【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

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第9話 マイスター

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「ったくどいつもこいつも・・・」

「相変わらず賑やかしいですな」

「そうですか? 俺はこう見えて結構静けさを好むタイプなんですがねって―――グラテム艦長ぉぉお!!?」

「はっははは、それは災難ですね」


 なんでこの人がここにいるんだよ!
 共同用トイレだから当たり前か! 当たり前か!?


「そう畏まらないでくださいよ、出るものも出ませんよ」

「なら共同トイレなんて使わずご自分の部屋のトイレを使われては」

「これは手厳しい」


 艦長には悪いけど、小便器に用を足しながらの立ち話、立ちション話なんてあまりしたい物ではないのだけど。


「どうも私は、あなたと縁があるようですね」

「偶然トイレで出くわす程度にはありますね」

「見た限りリベリィには・・・なられてない。ということですか?」


 俺の格好を見て艦長は言った。
 そう言えば今も艦長に会う時の咄嗟の格好と変わらなかった事に今さらながら驚いた。


「しっかりとしたお礼を言っていなかったですね、この艦を二度も救ってくれてありがとうございます」

「いえ、俺は何も・・・二度?」

「えぇ、二度です」


 ジーッとズボンのチャックが上がる音と共に艦長の用足しは終えたことを知らせた。
 それに倣うように俺もチャックを上げて洗面所へ向う。


「何となく、またあなた。いやあなた達に助けてもらうんじゃないか・・・そんな気がしてなりませんよ」

「いやいや、俺達はリッターお墨付きの後方任務。お留守番ですから出番なんてないですよ」

「だと・・・いいのですがね。ではお先に」


 グラテム艦長・・・。

 縁起でも無いことを言うか普通? 一応市民を守る軍人なんだからさ。
 まあ今回ここの艦には民間人がいる訳じゃないから幾分か気が楽だからいいけどもさ。


 そんな嫌な不安を抱える俺なんて無視するように時間は流れる。
 作戦開始時間の5分前。

 各リベリィはブレイカーを装着しその時を待っていた。
 だが、俺は相変わらずブレイカーの調整に手こずり同じタイミングでの出撃は難しいと判断されていた。


「リュールジスさんは調整が終わり次第・・・終わるんですよね?」

「多分・・・うん多分」


 着々と出撃準備を終えエレベーターに乗り込むリベリィを横目に俺は相変わらずブレイカーに拘束されていた。
 当然、あの二人もブレイカーを装着し出撃の時を待っていた。


 全てのリベリィがメインデッキへ上がるエレベーターに搭乗している光景は中々に圧巻だった。
 かなり大きめのエレベーターにここまでの人間が立っていると迫力を増す。

 そして、陸艦が予定ポイントに到着し時間が来た。


「総員、出撃っ!!!」

「「「「「イエスマイスター!!!!!」」」」」

 エレベーターが甲板上に到着した瞬間、リベリィが一斉に飛び出していった。
 中隊規模の隊列を組み、一寸も乱す事無く敵アンダーズへと向かっていく。


「では、3班は私の後に付いてきてくださいね」

「イエスリッター」

「・・・はい」


 一番後方の者達が隊列から外れた。
 ミレスに続く二人、緊張は一切ないがどうしても納得している表情では無かった。

 だが、これも仕方ない事だと理解している。
 そんな二人の気持ちを余所にマイスターアーシャ率いる迎撃部隊はアンダーズを捉えた。


「アンダーズ確認! モース型が二体! さらに後方にもう一体、新種のアンダーズです!」

「各班、新種を警戒しつつモース型を早急に撃滅、新種には私とミレ・・・一人で向かいます」


 本来ならミレスと共に行動するはずだったのが今は一人、撃破まで出来なくとも他の者達がモース型を仕留める時間を稼ぐことになっている。


「戦闘開始!!」


 アーシャの掛声により一斉に攻撃が開始された。
 全てのリベリィがストックを前方に構え光弾を放ち始める。

 モース型のアンダーズ。
 プラント型と比べエア型増殖能力は無いが、単機での戦闘能力が叩く、至る所からビームを放ち続ける。
 一発一発の攻撃力はリベリィにとって高く無いかも知れないが、無尽蔵とも言えるビームを浴びせ続け、中には強力な一撃を放ってくることもある攻撃特化のアンダーズである。


