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2章 トラウマ
第18話 救出、そしてトラウマに… ※ルド視点
しおりを挟む……ドッカーン!!!
フィアの匂いがする部屋の窓から壁にかけて全てを壊す。
「フィア‼︎」
フィアを見つけた瞬間、その惨状を見て、一瞬我を忘れた。
そのため力加減を誤って、フィアの上に乗っていた男を殴り、吹き飛ばした。
……ドゴッ。
壁を突き破って隣の部屋まで吹き飛んだ。
一度殴ったことで、少し冷静になった。
……コイツはまだ殺さない。
死なせてなるものか!
死んだ方がマシだと思うくらい、痛めつけて後悔させてやる!
まずは屋敷の周りに張ってある結界を壊し、精霊達がこの屋敷に入って来れるようにする。
「……精霊。そいつを治療して、拘束しておいて」
『ええ~。フィアを傷付けたんだよ?拘束するだけ~?』
「そんなわけないだろう。そいつのことは後だ。フィアが優先」
『わかった~。じゃあ、それまで死なないようにして精霊界の地下牢に入れとく~』
「ああ、頼んだ」
急いでフィアの元へ戻り、改めて惨状を見ると、本当に酷いものだった。
フィアはベッドに大の字に鎖で繋がれていて、服ははだけているし、両頬は殴られたのか真っ赤になって腫れている。
口の中も切れているようで、口から血が垂れている。
……涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
まず初めに鎖を壊し、着ていたローブでフィアの体を包み込む。
「フィア、フィア、安心して。もう大丈夫だよ。怖かったね。俺がきたから安心して?」
「……ルド?」
「うん、そうだよ。怪我したところを治療したけど、どこか他に痛いところはない?」
「……うん、大丈夫。もう痛くない」
大丈夫だと言っているのに、瞳は全然俺を見ない。
……フィアの心が壊れてしまう。
その時は何故かそう思った。
その本能に従って必死にフィアと話していなければ、取り返しのつかないことになっていただろう。
疲れているから、怖い思いをしたからなどと思って、そっとしておかなくてよかった。
そんな事をしていたらフィアの心が壊れていた。
フィアの口調が前世のものに戻っている。
初めて会った日に前世の時の口調になったことがあるが、この2年一緒に過ごしてきて、日を追うごとに全く聞かなくなっていた。
初めの1年は、2人きりの時はたまに出ることがあったが、フィアがこの世界に馴染み始めてからは、出なくなっていた。
前世に囚われなくなって、年相応の幼さも出るようになっていた。
前世で死んだ時は大人だったと言っていたフィア。
このままだと自分の心が壊れてしまうから、自分の心を守る為に前世の人格が強く出ているのだろう。
だが、前世のフィアも深く傷付いている状態だ。
このままにしておくと余計心が壊れてしまう。
ギュッと少し強く抱きしめて。
精霊界にある家へと転移する。
「フィア、怖かったよね?辛かったよね?痛かったよね?今思ってることを俺に全部話して?」
「……」
「ここは俺たちの家だよ。ここには俺たちしかいない。もう大丈夫だよ」
「……ふぇ。……ごわがっだ…いだがっだよ…なんで…なんで…もっど…はやぐっ…グズッ…だずげで…くれながっ…だの?
スゥーハー……ずっと、ずっーとルドを心の中で呼んでたのに。
早く助けにきてって、ずっと心の中で言ってたのに」
「ごめん…ごめんね、フィア。守りきれてなくて。俺のせいだよ。本当に。フィアを守るって決めてたのに…」
「違う、違うの。こんなことが言いたかったわけじゃないの。助けてくれてありがとうって伝えたかったのに……。ルドにそんな顔して欲しくない…」
「うん、分かってるよ。大丈夫。大丈夫だから。ずっとそばにいる。…だから安心して?」
「うんっ……うん。……ありがとう。助けに来てくれてありがとう」
フィアはそう言った途端、安心したのかプツリと糸が切れるようにして意識を失った。
……安心したのかな。
少し落ち着いたみたいだけど、まだ安心することはできない。
きっと心に大きな傷を負っているから……。
今すぐ家に連れて帰りたいけど、それは厳しそうだ。
これから色々と後処理をしなければならないだろうし、今は気を失っているけど、眠りは浅いみたいだから、俺が離れた途端すぐに起きるだろう。
フィアが目を覚ました時に、すぐに駆けつけられない距離にいたら困る。
……もう二度と離れるつもりはない。
体の傷は全部治したから、自分の体を見てフラッシュバックを起こすことはないと思うけど……目が覚めたらパニックを起こすかもしれない。
「ああ、でも一度医者に見せた方が良いか。俺でも状態を確認することはできるけど、専門じゃないから気づけないこともあると思うし」
