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第7話 グレード
しおりを挟む「―――彼等の無念と悲しみ、我等はその想いを引き継ぐと共に永遠に忘れないだろう」
「黙祷」
ヘリオエールに到着した次の日。
朝食を取ってからというもの大聖堂なる所に連れてかれた。昨日の話だと講堂って聞いていたのだが、どうやら先日の戦闘で死んだリベリィの弔いが行われているようだった。
全ての人間が目を閉じ、死んでいった者達の事を思って祈りを捧げているのだと。
ダッドとムーも一応形式に則り俺の隣で同じように目を閉じていた。
変な話だな、俺はともかくこの二人からしたらいい迷惑だっただけの存在なのに。
黙祷が終わると、そのまま朝の報告会ということで集まっているリベリィ全員に連絡事項が言い渡された。主にアンダーズの動向についてだった。
その中で俺は違和感を覚えた。
「なんでアンダーズが知性ある行動をした発見を、お前らじゃなくて死んでったあのクズ共の手柄になってるんだよ」
大聖堂を解散してすぐに俺は二人に訪ねた。
それを聞いた二人は苦笑いをした。どうやらそういったことに慣れてしまっていた自分達に笑いが出てしまったようだった。
「グレード、ってものがありますからね」
その一言で全てを察した。
部下の手柄は上司の物、上司の責任は部下の物。
そんな言葉が頭を過ぎった。
とはいえ、リッター一人だけで聞いた話では他はユース。つまり二人と同じグレードなのに。
「今日の大聖堂の件は特別、死んだユースの中に貴族の息子が居たわけだし」
「うわ、なるほど。公式的にはユースは同列だけれどって奴か」
「ははは・・・そうゆことです」
本当にくだらないな、あの一件だって明らかに俺一人じゃアンダーズは倒せてもあの艦を守り切ることなんて出来なかったのに。
この二人には何の称賛も無いって、めちゃくちゃな話しだな。
「そういや、これからどうすの?」
「本来なら待機命令が出てないリベリィは抗議だけど、リュルのブレイカーを借りに行くように朝寮長に言われた」
ふーん。
俺まだリベリィになるかどうか言ってないのに良いのか? まあいいんだろうな、きっとあの学院長が粗方面倒を見てくれそうだし、悪い人では無さそうだしひとまずは流されるままがいいだろう。
そうこうしている内に寮から本館を抜けてた先にさっきまで優雅な建物が並んでいた景色とは一変して、一気に油臭いような場所に出た。
工場のように見えるけど、ブレイカー専門に取り扱っている場所だと二人は教えてくれた。
「おやっさーーん!」
ダッドが手を振り声をかけると遠目から見ても明らかにデカイ生命体がそこに居た。
上半身裸・・・のはずなんだが鍛え上げられた筋肉がその格好を許しているかのような人物だった。
「やっと来たかてめぇ等」
っ?
あれ、なんで殺気立ってるの? というかそのおやっさんの背後でブレイカーのパーツの整備をしている人達も俺達の存在に気付き同じ様に目つきをギラつかせる。
これじゃあオレナンカヤッチャッタ?じゃ済まないだろう。今回は俺一人じゃなくて二人も一緒だ。
「なな、何にか・・・」
ぐっと立ち上がったおやっさん。さっきまで座っていただけで凄い存在感だったのに俺達を見下すその姿、圧迫感がヤバい。
「「「んんんんんっ―――」」」
「・・・・・・―――」
変な沈黙が漂う。
何でこんな事になったんだ、考えろ。
ここはブレイカー専門の所、俺は今日ここでブレイカーをお借りしに来ただけ。
なんか不都合ありましたかねぇー!?
