【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

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第5話 リュル

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 やっと終わった・・・。

 そう一息付いた時、両腕の武器がバキバキッと音を立てながら崩れ落ちていった。
 流石に耐えれなかった、というよりもよくここまで耐えてくれたと言ってもいいかもしれない。
 急造だったとしてもある意味では俺の最初の専用武器ってことになるわけだしな。

「リュールジスさん!?」

「リュールジスさーーん!!?」

 急に耳元でガンガンと俺の名前を呼ぶ。
 そっか、あっちも無事で何より。

 俺は簡単に返事をした。
 そしたら一気に歓声が耳元から聞こえた。どうやら軍の人達とも繋がっていたようで勝利の喜びを俺の安否がわかるまで抑えていたようだ。


 あぁー・・・めちゃくちゃ腹減った。
 今思えばまだステーションに餓死寸前で到着してから何も食ってなかった。
 強いて言うなら風呂の出るお湯が我慢できずにちょっと・・・ちょっとだけ飲んだくらいだったか。


「火事場の何とやらか、空中制御も慣れてきたな」


 ゆっくりとではあるが陸艦が近付いてきた。
 甲板では俺の帰りを待っている人が大勢居た。手を振るっている人、敬礼している人、感謝を大声で響かせてる人。

 誰もがみな歓喜の気持ちを抑えられないでいた。

 それは。


「おーーい!リュールジスさん!」

「へへ・・・!!」


 大声を上げるダッド。

 照れ隠しをしているムー。

 二人が恐らくここにいる誰よりも、この勝利を喜んでいるに違いない・・・。






""ドンッ・・・!!!!!""





 その場に居た全ての人間が・・・目を見開いた。

 まさか。


 まさか。


 まさか。



「3体目・・・アンダーズ・・・」



 

「くっそぉぉ!!!」


 すぐさまブレイカーの出力を上げる。
 防御? 攻撃?

 間に合うか!!?


ボンッッ!!!!


 嘘だろ・・・。
 こんな時に・・・ブレイカーが・・・。


「っぅうっっぅぅ―――!!!」


 墜落してる。
 ダメだ、いくら魔力を込めたって動きもしない。
 武器だけじゃなく、ブレイカーまで逝っていたのか。

 このままじゃ・・・。






「リュル・・・」













GIYAOOOOOOOOOOOOOOOッッッ!!!!!!!







 甲板でリュールジスを出迎える者達は言葉を失っていた。

 再び現れたアンダーズ・・・それを噛み砕いている。

 "竜"に。

 人々は名も知らない、見たことの無い怪物の鳴き声に恐怖する暇も無かった。
 竜は、自分達を殺そうとしたアンダーズを一瞬で噛み砕き。

 そして・・・何も無かったかのように、姿を消した。








―――   ―――   ―――






「んっ~~・・・ん」


 あれ、何だここ。
 寝てた。

 いや、完全に気絶していたって奴だな多分。
 咄嗟に左手を見る。

 特に変わり無い、革手袋のままか。

「えっと・・・あっそか」

 3体目のアンダーズが現れて、俺・・・。


コンッコンッコンッ


「どうぞー」

 俺の声に驚いたのか、少し間を置いて扉が開いた。

「っ!失礼します!」

「失礼しまー」

 ダッドとムーか。
 両手には何やら大量の・・・食糧か!!?

