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第15話 わからないから、触れるね
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「後方部被弾!」
「敵の足取りは!!」
「ロスト・・・! 魔力レーダーは依然沈黙しております!」
くそっ!艦にダメージを負わせたか。
また新手のアンダーズ。今度は姿を自在に消すタイプって事か。
消すだけじゃなくて魔力感知も一切ないなんてふざけてるにもほどがある。
「9時、上空」
プリエの言葉と同時に敵のビームが光り輝く。
急速で動きバリアを展開しビームを防ぐ。こんなことならダッドとムーも一緒に連れてくればよかった。
攻撃の手が足りない!
「退け!」
敵のビームを弾いた俺の横を一人のリベリィが横切る。
オウギフだ。
オウギフはすぐさま攻撃を仕掛けてきた方向へ光弾を撃ち込むも、オウギフの攻撃はただ空へ消えていくだけの結果に終わった。
「くっ! 消えたか」
「お前が防御しろ! 俺が仕留める!」
「何だと!?」
ストックを握りしめオウギフの後ろに配置しようとするも、オウギフは意義を唱え出した。
「貴様が防御だ! 次は外さん!」
「外してるとかの問題じゃないんだよ! お前の攻撃は遅すぎるんだよ!」
「6時、真後―――っ」
陸艦が大きく揺れる。
また攻撃が直撃した、艦の簡易バリアで致命傷は抑えられているようだが。このまま長引けば不味い、艦の供給魔力だって無限じゃないんだ。
「いいか! 貴様等は私の援護をしていれば良いのだ!」
こいつ、この期に及んでまだふざけたことを。
インカム越しから艦長のいるブリッジが大騒ぎになっているのがこいつには聞こえないのか。
「12時、真っ正面」
一発で終わらせるしかない。
出し惜しみなんてしている場合じゃない、魔力をストックへ送り込み。最大火力で。
敵のビームと一緒に吹き飛ばして―――。
「行くぞ、アンダーズ!!」
なっ、あいつ!
バリアを展開させながら突っ込んで行きやがった!
敵のビームを食らいながら前進している、だが。
「ぐわぁあああー!!」
「ちぃっ!!」
オウギフが吹き飛ばされたと同時にストックを構え、巨大な照射魔術をぶっぱなす。
だが、もう攻撃は遅く。俺の攻撃はただ上空の雲を吹き飛ばすだけになってしまった。
「貴様! 何故援護をしない!!」
「ふざけるなって言ってるだろうが!! 死にてえなら勝手に一人で―――」
「また、9時」
「あーもう!!!」
すぐさまプリエの言葉通りに艦の9時方向へと向かい、同じようにバリアを張りビームを防ぐ。
そしてまた同じようにオウギフが何も無い空に光弾を乱射し撃ち込んでいる滑稽な光景になってしまっている。
「ゴースト!! 報告が遅すぎるぞ!」
「おめぇの攻撃が遅いって言ってるんだよ! いいから役割変われ!!」
「まだ言うか貴様!!!」
「それはお前だ!!」
ついにアンダーズに攻撃を受けている中、お互いの胸元を引っ張り合うの取っ組み合いに発展してしまう。
幼稚な悪口合いが横行している中、またアンダーズの攻撃が艦に直撃し、取っ組み合う俺達はメインデッキに倒れ込む。
「もういい! 貴様は下がってろ! 私が全部一人でやる!」
「お前があれを倒す頃には艦は沈んでるわ! いいから黙ってバリア張ってろ!」
またプリエからアンダーズの座標を指示され、俺が防御しオウギフが攻撃をするのだが一向に攻撃が当たる気配が全くしない。
こんな奴がリッター候補の一人??? 冗談じゃない!
「みなを連れてさえいればこんな無様な戦い!」
「こっちのセリフだ。ダッドとムーが居れば、もう終わってるわ!」
ダッドに防御を任せ、俺がアンダーズのコアを剥き出させ、ムーが最後トドメを刺す。
はい、もう終わり、終了。の、はずなんだがな!
「ゴースト! 索敵術式の精度を上げろ!! それしか能が無いのだから、やれ!!」
今の言葉リッター・ミレスに聞かせてやりてぇーな。
何が、それしか能が無いだ。プリエの力が無かったらもうこの艦はとっくに沈んでる事をこいつはわかってないのか。
「・・・精度」
「ん? どうした?」
俺の方を見て何か考え事をしているようだが、再び目を閉じて戻った。
何か良い策があるのか?
