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第13話 おニューのブレイカー?
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ゴソゴソッ。
「あぁ~~それって・・・そうか忘れてた」
ダッドに隣の住人の話を聞いた。
昨日俺が部屋から出てきたのは彼女が居たからだと簡単に説明した。当然素晴らしき花園は俺の脳内だけに留めている。
「"ゴースト"でしょ、確か。僕もすっかり忘れてた」
ゴースト、幽霊って奴か。
ってことはやっぱり幻覚じゃないか・・・。なんて冗談言ってるわけにいかないよな。
ムーから聞いたその呼び名で何となく察してしまった。
「自分達と同じローユース扱いされてましたっけかな、確か。まあ本人の戦いを見たわけじゃないですがね」
ゴソゴソッ。
ローユース。所謂日蔭者だろう。
そんな中でゴーストなんて名前を付けられるくらいだから相当だろう、違う意味で興味が出てきたな。
ゴソゴソッ。
まあいずれわかる機会はあるんだろうけど、同居人になる可能性が高いわけだから。
一先ず彼女の話しは保留にしておくにして・・・。
「で、だ。本題に移ろう」
さっきからゴソゴソしていたのは彼女が届けてくれた俺宛の届け物とやらを開封し、出来るだけ本体に触れないよう取り出し慎重に地べたに広げていた。
そして俺達三人はそれを囲うようにして、"それ"を見下していた。
「んーーーー」
「これはー・・・」
「エロ本で無いのは確かだな」
形状や色は違うけれど、"ある一点"を除けば今日俺が付けていた物に非常に酷似している。
もっと言うとダッドもムーも持っている。俺が今居る寮の9割は持っているんじゃないかと思われる物。
それがどうして、こんな段ボールに詰められて俺の所に届けられたのか、全く意味がわからなかった。
差し出し人を見ても「親愛・・#上」より、と。後から書いた字を潰した跡がある、めちゃくちゃな名前だ。
大体は・・・見当付くけど、何が書いてあったのかだけが非常に気になる。
「俺専用の・・・ブレイカー」
「そうだろうね、きっと」
「でしょうねぇ・・・」
「じゃあなんで・・・呪いの御札みたいなのがベタベタ貼られてるんだよこれ」
俺達が無闇に触れないようにしていた原因はこれだった。
触れるなと言わんばかりに気持の悪い御札が離れている。一体何がどうなればこんな姿になるんだ。ただの嫌がらせにしか見えなくなってくる。
ブレイカー単体なら俺へのプレゼントと素直に喜べるんだが。これじゃあなぁ・・・。
「とりあえず、剥がすか」
しゃがみ込み、少し緊張した手付きで御札に触れベリッと御札を剥がす。
よかった、思ったりよりも素直に剥がれてくれた。
俺の様子を見てダッドとムーも一緒になりしゃがみ込み手伝ってくれようとした時。
「「ぐぅあぁあああああぁあああーーっっ!!」」
突然の電撃音と共に悲鳴を上げ、二人はバタンと仰向けに倒れた。
それを見て何となく俺は察した。
あ・・・防犯用ね。
俺以外の奴が触ると的な奴だ。
溜息を吐きながら一人で御札を剥がし続けるはめになった。その後も二人はもうブレイカーに恐れのあまり近付こうともしなかった。
結局、明日朝一番にブレイカーをおやっさんの所に持っていこうという話になり、その日は祝賀会の続きをする事にして、ブレイカー一先ず放置して終えるのだった・・・。
それからあっという間に朝になり、俺達三人はおやっさんの下に向かうのだったが。
「は? ワシが貴様のブレイカーを見るとでも思ってるのか?」
ですよねぇー。
ここへ来る前まですっかり忘れていた。昨日チシィを縛り上げた事を。
おやっさんは目も合わせくれない所かこっちを向くことさえしてくれないで淡々と何かのパーツを作ってる。
「お前等ー!!!」
「げ・・・」
