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1章 運命の出会い
第5話 竜化
しおりを挟む『邪竜について聞いてもいいか?』
私たちが落ち着いた頃を見計らって、火の精霊王が話しかけてくる。
「ええ、いいわよ。確か邪竜は、竜族の血を強く受け継いだ者が、深い悲しみや絶望を感じて世界を滅ぼしてしまうの」
『だが、竜族の血を強く受け継いだとしてもそう簡単に世界は滅ぼせないぞ?』
「その人はね、先祖返りだったみたいなのよね」
『ヒロインとやらはどうなるんだ?』
「上手く行けばヒロインが攻略対象達と力を合わせて倒すの。でも、失敗すれば世界が滅びるわ」
『おぉ、マジか……』
みんなの息を呑む音が聞こえた。
『邪竜になるのが誰か、分からないのか?』
「……ごめんなさい。そこまでは公開されていなかったの」
『いいや、大丈夫だ』
「あ、でも境遇は書いてあったわ」
ふと、公開されていた情報を思い出した。
「確か、邪竜の姿が黒色の鱗に金眼で、人の姿になると黒髪に金眼でエルフの特徴の耳が尖っているらしいわ。えっと……エルフの里で育ったけど、純粋なエルフじゃないからという理由で迫害されていたよ…うな……」
黒髪に金眼……?
みんなしてルドを見る……。
「それって俺だよね?」
ですよねー。
そもそもこの世界で黒髪っていう時点で珍しいし、そこにエルフの特徴の耳が尖っていて金眼というと、ルドしかいない。
「えっ、ルドって竜化することができるの?」
『気にするところはそこなの⁉︎』
「やったこともないし、できたこともないよ」
『でも、当てはまるのはルドしかいないわよね…』
『そうだな……』
……じゃあ、これからルドが絶望するような何かが起こるということ?
だったら……
「私が守るわ!ルドを絶対に傷つけさせない!」
私がルドを守って絶望させなければいい。
「………うん…」
ルドは私の言葉に返事をするものの弱々しく、膝から崩れ落ちた。
「……ルド⁉︎」
『あぁ~言っちゃったわね』
水の精霊王が苦笑しながら言う。
「どういうことかしら?」
『男が好きな女から堂々と守る宣言をされるのは、結構クるものがあるわよね。支えるとか、助けになりたいとかならまだしも…』
……全然そんなこと考えていなかったわ。
『ルードは精霊魔法が使えないの』
「……え?でもエルフの特徴を持っているわよね?」
「……ああ。エルフは基本、人間より魔法が得意な者が多いんだけど、何故か俺は一切使うことができないんだ……」
ルドが泣きそうになりながら言う。
コンプレックスになっているみたいだ。
『守って貰っちゃえば?だってこのままだとサフィーの方が強くなるよ?年々魔力が強くなっていってるし』
……風の精霊王。
今のルドにそれを言ってはいけないわ。
風の精霊王の言葉を聞き、ルドが更にうなだれてしまった。
「あら?でもゲームでは邪竜の姿で魔法を使っていたわよ?だから魔法が使えるはずなのだけど…」
「うーん、でも使えないんだよね」
ルドが邪竜ならば、どういうことなのだろうと、試しにルドの状態を見てみることにした。
精霊魔法で見てみると……。
………封印されているわ。
結構精密にされている。
決してバレないように、そしてこの封印が解かれないように。
私の魔力量が桁外れに多いから見ることができるものの、普通の人が見てもわからないわ。
一体誰がこんなことをしたのかしら?
少し探ってみましょう。
ほんの少しだけ漂っている魔力に触れ、その記憶を覗き見る。
誰がこの封印をしたのか……。
……エルフだった。
この封印をしたのは、エルフの森の者全員のようだ。
私のルドになんてことを……。
フツフツと怒りが湧き上がり、殺気が漏れ出てしまった。
『ど、ど、ど、どうしたのじゃ?』
『急にどうしたの?サフィーちゃん』
精霊王達がビクッと反応し、何があったのか聞いてくる。
「腹立たしいことに、ルドに封印が施されてたわ。エルフの森の者達全員から。本当に許せない……」
怒りで目の前が真っ赤になり、どうやって報復してやろうかと、そのことばかり考えてしまい、周りの声が聞こえなくなってしまった。
するとルドがフィアを抱きしめ、
「フィア、落ち着いて?封印のことなんかどうでもいいよ。それよりもフィアがソイツらのことばかり考えているのが気に食わない。……俺のことだけ考えていて?……俺のことで頭いっぱいにしていて?」
ルドに抱きしめられたことで少し落ち着き、深呼吸をしてから話し始める。
「だって許せなかったんですもの。私のルドに対して封印するなんて。しかも、自分達が封印したからルドが魔法を使えなかったのに、わざわざそれをネタにしてルドを冷遇していたのでしょう?考えることがクズなのよ。どうせ純潔のエルフじゃないルドが、自分達より上にいくのが許せなかっただけだわ。醜い嫉妬よ」
「ふふ」
「もう!私がこんなに怒っているのに、ルドはなんでそんなに笑っているの?」
「愛されているなぁって。……嬉しいよ。フィアが俺のために怒ってくれているのは」
ルドの瞳が、本当に愛おしいというように蕩けている。
恥ずかしくなり、両膝をついてしゃがんでいるルドへ、ギュッと抱きつく。
「ふふ、フィア可愛い」
そんなことを言うので余計に恥ずかしくなり、グリグリとルドの胸元へ頭を擦り付ける。
ルドは内心、そんなことしても余計に可愛いだけなのに…と思いつつも、フィアが落ち着くように、トントンと背中を軽く叩いてあげる。
「……ふぅ。恥ずかしいわ。封印を早く解いてしまいましょう?」
『封印って解けるの?』
「ええ。今から解いてみるわ。ルド、正座して座って?」
「わかった」
両膝をついてしゃがんでいた体勢から、正座をしてもらう。
そうしてやっと目線が同じになる。
ガシッと肩を掴み、キスをした。
「んんッ⁉︎」
ルドが驚いて目を見開いた時に口を少し開いたので、遠慮せずに舌を突っ込んだ。
「ンッ……んぅ…ン……んぁ…ぁ…はぁ」
「んぅ……んッ……んぁ…ぁ…ぁ…はぁ」
時間が経つにつれルドが私の口の中を蹂躙してくる。
気持ち良すぎて足が震えてくる。
足がプルプルしていると、ルドが最後にジュッと私の舌を吸って終わりにした。
「ンンッ⁉︎……ぁ……はぁ…はぁ…」
名残惜しそうに離れ、呼吸を落ち着ける。
ルドが顔を真っ赤にさせてこちらを見つめてきた。
「ファーストキスがいきなりディープなのって……。急にどうしたの?」
「もう少しすればわかるわ」
「……え?」
すると……。
ピカーーー!
