【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

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第2話 リベリィ 前編

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「対戦闘準備! 敵はすぐ目の前だ! 急げぇえー!!」

 リュールジスと別れた艦長はすぐにブリッジへと姿を現し各員に指示を飛ばしていく。

「9時方向にアンダーズ補足! タイプは・・・プラント型!」

「ならば、本体からの距離を全速力で離せ! 分離してくるエア型に中心に迎撃することだけを考えろ! 搭乗しているリベリィは?」

「あと3分で出撃可能と報告有り、本体撃破は任せろとの伝令!」

「よし、それならば我々は現状を維持。絶対にこちら取り付かせるな!!」

「「「「「了解!!!!!」」」」」


 ブリッジでは次々に各位へと伝令が飛び交う。
 全ての軍人が一致団結しアンダーズに立ち向かっていた。

 一方その頃、ダードーとムイエヌの二人は中央デッキへと通じているハンガーへ集合されていた。
 そしてその陰にはリュールジスが顔を覗かせていた。

「貴様ら! 我々リベリィは何を倒す!?」

「「「「アンダーズです!!!!」」」」

「アンダーズを倒す事が出来るのは誰だ!?」

「「「「我々だけです!!!!」」」」

「我々は一体何者だ!!」

「「「「人類の希望! リベリィです!!!!」」」」

「ならば各員!!"ブレイカー"の最終チェック急げ!! 敵はすぐそこに来ているぞ!!」

「「「「イエス!!リッター!!!」」」」



 おう、おう威勢が良いとはまさにこの事だな。

 リベリィ。

 なるほど、そうゆうことね。リベリィってのは対アンダーズ討伐組織ってところか。
 そうならそうと言えばいいのに。
 部下達に一喝入れて満足感に浸ってるムカつく面した顔長ポニーテールの男に感謝感激だ。

 そして・・・。


「あれが・・・ブレイカー」


 見るのは初めて。正確にはしっかりとした物を見るのが初めてと言った方がいいか。
 今は陸艦に固定接続されている台座に設置されているが、リベリィの連中は次々とブレイカーをよっかかるようにして腰部に装着していっている。
 つまりあれが話しに聞く魔力増幅具現装置。特殊魔鋼石で作られた対アンダーズの切り札。

 砕鋼器具「ブレイカー」


「申し上げますリッター!!」

「・・・なんだユース・ダードー」


 なんだトラブルか?
 そこにはダードーとムイエヌの二人がリッターと呼ばれる上官?上司?まあなんでもいい。詰め寄っている光景だった。


「僕達二人のブレイカーは」

「乗艦した時に、間違いなく設置したのですが!」

「何だと!! 貴様らそれでもリベリィの一員か! この事は学導院に報告するからな! 覚悟しておけ!」


 なるほどなるほど。
 リッターとユース。つまりは階級みたいな物か。
 ダードーとムイエヌがユースで下、リッターが上。そしてリッターからハラスメントを受けている、という構図か。
 この艦全体が非常事態ってのによくやるよな。いや元々先にやっておいて艦が到着した時に言うつもりだったのかな?「ブレイカーを無くす奴など前代未聞だぁー!」てな具合に。


「ぐぅぅ・・・!」

「なんだその目はユース・ムイエヌ! 今は貴様らに構っている暇はないのがわからなぬか!! どうしてもと言うならば・・・」

 リッターが指を指した。
 それは誰も触れていない固定台座にあるブレイカーだった。

「貴様らどちらかに私の予備を貸してやろうじゃないか」

「そんな! 自分用に調整されてないブレイカーなんか使えるわけが!」

「ならば貴様らは黙ってお留守番でもしていることだな! 我々がアンダーズを撃退し栄光と名声を上げるのを、そこで見ているがいい!!」

 ついに準備が整ったのか、リッターとそれに続く恐らくユースの連中が白く光り輝く魔方陣を展開していく。
 同時に全員が一斉に手をかざす。

(へぇー、すげっ。手品みたいだな)

 かざした手には槍に似た杖、ストックと言ったところか。
 全員形と長さ、色もバラバラではあるが。あれが武器ってことか。
 どおりでここのハンガーによくわからんストックが多く置かれていたわけだ。

