アリエルオートマタ

リゥル

文字の大きさ
上 下
3 / 17

第3話 戦場を駆ける少女3

しおりを挟む
「──さぁ皆の者、立ち上がれ!」

 部隊長の号令で、戦場に戻るため男達が立ち上がる。
 兵士の男だけではない、もちろん金属の手足を持つ彼女も共に……。

「傭兵……修理は終わったのだろ? さっさと前を歩け」
「……分かりました」

『──傭兵ではない』アリエルはその事について、この男に間違いを指摘した所で変わりはしないと理解した。

 重たい装備を抱え、否定的な意思も見せず。ただ淡々と、少女は部隊の最前線へと歩きだす。
 復旧したばかりの吊り橋を渡り、軍人と便利屋は死地へとおもむいた。



「……大丈夫です。前方には見当たりません」

 先程まで、化け物が蠢いていた広場には生き物は何も居ない。
 アリエルはハンドシグナルの後、銃を構え広場へと突入した。
 その後を、同じように銃を構えた兵士が、防衛網を築きながらも、一人、また一人と彼女の後を追う。

 そして、最後尾の部隊長も広場へとたどり着いた──。

「──な、なんだ、とんでもない化け物がいるではないか……」

 そんな部隊長から驚きの声があがり、目の前の状況に立ちすくむ兵士の隙間を掻き分けるよう、アリエルの隣に並ぶ。

 なんと広場の中心には、全長三メートル程の巨大な犬のような化け物が、その場で寝静まっていたのだ……。
 その化け物は今までの化け物とは違い、明確に、そしてハッキリと、生き物の形を模していた。

 頭が三つあることを除けば……だが。

「いえ、あれが貴方達の言うところの悪魔の石です。生き物ではありません」
「何を言って……あの化け物のどこが石なのだ!」

 その問いかけに対し、アリエルは相手に納得させるだけの回答を持ち合わせていない。
 ただ、機械である彼女の目だからこそ、見えている事もある。
 化け物の体には体温は無く、呼吸をしていない。
 心臓が胸を打つ音もなく、一切の生命活動がなされいなかった。

 そう──アリエルと同じように。

「くっ……嘘にしろ真実にしろ、どちらにしても寝ている今がチャンスか……。二列横隊にて、銃を構え!」

 兵士は前後二列に隊列を組み直し、銃を構える。そして──

「──撃ち方、始め!!」

 部隊長の号令と共に、兵士達の銃口から無数の弾薬が打ち出された。
 目の前の驚異に、余程恐れていたのだろう……兵士達は止めの号令が聞こえるまで、何発も、何十発も一心不乱に引き金を引いた。
 
 外れた弾丸は雪を巻き上げ、巨大な化け物姿は朧気おぼろげとしてしまう。

「撃ち方やめ!! どうだ、どれだけ大きかろうと、これだけの鉛玉を受ければ──なっ!?」

 誰もが予想だにしていなかった……。

 徐々に晴れる視界からは、血の一滴も流していない、目を覚まし、たたずむ化け物が姿を表したのだ。
 言葉を無くしたのは部隊長だけではない。その姿を見た兵士達も怯え、足はすくみ、目の前の絶望に、多くの者が冷静な判断を欠いてしまう……。
 そして隊列はチリジリとなり、逃げ出す者も現れた。

「ば、化け物だ!! ア゛アァァァ!?」

 一人の兵士が、叫び声をあげ尻餅をつく……巨大な化け物は大きな口を開け、その男めがけて走り出した。

「──銃弾を通さない体ですか。それなら、ここはどうでしょう?」

 アリエルは突如、臆する事なく化け物と男の間に割って入った。
 弾を込めた長銃を構え、銃口を大きく開かれた口の中へと向ける。

 彼女は引き金を引く指に力を込めた──砲身の先からは火花が散り、体を突き抜ける様に激しい銃声音が響く。
 そして、銃を構えていたアリエルの肩に、反動による鈍い痛みが加わった。

 化け物は、少女のすぐ目の前で膝をつき、雪の上へと倒れ込んだのだった……。

「どうやら、中の作りは丈夫では無かったようですね……」

 次弾を込めながらも、アリエルは横たわっている化け物に警戒を見せていた──。

「──し……死んだのか?」

 兵士を盾にしていたのだろう、いつの間にかアリエルの隣から姿を消していた部隊長が再び表れ、倒れている化け物に近づく。

「──不用意に近づかないでください!」
「がっ……!?」

 しかし、アリエルが止めるのは遅かった。

 化け物の頭のひとつは突如目を開き、大口を開け、一瞬の間に何かを引きちぎる鈍い音を上げた。
 部隊長は下半身だけをを残し、腰から上は化け物に食いちぎられ、命を消してしまったのだ。

