1日休んだだけなのに

第５章 掃除をしにきただけなのに(新井編)

5-2 保健室の罠

「あとは優子さんの腕次第です。怒ることなく冷静に進めなさい。きっとできますよ」

    加奈子先生の言葉を思い出しながら、新井はその日を迎えた。

　新井がこれからやることを１回シミュレーションし終えた頃、小島はぶつぶつ言いながら保健室に入って来た。

「ふうー、図書委員のおれが、どうしてシャワー室の掃除なんてしなくちゃいけないんだ？」

　小島は不満を漏らしながらも、入り口付近にカバンを置き、シャワー室に向かった。

　先に居た新井に対しては、無視を決め込んでいるようだった。小島は保健委員の手伝いに駆り出されたことに不満を持っている上に、そのリーダー的存在である新井を嫌悪していたのだ。

　シャワー室は増築して造られたので、保健室の一番奥という不便な場所にあり、段差もあった。

　そのためほとんど使用されておらず、生徒たちには、シャワー室の存在をあまり知られていなかった。

　もちろん小島も、加奈子先生に掃除を命じられるまでは、知らない場所だった。

「本当にあったよ。シャワー室」

　明らかに自分を無視している小島に、新井は少し威圧的に声をかけた。

「わたしがやり方教えるから、言われた通りにやりなさいよ」

「へえへえ」

　小島は腕をまくりながら、だるそうに返事をした。

「まず裸足になって！…奥からやるから、入り口にかけてあるブラシを持って入って」

　シャワー室はホテルのユニットバスくらいの大きさで、入ってすぐに脱衣所があり、奥にシャワーがあった。

　その間にはカーテンレールがあるが、ほとんど使わないのでカーテンは外されてあった。

　小島が脱衣所を通り、シャワーの前に立ったのを見計らって、新井も脱衣所に入った。

「最初にちょっとシャワーで周りを濡らすんだけど……」

　言いながら、新井はシャワーの蛇口を持った。

「あれ？硬くて動かない。いつもスッと動くのに」

「しょうがないなあ、おれがやってやるよ」

　予想通りの動きだった。おれに任せろというふうに小島はシャワーの真下にきた。

　新井はそのタイミングで、蛇口を最大までひねった。

「うわあ、何すんだよ」

　シャワーの水が小島の上半身を直撃した。

「あっ！大変！シャワーの向き変えるね」

　慌てたふりをして、シャワーヘッドを持った。

「うわあ、水圧すごいから……」

　今度は、ヘッドをコントロールできないように見せかけて、下半身に水を浴びせた。

「おまえ、何すんだよ！　普通、蛇口止めるだろ！」

「あ！そうか」

　小島は、さも慌てているというふうに、蛇口を止めた。

「ごめん、びちゃびちゃにしちゃったね」

「今から制服取ってきてあげるから。着替えて。…掃除は制服でもできるでしょ」

　新井はシャワー室から出てドアを閉めた。

「それじゃあ2組に行ってくるね」

　ここまで作戦通りに進み、新井はほっとした。

(後は、お仕置きタイム)