「退け、"ローユース"」

 リッターが睨み続けていたムイエヌを突き飛ばした。
 それを見たダードーがすぐさま受け止めるも二人一緒に地面へと転がってしまっていた。

「フハハハハッハ!!! 貴様らローユースにはその姿がお似合いだ!!」

「クククッ・・・リッター、そろそろ」

「わかっている! では出るぞ!」

 全員が転がる二人を背に上昇するハンガーデッキに飛び乗り出す。
 これから命を賭けた戦いがあるというのに、満面の笑みを浮かべ続けていた。


「我等が勝利をこの手に!」

「「「「我等が勝利をこの手に!!!!」」」」


 最後の決め台詞と共に次々と隊列を組んで艦から飛び下り行く。
 そしてその光景が見えたからか俺が居る場所でも聞こえるほどの歓声が上がっていた。


 リベリィが来た。これで安心だ。アンダーズを倒せ。人類の希望。


 凄いな。まさに待ち望んでいたヒーロー登場という感じだ。でもまあそれもそうか。
 ここ数年旅を続けてきたからこそわかる。

 アンダーズの脅威。震えて自らの死を待つしか出来ない恐怖。
 多くの者達が戦いを挑んでは敗れ去り還らぬ者が後を絶たない世界で唯一アンダーズに戦果を挙げたとされるリベリィ。

 それが今、目の前の敵へ向けて果敢に挑んでいくのだから、拍手喝采も止む無しか。


「くぅぅ・・・!」

「待てムイエヌ!! 自殺行為だ!」


 リッターに言われた言葉を実行しようと、ムイエヌは予備と言われるブレイカーへと歩み寄る。
 当然のようにダードーはそれを止める。
 気持ちはわかる、けれどここで命を落とすようなことになればそれこそ自分達の存在意義が無くなる。
 こんなくだらない事で、希少とされる魔力を持つ人間を失ってはいけない。

 二人の背中からはそんな言葉が聞こえてくるようだ。


ガチャッ・・・。


「ん?」

 少し身体を動かしたら何か足元に触れた。
 目を凝らして見ると、俺がさっきまで見ていたであろう物が恐らく二つ。

 んーー・・・聞いてみるに限るな。


「おーーい、二人とも~」


 俺の声に驚いたのか二人は一斉にこちらに振り返った。
 そして俺の顔を見るや目を見開き驚いていた。
 そうか、やっぱり俺の居た場所に二人のブレイカーが隠されていたわけか。
 う~ん、非常に良い事をした気分だ。

 けど、なんか空気が変だな。


「あれ、これ二人の・・だよね・・?」


 俺の言葉に反応が遅れたのか、二人はゆっくりと頷いた。

 ん? え? 何?

 オレナンカヤッチャイマシター!!?!??




「いや・・・その、なんで持てるんですか。リュールジスさん、しかも二つも」



「・・・・・・思ったよりカルイナァ~~・・ビックリダナァー」







―――   ―――   ―――





 陸艦から出撃したリベリィ小隊は目掛けて駆け抜けていく。
 両脇から伸びている装置が装着者に浮遊能力を与えていた。空を飛べるわけではいが、地を猛スピードで駆ける。

 小隊は隊列を崩さないようにアンダーズの群れへと接近していった。


「アンダーズ視認、報告通り。プラント型ですよ~リッター」

「よーし、本体は私がやろう、それまでみなはスコア稼ぎに勤しんでくれて構わん」

「へへへ、ありがたいですリッター」


 悠長な会話が小隊の中で飛び交っている。そんな時アンダーズは接近に気が付きすぐさま正体へ目掛けての攻撃が始まった。


「各員散開! バリア展開しつつ各個撃破に専念!!」

「「「イエス、リッター!」」」


 小隊が次々とエア型と呼ばれる小型のアンダーズを撃墜していく。
 握りしめているストックから光り輝く光弾を自分達よりも上に浮遊しているアンダーズ目掛けて撃ち込んでいく。