俺達の姿が見えてきたからなのか、奥からちっさい物体がこちらへと走ってくる。
最悪なタイミングだ。こりゃあ今日中にブレイカーを何とかするのは難しそうだな。
「話しは学院長から聞いておるから、こっち来い」
チシィの言葉に俺達はお互いの顔を見合わせた。
子供は一晩寝ればなんとやらって奴か、知らないけど。
――― ――― ―――
リュルが自分宛に届いたブレイカーを手に動いている間、ヘリオエールの学院長室には来客があった。
そこには、マイスター・アーシャとリッター・ミレスが学院長に呼ばれ足を運んでいた。
「私が! 異動ですか!?」
「えぇ、先日の功績を称えリッター・ミレスにはとある部隊、いえ特殊班の班長として今後動いてもらう事になります」
学院長の言葉にミレスは頭がショートしていた。
意義を唱え様にも今いるマイスター・アーシャの下の部隊から外れる事になるショックで口から魂が抜けそうになっている。
「おめでとうミレス。よかったね、念願の隊長勤務の夢が叶って」
一切の悪気を感じないアーシャの笑顔にミレスは追い打ちを掛けられた想いでいっぱいだった。
「通常の異動なら寮の引っ越しを命じるところではありますが、少しばかり班員が異例中の異例の為、必要と感じた場合にのみ限り―――」
「っ!! 大丈夫です!! きっと特殊班という名の通り素敵な優秀な者達の集まりなのでしょう!? 私如き目が入り輪を乱すかもしれませんので、寮の引っ越しは必要無く、今まで通りマイスター・アーシャと同じ部屋がいいかと進言します!!」
「え・・・あそう、かしらね。わかりました、寮に関しては班長のあなたに一任致します。必要だと思ったら通常通りの手続きで構わないから」
「はいっ!!!」
寮の引っ越しだけは何とか阻止に成功したミレス。
そんな中ふとアーシャはその特殊班と呼ばれる物の存在、班員が誰なのかと想像していた。
『ハイパーアルティメットフルバーストを、くらぇええ!!』
『そんな役は無いですよ!!』
『ならばこちらはエターナルエンハンスエレメントで対抗だ』
昨夜ミサイル迎撃を成功させた者達に感謝の言葉を伝える為に自分とは違う寮へと足を踏みいれたのだが。
部屋の前からでも漏れるその歓声と笑い声に、インターホンを鳴らすのを止めて帰った事を思い出した。
実際の光景を見ていない為、詳細は不明だが。きっとその日その部屋の住人達はこの学導院の中で一番楽しんでいたのだろうと。アーシャはついつい微笑んでいた。
「マイスター・アーシャ?」
「え? あーごめんごめん。つい思い出し笑いをしてしまって」
「では、リッター・ミレス。新たな班の指揮共々、今後に期待致します」
「かしこまりました学院長。その任、確かに頂戴致しました」
二人は深く礼をして、学院長室を後にしたのだった。
それを確認したと同時に、学院長は通信を入れた。
「これでよろしかったかしら?」
「えぇ、ありがとうキュベレス先生、いやキュベレス学院長と呼んだ方がよかったですね」
「一番の出世頭からそう呼ばれるのは鳥肌が立ってしまうわ」
通信の内容からわかるのはキュベレス学院長と親しみのある人間。そしてその声は以前にリュルがストライク王国に到着した際にアーシャと密会していた人物の一人だった。
「手筈通りこちらから送ったブレイカーも到着しているだろうから、一先ずは問題ないと思います。念の為あらゆるケースを考えた資料をそちらに転送予定です」
「あなた達の指示通り、色々手は回してますがね・・・。少し過保護過ぎやしないかい?」
通信先で聞こえる書類達が捲れていく音が聞こえた学院長は引出しから唐突に煙草を取り出して火を付け吸い始めた。
不思議と、今までとは口調も荒っぽく聞こえるのだった。
「過保護? 何か不憫な点が?」
「ふぅー・・・そうゆう所だよ。あんたは昔から頭の固さだけはピカイチなんだから。そういや、あの子言っていたよ?」
