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第一章
海のさぶらい
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宵は、おぼろ月であった。
しんしんと夜の気配を降らせ、胸のすく涼々とした匂いを漂わせている。
打ち付ける波の音をも飲み込んでしまいそうな、空は黒い黒い闇ばかりをたたえている。
青白い砂を踏みしめ、歩くものが一人。
人であって人でなし、妖であってそうでなし。
曖昧な、ものに宿っていた魂と、今はそう言っておこう。
階級はそこそこだろうか。黒い詰め襟を催した硬い服に袖を通し、寒いのか腰の辺りまである士官マントで身を硬め、律儀に軍帽を目深に被っている。
丘へ向かって吹き付けるややあたりのきつい風に、ゆらゆらと一筋の白い煙がたなびき、あっと言うまに消えていく。
寂しげにうつむき、ただ、ひっそりと海沿いを歩いていた。
背中まであるだろう伸び放題の黒髪を僅かになびかせ、彼女はくさい煙を吐き捨てる。
小綺麗だが、動作は少々くたびれていた。
「・・・・・・さむい」
時期はと言えばもう夏も目の前で、そんな厚く着こなしていると言うのに彼女はそう言った。
天を仰げば、薄く衣を引き伸ばしたような、ぼんやりとした雲が流れていた。細かな星は見えない。ぼやけた月明かりだけが雲を反射し、白く輝かせている。
しんしんと夜の気配を降らせ、胸のすく涼々とした匂いを漂わせている。
打ち付ける波の音をも飲み込んでしまいそうな、空は黒い黒い闇ばかりをたたえている。
青白い砂を踏みしめ、歩くものが一人。
人であって人でなし、妖であってそうでなし。
曖昧な、ものに宿っていた魂と、今はそう言っておこう。
階級はそこそこだろうか。黒い詰め襟を催した硬い服に袖を通し、寒いのか腰の辺りまである士官マントで身を硬め、律儀に軍帽を目深に被っている。
丘へ向かって吹き付けるややあたりのきつい風に、ゆらゆらと一筋の白い煙がたなびき、あっと言うまに消えていく。
寂しげにうつむき、ただ、ひっそりと海沿いを歩いていた。
背中まであるだろう伸び放題の黒髪を僅かになびかせ、彼女はくさい煙を吐き捨てる。
小綺麗だが、動作は少々くたびれていた。
「・・・・・・さむい」
時期はと言えばもう夏も目の前で、そんな厚く着こなしていると言うのに彼女はそう言った。
天を仰げば、薄く衣を引き伸ばしたような、ぼんやりとした雲が流れていた。細かな星は見えない。ぼやけた月明かりだけが雲を反射し、白く輝かせている。
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