「あぁ・・・リュールジスさんお腹空いてると思って」

「よくやった! デザートはあるんだろうな!!?」

 俺の言葉に少し困った顔をするダッド。
 はぁーと溜息を洩らし椅子に座りこむムー。

「あはははは、まあいいや。とりあえず貰うわ」

 スティック状のスナックを一つ貰い頬張る。
 んーー・・・、節操な味が口いっぱいに広がるな。
 そうかそうか、軍の食い物もここまで進化したのか。

「・・・なんだ? お前等にはやらんぞ?」

「いりませんよー」

 なんだよ、ずっとこっちを見つめるだけ見つめて。
 だけど俺は構わずに食うからな、空気を読めなんて知った事か。

「あ、そういや。どれくらい寝てた? お前らだろ? 俺をここまで運んできたの」

「そう、寝てた時間は6時間くらい」

「そう、んじゃあまた寝るわ、到着したら起こしてくれ。久々のベッドで体が言うことを聞かんのだ~~・・・」

「了解しましたよ、リュールジス様様」

 ムーが飽きれながら椅子から立ち上がり了承した。
 何だか無駄に聞き訳がいいな。

 いやどちらかというと、変な緊張が解けたってか? ついに俺はリラックス効果も与えるようになってしまったのか。
 自らの進化に驚きを隠せない。

「あ、そうだ」

 俺の呼びかけに二人は振り向く。
 また何の注文をされるのかとめんどくさそうにしているのがわかった。



「俺の事"リュル"でいいよ、無駄に長いだろ?」


 俺の言葉に驚いたのか、二人はお互いの顔を見合わせ。


「「ぷっ・・・!!」」


 鼻で笑いやがったな。


「了解しましたリュルさん!」

「起こしに来た時はちゃんと起きろよ、リュル」


 そうして二人は退室していった。
 何がおかしいのか変な笑みを浮かべて。おぉ気持ち悪い。やっぱあいつ等ってそっちの毛あるのか怖い怖い。


「とは、言っても・・・やっぱ。悪きはしない、って奴だな」


 こうして、俺は再び眠りに付いた。

 なんだか珍しくぐっすりと寝れた。

 嫌な夢を見ること無く・・・ぐっすりと。






―――   ―――   ―――






 陸艦での気持のよい旅。
 意外にも居心地がよかったなんて思っていた。
 料理も上手いし、風呂はあるし、ベッドはあるし。予想以上に軍の人達も優しくしてくれたし。
 一番意外だったのはダッドとムーがかなり丁寧に色々な事を教えてくれた。
 世界の事、リベリィの事。

 まあぶっちゃけほとんど耳に入ってないんだけどな。

 だってしょうがないよな。
 なんか二人とも報告をしてくるって席を外して戻ってきた時には気持ち悪い笑みを浮かべながら気持ち悪いエスコートし始めて勉強会なんて気持ち悪い物を開きだして。
 流石に俺が引いていたのを察知してからは普通に接するようになったから本当によかった。

 今後は俺の質問は出来るだけ答えてくれるように約束をしてくれて個人的にはそれで十二分に助かった。


 と。

 そんな陸艦の旅も目的のステーションに到着し終りを告げたのだった・・・が。




【ストライク王国 陸軍ステーション】



「あん・・・?」


 何だ何だ。俺達3人が陸艦から降りようとしたら異様な光景を目の当たりした。
 ようやく降りれる、大地を再び踏む事を楽しみにワクワクしていたのに。

 目の前に大量の青い制服を纏った人間達が膝をついて待ち構えていた。
 そしてわざわざ作った道の真ん中を一人の女が歩いてきた。


「よく、無事に戻られましたね。ユース・ダードー、ユース・ムイエヌ」

「ありがとうございます!マイスター・アーシャ」

「労いのお言葉大変うれしく思います!」


 えぇ・・・めっちゃくちゃ困惑するんだが。
 あのダッドとムーが突然現れた女に膝を地に付けて頭を下げてる。

 思ってるキャラじゃないぞお前等ー。


「・・・?」

「あぁん・・・?」

「フフ・・・」


 うえぇええ・・・目が合った。最悪だ。しかも笑われた。
 マイスターってあれか? ユースの上のリッターの上って感じか?