「何・・・を」
作業をしながらキュベレスと通信をしていた手が止まったのがすぐにわかった。
「あんた達が「元気にしているか」って聞いてきたよ、全くもって健気なじゃないか」
「そう・・・ですか、あの子が」
「あんた等も顔出してやりなよ、そうすればあの子だって」
キュベレスの言葉に、反応が無かった。
そのリュルの言葉にどういった感情を思ったのか、通信越しではキュベレスにはわからなかった。けど、想像は出来た。
「あんた等が思っている以上に、あの子は見違えるほど成長してるよ。間違いなくね」
「そう・・・ですか。では、引き続きあの子を・・・お願いします」
一方的に通信が切れてしまった。
部屋にはキュベレスの吸った煙草の煙が静かに充満するだけだった。
「ふんっ・・・相変わらず可愛くない生徒だよ、あんたは」
――― ――― ―――
「あれー?」
チシィに案内された、工場の少し離れた作業場には先客が居た。
しかもまさかまさかの人だった。
遠めから見てもそのスタイルとラインを俺は見過ごさなかった。
ゴーストと呼ばれた彼女が其処に居た。
「なんじゃ? お前等の仲間なんじゃろ? 朝からお前のブレイカーが気になるってここへブレイカーのメンテついでにずっと居たのじゃぞ」
「違う。ルームメイト?」
俺を指差し首を少し傾けた。
まあ間違いないだろうと思うがさ。
というよりもチシィとは面識あったんだな。ゴーストなんて言われてるからてっきり何処に行っても居たのかと驚かれるような人間かと思った。
「一応、初めましてって事でいい・・・ですよね」
少し固まりコクリと頷いたゴーストさん。
よかったぁあああああ、あの時の事はきっと忘れていてくれるっていう話しだよね。
「あ・・・でも、一昨日」
「俺の名前は、リュールジスって言うんですよろしくね!!! こっちはダッドとムー!! 知ってるかも知れないけど!! あとこっちのチビ助はチシィっていうんだ!!」
彼女の声が聞こえないくらいに大きな声で自己紹介。大事だよね自己紹介は!
あんなことが噂で広がったらきっと俺の寮生活は終わるに決まっている、絶対にそうだ!
「でででで、えーっとゴースト様は一体何故ここに?」
「さっき私が言ったろうが」
「あぁあーあ、はいはいはいこれねこれ」
ブレイカーを手にしてチシィに急いで渡した。
ふー、何とか難を乗り切れそうだ。
「怪しいよ」
「うん、どう見てもね」
「何もないに決まっているだろうが!」
こんな事してたら話しが進まないな!
全く、話しを掘り返しても何も良い事はないというのに全く。
一先ずその話は置いておいて。チシィは俺のブレイカーを所定の位置にセッティングした。
ダッドがあわあわとしながらその様子を見ていた。昨日あんな思いをしたらそりゃそうか。
「あぁん?」
俺達はゴーストさん含め、チシィの様子を黙って見ていると急に眉間を皺に寄せて俺に向けてガンを飛ばす。
「なんだよ」
「何だよとは、こっちのセリフじゃい。お前このブレイカーの魔力全部抜いてきたか、何かパーツ忘れてきたな?」
パーツ? 魔力全部抜いた?
急に何を言い出すかと思えば。
俺は寮からここへ来る間慎重に慎重を重ねてここまでブレイカーを運んできたんだ。それはダッドとムーもわかってる。当然三人で忘れものがないかのチャックも怠っていない。
「電力供給は問題ない。けれど魔力が一切入っていかない」
チシィの言う通り設置した台座から電力が流れ充電されているのは何となくわかる。
だが、ブレイカーの肝心な魔力が一切入りこんでいないのがここにいる誰もがわかっていた。
「おい、リュールジス。これ付けろ」
「はぁー? 嫌だよこえぇよ」
「大丈夫じゃ、電力は満タンでは無いが、動かすくらいは出来る」
いやいやいやいや。
技術者がそんなわけわからんからとりあえず試すかみたいな事普通する?
