【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

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第4話 ブレイカー

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「「リュールジスさん!?!」」

「何とかは遅れてくるって奴だ?」


 二人が俺の登場に色々な戸惑いを見せていた。
 ダッドはこちらに駆けより、ムーもブリッジの上から降りてきた。
 が。


「来るぞ」


 注意を正面に向けさせる。
 
 どうやら陸艦のエンジンの一つが止まり速度低下を見計らったのだろうか、ありったけの戦力を投入してきた。
 エア型の大群。というよりももはや黒い塊、ある意味で3体目のアンダーズかよ。


「ダッド!!!!」

「わ、わかってる!!」


 二人の魔力が急激に上昇しているのが目見てもわかる。
 各々の地面には魔方陣が展開し光り輝いている。
 迎撃するつもりだ。


「「うおぉぉおおおおおおおぉお!!!!!」」


 二人の雄叫びが響き渡る。
 同時にエア型の大群も一斉掃射。陸艦と同じ大きさのビームを撃ち込んできた。
 リベリィ二人が展開したバリアはそれを上回るほどの大きさを形成した。

 そしてバリアとビームが激突した。



 
「うおぉー!!? すっげぇ音」


 とんでもない爆音が俺の耳を吹き飛ばすんじゃないかと錯覚する。
 もはや耳を通貨して脳に衝撃を与えるくらいにヤバいなこれ。

「駄目だ・・・このままじゃ」

 ムーが弱音を吐く。
 二人のバリアは見事にアンダーズの攻撃を防ぎ切っている。
 だがそれはきっと、今二人の持つ魔力を全力で放出しているからだろう。

「くっ! ブレイカーの魔力が・・・!」

 あぁー、やっぱしっかりと供給されてないままだったか。
 仕方ない。


「ブレイカーに魔力があればあれ防げるんだな」

「「えっ?」」


 俺は二人のブレイカーごと、気合いを入れてもらう意味も込めて。
 二人の腰をおもいっきり叩いた。


「げえぇ!?!?」

「な、ん、だこれぇ!!?」


 おぉーー。

 二人のブレイカーにほんの少し魔力を分けてやった瞬間だった。
 陸艦正面に展開したバリアがとてつもない光を発し、その大きさがさっきまでの3倍近くまで広く大きく形成された。

 どう見ても大きくし過ぎだ。


「リュールジスさん一体何を!!!?」

「ダッド!! それよりも魔力放出調整に集中しろ!! このままじゃあブレイカーの前に自分達の魔力が持たなくなる!」


 ムーの言葉にダッドは冷静になる。
 どうやらこれでなんとかなりそうだな。とは言ってもこのままじゃ俺とアンダーズの魔力貯蓄レースになるだけだ。
 まぁ俺はそれでも構わんが。

「よっこいしょ」

 正面からの攻撃は二人に任せ、俺は自分が昇ってきたエレベーターの地べたに大量に置いておいた物を両手に持ち歩く。

「・・・っ?・・えっ!!?」

 防御に余裕が出来たのか、あまりにも異様な光景だったのか。
 ダッドが綺麗に俺の事を二度見した。その反応にムーも俺に目線を向けてめっちゃしかめっ面をした。

「一応聞きますけど、その大量のストックどうするんですか?」

「あー、使えなかったらぶん投げて使うつもり」

「っていうかそのブレイカーってあのリッターのでは!!?」

 質問が多い奴等だな。俺の質問には答えてくれない癖にったくよ。

「何とかなるだろう、迎撃は任せるぞー」

 二人に陸艦を任せ、見よう見真似でブレイカーを起動する。
 ガコンッと腰が持ち上げられた。足が地面から少しづつ少しづつ宙に浮いていく。
 なるほど、これがリベリィの基本戦闘スタイルってことか。
 空は飛べないにしろ、こうやって重力に逆らって物量のアンダーズに機動力で対抗するってことか。

「は・・・?」

「えぇ・・・?」

 流石に俺もそんな経験はないから変にへっぴり腰になっちゃうな。
 どっちかと言うと今まで魔力で脚力を上げて走り回ってたわけだからな。でもまあ魔力消費やスタミナ的な事を考えると圧倒的に、物凄く、楽ちんなのは嬉しいやら悲しいやら。

「ん?」

 あれ? ダッドとムーが俺を見てる。
 下から見上げるように。
 あいつ等何地上に潜ろうとして・・・。


「俺飛んでるぅぅぅうぅうっっっー!!!??!


 おいおいおいおい、ブレイカーってそんな特殊技能あるのかよ!
 先に言っておいてくれよ頼むから! 本当に何も知らないんだからさ!!