駄目だ。ただでさえ表情を動かさない事を徹底している、プリエだ。考えてることなんてわかるわけない。
「ユース・リベリィの皆さん!! このまま被弾が続くと艦のバリアが破られます!! 出来ましたら」
「わかっている! 貴様等陸軍はそのまま黙って見ていろ!」
「艦長からも言ってくれ! こいつに俺の言うことを聞いてくれるように!」
情けない。同じブレイカーを装着する者同士なのに見っとも無い姿を晒している。全くと言って馬が合わない。恐らく生涯こいつとはこの関係が永遠に続く気がしてならない。
「この状況下、情けない限りではありますが。私は、御三方を信じる他ありません。どうか、宜しくお願いします」
カチンッという音と共にインカムから音が切れた。
やばっ・・・完全に怒らせたか。
ここは艦長の為にも、最速で事態の解決に努める他無いが。
どうすればいい・・・。
「くそ・・・!!」
俺は膝を付きメインデッキに右手を付く。魔力を振り絞り陸艦全体にバリアを張る。
敵のビームが何発か飛んで来ているがなんとか防ぎ切れている。が、ただの悪足掻きと時間稼ぎだ。
この間にオウギフが敵を倒してくれればいいのだが。期待値があまりにも低すぎる。
どうする。
俺の魔力が切れる前に恐らくブレイカーのバッテリーが切れるぞ。いくら魔力が他のブレイカーに比べて多いからって言ってもそれ以外の所でガタがくる。
流石にこのブレイカーは壊せないっての・・・。
「くっそ・・・」
「・・・・・・」
この時、プリエはある事を考え思い出していた。
それは昨日のチシィの作業場での出来事。リュル達がブレイカーの事で色々話し合っていた時の事だった。
「はぁ? 触れただけ???」
「それ以外に思い当たる節がないんですよね」
「うん、僕も」
リュルが遠くで自分のブレイカーのテストで自由に動き続けている間にチシィはダッドとムーのブレイカーの異常について問い詰めていた。
リュルが使ったブレイカーは破損しているから当たり前のように怒らていたが、チシィのオヤジは二人のブレイカーも含めておかしな点を指摘していたのだ。
「なんて言えばいいんだろう、こういつもよりやる気が満ち溢れたというか」
「活性化、みたいな?」
「そうそう! 自分もそんな気が・・・します」
チシィが聞いている話しでは、二人のブレイカーからは今までのデータが一切役に立つことのない程にブレイカーの魔力とダッド、ムーの二人の魔力が書き変わっていた事。
その特質した魔力に整備員みなが目を疑い、驚愕していた。
扱う本人達も、違和感はあるも悪い感じでは無いからと話していた。
だが、実際に自分達に起きた事を整理していると、普通じゃあ考えられない出来事が起きている事に気が付く。
リュルに背中、ブレイカーに触れられた瞬間に自分達の魔力が暴走したかのように急激に膨れ上がった。
「そっか、あれから妙に体が羽根のように軽いと思ったけど。それなのかな?」
「変なしがらみが無くなったからかなんて思ってたが・・・」
改めて自分達に起きている異常に疑問を見出した。
リュルが一切手を出さなかったミサイル型の迎撃。あれも今思えば今までの自分達だったら迎撃出来ていたのか。
そう思うと背筋をゾッとさせた二人は、お互いの顔を見て苦笑いを浮かべていた。
「・・・そうか。一先ずこの事は私の方から学院長に直接報告しておくから変に口外しないように。あいつの事は逐一報告するようにって、変に釘刺されてるからな」
面倒くさそうに頭を掻き毟るチシィを、その時のプリエは黙って見ていた。
プリエも当然、口外なんてするつもりは一切無い。
ただ、その事実が気になっていた。
そんな事が起きてもただ笑い合っている二人を見てプリエは、今も試験運用で自分のブレイカーを操り切れずに何度も転倒しているリュルを見る。
「リュールジス・・・」
もし・・・その話が本当なら・・・。
もし、彼に触られて力が手に入るなら・・・。
この、状況を打破できるなら・・・。
ギュッ・・・!
「んがぁ・・・?」
「・・・・・・」
何で・・・?
え、はい?
しゃがみ込んでる俺に、急にプリエが・・・。
「んっ・・・」
俺の顔を自分の胸に押し当てるように抱き付いてるの!?
