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1章 運命の出会い
第14話 発情期
しおりを挟む朝、目が覚めると……。
目の前に程よく引き締まった胸筋が見えた。
そして、何故だか体を動かすことができない。
どうやらルドに抱き締められた状態で寝ていたようだ。
だんだん頭が覚醒してくると、昨日のことを思い出してきてしまった。
はぁー、なんであんなことをルドにしてしまったのかしら……。
あ、あんな首筋を噛んで舐めるなんてこと……。
しかも、「ルドに私の匂いをつけなくちゃ」なんて言ったなんて……。
どうしてあんな恥ずかしいことをしてしまったのかしら…。
恥ずかし過ぎて死んでしまうわ……。
羞恥心からフィアは首まで真っ赤になっていた。
フィアは発情中の記憶を全て覚えていた。
これは個人によって違うのだが、人によっては発情中の記憶を覚えていない者もいる。
また、覚えていても部分的なものだったり、全て覚えていたりと、個人差がある。
これは種族は関係しておらず、個人個人で違う。
発情期中であっても常に発情しているわけではなく、波がある。だが、いつ発情するかは分からず、突然発情したり直前に察したりと、全く予想がつかない。
フィアは一人で悶々と考えていると……。
「ふふ」
「……ルド、いつから起きていたの?」
ルドの体が僅かに震えているので、もしや…と思い声を掛けて確認を取った。
「……クスクス、だってフィアが可愛い反応してるから……」
「……答えになっていないわ。いつから私を見ていたの?」
「フィアの顔が真っ赤になる少し前?」
「最初からじゃない……」
恥ずかし過ぎて、顔をルドの胸元にくっつけて隠す。
「そんなことをしても、ただ可愛いだけだよ?」
ルドが蕩けるような甘い声を出しながら、耳元で囁く。
余計顔が真っ赤になった気がするわ。
しばらく顔を上げられないじゃない。
抗議する意味も込めて、頭をグリグリとルドの胸元に押し付ける。
「ふふ。もう可愛いなぁ、フィアは」
その瞳に熱を宿しながら、ルドがまた蕩けるような甘い声を耳元で囁く。
「……っもう!わざとやっているでしょう⁉︎耳元で囁かないで!」
「フィアって耳が弱かったんだね……」
良いことを知った、とルドはそう言ってからフィアの耳をカプリと甘噛みして、チュッ、チュッとわざと音を立てながら耳にキスをした。
「……ひゃんッ……んぅ……もぅ…やッ」
「……甘い声出しちゃって。あー、もう可愛い過ぎ。……我慢できなくなりそう」
「もう!私をからかって遊ばないで!」
「目に涙をためながら上目遣いで睨んでも、逆効果だよ?ふふ、無意識でやってるんだからなー。本当、可愛い…」
ルドに可愛いと言われ、ズキンと胸が痛む。
……私はルドにそんなことを言ってもらえる資格なんてないのに。
ルドを心から信用していない私なんて……。
「……ッ。そんなに可愛いなんて言わないで……」
「フィア?」
……自然と涙が溢れてくる。
「ずっと、あなたに話さなくてはならないと思っていたの……。以前、私は前世で家族に愛されなかったって言ったでしょう?」
「うん、フィアと出会ってすぐの時だよね」
「そう、その時は風の精霊王の言葉で少し気持ちが楽になったの。
でも、怖いのよ…。私はルドのことが好きで、ルドが私のことが好きなのもちゃんと分かってるわ。
でも…その気持ちがいつ変わってしまうのか分からないし、私よりも魅力的な人なんて沢山いる…。
いつかルドの気持ちが変わってしまったら…って考えると怖いの。だから、本当に心を開く事ができてないのよ。心の底からあなたを信用することができていないわ…。
そんな私はあなたには相応しくない…。もう、苦しくて、苦しくて…。
いっそのこと、離れ「フィア、そんなことはさせないよ」」
ルドが言葉を重ねるように言ってきた。
見たことのない冷たい瞳で、
まるで、その先は言わせないと言っているかのように……。
「……え?」
「そんなことさせると思っていたの?俺がフィアを離すわけない。たとえそれがフィアの幸せだったとしても。俺と離れるなんて絶対に許さない」
「ルド……」
冷たい瞳から一転、優しく、諭すような眼差しで……。
「フィア、君は俺の唯一だ。フィアの代わりなんていないし、フィア以上に魅力的な人なんていないよ?
運命の番だから好きなんじゃない。きっかけはそれでも、俺はちゃんとフィアのことが好きになったんだよ?
…俺はもう何度もフィアに救われているんだ。初めて出会った時は、死にかけているところを救ってもらったし、精霊魔法が使えるようになったのもフィアのおかげだよ?
竜になれることも、両親に生まれて初めて会ったのも、全てフィアのおかげなんだ。」
ルドの言葉を聞いて、フィアの瞳から涙が次々と流れ落ちていく。
「フィアが俺のことを心から信用できていないなら、これから信用してもらえるように俺が頑張ればいいだけなんだよ?
