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第1章 出会い
1.それは、運命。
しおりを挟む俺は、ずっと孤独だ。
両親が中学の時に事故で死んでから、さらに孤独になった気がする。
両親が生きていた頃も、俺がSランクオメガだからか……愛情は感じていたが、その瞳には恐怖が隠しきれていなかった。
Sランクのオメガは本当に希少で、実態が掴めていないからかもしれない。
両親が死んで、親戚の世話になることも考えたが……、ほとんど他人の家で世話になるのは抵抗があり、1人暮らしを始めた。
そして高校1年の時、合同授業で一緒だったアルファ3人組に発情促進剤を飲み物に入れられた。
幸い、飲んだ時に違和感を感じて周りを見た時に、ニヤニヤしているアルファ達を見つけて、何かを盛られたと悟った。
急いで保健室に駆け込み事情を話すと、保健室の先生が親身になってくれて、解決してくれた。
その人も同じオメガだったからかもしれない。
その後、発情促進剤を盛られたことがトラウマとなり、自分で料理した物以外食べることができなくなった。
あのアルファ達には一生会いたくないし、このままこの学校にいるのもな…と思い、転校を決意する。
転校先に選んだのは、エリートが集まる緑王学園。
成績で全てが決まり、難しいテストを受けて合格すれば転入できるということで、この学校に決めた。
頭の良いヤツらなら、そうそう変なことはされないだろうと思ったから、というのも選んだ理由ではある。
転入する時期は4月の新しい学期が始まる頃で、それまでは引越しの準備に備品の準備に追われた。
俺は結構頭が良かったらしく、学費免除もされるようだ。
親の事故の保険金や慰謝料で金があるとはいえ、免除されるのはありがたい。
…桜の咲いた4月、予想していなかった出会いがある。
***
その日は朝から少しドキドキしていた。
今までにない感覚に戸惑いつつも、緊張しているだけだと思っていた。
学校に行き、まずは職員室に行く。
担任だという先生に連れられ教室の前まで行くと、廊下で待つように言われた。
少しして、担任の先生に呼ばれて教室に入る。
……はじめは気が付かなかった。
入った時からいい匂いがするとは思っていたが、とにかく自己紹介をしなければと思い、そればかりに集中していた。
「はじめまして。⚪︎⚪︎高校から来ました。如月結生です。よろしくお願いします」
「如月は転入試験を満点で合格した成績優秀な生徒だ。みんな、仲良くしてあげてくれ。如月、窓際の後ろの席の空いているところに座ってくれ」
「はい」
とりあえず無難に自己紹介を終えることができた。
俺がオメガだということは、首につけているネックガードでわかるだろう。
人と目を合わせたくなくて、目線を下げて床を見ながら自分の席へ進む。
席について少しホッとしていると、いい匂いがハッキリ感じられるようになっていた。
何故、こんなに強く感じるのか。
フェロモンを感じる場所がすぐ近くだと思って、そっと隣を見ると……。
凝視されていた。
「え……」
「………」
フェロモンの発生源はこの人。
凄い見られてる。
でも……この人のフェロモン、いい匂い。
ん……もっと嗅ぎたい。
もっと近くに行きたい……けど、初対面だしな。
どうしよう……?
近くに行きたいけど行けない。
両手をギュッと握りしめながら視線をキョロキョロしていると、フッと目の前の人が笑った気がした。
愛おしいものでも見るかのように微笑みながら、両腕を広げる。
「ふふ、おいで?」
「………」
その声に誘われるようにして立ち上がり、ヨロヨロと歩きながら、その人の太腿をまたぎ、対面になるようにして腕の中におさまる。
はぁ、落ち着く。
いい匂い。
ギュッと抱きしめながら、首筋の匂いを嗅ぐ。
すると相手もギュッとしてくれる。
落ち着くいい匂いがして、ずっとここにいたいという気持ちになってくる。
そんなことは叶わないのに……。
「ん……いい匂い」
「はぁ……可愛い。出会った時からこれで、この先どうなるんだろ。ヤバいくらい好きになる未来しか見えねぇ」
「ん……ん?……ん」
匂いに蕩けすぎていまいち何を言っているのか分からないが、今はどうでもよく感じる。
「あ、そうだ。俺の名前は八神翼。翼って呼んで。
気づいているかは分からないけど、俺達は運命の番だから。
ごめんね?もう離してあげられない」
「ん……俺の名前は如月 結生。結生って呼んでいいよ。
やっぱ運命の番なんだ。今までこうなったこと無いから、薄々そうなんじゃないかなって思ってた。朝からずっとドキドキしてたし。
んー、よろしく?
俺のこと、1人にしないで……それが守れるなら番になってもいいよ」
サラッと番になってもいいよ発言をしながら、だんだん酩酊感にも似た、眠気のようなものが迫ってきていて、、意識を保つことができない。
プツリと意識が途絶えるのを感じながらも、翼がいれば大丈夫だろうという謎の安心感を感じ、久しぶりの安眠を迎えられそうな予感に身を任せる。
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