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第1章 出会い
8.フェロモン *途中で視点が変わります
しおりを挟む*結生視点
ぼんやりとした意識が段々浮上していくのが分かる。
薄暗い暗闇の、水底にあった意識が浮き上がり、側にある愛しい番の気配を感じた。
徐々に意識が覚醒していくのを感じながら、それでもまだ覚醒しきらない。
愛しい番の気配を感じ、番のフェロモンが自身を包み込んでいるのを感じながらも未だ覚醒にはいたらない。
ぬるま湯に浸かるような心地よさを感じていると、フッと番の気配が揺らぐ。
番は何を感じている?
どうして?なんで?
寂しいの?怒ってる?悲しんでいる?
教えて、教えて?貴方は今何を感じているの?
番の気配が少し遠くなった。
待って、どこに行くの?
離れないで……1人にしないで。
貴方が俺から離れたら、俺はもう、息をすることができないよ……。
待って、待って待って待って。
行かないで!
ブワリと自身がフェロモンを発しているのを感じている。
自分の運命を離さないように、逃さないように。
番だけにフェロモンを伸ばし、注ぎ、絡めとる。
離れることは許さない。
俺の側から離れないで……。
*翼視点
結生が気絶してから30分が経ち、未だ目覚めない結生に自身のフェロモンを纏わせながら、少しでも早く目覚めてほしいと願う。
番のフェロモンは落ち着くから、纏わせておけば早く目覚めるかもしれないよ?、と慎に教えられ、結生の手を握りながら、ひたすらに自身のフェロモンを結生に注ぎ込む。
あぁ、早く目覚めてほしい。
その綺麗な瞳で早く俺を見つめて?
焦燥感に苛まれながらも、結生が目覚めた時にどんなことを話さなければならないのかをまとめておかなければならない。
何度考えようとも己の未熟さを感じ、自身への怒りが溢れ出る。
一度大きく深呼吸をして落ち着き、Sランクアルファのコミュニティに連絡していないことを思い出した。
スマホのトークアプリを開き、Sランクアルファのグループチャットに文章を打ち込む。
『みなさんお久しぶりです。ご存知かと思いますが、運命の番が見つかりました』
事細かに全てのことが筒抜けているわけではないが、Sランクアルファの情報網は多岐に渡るので、番が発情期でなければほとんどのことを知っている。
当然緑王学園内でのことも知っているだろうという前提で打ち込んだ。
するとチャット内にポンポンと返信が返ってくる。
『おめでとう。相手もSランクだろう?Sランクアルファで運命が見つかるのは稀だからね。幸せになりなさい』
『翼おめでとう!なんかあったらすぐ連絡しろよ!お前は弟みたいなもんだからな!』
『おめでとうございます。これから何かと大変なことがあると思いますが、なんでも相談してくださいね。ここには協力してくれる方々が沢山いますから』
『翼おめでとう。幸せになりなさい』
トーク内では祝福の言葉が飛び交い、心が温かくなる。Sランクだからと孤独になりがちな時に何度も助けてくれていた存在。
小学生の時に自身のアルファ性とランクが分かり、通い始めた病院で出会った医者がSランクアルファだった。そこからSランクアルファのコミュニティを紹介してもらい、幾度となく助けて貰った。
4人ともアルファの先輩であり、兄であり父であり祖父のような存在。
『早速で申し訳ないのですが、皐月さん、相談したいことが沢山あるので、緑王学園に来ていただくことはできますか?』
医者でアルファとオメガの研究者である皐月に助けを求める。
『もちろんいいですよ。緑王学園なら15分で着きますね。莉月も連れて行きますね』
『皐月さんありがとう』
結生のことを相談しようと、皐月に助けを求める。
皐月なら何かを知っているかもしれない。
『翼!そういえば言い忘れてたんだけど、明日俺たちも緑王学園に行くから!』
『あぁ、第2性の授業だよね?』