俺達は出会ったばかりなんだから、少しずつお互いの事を知っていこう?」
「……うん」
「……もう泣かないで?そんなに泣いてたら目が溶けちゃうよ?」
甘く優しい声で頭を撫でながらルドが言う。
「ありがとう、ルド。また迷惑をかけるかもしれないけれど、これからの長い人生を貴方と歩んで行きたいと思ってるの。
貴方のことがもっと知りたいわ。改めて、これからよろしくね?」
「もちろんだよ。迷惑なんて言わずに、もっと甘えて?俺はこれからもっとフィアを甘やかすつもりだから」
「ふふ、ふぁ…はふ」
「ふふ、眠くなっちゃったかな?発情期中だしね。少し眠りな?」
「うん…どこにも行かないでね?」
ルドの服の裾をぎゅっと握って言う。
「うん、もちろん。ずっとここにいるよ。多分、次起きた時は発情で辛いと思うけどね」
ルドが苦笑しながら言う。
「……大丈夫よ。ルドとずっと一緒なら」
すぅっとそのまま意識が遠のいていく。
「最後にそんなこと言うなんて、反則過ぎでしょ……」
その後ルドが悶々としていたことを知る者は、誰一人いない……。
***
……案の定、ルドの言った通りになってしまった。
体が熱くて熱くてずっと疼いている。
「んぅぅ…ルド、あつい…たすけて…るどぉ」
自然と涙が溢れてきて、熱のせいか、舌ったらずになっている。
「……ちゅ……ちゅ…辛いよね…ずっとそばにいるから、安心して?」
顔中にキスをしながら左手の指を絡ませて、右手で頭を優しく撫でながら言う。
その仕草にキュンとしながらも熱が治らず、息が上がったままルドに擦り寄る。
「……ん…ん…ねぇ…ルド……もっと…もっと…ちょうだい……?」
「……ぐっ…可愛い過ぎ。でもまだキスまでだよ?……フィアにはまだ早いから。
ただでさえ急に体が成長したせいで負担が掛かってるのに、これ以上はフィアが危険だからね。
せめて肉体と精神年齢が一致してからにしよう?前世の記憶があるとはいえ、この世界に生まれてきてまだ10年しか経っていないんだから」
「わたし…ぜんせの…きおく…ある…から…ぜんぶ…わかって…るよ?」
「……うん。でも、俺はフィアのことを大切にしたいんだ」
「……ぜんせ…では…おとな…だった…から…だいじょうぶ…だよ?」
「前世では大人だったとしても、今世ではまだ10歳だよ?
肉体年齢に引きずられることもあるでしょう?それはまだ肉体と精神が一致してないってことなんだよ?
それに、フィアは思ってるよりも大人じゃないからね?」
「……ふぇ?」
「フィアは愛情に飢えているでしょう?小さい頃から愛されていなかったから……。だから、心が愛情を求め始めた時から止まっているんじゃないかな?」
……あぁ、なんて残酷な人。私が、今まで自覚していながらも、認めることを拒否し続けていたことを、認めさせようとするなんて。
ルドの言葉を聞いて、会話できるだけの理性が戻ってくる。
「ええ、そうね。私はただの寂しがり屋よ。いつ見捨てられてしまうのかと、ビクビクしているのよ。見捨てられてしまう前に、どうにかして貴方を繋ぎ止めようとしているのね……きっと。」
いつまでも誰にも愛されることのなかった前世の私……。
もう愛されることはないと思っていた。
今世は愛し愛されたいという前世の気持ちが、私を幼くしているのかもしれない……。
「あぁ、そんなに悲しそうな顔をしないで…フィア。俺は絶対にフィアを見捨てたりなんてしないよ?
むしろフィアが嫌になって逃げ出そうとしても、もう手放せないからね?
どんな方法を使ってでもフィアを引き止めるし、いっそのこと監禁しておけばいいのかな?
手足に鎖をつけて、首には首輪を。
もちろん、フィアの綺麗な肌に傷を付けないようにするから安心して?監禁しておけばフィアは俺以外の誰にも会わなくてすむし、目移りもしないでしょう?」
ルドが瞳の奥に仄暗い闇を抱えながら微笑む。
その瞳は絶対に逃がさないという強い意志を持ちながらも、どこか不安げだ。
……どうしてそんなに不安げなの?
もしかして、私がいつか逃げ出すと思ってるの?
……そんな事絶対ないのに。
「ルド?何がそんなに不安なの?」
「……え?」
「本気で監禁するとでも言えば、私が逃げ出すとでも思っているの?
私の愛を甘く見ないで!
一人で監禁されるのは嫌だけど、ルドがずっと一緒にいてくれるって言うんだったら、私は喜んで監禁されるわよ?」
「……」
「私はあなたを愛しているの。あなたにだったら、たとえどんなことをされてもいいと思ってるわ」
「……フィア」
「愛してるわ」
「俺も愛してるよ」
お互いに見つめ合い、今までで一番甘いキスをする。
と、同時に……。
「……んぁ。るどぉ、また…からだが…あつくなってきたぁ……」
「……んぅ。でもやっぱり暫くはキスで我慢しようね?」
「……んもー!いじわるー!」
………それから数年の間は、発情期中でもキス以上先へは進まないのであった。
少し先へ進むのは、フィアが14歳になった頃であろうか……。
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