「てめぇが、リュールジス・・・か」
「え、あ・・は、あ"い"っ!!!」
声が裏返ってしまった殺される。
あーもう駄目だこれ、おしまいですわ。
今もずっと睨んできてるんだもん・・・あれなんか最近こうゆうの多い気がしてきた。
なんでそんなみんなじっと見つめるんだよ。確かに家族譲りでそこそこ整ってるとは自分でも思うけど。
どいつもこいつも結構お年を召されてる方々で正直そこまで嬉しくないんですけど。
「あの・・・おっやさん。何かあったんですか?」
いいぞダッド! やはり先陣を切るのはお前だと信じていた!そのままこの筋肉怪人をぶっ倒せ。
「・・・ふん。 おーい!! あれ持ってこい」
おやっさんが奥の者に何かを持って来させようと指示を出した。
俺達は出てくる物を固唾を飲んで待っていた。
すると出てきたのは。
「俺達の」
「ブレイカー・・・ですか?」
「それと・・・これ」
俺が壊したブレイカーだ。確か念の為持ち帰ろうって事になったきり知らんかった。
二人のブレイカーもここにあるって事は、運び込まれたか。
よく見ると二人のブレイカーは修理やら何やらが終わってるようだけど。俺が使っていたのは一切手が付けられていない物だった。
「どうゆう事だこれ」
「ど、どうゆうとは・・・」
「てめぇ等、これに何かしたのか? こっちの壊れてる奴なんてめちゃくちゃだぞ。わけわかんねー外部からの魔力供給でリミッターは外れるは出力機器が馬鹿みたいな壊れ方してるは、ほぼ暴走してもおかしくないのにも関わらずその形を維持してやがった」
おやっさんがブレイカーを指差して詰問してきた。
あれ・・・。
「おまけにこっちの、てめぇ等もよく見ろ。普通は瓦礫に見えるがわかるだろ。魔力で強引にその形を変えやがってもはやブレイカーですらない」
これって・・・。
「何をした・・・てめぇ等・・・!!」
めっちゃ睨んでくるんですけどぉー! 怖いんですけどぉー!
プイッ!
プイッ!
「おめぇがやったのか」
(お前等俺を売ったなぁああああー!!!)
二人の顔が完全に俺の方向いてる。完全にこいつのせいです私達は知りませんみたいな顔で俺を見るなぁあー!!!
「違っ! 違うんです。何もやってません!何もやってませんよー俺は! 知らない知らない知らナーーい!!俺知らなぁああああーい!!!」
「・・・・・・」
無言で距離を詰めてくるのやめてもらっていいですかぁあー!?
本当に知らないんですってばぁああああああー!!!!
「ひぃぃいぃいー・・・」
もう・・・駄目だ・・・!!!!
「そうかい・・・。ブレイカーの事はレプティから聞いてる適当に持ってけ」
「あ、ありが・・・ありがとうございます」
「はぁぁー、何で僕までこんな目に」
二人の安堵の声が漏れ。
どう・・・やら、無事解放された・・・みたい。
「んっ・・ぁ・・・」
「どうかしましたかリュルさん?」
「何故股間押さえて腰引かせてるのか」
ぁ・・・ヤバい・・・。
「お、お願い・・・ト、トイレは・・・何処ですか・・」
――― ――― ―――
「はぁーー・・・!」
ここまで生きていると実感したのは始めただ。
まさかこんな事になるなんて旅をしている時は考えられなかったな、ぶっちゃけ今までその辺でしてたからな。
ふぅ・・・手を洗って・・・まあいいや服で。
そういや、あれから結局あのジャケット袖を通して無いな。
学院長の好意もあるし、その辺どうにか考えておかないとな。
「貴様等のせいであろうが!!!」
ん? どなり声? まさかまたおやっさんとかいう人に。にしては声がすっげぇ違うのは流石にわかるな。
「違います! 自分達のブレイカーは隠されて!」
「彼がそんな子供染みたことをする訳がなかろう! アンダーズに怖じ気づき彼等を殺した! 貴様等が生き残り、ここに戻ってきてるのが何よりの証拠ではないか!!」
あぁーあ、絡まれてるわ。
因縁付けられてるって奴だな。
「詫びの一つも出来ないのか貴様等――ぶあぁあああああ!!!??」
二人を怒鳴り付けていた男は鼻を押さえながら綺麗に昇天した。