「っ!」


 完全に陸艦から孤立した俺をエア型の群れが一斉に襲いかかってくる。


「「リュールジスさんっ!!」」

「ふんっ!!!!」


 両手を大きく振るい接近してきたエア型を一気に薙ぎ払う。
 ついつい1~2本ストック落しちゃったけどまぁ大丈夫だろう。

 というか制御が本当に難しいなブレイカーって。もう死んだ連中はこんなの使ってあんなスキーみたいにスイスイ動いていたのかよ。ちょっと大きく体を振るっただけでもうあたふたするわ。


キイィィイィイイーンッッ!!!――――


「だから少し待てって言ってんだろうが!!!」


 両手、脇、肩、背中。
 ありとあらゆる所に差し込んできたストックを一斉に稼働させる。正面を向いていなくても起動してくれて助かった。

 大量のアンダーズのビームがバラバラに俺目掛けて放たれる。


「とりあえずこれでも食らっとけやぁあああああ!!!!!」


 エア型のビームに負けない量のビームを持ってきたストック全てから一斉発射させる。
 一回だけでなく何度も何度も何度も。

 アンダーズ共が消えさるまで俺はビームを撃つのをやめない。

 思ったよりも大量に撃墜出来た。というよりも一度体勢を立て直す為に退いたと見ていいか。

「あっ・・・あぁ~あ・・・」

 両手に持ってるストックを見て口が開いてしまった。
 砲身?とでもいうのか、ビームが出る場所がとても綺麗なきつね色にこんがり上手に焼けている。
 一応、ストックに魔力を流そうとするとうんともすんとも言わなくなった。

 うん、簡単に言うと壊れたって奴だ。


「よかった~、あるだけ全部積んでおいて」


 ゆらゆらとした空中制御で俺は一度陸艦に着艦した。


「ブレイカーで飛べるなら最初から言ってよねもう馬鹿!!!」

「ブレイカーで普通飛べるわけないんでよぉぉおぉー!!!」

「恥ずかしい思いしたんですけどぉぉおお!!!?」

「知りませんよぉぉー!!」


 なんでどうしてこんな惨めな思いを・・・。
 って毒吐きのムー君が黙ってると思ったらエレベーター近くに居た。
 というよりも辺りを見渡すとエア型に完全に囲まれている形になっていた。

 嵐の前の静けさとでも言うのか、アンダーズからの攻撃が止んでいた。


「で、お前さんは何してんの?」

「こいつ等を・・・一括にしておきました」


 ムーがやっている作業を覗き込むと何やら一つ一つのストックをチェーンで纏めているようだった。
 しかも二つ分けて均等に、その姿はもはや束ねられた藁だ。


「一応聞いておくけど、何これ」

「あなた専用の装備ですよ、扱い切れなかったら僕達は終わりですが」


 あははは、悪い冗談を言うなこの子は。
 あんまり責任とか使命とかって好きじゃないんだよなぁ。


「これで・・・あの・・・」


 暗いトーンで俺に声を掛ける。
 ガシャンッと最後の作業を終えた音と同時にムーは俺の目を見る。
 そんな目で訴えたって・・・。

 はぁ・・・。


「・・・守るのがお前等の仕事なんだろ? じゃあその仕事を全うしてくれればいい」


 結局いつもの事。

 という訳だ。


「後は任せろ」

「はい」


 ムーが用意した纏められたストック2つを両手に突っ込む。
 なんか変にしっくりくる。少量の魔力を注いで動作確認をしてみるが、どうやら正常に機能するようだった。
 さっき俺がバラバラに持っていったストックなんかよりも天と地ほどの差で扱いやすさが段違いだ。


「リュールジスさん、一緒に戦ってくれますか」


 ダッドの震えた声。
 ムーも同じ気持ちでこれを俺に渡したのだろう。

 そう。

 責任とか使命感じゃないんだなきっと。

 今は・・・今はとにかく・・・。


「あぁ・・・絶対に勝つぞ」


「「はいっ!!」」」




 俺達は、所定の位置に走った。
 ムーはブリッジの頭上に再び位置取り。
 ダッドも陸艦の砲台が集中している正面をデッキに。

 そして俺は空高く跳び上がった。


「あぁ~あ~、艦長少佐艦長少佐」

「そ、その声は!? リュールジスさん」

「あぁーまあ、成り行きでこんな事になったけど、心配しないで。ユース・・だっけ? あの二人が全力でこの艦を守るから。できれば二人の指示に従ってもらえるとありがたい」