 化け物の口からは、骨を砕き、肉を噛みきる咀嚼そしゃく音が響く……。

「くっ……間に合わなかった……」

 残された下半身からは、真っ赤な鮮血が華を咲かせ、白銀の雪を赤く染めていく。
 それは程なくして倒れ、同時に兵士達からは声にならない叫びが上がり、その場を再度恐怖が支配した。

 頭の一つを失った化け物は、二つの頭で雄叫びをあげる。
 その声を聞いた兵士の多くは、足をすくませた。

「──皆落ち着け、化け物がまた来るぞ!!」

 兵士の中から、聞きなれた声が聞こえた。
 アリエルに話しかけた男、ケビンがいち早く指示を出すものの、その場で失禁するものもいれば、背を向け雪の上を這うように、距離を取ろうとする者も……。

「彼の指示に従って──落ち着いてください! 死にたくなければ背を向けないで!」

 アリエルは声を上げ、自身を囮にすべく銃を盾に、化けの物の目の前のへと飛び出したのだが──しかし、質量が違いすぎた。

「──がっ!?」

 少女は自動四輪車にでも跳ねられたたかのように軽々と吹き飛ばされ、その身体は宙を舞うこととなった……。
 
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は全てを失った。だから私は奴らに復讐すると決めた!ー 陥落王国の第一王子は、死ぬ度に強くなる魔法で国を一人で滅ぼすらしい。 ー

如月りゅうか
ファンタジー
※基本毎日投稿。 1xxx年。 シエル王国とオーラ帝国による和平条約は決裂した。 オーラ帝国が裏切ったのだ。 一年にわたる戦争により、シエル王国は陥落。 オーラ帝国が勝利した形となる。 しかし口伝はオーラ帝国によって改変されていた。 それによると、裏切ったのは帝国ではなく、シエル王国となっているらしい。 それを率いたのが、エクセル第一王子と。 違う。私は、そんな事していない。 仲間も、親も、民草も、全てを殺されたエクセル。 彼は、王国の為に一人で復讐を誓い、そして滅ぼしていく。 これは、彼の復讐物語である。 短編、というか長編を予定していない作りです。完全見切り発車です。 大体一話数分で読み切れる簡易な内容になっています。 そのかわり一日の投稿は多めです。 反響があったら続編を執筆したいと思います。 あ、私の別作品も見てみてくださいね。 あっちは大丈夫ですが。 こちらの作品は、少し適当なところがあるかも知れません。 タイトルとか長くね?シナリオおかしくね?みたいな。 まぁ、それは風刺みたいなもんですが。 でもそこは……うん。 面白いから!!!みてねぇっ!!!!!!!

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨
ファンタジー
 その日、世界が終わった。  主人公である少年は、その日起きた突然の世界消失の中、唯一意識を保っている魂だった。  人が、大地が、空が、海が、宇宙が、空間が、すべて消えたその時、少年の存在が全てだった。  そして少年には分かった。世界が全て終わった今、自分が世界を創造する存在、創造主となることを。  そして少年は世界と、その世界を管理する神々を創造し、神々との絆を深めていく。そんな中、少年にはとある目的があった。  それは、何故世界が消滅し、自分が創造主に選ばれたのか?少年はそれを探るため、自分が造った世界へと足を踏み入れるのだが……。  何でも可能にしてしまう最強主人公の、世界創造ストーリーが始まる。  不可能無しの創造主人公、ここに創造!  ※主人公の名前をしばらくの間〝少年〟と表記しますが、途中で名前が付きますのでご安心ください。  毎日14時と19時に一話ずつ、計二話の投稿を予定しております。  本作品は元々小説家になろうで投稿しているものです。

Another Of Life~俺のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
超王道ダークファンタジー小説ここに始まる……。 地球で死んでオカマ女神のせいで新たなファンタジー世界に転生することが決まった主人公。 主人公には神様から安全で安心で幸せな人生が約束された……はずだった……。 一人の少年が人生をやり直すために、幸せになるために、努力していくファンタジー小説です。 これから起きる悲劇に彼はどう立ち向かうのか……。 彼は今回の人生でも悲しい未来しかないのか……。 生きる希望を捨てずに、強く生きていく優しくも悲しい、そして力強い作品となっています。 是非是非一度読んでみてください。 注意、他にも似たようなタイトルの作品がありますが、全く別物です。ダークファンタジーですがダークになるまで10話ほどかかります、出来ればそこまでお付き合い下さい。 *短編や新作を書くため週一投稿(土曜日)になります

賢者様の仲人事情

冴條玲
ファンタジー
もし、自分の家の庭に見知らぬ他人が死体を持ち込んでいたとしたらどうだろう? その日、ティリスはまさにそういう場面に遭遇した。 持ち込まれたのは死体よりもタチの悪いもの。 動く死体、ゾンビだった。  **ーー*ーー** かたや、男の子のように振る舞うのが大好きな可愛らしい姫君。 かたや、愛すべき死霊術師な皇太子。 大賢者ロズ様の「そんな二人にふつうの恋を」計画は成功なるのか――?

処理中です...