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「素晴らしいお庭ですねぇ、旦那様もエスコートしてくださって嬉しかったですわ。」

「あれはエスコートではないっ!腕を掴んでいないと、お前が壁を登ろうとするからだっ!」

「うふふ。」

2人は本邸の庭園を散策し終えて、そのまま庭でお茶をしている。

「(今日を乗り越えれば、もう妻と顔を合わせなくてすむ…。)」

「旦那様。」

私は旦那様の瞳をじっとみつめた。

「なんだ?」

それでも、じっと瞳をみつめる。

「な、なんなんだっ。」

視線を逸らす旦那様。困っているようですわ。でもね、私も困っているのです。話すことが無いのです。

壁登りの一芸を封じられては、お手上げですわ。そのうえ、旦那様から、はしたない等のお叱りを受けたのですが、今になって幼き日の母の叱咤を思い出し、急に気持ちが沈んできました。とてもお喋りする気分にはなれません。

「(この熱視線はなんだ…!潤んだ瞳で、なぜみつめてくるんだ…!どんどん瞳が潤んで、今にも涙が溢れてしましそうじゃないか…!)」

会話もなく、ただみつめ合う2人。そしてお茶の時間は終わった。

「(もしや、俺が明日から1週間騎士団の仕事で帰れない事を心配しているのか?涙を流させる理由が他に思い当たらないしな。戦闘があるわけではないので、比較的安全なのだが…。)」

「(気持ちを切り替えて、離れで甘いものをいただこうかしら。キッチンもついているし、自分で作るのもいいわね。どちらにしようかしら。)」

席を立ち、スカートを広げ優がなカーテシーをして、離れへと戻ろうとすると、声をかけられた。

「おい、俺が明日から1週間留守にするのは、命の危険があるわけではない。いや、騎士である以上危険はつきものなのだが、その、とにかく安心してほしい。」

「(旦那様は、1週間いないの?そういえば入籍直後にごめんねって結婚前に説明をうけてた気がするわ。いっぱいぐーたらしようかしら。どこかに散策に行くのも良いわね。)」

私は落ち込んでいた気持ちが、嘘みたいに、高揚感へと変わっていった。
感情の変化は、表情にもあらわれて、頬を桃色に染めて、にっこり微笑んだ。

「(かっ、かわ…!なぜだ、虫除けだと、ぞんざいに扱っている俺を、こんなにも心配してくれるのか…?壁を登ろうとするおかしな女だが…いや、わざと足を出して誘っていたのか…?俺に愛されたくて…?俺への好意がなければ、あんな表情はしないはずだ…。)」

意気揚々と帰る私の背中を、旦那様が見つめていることを、私は気がつきませんでした。
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