ルドが光り輝き、姿を変える。
竜だ。
光が収束し、落ち着くと……。
『ルードが竜になったわ!』
《フィア、どういうこと?》
念話になっている。
「キスした時に私の魔力をあげたでしょう?」
《つまり?》
「運命の番の魔力で、桁外れの魔力量がないと解けない封印になっていたのよ」
《………》
反応が何もない。
もしかして……。
「私とのキスが嫌だった?」
不安になり眉尻を下げて聞いてみる。
するとルドが元の姿に戻って、力強く抱きしめてきた。
「そんなことない!とても嬉しかったんだ!ただ…俺の封印を解くためにしょうがなくキスしたのかなって思って……」
ルドが不安そうにこちらを伺いながら言う。
……運命の番相手に、しょうがなくキスするなんてことあるわけないのに。
本当に愛しい人……。
ルドが愛しすぎて、フワッと花が綻ぶような笑みを浮かべる。
「……私はしたくてキスしたのよ。役得だと思ったわ。ルドが相手なのに嫌々キスすることなんてないわ」
「……嬉しいよ。俺もフィア相手に嫌々キスすることは無いからね?」
「ええ」
二人で見つめ合い、触れるだけのキスをする。
『仲睦まじいのはいいんだが、そろそろいいか?』
……二人だけの世界に入っていたようだ。
精霊王達が顔を真っ赤にさせながら言ってきた。
『本当にルードが竜になったな』
「ええ、とっても綺麗な漆黒の鱗に、金色に輝く瞳……。漆黒に金色の瞳…竜…?…あっ」
「フィア?」
『サフィーちゃん?』
「………」
思い出してしまった……。
どうして思い出してしまったの?
悪役令嬢の……ヒロインが王太子ルートを選んだときの死に方。
それは、邪竜の生贄になること。
断罪された後に王太子の命令によって邪竜の生贄にされるのだ。
……私はどうすればいいの?
やっと出会った運命の番なのに……。
これからずっと一緒にいる約束をしたのに……。
もし強制力が働いたら?
ルドになら殺されてもいいけど、そうしたらルドが狂ってしまうわ。
私の愛しい人をそんな風にしたくない……。
パニックになり震えがおさまらず、涙が溢れて視界がボヤけてくる。過呼吸になり、苦しくなって自分で自分を抱きしめていると…。
「落ち着いて、フィア」
ルドが耳元で囁き、ギューっと強く抱きしめてくれた。それでもなかなか落ち着くことができなくて、チュッ、チュッと至る所にキスをして、頭を撫でてくれた。
ルドがおでこをコツンと当てて、右手で頬を撫でてくる。
「フィア、どうしたの?俺に教えて?」
「説明したくないから、私の記憶を覗いて」
ルドは精霊魔法が使えるようになったから、記憶を覗くことができるはず……。
自分の口からこんなこと話したくない……。
運命の番に殺されるなんて…。
ルドが目を閉じて、精霊魔法を発動する。
記憶を見たのだろう、眉間に皺を寄せている。
「何で俺のフィアがこんな目に遭うわけ?原因になるもの全て潰してこようかな」
険しい顔をしながらルドが過激なことを言う。
なんだかそれに安心してしまって、ホッと息を吐いた。
「フィアは強制力?が起こることが不安なの?」
「ええ、私たちは運命の番でしょう?私が死んでしまったらルドが狂ってしまうもの。私はルドにだったら殺されてもいいけれど、ルドが苦しい思いをするのは嫌だわ」
「ふふ。フィアはもっと自分のことを考えた方がいいよ。でも嬉しいな。フィアが俺に殺されてもいいくらい愛してくれてるんだって知れて」
ルドはその瞳に仄暗い光を宿しながらも、蕩けるような瞳で私を見つめる。
あぁ、私はこんなにもルドに愛されている。
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