「・・・わかりました」


 艦長の承諾も得れた。
 べーべー言う人では無いとは思ってたけど、こんな状況だし変な事を言う奴は・・・居ないとは言い切れないな。


「リュールジスさん、それにユース・ダードー、ユース・ムイエヌ」

「ん?」

「あなた方に全てを託します。ご武運を・・・!」


 ブリッジにいる軍人全員、いや恐らくこの艦にいる全ての軍人が俺達3人に敬礼し武運を祈ってくれてる。

 これは負けられないな。



「来るぞ!!」

「取舵いっぱい!! 少しでも敵からの攻撃阻止するんだ!」



 再び戦闘が始まった。

 様子見をしていたエア型が一斉に陸艦と空を飛ぶ俺目掛けて突撃を掛けてくる。
 ムーに用意してもらった武器を構える。

 試しに一撃放つ。

「っ!!」

 予想以上の反動が大きい。
 だが俺が乱射したビームよりも5倍以上の極太ビームが放たれた。
 しかも照射し続けられる。

 魔力の調整はそこまで必要ない。
 どちらかというと空中制御に集中した方が良さそうだ。

「よい・・・しょぉぉ!!!」

 照射し続けるビームを薙ぎ払うようにして空中を舞うエア型を一掃できた。
 

「「「「おぉぉ!!?」」」」

「本当に・・・本当に勝てる・・・!?」

「気を抜くな!! 外で奮闘してくれているのだ! 我々もここが踏ん張りどころだぞ!!!」


 陸艦は陸艦で大変だろうが、今の一撃で少なからず数は減らせただろう。
 それにどれだけ雑魚を倒し切っても意味はない。

 このエア型を生み出しているプラント型、しかも2体。そのコアを破壊しなければ戦いは終わらない。


「ムー、とりあえず俺は本体狙いでいいんだな」

「はい、お願いしたいのですが。何か問題が?」

「いや、ただ単純に。何処にいるのかわからないんだが」

「えっ・・・少しお待ちを」


 ムーはすぐさま360度見渡すが、俺と同じようにプラント型が見当たらない。
 にも関わらずエア型の襲撃は止まることを知らない、次々と俺達目掛けて攻撃し続けてくる。


「リュールジスさんの攻撃を見て焦ったのではないのですか? 自分もさっきから探してますが急に気配を感じなくなりました」


 ダッドも同じように見当たらないようだった。
 俺の攻撃に焦りを?

 本当に知性・・・いやこれはもはや本能的にと言った方がいいか。


「見つけました!! 北東方向! プラント型が出現!!」

「そっちか・・・!」


 突然姿を見せたプラント型に両手を上げ魔力を収束させる。
 少し距離があるが、顔を出したのが運の尽きだ!


「一発で仕留め切ってやるよぉー!!!!」


 溜まり切った魔力一気に解放する。
 先ほど撃った攻撃よりも数倍も大きい魔力砲弾。これでとりあえず・・・。


「っ!? アンダーズが・・・隊列を組んだ!?」


 俺とプラント型の間に急に現れたエア型の大群が次々と俺の放った攻撃に特攻を仕掛けている。
 それだけじゃない、進路上に何層も何層も自らの身体を盾にし巨大な分厚い壁を形成していった。


「何だあれ!」

「自分も・・・初めて見ました」


 二人の反応から見るにこんな動きをするアンダーズは初めて。
 いや、俺の勘が囁く。今までこの動きをする必要が無かった。

 それほどにアンダーズと人類の戦力差があるということか。


「くっ・・・!」


 俺の魔力砲撃は、途中の壁で防ぎ切られた。プラント型まで届かせるには更に魔力を練る必要があるか。
 それを暇があるなら・・・。


「二人とも、こっちは任せる!」

「待てって! これは!!」

「わかってる! わかってるから行くんだ!」


 ブレイカーの出力を上げ俺は陸艦から飛び出す。

 そう、二人が心配している事は俺もわかっている。
 離れた位置の出現。俺の攻撃を是が非でも止めた行動。

「邪魔だ!退いてろ!!」

 こいつ等が一番最初に行った作戦。
 誘導だ。

「自分を囮に艦で強い奴を誘き出し、殲滅。そして残った艦をゆっくりと頂く」

 気持ち悪いくらい趣味が合わない戦術だ。

 だが、てめぇーらが誘い込んだ獲物は少しばかり荒れるぞ。
 一気に低空飛行でプラント型の眼前にまで迫った。

 そして予想通りにもう一体のプラント型が俺の背後を取るようにして出現した。


「まずい! 挟まれた!」

「リュールジスさん!!」


 心配の言葉より今は声援が欲しいな、なんてな!


「誘い込まれたのは・・・お前の方だ!!!」


 この一撃で全て終わらせる。

 両腕を二体のプラント型に向ける。

 そして見えないように溜め込んでいた魔力を発光させる。


「舐めた代償だ・・・吹き飛べぇえええー!!!!」



 超大型の照射砲撃。
 両腕から放たれる光りが二体のプラント型を飲み込む。

 コア? そんな物しったこっちゃねぇーよ。

 どれだけでけえ図体してようがそれよりもデカイ攻撃ぶちかませば問題ねぇーだろうがよぉぉー!!!



「各員!! 対ショック!!!!!」


「これで終わりだぁあああー!!!」



 俺は一気に出力を上げきり周囲のアンダーズ全て消滅させた。
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