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しおりを挟む屋敷に向かう馬車でも、一悶着あった。
頑なに別々の馬車に乗ろうとする旦那様。
「だから、結婚の条件として、馬車の同乗はしないと記載があっただろう!お前は向こうの馬車に乗れ!」
「何事にも理由があると思うのです。何故、別々に乗るか、他の条件も、何故そうする必要があるのかという事を教えてください。理由があればストンと理解できるのです。」
「お前との結婚はただの虫除けで、お前の事など好きでも何でもない…。」
旦那様が言い終わる前に、強めに言い返した。
「旦那様!馬車の同乗など、好き嫌いに関わらず、する事ですよ。でなければ乗合馬車はどうするのです?1組ずつしか乗せられませんよ?そもそも!旦那様は体調を崩していらっしゃいますよね!そんな状態で1人で馬車に乗って、頭をぶつけたり椅子から落ちたらどうするのですか?今は緊急事態です!旦那様に触れられるのは、妻の私だけなのですから、さあ乗ってください!さあ、さあ!」
旦那様を、馬車にぐいぐい押し込んで、無理矢理同乗した。
「じゃあせめて!せめてベールを被ってくれえ!」
署名の時にめくったベールは、邪魔だから被らずに、もうずっと手に持っていた。
「…わかりました。」
ふう、と小さく息を吐き、旦那様の要望に応えるべく、馬車の座席に腰掛けてから、ベールを顔にかからないように頭に乗せた。
「…!顔が出てるじゃないか!」
はて?ベールを被っているのに、なんの問題があるのだろう、と頭をコテンと倒して考えてみた。
「旦那様は、私に顔を隠して欲しいのですか?」
「そうだ!私がいる時は常にベールを被れと結婚の条件を出していただろう!書類を少しも読んでいないのか?!」
一応全部目は通してるもん。パラパラって。
あえてスルーをして旦那様の目を見つめて話す。
「こちらのベール、顔を覆うには生地が厚く、息苦しいのです。息苦しさから逃れるために、衣類を緩めてみようかしら。」
そう言いながら、肩を出し胸元の布を少し下げた。
「呼吸も荒くなってしまい、なんだか恥ずかしいですわ。ああ、今日の初夜に向けたご指導なのでしょうか?旦那様は、私の乱れた姿が見たいのですね?旦那様の道中を楽しませるのも妻の役目、私が肌を晒して、乱れる姿を、どうぞ楽しんでくださいませ。」
そう言って、そっとベールを顔にかけて、胸元の服を、全部下に下ろさんばかりに両手で掴んだところで旦那様は泣き叫んだ。
「もういい!!服を正せ!!」
とうに走り出していた馬車の中で、逃げ場のない旦那様は、両手で顔を覆って、しくしく泣いていた。
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