そして左手を自ら自分の尻・・・いや腰に回しているの!?
待って待って待って待って待って待って待って待って待って。
「触って」
すみません!! ちょっとこんな時にこの子何言ってるの!!?
俺の限界ギリギリの紳士理性がプリエに触れないようにと最後の抵抗をしているのに、プリエは自分の尻を触らせるかのようにと強引に手を回そうとする。
「き、貴様等!!ここここ、こんな時に何を考えてる!!」
こっちが聞きてぇえーよ!!!
駄目だ、息をするだけでプリエの女の子特有の甘い香りが俺の体内に侵入しようとしている。
駄目だ! 押しつけられてる丁度良い大きさの二つの山が・・・山がぁああああ!!!
「早く・・・お願い」
あっ・・・駄目だ。
もう理性が・・・死・・・ぬ。
俺は回された左手で、プリエの程よい大きさの尻と・・・ブレイカーに触れてしまった。
その瞬間、プリエのブレイカーが急に光を帯び始めた。
あ・・・まさか。
「ありがとう」
「え・・・あ、いやコチラコソォ・・・」
満足したのかゆっくりとプリエは俺から離れていく。あぁいい香りに山二つと素敵な尻・じゃなくて!!
まさか、勝手に魔力が抜き取られたのか俺!?
触って欲しかったのは尻じゃなくて・・・ブレイカーだったのか。
「透トキ鈴ノ音 トランスハイ・ラルゴ」
チリーンッと鈴の音が鳴った瞬間辺り一面に魔力の波がプリエを中心に広がった。
鳴った音を浸透させるように綺麗な音が何度もやまびこで聞こえ続けた。
「消えない・・・」
「な、何がです?」
「魔術」
消えない、というのはこの微かに聞こえる鈴の音の事ですかね?
あのちょっと良くわからないんだけど、俺の魔力引っ張ってきた理由は魔術はこれを使う為だったって事でいいんですかね?
それなら別にブレイカーからの供給だけで事足りたのではないんで―――
「10時から8時」
「っ!」
プリエの指示が再び再開した。
俺はバリアを張り続けているから動けないが、プリエの言葉に耳を傾ける。
「5時、来る」
プリエの言葉通り5時方向から攻撃が飛んできた。
全方位にバリアをしているから急に動く必要はなかったが、まさか今のプリエは・・・。
「あの、プンさん。敵が見えるんですか?」
「プン? あぁ・・・うん、わかる」
流石に唐突な呼び名に首を傾げたが、まぁうんごめん何となくそんな気はしたけどさ悪いとは思ってる。
それにしても、さっきの魔術のおかげというわけか。
「なら、頼む」
「うん、12時から3時」
俺は全方位のバリアを解き、ストックを構える。
オウギフがぐだぐだなんか遠くからその行動に文句を言っているようだったが無視をしてプンの声を聞き逃さないように集中した。
「3時・・・、4時来る」
「ここか・・・!」
プンの言葉通りに俺は4時方向に攻撃を開始した瞬間、着弾音と共に今まで一切姿を見せなかったアンダーズがダメージを負った姿で出現した。
崩れかけた体は修復しながら再び姿を消そうとしていた。
オウギフはこれ幸いと、突撃をするも空振りに終わっていた。俺は鼻で笑った。
威力絞らないで撃っていたら今ので終わっていた。
「すまん、信じて無かったわけじゃないんだ」
「うん、大丈夫」
相変わらず表情を変えないでプンは言う。本当に気にしていないのかちょっと気が落ち込み目を逸らす俺が居た。
トスンッ・・・。
「わかり易い」
俺の懐まで来て寄りかかり指を前に出すプン。あぁー駄目駄目、そうゆう積極的なことしちゃ! お姉ちゃんじゃなくても勘違いしちゃうから!! 銀色の綺麗な髪からさっき嗅いだ香りがまた!!
