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第3話 戦場を駆ける少女3
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「──さぁ皆の者、立ち上がれ!」
部隊長の号令で、戦場に戻るため男達が立ち上がる。
兵士の男だけではない、もちろん金属の手足を持つ彼女も共に……。
「傭兵……修理は終わったのだろ? さっさと前を歩け」
「……分かりました」
『──傭兵ではない』アリエルはその事について、この男に間違いを指摘した所で変わりはしないと理解した。
重たい装備を抱え、否定的な意思も見せず。ただ淡々と、少女は部隊の最前線へと歩きだす。
復旧したばかりの吊り橋を渡り、軍人と便利屋は死地へと赴いた。
◇
「……大丈夫です。前方に生体反応は見当たりません」
先程まで、化け物が蠢いていた広場には生き物は何も居ない。
アリエルはハンドシグナルの後、銃を構え広場へと突入した。
その後を、同じように銃を構えた兵士が、防衛網を築きながらも、一人、また一人と彼女の後を追う。
そして、最後尾の部隊長も広場へとたどり着いた──。
「──な、なんだ、とんでもない化け物がいるではないか……」
そんな部隊長から驚きの声があがり、目の前の状況に立ち竦む兵士の隙間を掻き分けるよう、アリエルの隣に並ぶ。
なんと広場の中心には、全長三メートル程の巨大な犬のような化け物が、その場で寝静まっていたのだ……。
その化け物は今までの化け物とは違い、明確に、そしてハッキリと、生き物の形を模していた。
頭が三つあることを除けば……だが。
「いえ、あれが貴方達の言うところの悪魔の石です。生き物ではありません」
「何を言って……あの化け物のどこが石なのだ!」
その問いかけに対し、アリエルは相手に納得させるだけの回答を持ち合わせていない。
ただ、機械である彼女の目だからこそ、見えている事もある。
化け物の体には体温は無く、呼吸をしていない。
心臓が胸を打つ音もなく、一切の生命活動がなされいなかった。
そう──アリエルと同じように。
「くっ……嘘にしろ真実にしろ、どちらにしても寝ている今がチャンスか……。二列横隊にて、銃を構え!」
兵士は前後二列に隊列を組み直し、銃を構える。そして──
「──撃ち方、始め!!」
部隊長の号令と共に、兵士達の銃口から無数の弾薬が打ち出された。
目の前の驚異に、余程恐れていたのだろう……兵士達は止めの号令が聞こえるまで、何発も、何十発も一心不乱に引き金を引いた。
外れた弾丸は雪を巻き上げ、巨大な化け物姿は朧気としてしまう。
「撃ち方やめ!! どうだ、どれだけ大きかろうと、これだけの鉛玉を受ければ──なっ!?」
誰もが予想だにしていなかった……。
徐々に晴れる視界からは、血の一滴も流していない、目を覚まし、佇む化け物が姿を表したのだ。
言葉を無くしたのは部隊長だけではない。その姿を見た兵士達も怯え、足はすくみ、目の前の絶望に、多くの者が冷静な判断を欠いてしまう……。
そして隊列はチリジリとなり、逃げ出す者も現れた。
「ば、化け物だ!! ア゛アァァァ!?」
一人の兵士が、叫び声をあげ尻餅をつく……巨大な化け物は大きな口を開け、その男めがけて走り出した。
「──銃弾を通さない体ですか。それなら、ここはどうでしょう?」
アリエルは突如、臆する事なく化け物と男の間に割って入った。
弾を込めた長銃を構え、銃口を大きく開かれた口の中へと向ける。
彼女は引き金を引く指に力を込めた──砲身の先からは火花が散り、体を突き抜ける様に激しい銃声音が響く。
そして、銃を構えていたアリエルの肩に、反動による鈍い痛みが加わった。
化け物は、少女のすぐ目の前で膝をつき、雪の上へと倒れ込んだのだった……。
「どうやら、中の作りは丈夫では無かったようですね……」
次弾を込めながらも、アリエルは横たわっている化け物に警戒を見せていた──。
「──し……死んだのか?」
兵士を盾にしていたのだろう、いつの間にかアリエルの隣から姿を消していた部隊長が再び表れ、倒れている化け物に近づく。
「──不用意に近づかないでください!」
「がっ……!?」
しかし、アリエルが止めるのは遅かった。
化け物の頭のひとつは突如目を開き、大口を開け、一瞬の間に何かを引きちぎる鈍い音を上げた。
部隊長は下半身だけをを残し、腰から上は化け物に食いちぎられ、命を消してしまったのだ。
化け物の口からは、骨を砕き、肉を噛みきる咀嚼音が響く……。
「くっ……間に合わなかった……」
残された下半身からは、真っ赤な鮮血が華を咲かせ、白銀の雪を赤く染めていく。
それは程なくして倒れ、同時に兵士達からは声にならない叫びが上がり、その場を再度恐怖が支配した。
頭の一つを失った化け物は、二つの頭で雄叫びをあげる。
その声を聞いた兵士の多くは、足を竦ませた。
「──皆落ち着け、化け物がまた来るぞ!!」
兵士の中から、聞きなれた声が聞こえた。
アリエルに話しかけた男、ケビンがいち早く指示を出すものの、その場で失禁するものもいれば、背を向け雪の上を這うように、距離を取ろうとする者も……。
「彼の指示に従って──落ち着いてください! 死にたくなければ背を向けないで!」
アリエルは声を上げ、自身を囮にすべく銃を盾に、化けの物の目の前のへと飛び出したのだが──しかし、質量が違いすぎた。
「──がっ!?」