「・・・・・・」
なんかすっげぇ視線感じる。
なんですかゴーストさん、あなた存在感がないからゴーストって付けられたんじゃないの? めっちゃ俺に存在感主張してくるじゃん。
束ねられている綺麗な銀すら一切動くこと無く、少し垂れた目つきで俺をジーッと見つめてる。
この子本当にただ興味があるだけなのね!?
俺にパンダをやれって事を言いたいわけね!?
「お願い」
「・・・っ」
このお願いという言葉脅迫なのかそうなのか!?
駄目だ全然表情も何もかもが読み取れないからどういう意図なのかさっぱりだ。
こ、ここはリスク管理が必要とされる場面なのか!?
新型に乗って苦しむのか。
俺の寮生活が終わるのか。
そんなの・・・決められるわけないじゃないか!!
決められるわけなぁああああああああい!!
「はい・・・準備出来ました」
「はーい、とりあえず前進だけでよいからの」
「はい・・・」
グッバイ俺の身体。俺は寮での自堕落ライフを捨てる事は出来ない。
「じゃあー行っちゃってよいぞ、ゆっくりでな」
「しゃぁーないか、流石に即爆発なんてしないだろうから―――ぐぅうんっ!!!!」
バゴオオォォォオォォオォンッッッー!!!!
「・・・・・・」
ゴーストはその光景をただ見続けていた。
リュルが光速でおやっさん達が居る工場へと突進していく光景を。
そして聞こえる悲鳴。
それは衝突音から時間を置いて聞こえた物、決して衝突の際の悲鳴で無かったのをゴーストのみならずその場に居た者全てが察していた。
全員が同じ方向を見続けていると、奥からチシィのオヤジが何かを引きずりながらこちらに近付いて来た。
「当たり所が悪かったみたいだな、ご愁傷様」
投げて寄越したそれは、顔面ボコボコにされていたリュルだった。
当たり所が悪かった。
そう当たり所が悪かったのだ、不思議と複数の人間から殴られたような跡は、当たり所が悪かったのだと。
その場に居た全員が思うのだった・・・。
「絶対鬱憤晴らしだよね」
「しーっ・・・ムーだめだって」
「あぁ~~それって・・・そうか忘れてた」
ダッドに隣の住人の話を聞いた。
昨日俺が部屋から出てきたのは彼女が居たからだと簡単に説明した。当然素晴らしき花園は俺の脳内だけに留めている。
「"ゴースト"でしょ、確か。僕もすっかり忘れてた」
ゴースト、幽霊って奴か。
ってことはやっぱり幻覚じゃないか・・・。なんて冗談言ってるわけにいかないよな。
ムーから聞いたその呼び名で何となく察してしまった。
「自分達と同じローユース扱いされてましたっけかな、確か。まあ本人の戦いを見たわけじゃないですがね」
ゴソゴソッ。
ローユース。所謂日蔭者だろう。
そんな中でゴーストなんて名前を付けられるくらいだから相当だろう、違う意味で興味が出てきたな。
ゴソゴソッ。
まあいずれわかる機会はあるんだろうけど、同居人になる可能性が高いわけだから。
一先ず彼女の話しは保留にしておくにして・・・。
「で、だ。本題に移ろう」
さっきからゴソゴソしていたのは彼女が届けてくれた俺宛の届け物とやらを開封し、出来るだけ本体に触れないよう取り出し慎重に地べたに広げていた。
そして俺達三人はそれを囲うようにして、"それ"を見下していた。
「んーーーー」
「これはー・・・」
「エロ本で無いのは確かだな」
形状や色は違うけれど、"ある一点"を除けば今日俺が付けていた物に非常に酷似している。
もっと言うとダッドもムーも持っている。俺が今居る寮の9割は持っているんじゃないかと思われる物。
それがどうして、こんな段ボールに詰められて俺の所に届けられたのか、全く意味がわからなかった。
差し出し人を見ても「親愛・・#上」より、と。後から書いた字を潰した跡がある、めちゃくちゃな名前だ。
大体は・・・見当付くけど、何が書いてあったのかだけが非常に気になる。