「リュル」
「はい」
冗談は終わりにしろと忠告を受けたので、真面目にやりますよ。
攻撃タイミングは単純明白。プンの指を俺が追い・・・そして。
止まったら。
「今」
プンの掛声と同時に止まった指先へと溜め込んだ魔力を解放する。
何も無い虚空に打ち込んだ俺の攻撃は突然何かにぶつかる。必然の光景だった。
俺の放った照射砲撃をもろに受けたアンダーズは、反撃なんて一切出来ないタイミングその身を徐々に溶かすように消えて逝った。
見えないアンダーズ、撃破。
その事実がわかった瞬間、インカムから歓声の声が響き渡った。
「ありがとうございます。ユース・リベリィ」
「いえ、時間掛けて本当に申し訳ない。それに感謝はコイツに行ってください」
「はい。ありがとうユース・プリエ。君のおかげでこの艦は救われた、艦を代表してお礼をする」
「恐縮・・・・・・です」
ん?あれ・・・今。
「・・・? 何?」
「あ、いやー。別に・・・」
「そう」
ヤバい! 完全に今俺、ドキっとしたヤバい!
ギャップだ、これは所謂ギャップでやられるって奴だ!
まずいって!! 色々不味いって!!これじゃあまるで―――
「んだぁしゃぁあぁあああああああ!!!!!!」
あっ・・・。
気が付いた時には、もう俺は吹き飛ばされていた。
ガンガンガンと何度も地面に叩き付けられ、俺は艦の砲台に激突した。
「あぁーもう心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で」
「大丈夫、アンダーズは倒した」
プリエにガバっと抱き付くリッター・ミレス。
え、なんでいるの? って当然か。援軍に来たってことだよな。夜間任務だ。普通なら接敵したら学導院に援軍要請を飛ばすのが普通だよな。
「ははは、ダッドみなよ。面白いよ」
「どうやったら上半身だけ砲台に突っ込むんですか」
「お前等突くなぁあああああ!!! いいから抜けって!! 出れねぇえんだよぉー!!!」
ていうかお前等来るの遅すぎなんだよぉぉおおー!!!
こうゆう事なら黙って時間稼ぎしてればよかったんだよなぁ・・・。
いや、今思えば艦長も別に撃墜をお願いしてこなかったな。
うわぁ・・・今日は情けない事だらけだな。
「オウギフ様!!」
「大丈夫ですか!!」
何やらオウギフの取り巻き達も到着したようだ。
とはいえ、オウギフなんて何もしてないんだから、無事も何も。
「触れるな!!!!」
勝利の明るいムードが、オウギフの叫びで一瞬で氷付いた。
オウギフのその言葉で、俺の初めての夜間任務は幕を閉じることになったのだった・・・。
「敵の足取りは!!」
「ロスト・・・! 魔力レーダーは依然沈黙しております!」
くそっ!艦にダメージを負わせたか。
また新手のアンダーズ。今度は姿を自在に消すタイプって事か。
消すだけじゃなくて魔力感知も一切ないなんてふざけてるにもほどがある。
「9時、上空」
プリエの言葉と同時に敵のビームが光り輝く。
急速で動きバリアを展開しビームを防ぐ。こんなことならダッドとムーも一緒に連れてくればよかった。
攻撃の手が足りない!
「退け!」
敵のビームを弾いた俺の横を一人のリベリィが横切る。
オウギフだ。
オウギフはすぐさま攻撃を仕掛けてきた方向へ光弾を撃ち込むも、オウギフの攻撃はただ空へ消えていくだけの結果に終わった。
「くっ! 消えたか」
「お前が防御しろ! 俺が仕留める!」
「何だと!?」
ストックを握りしめオウギフの後ろに配置しようとするも、オウギフは意義を唱え出した。
「貴様が防御だ! 次は外さん!」
「外してるとかの問題じゃないんだよ! お前の攻撃は遅すぎるんだよ!」
「6時、真後―――っ」
陸艦が大きく揺れる。
また攻撃が直撃した、艦の簡易バリアで致命傷は抑えられているようだが。このまま長引けば不味い、艦の供給魔力だって無限じゃないんだ。
「いいか! 貴様等は私の援護をしていれば良いのだ!」
こいつ、この期に及んでまだふざけたことを。
インカム越しから艦長のいるブリッジが大騒ぎになっているのがこいつには聞こえないのか。
「12時、真っ正面」
一発で終わらせるしかない。
出し惜しみなんてしている場合じゃない、魔力をストックへ送り込み。最大火力で。
敵のビームと一緒に吹き飛ばして―――。
「行くぞ、アンダーズ!!」
なっ、あいつ!
バリアを展開させながら突っ込んで行きやがった!