「幻動せし空色水晶 スフィアレイビット」


 魔術を発動するアーシャの左右に二つの水晶型のビットが出現する。
 ビットは俊敏な動きを見せつつ各班に一つずつつ追尾し始める。


「や、やられ―――」

「っ・・・!」


 2班の一人がモース型の猛攻を捌き切れず直撃寸前、ビットが間に入りビームを防ぎ切った。
 ビットはすぐに別の者の援護に人では真似出来ないほどの速度で移動し続けた。


「前に出過ぎだ、馬鹿者!!」

「申し訳ありませんオウギフ様! でもあ、あれは!?」

「貴様は新参者だったな、あれがマイスターアーシャが使う魔術、幻光奇術「イリュージョンセンス」だ。今のように私達をお守り頂いているのだ。あの方が居る戦場に置いて負傷は恥と知れ、いいな!!」


 1班に贈られたビットは主に攻撃をメインに動きを見せているが、2班に送ったビットは防御を念頭に置いた動きを見ていた。
 1班には長年アーシャと共に戦場で戦い抜いた者達が居る為かビットの性質を理解し攻撃の起点として動いている。
 それに対し2班は、ユースの中でも優秀と口にされていても実践経験が浅い者が多い。

 アーシャの援護が無しにモース型一体を任せるに至らなかった。


「マイスターアーシャ! 1班は大丈夫です! 本丸をお願いします!」

「わかった、無理だけはしないでね!」


 アンダーズのビームとリベリィ達の攻撃が錯綜する中、アーシャは一気に出力を上げ敵陣に駆け込む。
 特製のストックを片手に舞うようにビームを掻い潜り新種のアンダーズに接近する。


「プラント型に似ている・・・けどエア型が見当らない。あの子達の報告があったように、何かを仕掛けるつもり?」


 新種のアンダーズはプラント型に酷似した巨大なビルのような姿。だがプラント型特有のエア型を使っての制圧戦を仕掛けてこない。
 考えられることとして以前リュル達が戦ったようなことだった。

 アンダーズに知性、作戦行動という概念がある事。

「だとしても・・・コアさえ破壊すれば」

 ストックを構え攻撃に移ろうとした時。

 アーシャの左右から突然アンダーズが出現し攻撃を仕掛けてきた。

「っ!? これも新種!?」

 攻撃を止め防御態勢に移行しつつビーム攻撃を全てかわしながら一度距離を取る。
 アーシャを襲撃した二体のアンダーズ。宙を浮遊する今までのアンダーズとは一転しタイヤのような足部を持ち地面を走り出した。

「ご無事ですか!? マイスター!」

 インカム越しから声が飛び交う。すぐに自分は心配いらない、作戦を続行するように伝える。
 アーシャは手に持つストックを強く握り締める。

「あの二体、仕掛けてこない・・・あの大きい奴の護衛ってこと?」

 ある程度の距離を保ちながら新種と並行していると後に現れた二体はアーシャに対して攻撃をしてくる気配がない。
 答えは単純だった、あの戦車のようなタンクアンダーズは護衛の習性がある。

 自分一人で無理してでもあのタンク二体を片付けて、本丸を撃墜する事は恐らく出来なくはない。
 だが、安全策を取るならばモース型二体が倒されるのを待つ、いや最悪1班だけでも合流するのを待って―――


ガシャンッ・・・!!!!