「俺専用の・・・ブレイカー」
「そうだろうね、きっと」
「でしょうねぇ・・・」
「じゃあなんで・・・呪いの御札みたいなのがベタベタ貼られてるんだよこれ」
俺達が無闇に触れないようにしていた原因はこれだった。
触れるなと言わんばかりに気持の悪い御札が離れている。一体何がどうなればこんな姿になるんだ。ただの嫌がらせにしか見えなくなってくる。
ブレイカー単体なら俺へのプレゼントと素直に喜べるんだが。これじゃあなぁ・・・。
「とりあえず、剥がすか」
しゃがみ込み、少し緊張した手付きで御札に触れベリッと御札を剥がす。
よかった、思ったりよりも素直に剥がれてくれた。
俺の様子を見てダッドとムーも一緒になりしゃがみ込み手伝ってくれようとした時。
「「ぐぅあぁあああああぁあああーーっっ!!」」
突然の電撃音と共に悲鳴を上げ、二人はバタンと仰向けに倒れた。
それを見て何となく俺は察した。
あ・・・防犯用ね。
俺以外の奴が触ると的な奴だ。
溜息を吐きながら一人で御札を剥がし続けるはめになった。その後も二人はもうブレイカーに恐れのあまり近付こうともしなかった。
結局、明日朝一番にブレイカーをおやっさんの所に持っていこうという話になり、その日は祝賀会の続きをする事にして、ブレイカー一先ず放置して終えるのだった・・・。
それからあっという間に朝になり、俺達三人はおやっさんの下に向かうのだったが。
「は? ワシが貴様のブレイカーを見るとでも思ってるのか?」
ですよねぇー。
ここへ来る前まですっかり忘れていた。昨日チシィを縛り上げた事を。
おやっさんは目も合わせくれない所かこっちを向くことさえしてくれないで淡々と何かのパーツを作ってる。
「お前等ー!!!」
「げ・・・」
俺達の姿が見えてきたからなのか、奥からちっさい物体がこちらへと走ってくる。
最悪なタイミングだ。こりゃあ今日中にブレイカーを何とかするのは難しそうだな。
「話しは学院長から聞いておるから、こっち来い」
チシィの言葉に俺達はお互いの顔を見合わせた。
子供は一晩寝ればなんとやらって奴か、知らないけど。
――― ――― ―――
リュルが自分宛に届いたブレイカーを手に動いている間、ヘリオエールの学院長室には来客があった。
そこには、マイスター・アーシャとリッター・ミレスが学院長に呼ばれ足を運んでいた。
「私が! 異動ですか!?」
「えぇ、先日の功績を称えリッター・ミレスにはとある部隊、いえ特殊班の班長として今後動いてもらう事になります」
学院長の言葉にミレスは頭がショートしていた。
意義を唱え様にも今いるマイスター・アーシャの下の部隊から外れる事になるショックで口から魂が抜けそうになっている。
「おめでとうミレス。よかったね、念願の隊長勤務の夢が叶って」
一切の悪気を感じないアーシャの笑顔にミレスは追い打ちを掛けられた想いでいっぱいだった。
「通常の異動なら寮の引っ越しを命じるところではありますが、少しばかり班員が異例中の異例の為、必要と感じた場合にのみ限り―――」
「っ!! 大丈夫です!! きっと特殊班という名の通り素敵な優秀な者達の集まりなのでしょう!? 私如き目が入り輪を乱すかもしれませんので、寮の引っ越しは必要無く、今まで通りマイスター・アーシャと同じ部屋がいいかと進言します!!」
「え・・・あそう、かしらね。わかりました、寮に関しては班長のあなたに一任致します。必要だと思ったら通常通りの手続きで構わないから」
「はいっ!!!」
寮の引っ越しだけは何とか阻止に成功したミレス。
そんな中ふとアーシャはその特殊班と呼ばれる物の存在、班員が誰なのかと想像していた。
『ハイパーアルティメットフルバーストを、くらぇええ!!』
『そんな役は無いですよ!!』
『ならばこちらはエターナルエンハンスエレメントで対抗だ』
