私と運命の番との物語

星屑

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3章 転生者

第26話 転生者

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……あれから半年が経ち、私は13歳になった。

アレックスとシャルは無事につがい契約をすることができ、約束していた2か月で戻ってきた。

エドワードには相変わらず運命のつがいは現れないが、毎日生き生きと過ごしている。

私とルドは変わらずで、半年前に考えていた業務の効率化の基盤は着々と進んでいる。

13歳、というと学園に通う年だが、私は半年前に決めていたように通わず、ルドの母に教師を務めてもらっている。

特別部隊の業務と並行して行わなければならないため、ルドの母に特別部隊の所まで来てもらい、様々なことを教えてもらっている。

半年も経てば特別部隊とマナーレッスンや教養の両立に慣れてきた。

と言っても人生2周目。
さらにこの身体はスペックが高いので、あっという間にマナーレッスンや教養が終わった。
今では流行を知ったりマナーや教養の復習のために、週に1回程度ルドの母とお茶会をしている。

そうして充実した日々を過ごしている中、今日はルドの母と庭園でお茶会をし、今は特別部隊の執務室へと戻っている最中である。


すると突然、人を叩くような音が聞こえた。


………パァンッ!


割と近くで聞こえたため、急いで向かってみると……。



「お前はいつもそうやってグチグチと!
俺様に向かって口答えするな!女は黙って言うことを聞いていればいいんだよ!」



聞くに堪えない言葉が聞こえてきた。

ドスドスと足音を鳴らしながら、暴言を吐いていた者が立ち去った。

座り込んでしまっている少女が心配になり、声をかけることにした。



「……大丈夫ですか?」



バッと音がするくらい早い動作でこちらを振り向き、驚いた表情を浮かべるも、すぐに取り繕い、淑女らしい微笑みを浮かべる。



「お見苦しい所をお見せいたしましたわ」

「いいえ。それよりも、頬は大丈夫ですの?少し離れた所からも大きな音が聞こえましたわ」



そう言って少女の頬へ手をかざし、治療魔法を発動させる。



「ふふ。ありがとうございます。申し遅れましたわ。私はエスティアナ・ティナ・メラルダと申します」

「ふふ、このくらい大したことありませんわ。私はサーフィリア・ルナ・アイラックと申します。突然で申し訳ありませんが、貴女、転生者ですわよね?」



そう、エスティアナ・ティナ・メラルダという少女は、転生者である。

以前、精霊達に私の他にも転生者がいるのか確認したところ、今のところ1人だけいると聞いていた。

同じ転生者ならば仲良くできるかもしれないし、乙女ゲームのことも知っているかもしれないと思い、話してみたいと思っていたのだ。



「ふふ、驚かせてしまいましたわよね?
安心してくださいませ。私も転生者なのですわ。精霊達に聞いて、一度貴女と話してみたいと思っていましたの」

「まぁ……そうでしたのね。誰にも話したことがなかったものですから、驚きましたわ」



そう言って微笑んでくれた。

いきなりこんな事を言って嫌われていないかと、ビクビクしていたのだ。

嫌われていないようで安心した。

そして、本題を話す。



「“あなたに永遠の愛を誓う“という乙女ゲームを知っていますか?」

「えっ!もしかしてプレーしていましたの?」

「ええ。大まかなストーリーは分かるのですが、はっきりと思い出せなくなってきてしまっていて……。
この世界に馴染んでくると、段々前世の記憶を忘れてしまうようなのですわ」

「まぁ、そうですのね。私は前世の記憶を忘れてきたと感じることはありませんでしたわ。今でも結構ハッキリと覚えていますもの。
ただ……私が死んだ時は第2章までしか配信されていなかったものですから……3章がもし配信されていたら分かりませんわ」

「えっ!2章が配信されていましたの⁉︎私はその前に死んでしまっていたので……」



2章が配信されていたのは驚きだった。

それだけ人気だったということだろうか?



「それは……残念でしたわね……。
1章は王道、という感じでしたけれど、2章はまた違った面白さがありましたわ。
……嬉しいものですわね。またこうして乙女ゲームの話をすることができるなんて……」

「ふふ。私もですわ。
その……お友達に…なりたいと思っているのですけれど……お友達になっていただけませんか?」

「ええ!ぜひ!」

「それでは、私のことはサフィーと呼んでくださいませ」

「私のことはエスティと呼んでくださいませ。もっと砕けた話し方にいたしましょう?友達ですもの」

「ええ!これから仲良くしましょうね」



乙女ゲームの話で意気投合し、打ち解けることができた。

……彼女とは親友になれそうだ。



「エスティ、今の状況は乙女ゲームとは結構変わってきているわよね?」

「そうね。サフィーの外見が成長しているし、サフィーの婚約者も違うでしょう?
王太子が婚約者でないなら、王太子ルートではないのかしら……?
王太子の性格も違うわよね?
サフィーが何かしたの?」