「っ!!?」


 アーシャが思考中。それをさせないかのように本丸の新種が動き出した。
 新種の頭上部分が嫌な音と共に形を変えた。アーシャにはその形に似た物に見覚えがあった。


「総員、退避!!!」


「「「「「っ!!!?」」」」」


 全チャンネルで叫んだ。
 その瞬間、新種の変形した"砲身"から巨大なビームが放たれた。





―――   ―――   ―――


 新種の攻撃は大地を貫き、地響きを起こしていた。
 それは戦場の後方に位置している3班にもわかる程の。

「っ!!? 何事だ!!」

「伝達! 巨大アンダーズの新種により攻撃が行われた模様! リベリィ部隊の2班が標的に会ったとの報告!」


 念のためにと、町の住人を陸艦に避難させている間の出来事だった。
 その威力に陸艦ブリッジは急な出来事に対し一気に切迫した空気に包まれた。

 
「グラテム艦長、被害報告は!?」


 戦況の動きにミレスが町側から通信を入れた。
 かなりの距離が離れている町にも響いた地響きに3班も気が引き締まっていた。


「リベリィ部隊の2班に新種の攻撃が行われたとの報告が、被害報告はまだ」

「・・・わかりました、住民を避難させた後、艦は急速離脱して下さい。最悪の場合町が戦場になる可能性があります」

「わかりました、こちらからも人手を送ります」

「ありがとうございます」


 通信を終えると、ミレスは3班に状況を報告した。
 新種のアンダーズの特性が遠距離からの砲撃タイプである事を念頭に入れ町の住人の避難を急がせた。

 そんな中、インカムだけを付け、他の3班と同じように避難誘導をしている者も居た。


「地響き・・・普通にヤバそうだな」

「何がヤバいの? お兄ちゃん?」
 
「今の地震!? めちゃくちゃ揺れたね!?」


 子供は無邪気だなぁ。それがまあいいっちゃいいんだけどさ。
 さっきのリッターミレスの報告からして、アンダーズがここを攻撃するのも時間の問題か。

 この子達を避難させるのはギリギリ間に合うか、どうかって奴か。


「ぅぅんっ・・・」

「どうした? 今の地震でこけちゃったか?」


 一人の幼女が涙目になって俺を見る。あんまり得意じゃないんだけどなぁこうゆうの。
 幼女は俺の手を握ってる。震えた小さい手で。


「また・・・お家、無くなっちゃうの?」

「お家・・・」


 お家か。
 あまり考えたこと無かったな。

 生きていればめっけものと思われるこの世界。話しに聞くと避難民が後を絶たない。ストライク王国も受け入れ体制を取っているもその数は絶大だ。
 それでもこの子はきっと生き延びてどうにか家族の知人か親戚の家に避難する事が出来た。恐らくそれは非常に幸運な事。

 けど、今まさにそれも運の尽きへと変わろうとしていた。


「大丈夫だよ、ほら見ろ」


 俺は幼女のを背負い、あの二人とリッターが居る場所を指差した。


「リベリィのお姉ちゃん達が守ってくれる。そうだろう?」

「う、うん・・・そうだよね」


 意外にも泣きやんでくれて何よりだ。
 親御さんに娘さんを手渡し陸艦への避難を急がした。

 そうか。あんな小さい子供もリベリィの事を想っているのか。

 リベリィの存在が、この世界にとってどれだけの存在なのか。少しばかり俺は見誤っていたみたいだな。


「リュールジスさん!」


 リッターミレスが俺の下に駆け寄った。
 その理由は大体察していた。

 3班の班長からの指示で、俺は陸艦へと戻っていった。




―――   ―――   ―――




「2班! 被害報告!! 2班!」

「こちら2班班長のユース・オウギフ! 2班の半分以上が戦闘不能、マイスターのおかげで死者は出ていませんが、負傷者の救援で後手に回ってしまってます」

「1班から援護を送る! 耐え抜けよ! マイスターアーシャ! 陣形整えに一時後退を!」

「うん、1班は2班の援護を最優先に、私がモース型一体を引き受ける」

「新種とモース型を!? マイスター流石にそれは―――」


 隊員の言葉を聞くこと無くアーシャは飛び出し、モース型と新種の誘導を開始した。
 もくろみ通りなのか、はたまたアンダーズに誘導されているのかは誰もわからない。
 モース型も攻撃の標的をアーシャに集中し始めた。


(やっぱりミレスが居ないと、一手足りないか)


 顔を濁ませながらも攻撃を弾きながらアンダーズと相対していく。
 モース型からの攻撃を捌きつつ新種に接近し二射目を打たせまいと攻撃を続ける。
 だが同時にタンクのアンダーズが新種に攻撃をさせまいとアーシャを邪魔する。
 全意識を集中させモース型と新種にタンクと全てのアンダーズに絶やす事無く攻撃を続ける。

 魔力の無駄を省き、最小限の動きで攻撃を避け機を待ち続ける。


「見えた・・・!」


 モース型の装甲から見える光り輝く物体。
 1班があと少しにまで追い詰めたモース型のコアが姿を現した。


「幻動せし赤紅鋭牙!!」


 地面を蹴り、モース型へと一気に距離を詰める。
 ストックには赤く輝く魔力が秘められている。


「ファングレイビット!!」


 円月状にストック振るった瞬間アーシャの背後から無数の赤い牙がモース型目掛けて放たれる。
 ファングビットは迎撃のビームを掻き消しながら標的へと一直線に突き進んだ。


ガキンッ・・・!!!


 一本の牙が刺さった瞬間に全てのファングビットが次々とコアへと食らいつき、一気に砕き壊しモース型の一切の機能を停止させたのだった。

 一体のモース型が消滅した。


「はぁはぁ・・・ふぅ」


 息を整える余裕が生まれた。
 もう一体のモース型は負傷者の救援中とはいえ、1班全員と残った2班で事足りるはず。

 ならばと、アーシャは顔を上げた。

 あとは・・・新種を倒せば終わる。









「・・・あれが、マイスターの力」


 オウギフは口ずさんだ。
 改めて見るあまりの強さに。自らの力との差に・・・。



「へぇー・・・すっげぇマイスターって」


 インカム越しに戦況を想像するリュルは欠伸混じりに言った。
 世界屈指の力と言われるグレードのマイスター、その実力を・・・。
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