少女は自動四輪車にでも跳ねられたたかのように軽々と吹き飛ばされ、その身体は宙を舞うこととなった……。
部隊長の号令で、戦場に戻るため男達が立ち上がる。
兵士の男だけではない、もちろん金属の手足を持つ彼女も共に……。
「傭兵……修理は終わったのだろ? さっさと前を歩け」
「……分かりました」
『──傭兵ではない』アリエルはその事について、この男に間違いを指摘した所で変わりはしないと理解した。
重たい装備を抱え、否定的な意思も見せず。ただ淡々と、少女は部隊の最前線へと歩きだす。
復旧したばかりの吊り橋を渡り、軍人と便利屋は死地へと赴いた。
◇
「……大丈夫です。前方に生体反応は見当たりません」
先程まで、化け物が蠢いていた広場には生き物は何も居ない。
アリエルはハンドシグナルの後、銃を構え広場へと突入した。
その後を、同じように銃を構えた兵士が、防衛網を築きながらも、一人、また一人と彼女の後を追う。
そして、最後尾の部隊長も広場へとたどり着いた──。
「──な、なんだ、とんでもない化け物がいるではないか……」
そんな部隊長から驚きの声があがり、目の前の状況に立ち竦む兵士の隙間を掻き分けるよう、アリエルの隣に並ぶ。
なんと広場の中心には、全長三メートル程の巨大な犬のような化け物が、その場で寝静まっていたのだ……。
その化け物は今までの化け物とは違い、明確に、そしてハッキリと、生き物の形を模していた。
頭が三つあることを除けば……だが。
「いえ、あれが貴方達の言うところの悪魔の石です。生き物ではありません」
「何を言って……あの化け物のどこが石なのだ!」
その問いかけに対し、アリエルは相手に納得させるだけの回答を持ち合わせていない。
ただ、機械である彼女の目だからこそ、見えている事もある。
化け物の体には体温は無く、呼吸をしていない。
心臓が胸を打つ音もなく、一切の生命活動がなされいなかった。
そう──アリエルと同じように。
「くっ……嘘にしろ真実にしろ、どちらにしても寝ている今がチャンスか……。二列横隊にて、銃を構え!」
兵士は前後二列に隊列を組み直し、銃を構える。そして──
「──撃ち方、始め!!」
部隊長の号令と共に、兵士達の銃口から無数の弾薬が打ち出された。
目の前の驚異に、余程恐れていたのだろう……兵士達は止めの号令が聞こえるまで、何発も、何十発も一心不乱に引き金を引いた。
外れた弾丸は雪を巻き上げ、巨大な化け物姿は朧気としてしまう。
「撃ち方やめ!! どうだ、どれだけ大きかろうと、これだけの鉛玉を受ければ──なっ!?」
誰もが予想だにしていなかった……。
徐々に晴れる視界からは、血の一滴も流していない、目を覚まし、佇む化け物が姿を表したのだ。
言葉を無くしたのは部隊長だけではない。その姿を見た兵士達も怯え、足はすくみ、目の前の絶望に、多くの者が冷静な判断を欠いてしまう……。
そして隊列はチリジリとなり、逃げ出す者も現れた。
「ば、化け物だ!! ア゛アァァァ!?」
一人の兵士が、叫び声をあげ尻餅をつく……巨大な化け物は大きな口を開け、その男めがけて走り出した。
「──銃弾を通さない体ですか。それなら、ここはどうでしょう?」
アリエルは突如、臆する事なく化け物と男の間に割って入った。
弾を込めた長銃を構え、銃口を大きく開かれた口の中へと向ける。
彼女は引き金を引く指に力を込めた──砲身の先からは火花が散り、体を突き抜ける様に激しい銃声音が響く。
そして、銃を構えていたアリエルの肩に、反動による鈍い痛みが加わった。
化け物は、少女のすぐ目の前で膝をつき、雪の上へと倒れ込んだのだった……。
「どうやら、中の作りは丈夫では無かったようですね……」
次弾を込めながらも、アリエルは横たわっている化け物に警戒を見せていた──。
「──し……死んだのか?」
兵士を盾にしていたのだろう、いつの間にかアリエルの隣から姿を消していた部隊長が再び表れ、倒れている化け物に近づく。
「──不用意に近づかないでください!」
「がっ……!?」
しかし、アリエルが止めるのは遅かった。
化け物の頭のひとつは突如目を開き、大口を開け、一瞬の間に何かを引きちぎる鈍い音を上げた。
部隊長は下半身だけをを残し、腰から上は化け物に食いちぎられ、命を消してしまったのだ。
化け物の口からは、骨を砕き、肉を噛みきる咀嚼音が響く……。
「くっ……間に合わなかった……」
残された下半身からは、真っ赤な鮮血が華を咲かせ、白銀の雪を赤く染めていく。
それは程なくして倒れ、同時に兵士達からは声にならない叫びが上がり、その場を再度恐怖が支配した。
頭の一つを失った化け物は、二つの頭で雄叫びをあげる。
その声を聞いた兵士の多くは、足を竦ませた。
「──皆落ち着け、化け物がまた来るぞ!!」
兵士の中から、聞きなれた声が聞こえた。
アリエルに話しかけた男、ケビンがいち早く指示を出すものの、その場で失禁するものもいれば、背を向け雪の上を這うように、距離を取ろうとする者も……。
「彼の指示に従って──落ち着いてください! 死にたくなければ背を向けないで!」
アリエルは声を上げ、自身を囮にすべく銃を盾に、化けの物の目の前のへと飛び出したのだが──しかし、質量が違いすぎた。
「──がっ!?」
少女は自動四輪車にでも跳ねられたたかのように軽々と吹き飛ばされ、その身体は宙を舞うこととなった……。
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