昨夜ミサイル迎撃を成功させた者達に感謝の言葉を伝える為に自分とは違う寮へと足を踏みいれたのだが。
部屋の前からでも漏れるその歓声と笑い声に、インターホンを鳴らすのを止めて帰った事を思い出した。
実際の光景を見ていない為、詳細は不明だが。きっとその日その部屋の住人達はこの学導院の中で一番楽しんでいたのだろうと。アーシャはついつい微笑んでいた。
「マイスター・アーシャ?」
「え? あーごめんごめん。つい思い出し笑いをしてしまって」
「では、リッター・ミレス。新たな班の指揮共々、今後に期待致します」
「かしこまりました学院長。その任、確かに頂戴致しました」
二人は深く礼をして、学院長室を後にしたのだった。
それを確認したと同時に、学院長は通信を入れた。
「これでよろしかったかしら?」
「えぇ、ありがとうキュベレス先生、いやキュベレス学院長と呼んだ方がよかったですね」
「一番の出世頭からそう呼ばれるのは鳥肌が立ってしまうわ」
通信の内容からわかるのはキュベレス学院長と親しみのある人間。そしてその声は以前にリュルがストライク王国に到着した際にアーシャと密会していた人物の一人だった。
「手筈通りこちらから送ったブレイカーも到着しているだろうから、一先ずは問題ないと思います。念の為あらゆるケースを考えた資料をそちらに転送予定です」
「あなた達の指示通り、色々手は回してますがね・・・。少し過保護過ぎやしないかい?」
通信先で聞こえる書類達が捲れていく音が聞こえた学院長は引出しから唐突に煙草を取り出して火を付け吸い始めた。
不思議と、今までとは口調も荒っぽく聞こえるのだった。
「過保護? 何か不憫な点が?」
「ふぅー・・・そうゆう所だよ。あんたは昔から頭の固さだけはピカイチなんだから。そういや、あの子言っていたよ?」
「何・・・を」
作業をしながらキュベレスと通信をしていた手が止まったのがすぐにわかった。
「あんた達が「元気にしているか」って聞いてきたよ、全くもって健気なじゃないか」
「そう・・・ですか、あの子が」
「あんた等も顔出してやりなよ、そうすればあの子だって」
キュベレスの言葉に、反応が無かった。
そのリュルの言葉にどういった感情を思ったのか、通信越しではキュベレスにはわからなかった。けど、想像は出来た。
「あんた等が思っている以上に、あの子は見違えるほど成長してるよ。間違いなくね」
「そう・・・ですか。では、引き続きあの子を・・・お願いします」
一方的に通信が切れてしまった。
部屋にはキュベレスの吸った煙草の煙が静かに充満するだけだった。
「ふんっ・・・相変わらず可愛くない生徒だよ、あんたは」
――― ――― ―――
「あれー?」
チシィに案内された、工場の少し離れた作業場には先客が居た。
しかもまさかまさかの人だった。
遠めから見てもそのスタイルとラインを俺は見過ごさなかった。
ゴーストと呼ばれた彼女が其処に居た。
「なんじゃ? お前等の仲間なんじゃろ? 朝からお前のブレイカーが気になるってここへブレイカーのメンテついでにずっと居たのじゃぞ」
「違う。ルームメイト?」
俺を指差し首を少し傾けた。
まあ間違いないだろうと思うがさ。
というよりもチシィとは面識あったんだな。ゴーストなんて言われてるからてっきり何処に行っても居たのかと驚かれるような人間かと思った。
「一応、初めましてって事でいい・・・ですよね」
少し固まりコクリと頷いたゴーストさん。
よかったぁあああああ、あの時の事はきっと忘れていてくれるっていう話しだよね。
「あ・・・でも、一昨日」
「俺の名前は、リュールジスって言うんですよろしくね!!! こっちはダッドとムー!! 知ってるかも知れないけど!! あとこっちのチビ助はチシィっていうんだ!!」
彼女の声が聞こえないくらいに大きな声で自己紹介。大事だよね自己紹介は!