敵のビームを食らいながら前進している、だが。
「ぐわぁあああー!!」
「ちぃっ!!」
オウギフが吹き飛ばされたと同時にストックを構え、巨大な照射魔術をぶっぱなす。
だが、もう攻撃は遅く。俺の攻撃はただ上空の雲を吹き飛ばすだけになってしまった。
「貴様! 何故援護をしない!!」
「ふざけるなって言ってるだろうが!! 死にてえなら勝手に一人で―――」
「また、9時」
「あーもう!!!」
すぐさまプリエの言葉通りに艦の9時方向へと向かい、同じようにバリアを張りビームを防ぐ。
そしてまた同じようにオウギフが何も無い空に光弾を乱射し撃ち込んでいる滑稽な光景になってしまっている。
「ゴースト!! 報告が遅すぎるぞ!」
「おめぇの攻撃が遅いって言ってるんだよ! いいから役割変われ!!」
「まだ言うか貴様!!!」
「それはお前だ!!」
ついにアンダーズに攻撃を受けている中、お互いの胸元を引っ張り合うの取っ組み合いに発展してしまう。
幼稚な悪口合いが横行している中、またアンダーズの攻撃が艦に直撃し、取っ組み合う俺達はメインデッキに倒れ込む。
「もういい! 貴様は下がってろ! 私が全部一人でやる!」
「お前があれを倒す頃には艦は沈んでるわ! いいから黙ってバリア張ってろ!」
またプリエからアンダーズの座標を指示され、俺が防御しオウギフが攻撃をするのだが一向に攻撃が当たる気配が全くしない。
こんな奴がリッター候補の一人??? 冗談じゃない!
「みなを連れてさえいればこんな無様な戦い!」
「こっちのセリフだ。ダッドとムーが居れば、もう終わってるわ!」
ダッドに防御を任せ、俺がアンダーズのコアを剥き出させ、ムーが最後トドメを刺す。
はい、もう終わり、終了。の、はずなんだがな!
「ゴースト! 索敵術式の精度を上げろ!! それしか能が無いのだから、やれ!!」
今の言葉リッター・ミレスに聞かせてやりてぇーな。
何が、それしか能が無いだ。プリエの力が無かったらもうこの艦はとっくに沈んでる事をこいつはわかってないのか。
「・・・精度」
「ん? どうした?」
俺の方を見て何か考え事をしているようだが、再び目を閉じて戻った。
何か良い策があるのか?
駄目だ。ただでさえ表情を動かさない事を徹底している、プリエだ。考えてることなんてわかるわけない。
「ユース・リベリィの皆さん!! このまま被弾が続くと艦のバリアが破られます!! 出来ましたら」
「わかっている! 貴様等陸軍はそのまま黙って見ていろ!」
「艦長からも言ってくれ! こいつに俺の言うことを聞いてくれるように!」
情けない。同じブレイカーを装着する者同士なのに見っとも無い姿を晒している。全くと言って馬が合わない。恐らく生涯こいつとはこの関係が永遠に続く気がしてならない。
「この状況下、情けない限りではありますが。私は、御三方を信じる他ありません。どうか、宜しくお願いします」
カチンッという音と共にインカムから音が切れた。
やばっ・・・完全に怒らせたか。
ここは艦長の為にも、最速で事態の解決に努める他無いが。
どうすればいい・・・。
「くそ・・・!!」
俺は膝を付きメインデッキに右手を付く。魔力を振り絞り陸艦全体にバリアを張る。
敵のビームが何発か飛んで来ているがなんとか防ぎ切れている。が、ただの悪足掻きと時間稼ぎだ。
この間にオウギフが敵を倒してくれればいいのだが。期待値があまりにも低すぎる。
どうする。
俺の魔力が切れる前に恐らくブレイカーのバッテリーが切れるぞ。いくら魔力が他のブレイカーに比べて多いからって言ってもそれ以外の所でガタがくる。
流石にこのブレイカーは壊せないっての・・・。
「くっそ・・・」
「・・・・・・」
この時、プリエはある事を考え思い出していた。
それは昨日のチシィの作業場での出来事。リュル達がブレイカーの事で色々話し合っていた時の事だった。
「はぁ? 触れただけ???」
「それ以外に思い当たる節がないんですよね」
「うん、僕も」
リュルが遠くで自分のブレイカーのテストで自由に動き続けている間にチシィはダッドとムーのブレイカーの異常について問い詰めていた。