取り敢えず獣人の医者に見せようと思った。
屋敷が精霊の花園とシンフォル国にしか無い為、1年前にシンフォル国に建てた家へと転移して、獣人の医者に見せる。
ルドはシンフォル国で爵位を貰ったため、王都に屋敷を建てなければならなかった。
……正直王都に屋敷なんていらないと思っていた。
転移を使えば一瞬で精霊の花園にある家へと移動することができるからだ。
しかし、フィアは体は16歳だが、魂はこの世界に転生してきて12年しか経っていない。
転生者の魂が完全にこの世界に馴染むには、15年か16年かかってしまう…。
魂がこの世界に馴染まずに、転移魔法を1日に何回も使えば、魂と肉体が分かれて、最悪消滅してしまうだろう。
魂が消滅してしまえば、2度と転生することはできない。
そのリスクを考え、フィアが学園に通うようになった時に困らないようにと、1年前に建てた。
***
……シンフォル国にある屋敷へと転移してきて、フィアを寝室のベッドへ寝かせる。
ササッと手紙を書いて、精霊に医者の元へ届けて欲しいとお願いする。
医者が来るまでフィアの寝ているベッドに椅子を近づけ、手を握って時々頭を撫でながら見つめていた。
~1時間後~
医者が到着した。
「お待たせ致しました」
「いいや。来てくれてありがとう。早速だが、私の婚約者を診察して欲しい」
「はい」
医者がまず、手首の脈を測ろうと手を取った時、フィアが目覚めた。
パチッと目を開け、医者を認識した。
その時……。
「……ヒッ。いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
フィアが突然叫び出し、手足を振り回して暴れ始めた。
医者が咄嗟に抑えようとするが、余計に暴れ出してしまう。
「……嫌っ……やっ。来ないでッ……来ないで!こっちに来ないで‼︎」
ルドがパシッとフィアの手を取り、優しく頭を撫でる。
「フィア」
優しく声を掛けると、ピタッと動きを止め、ルドを見つめる。
「……ルド?」
「うん、ここにいるよ」
フィアがホッとした顔をする。
そして、また眠ってしまった。
「フィアに何が?」
「おそらく、重度のトラウマになってしまっています」
「トラウマ?」
「はい。私はその時の状況を見ていないので詳しくは分かりませんが、拒否反応を起こしています」
「ああ、なるほど」
「体に異常はありません。しかし、心に大きな傷を負っていると思われます。心の療養を一番にしなければならないでしょう」
医者はそう告げて帰っていった。
……トラウマ、拒否反応か。
番契約を結ぶと浮気ができない。
その理由は拒否反応が起こるからだ。
最後までスることはできなくはない。
だが、その過程で様々な拒否反応が起こる。
症状は人それぞれだが、体を弄られたり、キスをされたりすると不快感を感じたり、吐き気を感じる人もいる。
……吐いてしまう人もいるだろう。
それは人それぞれだ。
番契約とは魂を直接繋いでいるため、とても強い契約だ。
魂を繋ぐことによって寿命が同じになっている。
そのため、簡単に契約を破棄することはできない。
この契約は自分自身の意志でしか結ぶことができないのだ。誰かに無理矢理結ばされたりすることはあり得ない。
自分の心からの意志と相手の心からの意志が重なって初めて成立する契約。
それ以外で成立することはない。
とても強固で、一度結ばれてしまえば一生解除されることはないだろう。
運命の番
それは魂の片割れとも言われたり、半身とも言われたりする。
フェロモンの匂い、容姿、性格、その全てが惹かれ合う存在。
出会うことが出来れば心が満たされ、お互いに良い影響を与える。
簡単に言えば、幸せになれるということ。
そんな存在は誰でも求めるだろう。
だが、忘れてはいけない。
運命の番はなかなか出会うことができない。
世界中で一人を探し出さなければならない為、出会える可能性は奇跡に近く、出会うことが出来れば運命としか言えない確率。
若いうちに出会えれば良いが、結婚した後、子供を産んだ後など、既に家庭がある状態で出会えば、修羅場になることは間違いない。
恋人、婚約者がいる状態でも揉めるだろう。
よって、状況によっては必ずしも幸せになれるわけではないが、フリーの状態で出会えば幸せになることは間違いないということだ。
種族によっては運命の番としか結婚しないという者もいる。
大体が長寿な種族だが。
竜族もその一つだ。
ずっと、一生、運命の番を探し続けるのだ。
……それは執着も酷くなるだろう。
ーーーーーーー
・次の話から、また2人のイチャイチャが始まるはず……。
やっとシリアスが終わった……。
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