気を出していた。
 交代要請、しかももうアンダーズは出現している。そして俺達が今何よりも必要としている物、それが目の前に現れた。



 第3班出動だ!!!



―――   ―――   ―――



 日は昇り、朝が来た。

 チシィは目を擦りながら自分は寝ていた事に気が付いた。ある意味で日常的な事だった、自分の作業場で寝落ちしてしまいオヤジがまた宿舎まで運んでくれたのだろうと。


「ふわぁ・・・」


 先日からあまり疲れが取れていない気がしていた。それもそのはず、有りもしない参考データをどうにかしてこねくり出そうと奮闘だけしているが満足行く結果を得られていない。

 これが少しでも進捗が進んでいれば気持ちも晴れやかになるという物。
 チシィは今日も浮かない顔で目覚め、朝食を取り、日課をこなし、いつものように自分の作業場へと向かった。


「・・・なんじゃこりゃ」


 口が開きっぱなしになってしまった。
 チシィが目にしたモノ。自分のいつもの作業場、だが今日の作業場はいつもと違う光景をチシィに移していた。


「ふん、馬鹿な連中だな。夜襲のアンダーズの相手をしてからついさっきまで何してたんだか」

「え?」


 オヤジが隣で教えてくれた。
 チシィの目の前には、いつもの連中。3班の面々がみなその場で爆睡していた。
 全員同じ様に顔に黒いオイルが付いていたり、手も真黒しているのがよくわかった。

 ムーは腹を出して仰向けに寝ていて、ダッドはパーツを持ちながら胡坐をかき寝ていて、リッター・ミレスはプンに抱き付きながら寝ていて、プンはリュルの膝を枕にし寝ていて、リュルは壁にもたれて上を向き馬鹿みたいな口を開きながら寝ていた。


「コイツ等・・・」


 目を大きく見開き立ち止まるチシィ。多くの感情が湧き出ているのがオヤジにはわかった。
 オヤジは目を閉じ微笑んでいた。それはチシィに対してなのかそれとも爆睡している連中に対してなのかわからない。

 けれど、オヤジは何も告げずにその場を後にし、自分の工場方へと歩いて行った。


「・・・データ」


 誰も起こさないように端末を起動して更にチシィは驚愕していた。
 とんでもない量のデータがチシィの脳を刺激した。

 オヤジは昨夜アンダーズの襲撃があったと言っていた。だが今チシィが見ているデータの量は昨夜程度で収集できる物ない。疑ってしまうレベルだった。


「あれ~~~? みんなここにいたか~」

「東寮の寮長?」


 レプティが笑いながら作業場に足を運んだ。流石に爆睡している連中を見てどうしようか困っていた。

 ふと、チシィはレプティの下に駆けよる。昨夜何かがあった、それは間違いない。レプティなら知っているのではないかと。


「あの、昨夜何があったか聞いて良いですか?」

「聞いてなかった? いやぁ~ねぇ~。彼等とんでもない事をしてね~~」


 レプティはチシィに昨夜の出来事を簡単に説明した。

 内容は至ってシンプルかつ、本来なら馬鹿げている事だった。


「アンダーズの汚染エリアに・・・突っ込んだ!?」

「いや~~なんでも、敵の罠にハマった~誘き寄せられた~って事でね~。グラテム艦長の話だと、そりゃもう凄かったみたいよ。侵略されていた街一つ解放させちゃったみたいで」

「街・・・解放・・・!?」


 チシィは驚愕していた。いや、この世界で恐らく驚かない者はいないであろう。
 解放。それはつまり侵略された場所のアンダーズを殲滅したということだ。
 本来ならば大隊以上の規模での攻略作戦を立てて行われる物であり、長い時間を使って進行するのがセオリー。

 だが、今目の前で爆睡している連中は昨日の夜、しかもたったの5人の小隊規模で完遂、攻略したというのだ。


「も~~今色々と大騒ぎでね~、班長のリッター・ミレスだけでも状況説明に来て欲しいんだけど。この調子じゃ起きないかな~」

「オヤジの話だと、ついさっきまでここでブレイカーのデータ収集をしておったようで」

「あぁ~~、じゃあ起きれないねそれは。うん了解で~す」


 それじゃあ。と、レプティは芝居がかった声を掛けてその場を後にした。

 データ、夜襲、街の解放。

 たった一日で多くの事が起きてチシィの頭の中はパンクしそうになっていた。
 けれど、ふと昨日の彼等を思い出した特にダッド。
 この班の中心核のリュルの言葉を蹴って自分と一緒に作業を進めていた。あれから自分がもう良いから帰れと言うまでダッドは作業を止めなかった。

