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3章 転生者
第30話 ……パリンッ。
しおりを挟む嫌というほどルドの気持ちを理解させられ、ヒロインに対する漠然とした不安が薄れた。
そんな日から1週間ほどして……。
今日は学園の生徒が魔法騎士団に見学に来る日だ。
そして共に、ヒロインの出会いイベントでもある。
だが、私はいまいちヒロインが誰と出会うイベントなのかわかっていない。
生徒達は団体行動をするらしいが、エスティとリックは抜け出して私達がいる方に来るらしい。
そんな自由行動をしていいのか?と思ったが、エスティ曰く、途中から行きたい部隊の方に行っていいので、行きたい部隊ごとに分かれて団体行動するらしい。
特別部隊は一般にはあまり知られていなくて、希望する人がいなかった為、2人で行動することになったらしい。
エスティとリックは先生からそんな部隊があるのかと聞かれたらしいが、王太子であるリックが言うのだから、ということで信じてもらえたらしい。
……それは、側から見たら2人は婚約する予定で、2人で行動したいからそんなことを言い出したと思われてしまうのではないだろうか。
と言ったところ、全然好みじゃないから無理だと言っていた。
エスティ、本人がいる前でそれは酷くないだろうか。
まぁ、リックは爆笑していたからいいが。
サフィーと同じこと言ってるって笑ってたな。
確かに言った覚えはあるが、笑い過ぎじゃないだろうか。
そんなことを思い出していると、各部隊に分かれる時間なったようで、エスティとリックがやって来た。
この1週間、エスティから乙女ゲームのことを聞く時間がなくて、ヒロインと誰が出会うイベントなのか分かっていない。
「エスティ!今日のイベントってヒロインは誰と出会うの?」
「サフィー、ごめんなさい。さっき思い出したのだけど、出会いイベントはもう既に全て終わっていたの。今日のイベントは仲を深めるためのイベントよ」
「そうなの?誰と仲を深めるのか覚えてる?」
「確か…魔法騎士見習いかしら?実際に騎士と剣の打ち合いをして、カッコイイところを見せるっていうシチュエーションだった気がするわ」
「そう……ならこちらの方には来ないかしら?」
「絶対とは言い切れないわよ?」
「そうよね……遭遇しないことを祈るわ」
騎士と打ち合いをするなら訓練場の方に行くだろうし、攻略対象がそっちに行けば、ヒロインも同じ場所に行くはず……。
と思っていたが、予想外のことが起こってしまった……。
魔法騎士団の建物の、訓練場とは真逆の位置に、木が生えて所々に休憩するためのベンチが置かれている林がある。
普段そこは、昼食を食べる人がいたり、魔法騎士団で働く者のちょっとした気分転換に使われている。
その場所は特別部隊の執務室からよく見えた。
何故その話をしているのかというと、ルドがそこにいるからだ。
さらにヒロインであるリーフェもそこにいた。
何故…?
なんで…2人が一緒にいるの……?
お昼前になり……。
ルドは訓練があると言って特殊部隊の執務室から出たが、執務室に戻るにあたり、出来るだけリーフェに会わないようにと遠回りして帰って来ようとしたが、その努力も無駄に終わってしまったようだ。
だが、フィアはリーフェとルドが一緒にいるということに動揺し過ぎて、ルドが避けようとしていたが避けられなかったということに気づくことができない。
その動揺と衝撃、嫉妬で曇りきった目では、その場面が、まるで隠れて密会しているようにしか見えない。
また、番であるルドが心底リーフェを避けたがっていた、鬱陶しいと感じていることが、ありありとフィアに伝わっているはずなのに、その場面を見てしまった衝撃が強すぎて、他のことを考えることができない。
ルドが…ルドがリーフェのことを好きになってしまった?
ヒロインだから?
強制力……?
どうして……どうして……ッ?
ミシミシミシッ。
思い込みとは、時に残酷である。
一度考えたことは消えてくれない。
その無限ループに嵌まってしまったフィアは、ただでさえ前世で傷ついていた魂に、大きな亀裂をいれてしまう。
……まだ転生して13年。
本来であれば、その世界の魂は同じ世界で転生し続ける。
そうすると、たとえ前世の記憶を持っていようとも、転生した時点で魂がこの世界に馴染んでいる。
だが、手違いにより別の世界へと転生してしまったフィアは、魂自体に数多くの傷を抱えていた。
その影響か、魂がこの世界に馴染むのに時間がかかっていた。
前世の記憶を持つ者は少ない。
だが、いないわけではない。
同じ世界で生きてきた記憶を持つ者は、ごく少数だが、いるにはいる。
だが、転生者の、異世界の記憶がある者はいないに等しい。
なぜなら、魂は基本、同じ世界で転生し続けるからだ。
手違いで転生した魂は、違う世界で転生した分だけ魂に傷を受ける。
原因としては、その世界の魂たちに受けいられないため、過酷な環境で生きる可能性が高いからだ。
転生するごとに傷を受けた魂は、回復するのにも時間がかかる。
分かっているだけで、エスティは3回、フィアは10回ほど違う世界で転生し続けていた。
エスティはこの世界に転生し、生活するだけで、ある程度は回復し、魂がこの世界に馴染んだが、フィアは傷が多過ぎたため、回復が遅い。
運命の番に出会えたため、普通よりは回復が早いが、それでも魂が馴染むにはいたっていない。
ルドは知っていて、フィアには伝えていなかった。
フィアの心、魂に、思い出すことで傷を深くしないために……。
……パリンッ。
ルドが愛してくれなくなったら…私は……。
今度こそ……消滅してしまう。
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