「ええ、ルドは……私の婚約者は、運命のつがいよ。
王太子の性格は、元々あの性格だったみたい。……私が出会った時は今の性格だったもの」



これまでの経緯を順を追って全て話す。



「そうだったのね。まぁ、私も乙女ゲームの王太子は好きではなかったから別にいいのだけど。
そもそも私はもっと頼りになる人が好きなのよね。でも外見は綺麗系がいいわ。
細マッチョとか最高よね」



と、何故か好きなタイプの話なり、その後、前世の話もした。



「私は乙女ゲームでは悪役令嬢だったけれど、なるつもりはないし、そこまで酷い結末ではないから……。
それに比べて、サフィーの結末は酷いわ。
……回避ルートがないもの。
でも、今のところ強制力は働いてないわよね……なら、ヒロインをなんとかすれば大丈夫かもしれないわ。
私も一緒に考えるから、頑張りましょう?」

「ありがとう、エスティ」



そう言って微笑み合い、和やかな空気が流れる。



「そういえば……サフィーの婚約者が運命のつがいなら、乙女ゲームでは何故、邪竜である貴女の婚約者は貴女を殺したのかしら?」



エスティのその疑問にハッとさせられる。



「そうね……。乙女ゲームでも私とルドが運命のつがいなら、殺したりしないはずよね?」

「カイルラント侯爵が邪竜になった原因って覚えているかしら?
乙女ゲームでは描写されていなかったわよね?

いつの間にか邪竜がいて、討伐しなければいけなくなっていたわ……。
討伐しに行くのはサフィーが断罪された後だったはずよ。
ヒロインが攻略対象の好感度を上げて、討伐しに行くの。
その好感度を上げるイベントがいくつかあって、サフィーの断罪もそのうちの一つ。
王太子ルートにおいて、サフィーは断罪された後、王太子の命令によって邪竜の生贄にされてしまうわ。

ということは、サフィーが断罪される前には邪竜が存在していて、王太子は悪役令嬢サフィーが邪魔だから生贄にして消してしまおうと考えたのかしら。

これは私の予想だけれど、乙女ゲームでも貴女達が運命のつがいだったなら、カイルラント侯爵は悪役令嬢サフィーが運命のつがいだということに気づいていたけれど、悪役令嬢サフィーが王太子を好きなことに絶望したのかもしれないわ。

それによって邪竜になり、その後、悪役令嬢サフィーが生贄としてやってきてしまう。
自分のことが好きじゃないならいっそのこと殺してしまおうというヤンデレが発症してしまって、悪役令嬢サフィーを食べたのかもしれないわ。

それか、悪役令嬢サフィーが邪竜のところに行く前に王太子の手の者によって殺されてしまって、それをみて邪竜がさらに絶望して世界を滅ぼそうとしたのかもしれない。

私は後者の予想の方が当たっていると思うわ。

でもどの道、運命のつがいを失った竜は狂ってしまうわよね。

それで、ヒロインたちが邪竜を討伐できなければ、乙女ゲームでのこの世界は滅んでしまうのでしょうね。

乙女ゲームの真実はわからないけれど、今私達が生きている世界は、類似はしていても、同じ世界ではないわ。
だから、そこまで気にする必要はないと思うの。
事実、貴女達は婚約しているもの」

「そうね。私も“今“を考えて生きていこうと思うわ。
乙女ゲームの世界はこの世界の“もしも“の世界なのかもしれない。
でも今生きている世界の“もしも“を考えてもしょうがないもの。
この世界を全力で生きるわ!」



そう気持ちを新たにし、今後のことを考える。



「ねぇ、エスティ。貴女の家族はどうするの?私も協力するから、まずは貴女の問題をどうにかしましょう?」



先程聞いたエスティの話によれば、5歳の時に両親が死んでしまい、その後叔父がやってきたらしい。
公爵位が正式にエスティに移ったのにも関わらず、自分が公爵かのような振る舞いをしたという。

挙句には、領地運営もやり出したそうだ。

エスティが10歳になった時に、領地運営はエスティ自身がやり始めた為改善されたが、もう公爵代理がいらないというのに、育ててやった恩を返せと言って、いまだに屋敷に居座っているらしい。

それをどうにかして追い出さなければ、公爵家のお金をむしり取られるだけだ。

脅せば何とかなるだろうか……?

最悪そうしようと考えながら、これからどうするかをエスティと話し合った。






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