あんなことが噂で広がったらきっと俺の寮生活は終わるに決まっている、絶対にそうだ!
「でででで、えーっとゴースト様は一体何故ここに?」
「さっき私が言ったろうが」
「あぁあーあ、はいはいはいこれねこれ」
ブレイカーを手にしてチシィに急いで渡した。
ふー、何とか難を乗り切れそうだ。
「怪しいよ」
「うん、どう見てもね」
「何もないに決まっているだろうが!」
こんな事してたら話しが進まないな!
全く、話しを掘り返しても何も良い事はないというのに全く。
一先ずその話は置いておいて。チシィは俺のブレイカーを所定の位置にセッティングした。
ダッドがあわあわとしながらその様子を見ていた。昨日あんな思いをしたらそりゃそうか。
「あぁん?」
俺達はゴーストさん含め、チシィの様子を黙って見ていると急に眉間を皺に寄せて俺に向けてガンを飛ばす。
「なんだよ」
「何だよとは、こっちのセリフじゃい。お前このブレイカーの魔力全部抜いてきたか、何かパーツ忘れてきたな?」
パーツ? 魔力全部抜いた?
急に何を言い出すかと思えば。
俺は寮からここへ来る間慎重に慎重を重ねてここまでブレイカーを運んできたんだ。それはダッドとムーもわかってる。当然三人で忘れものがないかのチャックも怠っていない。
「電力供給は問題ない。けれど魔力が一切入っていかない」
チシィの言う通り設置した台座から電力が流れ充電されているのは何となくわかる。
だが、ブレイカーの肝心な魔力が一切入りこんでいないのがここにいる誰もがわかっていた。
「おい、リュールジス。これ付けろ」
「はぁー? 嫌だよこえぇよ」
「大丈夫じゃ、電力は満タンでは無いが、動かすくらいは出来る」
いやいやいやいや。
技術者がそんなわけわからんからとりあえず試すかみたいな事普通する?
「・・・・・・」
なんかすっげぇ視線感じる。
なんですかゴーストさん、あなた存在感がないからゴーストって付けられたんじゃないの? めっちゃ俺に存在感主張してくるじゃん。
束ねられている綺麗な銀すら一切動くこと無く、少し垂れた目つきで俺をジーッと見つめてる。
この子本当にただ興味があるだけなのね!?
俺にパンダをやれって事を言いたいわけね!?
「お願い」
「・・・っ」
このお願いという言葉脅迫なのかそうなのか!?
駄目だ全然表情も何もかもが読み取れないからどういう意図なのかさっぱりだ。
こ、ここはリスク管理が必要とされる場面なのか!?
新型に乗って苦しむのか。
俺の寮生活が終わるのか。
そんなの・・・決められるわけないじゃないか!!
決められるわけなぁああああああああい!!
「はい・・・準備出来ました」
「はーい、とりあえず前進だけでよいからの」
「はい・・・」
グッバイ俺の身体。俺は寮での自堕落ライフを捨てる事は出来ない。
「じゃあー行っちゃってよいぞ、ゆっくりでな」
「しゃぁーないか、流石に即爆発なんてしないだろうから―――ぐぅうんっ!!!!」
バゴオオォォォオォォオォンッッッー!!!!
「・・・・・・」
ゴーストはその光景をただ見続けていた。
リュルが光速でおやっさん達が居る工場へと突進していく光景を。
そして聞こえる悲鳴。
それは衝突音から時間を置いて聞こえた物、決して衝突の際の悲鳴で無かったのをゴーストのみならずその場に居た者全てが察していた。
全員が同じ方向を見続けていると、奥からチシィのオヤジが何かを引きずりながらこちらに近付いて来た。
「当たり所が悪かったみたいだな、ご愁傷様」
投げて寄越したそれは、顔面ボコボコにされていたリュルだった。
当たり所が悪かった。
そう当たり所が悪かったのだ、不思議と複数の人間から殴られたような跡は、当たり所が悪かったのだと。
その場に居た全員が思うのだった・・・。
「絶対鬱憤晴らしだよね」
「しーっ・・・ムーだめだって」
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