リュルが使ったブレイカーは破損しているから当たり前のように怒らていたが、チシィのオヤジは二人のブレイカーも含めておかしな点を指摘していたのだ。
「なんて言えばいいんだろう、こういつもよりやる気が満ち溢れたというか」
「活性化、みたいな?」
「そうそう! 自分もそんな気が・・・します」
チシィが聞いている話しでは、二人のブレイカーからは今までのデータが一切役に立つことのない程にブレイカーの魔力とダッド、ムーの二人の魔力が書き変わっていた事。
その特質した魔力に整備員みなが目を疑い、驚愕していた。
扱う本人達も、違和感はあるも悪い感じでは無いからと話していた。
だが、実際に自分達に起きた事を整理していると、普通じゃあ考えられない出来事が起きている事に気が付く。
リュルに背中、ブレイカーに触れられた瞬間に自分達の魔力が暴走したかのように急激に膨れ上がった。
「そっか、あれから妙に体が羽根のように軽いと思ったけど。それなのかな?」
「変なしがらみが無くなったからかなんて思ってたが・・・」
改めて自分達に起きている異常に疑問を見出した。
リュルが一切手を出さなかったミサイル型の迎撃。あれも今思えば今までの自分達だったら迎撃出来ていたのか。
そう思うと背筋をゾッとさせた二人は、お互いの顔を見て苦笑いを浮かべていた。
「・・・そうか。一先ずこの事は私の方から学院長に直接報告しておくから変に口外しないように。あいつの事は逐一報告するようにって、変に釘刺されてるからな」
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プリエも当然、口外なんてするつもりは一切無い。
ただ、その事実が気になっていた。
そんな事が起きてもただ笑い合っている二人を見てプリエは、今も試験運用で自分のブレイカーを操り切れずに何度も転倒しているリュルを見る。
「リュールジス・・・」
もし・・・その話が本当なら・・・。
もし、彼に触られて力が手に入るなら・・・。
この、状況を打破できるなら・・・。
ギュッ・・・!
「んがぁ・・・?」
「・・・・・・」
何で・・・?
え、はい?
しゃがみ込んでる俺に、急にプリエが・・・。
「んっ・・・」
俺の顔を自分の胸に押し当てるように抱き付いてるの!?
そして左手を自ら自分の尻・・・いや腰に回しているの!?
待って待って待って待って待って待って待って待って待って。
「触って」
すみません!! ちょっとこんな時にこの子何言ってるの!!?
俺の限界ギリギリの紳士理性がプリエに触れないようにと最後の抵抗をしているのに、プリエは自分の尻を触らせるかのようにと強引に手を回そうとする。
「き、貴様等!!ここここ、こんな時に何を考えてる!!」
こっちが聞きてぇえーよ!!!
駄目だ、息をするだけでプリエの女の子特有の甘い香りが俺の体内に侵入しようとしている。
駄目だ! 押しつけられてる丁度良い大きさの二つの山が・・・山がぁああああ!!!
「早く・・・お願い」
あっ・・・駄目だ。
もう理性が・・・死・・・ぬ。
俺は回された左手で、プリエの程よい大きさの尻と・・・ブレイカーに触れてしまった。
その瞬間、プリエのブレイカーが急に光を帯び始めた。
あ・・・まさか。
「ありがとう」
「え・・・あ、いやコチラコソォ・・・」
満足したのかゆっくりとプリエは俺から離れていく。あぁいい香りに山二つと素敵な尻・じゃなくて!!
まさか、勝手に魔力が抜き取られたのか俺!?
触って欲しかったのは尻じゃなくて・・・ブレイカーだったのか。
「透トキ鈴ノ音 トランスハイ・ラルゴ」
チリーンッと鈴の音が鳴った瞬間辺り一面に魔力の波がプリエを中心に広がった。
鳴った音を浸透させるように綺麗な音が何度もやまびこで聞こえ続けた。
「消えない・・・」
「な、何がです?」
「魔術」
消えない、というのはこの微かに聞こえる鈴の音の事ですかね?
あのちょっと良くわからないんだけど、俺の魔力引っ張ってきた理由は魔術はこれを使う為だったって事でいいんですかね?