 ダッドは最後まで食い下がっていた。どうにか出来ないか、何か出来ないのか。その時のダッドの表情からは色々読み取れたけれど、少なくてもその時は何もなかった。


 そして改めて集まりに集まったデータに目を移す。


 そんなダッドとの別れから自分一人でどうにかしてデータを抽出したのなんて目の前にあるデータの塵に等しい。
 何でこいつ等は・・・。そう考えているとさっきのオヤジの言葉を思い出した。


『ふん、馬鹿な連中だな。夜襲のアンダーズの相手をしてからついさっきまで何してたんだか』


 その言葉の意味を感じ取った。
 自惚れかも知れない、けれど彼等がこんなになるまでここにいる理由の説明が付かない。

 まさか。


「ぁ・・・。っ!! あれ!!? あっ! チシィさん!おはようございます!! あぁー! すみません、すぐに片付けますんで!! みんなほら起きて!朝!」

「ぁん? やべ腹冷えた。トイレ」

「ん~~プリエちゃん・・・プリエちゃん!!!? ダメでしょ!!!」

「ぐぼぉ!!!・・・うぇ・・・・」

「んん・・・眠い」


 一斉に全員が起きた。リッター・ミレスの右ストレートを腹部に直撃した約一名を除いた全員がみな自分におはようと挨拶し始めた。

 街の解放をしたリベリィ達。けれどチシィの目の前にいる面々は相変わらずの連中だった。
 チシィの知る者達だった。


「ど、どうしました?」

「・・・いや、別に」


 チシィもまた不思議な気持ちでいっぱいだった。
 こんな連中なんて思ったが、恐らく傍から見たら自分もその一味だろうと客観視した。

 だが、それも悪くない。

 これが、良いのかもしれない。


「ほらお前等ー!! まず顔洗って飯食ってこんかーい! 今日も一日実験に付き合ってもらうからなぁー!!」


 こうして第3班の日常は続いた。

 後にも、この"狼煙の発端"が、小さな小さな遠くを見据えた儚い夢から生まれた出来事だとは、誰も思いもしなかったのである・・・。







―――   ―――   ―――




 第3班が目を覚ました同時刻。
 学院長室で、頭を抱えていた。


「はぁー・・・一体何処までやってくれるのかしら」

「ちょっとしたブレイカーの運用テスト、演習行動にしては規模がデカ過ぎましたなぁ~」


 頭を抱える学院長、その正反対にリプティは一人笑みを溢していた。
 今や街の解放という勲章を送ってもおつりが有り余る実績を遂行してしまった第3班。

 レプティもここまでやるなんて思ってもいなかったと笑っている。
 むしろ誰が想像するのだろう。第3班を乗せた陸艦の艦長のグラテムの報告によると急にリュルが逃げるアンダーズの追撃を言い出したのが発端らしい。


『あっ! まずい逃げる~~追い掛けないと大変な事になるなこりゃぁ~!!』


 そんな子供染みた言葉を発してリッター・ミレスの指示を無視して陸艦共々突撃を掛けたようだった。
 当然のように陸艦はほぼ無傷、ダッドが一人で試作シールドの力を存分に使い艦を守るどころか艦を起点に汚染エリアを攻略した。


「これ、どうやって隠し通せばいいんですか」

「ん~~~、いつもみたくお願いするしかないかと~」

「あの子達にまた変な目を向けられるかしら、私は」


 学院長の苦悩が滲み出ていた。
 今も学院長への面会を希望する軍のお偉い方が後を絶たないと話しが飛び交っている。

 各国の王からも、アンティオキア作戦遂行の催促が止まらない。

 何も申告も無く街が解放され軍もリベリィもその対応で色んな意味で賑わっている。


「夜中なのが不幸中の幸いですか、第3班の詳細を探る者は今の所居ないみたいですが」

「まあ~時間の問題でしょうね~。うちの寮じゃあもう噂が飛び交ってますから」


 レプティの何気ない言葉に学院長は更に頭を抱えた。

 軍や一般への情報統制は上手くいったとしても肝心のリベリィ内での情報統制に難儀している。
 彼達の情報が下手に出回れば、リベリィ内での軋轢を生む可能性が生じる。ヘリオエールの学院長として、それだけは上手く切り抜けたい。


「監視の強化、というよりさり気無く彼にも伝えておいて下さい。ご家族が心配されますと」

「承知しました~~」


 学院長の言葉を受けたレプティは学院長室を後にするが、学院長は頭を抱えること止めれなかった。

 もはや、予想以上の規模になっている事に。

 リュルージスを引き取ってからある程度の覚悟はしていたつもりだったのだが、その膨大すぎる力にキュベレス学院長も恐怖すら覚えた。


 今はただ、良き方向へと向かってくれる事を祈るばかりだった・・・。
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