『そうそう!孤月と行くから、その時に翼の運命紹介して!!』
『分かった。確か明日の1限にその授業だから、その後に俺の自由部屋で話そう』
明日の第2性の授業が楓の授業という思わぬネタバレをくらいつつ、その後に結生を紹介することが決まる。
『翼、来月のパーティでみんな集まるから、その時に翼の運命を紹介しなさい。楽しみにしているからね』
『はい、ありがとうございます』
来月のパーティでSランクアルファが集合か。
みんなに紹介できるのは嬉しい。
俺の家族のような人たちだ。
そこでトークアプリでの会話は終了し、皐月が到着するのを待つ。
待つ間にみんなにトークアプリでの内容を伝えつつ、常に結生の様子を見守る。
10分後、コンコンコンと保健室をノックする音が聞こえた。
「翼、久しぶりですね」
「皐月さん、来てくれてありがとう」
身長188センチで腰を抱いている方が御影 皐月さん。173センチで腰を抱かれている方が皐月さんの番の莉月さん。
2人とも医者で、蒼馬と慎の同級生で幼馴染。
皐月と莉月と話をしようと少し結生から離れた時。
ブワリと結生のフェロモンが溢れてきた。
「ゔぁっ」
「翼!」
とてつもない量のフェロモンに思わず膝をつく。
呼吸が整わない。理性を失いそうだ。
ラットを起こしたらまずい。
このままでは未だ目覚めない結生を襲ってしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「翼、ちょっと失礼しますよ」
グサっと太腿に何かを刺される。
すると徐々に落ち着き、未だ結生のフェロモンに興奮しているが、先程までの衝動は落ち着いてきた。
「皐月さん、ありがとう」
「いいえ。緊急抑制剤を打たせてもらいました。少しは落ち着きましたか?」
その言葉に頷きつつ、先程何が起こったのか理解できていない。
「皐月さん、今、何が…」
「翼が側を離れようとしたから、引き留めようとして無意識にフェロモンを出したんだよ。コントロールは完璧。量は半端なかったけど。抑制剤を打たなかったら今頃ラットを起こしてたよ」
俺の質問に答えてくれたのは莉月さん。
「やはりそうでしたか。莉月、結生くんを落ち着けるにはどうすればいい?」
「んー、キスして唾液でも流し込めばいいんじゃない?俺たちはそうだったじゃん?」
なかなかに衝撃的な発言をサラッとしながらも、対処法を教えてくれる。
「唾液……?」
「うん、正確には体液だけど。君たち今日出会ったんでしょ?初日から精液はちょっとね。
ヒートもアルファの精液を摂取すれば早く終わるから、それと同じようなイメージかな」
「…私たちの時も酷かったな」
「ね、俺たちの時は確か……俺が皐月にSランクに引き上げられて、番った後か……。発情期が終わりかけで、俺がリラックスしてる時に皐月が側を離れようとしたから、離れるな!って思って無意識にフェロモンをめちゃくちゃ浴びせてたよな」
「あれは本当に酷かったです…。ご飯を作ろうと思ってちょっと側を離れようとしたら、いきなり大量にフェロモンを浴びせられましたからね。お陰でラットを起こして莉月の発情期が1週間伸びました。番の全力のフェロモンには抗えませんよ」
過去を思い出しているのか苦笑いする。
「翼、番のフェロモンは理性が焼き切れますよ。実際、何度無茶させたことか……」
はぁ、とため息を吐きながら皐月が伝える。
「まぁ、まずは結生くんが目覚めて色々な話を聞かないとですが。翼、私たちは向こうにいるので、結生くんの処置は頼みましたよ」
「はい、皐月さん。
莉月さんもありがとうございます」
皐月や蒼馬、椿たちが側から離れたのを確認し、結生に改めて向き合う。
少し弱くなった結生のフェロモンを感じながら、莉月からもらったアドバイスを実践しようとしている。
……結生、早く目覚めてね。
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