それなら別にブレイカーからの供給だけで事足りたのではないんで―――
「10時から8時」
「っ!」
プリエの指示が再び再開した。
俺はバリアを張り続けているから動けないが、プリエの言葉に耳を傾ける。
「5時、来る」
プリエの言葉通り5時方向から攻撃が飛んできた。
全方位にバリアをしているから急に動く必要はなかったが、まさか今のプリエは・・・。
「あの、プンさん。敵が見えるんですか?」
「プン? あぁ・・・うん、わかる」
流石に唐突な呼び名に首を傾げたが、まぁうんごめん何となくそんな気はしたけどさ悪いとは思ってる。
それにしても、さっきの魔術のおかげというわけか。
「なら、頼む」
「うん、12時から3時」
俺は全方位のバリアを解き、ストックを構える。
オウギフがぐだぐだなんか遠くからその行動に文句を言っているようだったが無視をしてプンの声を聞き逃さないように集中した。
「3時・・・、4時来る」
「ここか・・・!」
プンの言葉通りに俺は4時方向に攻撃を開始した瞬間、着弾音と共に今まで一切姿を見せなかったアンダーズがダメージを負った姿で出現した。
崩れかけた体は修復しながら再び姿を消そうとしていた。
オウギフはこれ幸いと、突撃をするも空振りに終わっていた。俺は鼻で笑った。
威力絞らないで撃っていたら今ので終わっていた。
「すまん、信じて無かったわけじゃないんだ」
「うん、大丈夫」
相変わらず表情を変えないでプンは言う。本当に気にしていないのかちょっと気が落ち込み目を逸らす俺が居た。
トスンッ・・・。
「わかり易い」
俺の懐まで来て寄りかかり指を前に出すプン。あぁー駄目駄目、そうゆう積極的なことしちゃ! お姉ちゃんじゃなくても勘違いしちゃうから!! 銀色の綺麗な髪からさっき嗅いだ香りがまた!!
「リュル」
「はい」
冗談は終わりにしろと忠告を受けたので、真面目にやりますよ。
攻撃タイミングは単純明白。プンの指を俺が追い・・・そして。
止まったら。
「今」
プンの掛声と同時に止まった指先へと溜め込んだ魔力を解放する。
何も無い虚空に打ち込んだ俺の攻撃は突然何かにぶつかる。必然の光景だった。
俺の放った照射砲撃をもろに受けたアンダーズは、反撃なんて一切出来ないタイミングその身を徐々に溶かすように消えて逝った。
見えないアンダーズ、撃破。
その事実がわかった瞬間、インカムから歓声の声が響き渡った。
「ありがとうございます。ユース・リベリィ」
「いえ、時間掛けて本当に申し訳ない。それに感謝はコイツに行ってください」
「はい。ありがとうユース・プリエ。君のおかげでこの艦は救われた、艦を代表してお礼をする」
「恐縮・・・・・・です」
ん?あれ・・・今。
「・・・? 何?」
「あ、いやー。別に・・・」
「そう」
ヤバい! 完全に今俺、ドキっとしたヤバい!
ギャップだ、これは所謂ギャップでやられるって奴だ!
まずいって!! 色々不味いって!!これじゃあまるで―――
「んだぁしゃぁあぁあああああああ!!!!!!」
あっ・・・。
気が付いた時には、もう俺は吹き飛ばされていた。
ガンガンガンと何度も地面に叩き付けられ、俺は艦の砲台に激突した。
「あぁーもう心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で」
「大丈夫、アンダーズは倒した」
プリエにガバっと抱き付くリッター・ミレス。
え、なんでいるの? って当然か。援軍に来たってことだよな。夜間任務だ。普通なら接敵したら学導院に援軍要請を飛ばすのが普通だよな。
「ははは、ダッドみなよ。面白いよ」
「どうやったら上半身だけ砲台に突っ込むんですか」
「お前等突くなぁあああああ!!! いいから抜けって!! 出れねぇえんだよぉー!!!」
ていうかお前等来るの遅すぎなんだよぉぉおおー!!!
こうゆう事なら黙って時間稼ぎしてればよかったんだよなぁ・・・。
いや、今思えば艦長も別に撃墜をお願いしてこなかったな。
うわぁ・・・今日は情けない事だらけだな。
「オウギフ様!!」
「大丈夫ですか!!」
何やらオウギフの取り巻き達も到着したようだ。
とはいえ、オウギフなんて何もしてないんだから、無事も何も。
「触れるな!!!!」
勝利の明るいムードが、オウギフの叫びで一瞬で氷付いた。
オウギフのその言葉で、俺の初めての夜間任務は幕を閉じることになったのだった・・・。
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