「純然な光源 ライトレイシューター!!」


 先行するリッターがストックを高く掲げると他の者達とは格段に大きな光弾が姿を現す。
 そしてストックを振るい膨れ上がった大光弾をアンダーズの群れ目掛けて放った。

「「「「おぉぉ!!!」」」」

 その場に居た者全員が放たれた大光弾に目を奪われていた。
 光弾は次々と触れるアンダーズを全て消滅させていった。


「流石です! 我々では到底真似出来ない魔術を軽々と!」

「フフフ、各員遅れを取るなよ! 私が全て倒してしまうぞー!」


 再びリッターは同じ術式を展開した。
 それがきっかけか、小隊の士気が上がったのか各員も負けじとエア型を撃墜していった。

 小隊とプラント型、このアンダーズの本体との距離が迫っていた。








「凄いもんだね~」

 これがブレイカーの力、リベリィの戦いってやつですか。
 誰がどう見てもしっかりとした戦いになっている。一方的な殺戮が起きているようには見えないな。


「って!! 危ないですよ!!」

「良いからあんたはさっさと艦内に戻れよ!!」


 陸艦のメインデッキに座り込み、遠くの光景を眺めていると下にいる二人に注意を受ける。
 二人も今すぐに出撃してあの中に身を投じたい気持ちは山々のようだが。どうやらブレイカーには充電、魔力供給が必要らしい。
 あの固定台座は艦に搭載されている膨大な魔力と電力をブレイカーへと分け与えていた物らしい。
 つまりはこの陸艦も殆ど魔力で動いてるってわけだ。


「というか、お前等もそこで突っ立てるくらいなら見ておいた方がいいんじゃないのか~~」

「あ・・・た、確かに」

「正論言われた、辛」


 二人はすぐさま俺が居るメインデッキへと走って向かった。
 今起きている状況をしっかり見ておくのは何事も大事だ。
 それが戦い、戦況なら尚更だ。充電時間とやらは知らんけど。


「それにしても・・・」


 立ち上がり改めてアンダーズの方向へ目線向ける。
 違和感というか。嫌な空気だな。

 してやられ過ぎ?
 言葉に出来ないな。

「はぁ・・はぁ・・戦況は!?」

「ご覧の通り」

 息を上げている二人。めっちゃ凄い速度で来たんだな。勉強熱心という言葉を送りたいな。


「プラネット型・・・思ったより遠いですね」

「なぁなぁームー」

「ムー・・・って僕!?」


 そんな驚くことか?
 まあいいや。


「アンダーズってさ、コアを破壊すれば消える。間違いないよな?」

「何をこんな時に」

「真面目に聞いてる」


 一瞬俺の声色に驚きながらもムーは少し考え込む。


「異例は無い、あれば僕等リベリィ全員に報告が上がるはず」

「そっかサンキュー、じゃあさダッド。アンダーズが複数出る事例はあるか?」

「それは当然ありますよ、ってダッドって自分の事?」


 ダッドは俺の質問に素直に応えてくれた。
 俺は唇に手を当てる。そしてムーもまた考えこんでいた。

 俺達二人の空気で感付いたのかダッドは質問の意味を理解し始めた。


「え・・・まさか!」

「このキナ臭い感じ、嫌な空気。考えられるのは・・・」

「っ!!」

 ムーが一人甲板を走る。
 向かった先は何かの装置の前だった。そこでムーには似合わない大声を発していた。


「艦長!! 全速力で右舷へ逃げて下さい!」

「何!? 君は確か・・・」

「急いで! 早くしないと・・・!」


 ムーと俺が考え付いた事が現実となる瞬間だった。
 大きく地面が揺れ動いた。

 陸艦と今も戦闘が行われている地点の丁度・・・間にそれは現れた。



「2体目の・・・アンダーズだと・・・」














「リッター!!!!」

「何だ!?」

「アンダーズが・・・!」

「何!? 報告は正確に言わん・・・か」


 隊員の言葉にリッターは振り向き、表情を一変させた。


キィィイィイーンッ!!!



 アンダーズの攻撃。
 赤黒い光りのビームが小隊目掛けて放たれた。


「う・・うああぁああああああ!!!!!」



 一人。


 一人のリベリィが・・・死んだ。
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