 うわぁ・・・勝手に想像すると階級は将軍クラスなんじゃねぇーの?
 いやだなぁ、変なのに目付けられるの。


「お二人とも長旅で疲れているでしょう? 報告はまた明日でよいので引き続き彼の警護と案内をお願いできますか?」

「「イエス!マイスター!!」」


 だからやめろそれ!
 なんでか知らないけどお前等がやるとすげぇ鳥肌立つっての。


「では、リッターミレス。申し訳ないけれど後処理の方を」

「イ、イエスマイスター。艦長との話は私が!!」


 なんだ今度は見るからに幸薄そうな女が前に出てきた。
 リッターって言うからにはそれなりなのだろうが、リッターの人間にはどうも良い印象がない。
 まあ最初見た奴があんなんだったんだから仕方ないか。


「では、みなさんお願いします」

「「「「「イエスマイスター!!!!!」」」」」


 うわ怖っ。この集団怖っ。
 嫌だなぁ近付きたくないなぁ。

 するとマイスター・アーシャという女がその場を立ち去ると同時に青い制服姿の連中がゾロゾロと陸艦に入っていく。
 先頭に立ってるのは、リッター・ミレスとか言うなんか無駄に強張った顔の女だった。突いた今にも転びそう。


「ふげぇっ!!?」

「あっ・・・」


 何もしなくても転んだぞ。
 おでこに綺麗に真っ赤な腫れた跡を撫でながらこっちを見る。


「・・・ぷっ」

「んんんん!!!!?」


 今度は顔を真っ赤にしてそそくさと艦内に入っていった。
 何もない所で転んだのは驚いたが、それよりも彼女の後ろを歩く人達はよく笑わないでいられたな、その事に一番驚くわ。


「あの方はいろんな意味で有名ですから」


 ふーん。俺が何も言わずにダッドが説明してくれた。
 有名人は大変だなって奴か。

 そんなこんなで特別楽しみにしていた大地の踏みしめはもうなんの楽しみも無く終えたのだった。






―――   ―――   ―――


【????????】

 そこはリュル達が到着したステーションから少し離れた建物。
 ほぼ人が居ないような所から、リュルを見ている者が二人居た。


「わざわざすまなかった、マイスターアーシャ。テューエル王国の救援を終えて早々に」

「いえ、私も一度お目に掛かりたいと思っていましたから」

「どうだった? あいつの様子」

「はい、特別以上は無い・・・といいますか」


 アーシャは少し言葉を詰まらせていた。


「気にするな、好きに述べよ」

「・・・お二人から聞いていた方と、雰囲気が違うと」

「ふ~~~ん・・・そっか」


 それを聞いて二人はもう用は済んだとばかりに帰ろうした。


「あの・・・お二人はお会いしないのですか? 喜ばれると思いますが」


 アーシャの言葉に二人は足を止める。
 少し悩んだ末、二人は再び歩き出した。


 アーシャは一度リュル達が居る方を見降ろす。
 なんだか楽しそうに笑ってる姿に彼女には目に焼き付いた。

 本当に彼がそうなのか。

 そんな疑問を持ってしまうほどに・・・。





―――   ―――   ―――

【ストライク王国 リベリィ学導院寮前】


「あぁああーー楽しかったぁー!!」

「時間に余裕はあるとは言ったけど」

「夕方になるまで街中連れ回されるとは」


 いやーまさか街というのがこんなに発展しているなんて思いもしなかった。
 金は一切使わなくただ歩いてるだけで新発見の数々。

 完全に別世界に来たような感覚だ。


「で? ここが言っていた寮か?」

「えぇ、上の方からこちらにリュルさんを案内するよう言われたのですが。本当に何も聞かされてないんですね」


 まあ、ある程度の事情は二人には説明した。
 昔にちょっとだけ軍のお仕事をやってて、ちょっと色々やらかして長い休暇を取っていて今に至ると。

 俺の昔の上官が、ここに俺を呼び出したってことは大よそ想像は付くが。
 あまり乗る気になれない自分が居たり居なかったり。

 そんな事を考えながら見上げていると、寮から一人の男が出てきた。


「あれれ~? あぁ~、ダードー君にムイエヌ君、それに・・・彼が噂の」


 メガネを掛けた糸目の長身の男。
 見えてるのかそれ?


「ようこそ~リベリィのリベリィの為の学導院。"ヘリオエール"へ」
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