他の取り巻きが安否を確認していた。
「お前、な、何をした!!?」
「いや、ワサビ一つって言うから」
「詫びだよ!」
「わさびさびって奴だろ? 俺だって知ってる」
「勝手に略してワサビを鼻に塗りたくる奴がいるかよー!!!」
うるさい取り巻きだなぁ。
ワサビ美味しいじゃん、あ、そうか。
「お前も欲しかったのね。言えよなぁそうゆうこと。あ、お前って「言わないとわからない!」って彼女に振られるタイプだろ?? 振られたばっかりでちょっとヒスってるってやつ??」
「ワサビもいらねぇーし! 振られてないからぁあー!! ちょっと最近忙しくて連絡取れないだけだから!!」
俺は優しく取り巻きの肩を取る。
「気付いてあげな、彼女の・・・SOS」
「慰めんじゃねーよ!!! 今日連絡するつもりだったし!! むしろ今からして上げようかと思ってたくらいだしー!!? 何ならその一部始終見せてやろうかあぁぁん!!?!?」
「あ、ごめん。別に俺"そうゆう”趣味は無いから。"そうゆうの"はやっぱ彼女と楽しくやればいいんじゃないかな"そうゆうの"」
「"そうゆうの""そうゆうの"連呼すんなぁああー! 本当に"そうゆうの"が趣味みたいになるだろうが!! アブノーマルな感じになるじゃん!!ノーマルだからね!! 通常モード全開だから!!!」
「騒がしいぞ!」
そうこう漫才を繰り広げてたら奥から一人の青年がこちらへ歩いてきた。
彼等と同じ制服。つまりここの人間ではなくリベリィだ。
「私達に、何か用が御有りで?」
おぉうおぉう、さっきのおやっさんには微塵にも届かないけれど殺気なんて向けて怖い怖い。
見た感じお坊ちゃんはお坊ちゃんでも、以前のリッターみたいな温室育ちって感じでは無さそうなお坊ちゃんだな。
茶髪で目が緑で顔も普通にイケメンって感じだな、さぞかし素敵なママとパパにとても素晴らしい遺伝子を頂いたのだろうな。
「オウギフ様、こいつ等がワサビを!!」
「ワサビ?」
あはっ、面白い図。
主語がないでワサビを連呼する姿は面白い以外何物でもないな。
「事情がわからないが、私達に非があったのなら謝罪をしよう。そうでないなら―――」
スッ・・・!
「リュルさん!?」
「容赦はしないよ、来訪者君」
一瞬での距離詰め。俺の首元に手刀の構えでそのイケメンは立っていた。
ブレイカーを使わずに魔力の使用。なるほど話しに聞いていた人間か。
ブレイカーの使用によって自らに眠っている魔力が刺激され、ブレイカー使用時の3分の1ほどの魔力を使う事が出来るようになるとかなんとか。
そう言った特異体質の人間は総じてグレードは上げられユースからリッターになる者が多く、今もくすぶりリッター予備軍も後を絶たないとかなんとか。
こいつも予備軍の一人ということか。
「驚いて声も出せないのかい?」
そんな問答がなんだか日常感を味わせてくれている・・・けれど。
「っ!?」
「サイレン!?」
領域全土にサイレンの音が鳴り響いた。
この場にいる全員が口ずさむ・・・敵が来た。
「アンダーズ・・・!?」
イケメンが俺から顔を逸らした。
彼が俺から離れようとした時、耳元で囁いて上げた。
「バーーンッ・・・」
「っ!?」
「オウギフ様! お急ぎを!!」
取り巻き達がオウギフを急かしすぐにブレイカーの方向へ走って行った。
オウギフは一瞬俺の顔を見て後を追っていた。
それを見て満足し、銃の形を作った手を引っ込めた。気付かれないままだとなんか寂しいから教えてやったのに悲しい奴だ。
「おーーい!! みんなー!!」
「寮長!? どうしたんですか」
遠くから走ってきて俺達を呼ぶレプティ。
それを見て俺はなんか嫌な予感が過ぎった。
と、いうよりもそれがもう確定した。
「学院長から・・要請。君達も一緒に出撃・・・してほしいって」
やっぱりなぁー・・・。
宿代飯代はしっかりと働けっていう御達しだった・・・。
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