上 下
21 / 46

第20話 俺も、まだまだ青かった

しおりを挟む
 ダンジョン探索から数日が立ち、シャルも随分仕事が板についてきた。そんなとある日の早朝の事だ──。

「──マサムネさん、そこを退いてください。掃除の邪魔になります!」
「あ、あぁ……すまない……」

 店のカウンターで、青色の透明な石ころを眺めていると、シャルに邪魔物扱いされた。

 メイド服に袖を通した彼女は、本日も良い仕事ぶりを見せている……店の亭主が、頭が上がらないほどに。

 彼女が店に来てからと言うもの、売り上げも三割増しほど増え、店の経営も中々の調子を見せている。
 増えた客層は、当然男ばかり……まったく、雄と言うのは悲しい生き物だ。

 部屋の中で自分の居場所を探していると、木で出来た店の扉が擦れ、甲高い音と共に開かれた──。

「──いらっしゃい」
「──いらっしゃいませ!」

 早速客が来たようだ。今日も幸先の良いスタートがきれそう……。

「──二人とも、今日も私がいらっしゃいました!!」

 開かれた扉からは、明るめの栗色の髪をした、よわい十六歳程の、剣士の装いをした美少女が現れた……言うまでもない。

「──なんだ……サクラか」
「なんだって……私で悪かったですね! マサムネさんはもっと美人さんにでも来てもらいたかったのかな!?」

 話ながらもサクラは俺の前まで詰め寄ってくると、少しあざとく頬を膨らまして見せる。

 大概の男は、そんな風にされたら「別の人がよかった」とは言えないだろう──。

「いや、や美人より客がよかった」

 ──しかし俺は違う。もう良い年のオッサンだ。
 残念ながら、可愛い子の仕草や色仕掛けにかかるほど、青くはない。

 どうやらサクラも、俺の返答に些か気になることがあったらしい。
 口を尖らせ「マサムネさんは、本当つれないです!」と口にはするものの、何故か少し嬉しそうにも見える。

 俺はそんな彼女を見て、疑問を口にした。

「なぁサクラ。ここ数日毎日来ているが、もしかして仕事が無いんじゃないか?」
「なっ! 何を言ってるのかな? マサムネさん、べ、べちゅに──!?」

 あ、噛んだ……。

 サクラのやつ、図星を言われ慌てているようだ。
 まぁこの際、丁度いいって事にしておこうか?

「そうか。もし嫌じゃなければだが、俺からの依頼を一件受けてはくれないか?」
「──えっ……依頼?」

 突然すぎただろうか? サクラは少し困惑した様子で、俺に質問の意味を問いかけた。

「そうだ、依頼だ。内容を聞き、労働をしてもらい、それに見合った対価を支払う事だな」
「い、依頼の意味は知っていますよ。内容です、内容!」

 俺は大きな声で突っ込む彼女に「すまない、冗談だ」と笑って見せた。
 やはり猫を被ろうと素を見せようと、彼女は彼女の様だ。
 根は素直で……真面目で、それでいて真っ直ぐだ。

「実は少々、第一の箱庭に用が出来てな。護衛の為、腕の良い冒険者を探そうと思っていたんだ」
「腕の……良い冒険者?」

 自分を指差すサクラを見ると、どうや満更でも無い様子がうかがえた。
 
 俺は紙に、今回の契約金額を見せ「賃金はこれぐらいでどうだろうか?」と彼女に提示した。
 内容的には、相場で二名が護衛に雇ったと仮定した時と同じ金額だ、彼女には充分その価値はある。

「こ、こんなに……? コホンッ。マサムネさんは命の恩人ですし、そんな風に言われたら、私も断る訳にはいかないかな? なんて……」

 その言葉を聞いた俺は、彼女に向かい右手を差し出した。
 それを見たサクラもその手を取り、固く握手を交わす。

「それでは契約は成立だ」

 どちらともなく手を離すと、サクラは不意に覗き込み、悪戯な笑顔を向ける──。

「それでは、マサムネさんは私の契約主だから、旦那様とでも呼んだ方がいいのかしら?」

 ──っと、困らせる様な発言と共に。

 ただここで、変に照れる訳にはいかない。
 冒険中の主導権を握られる前に、大人の余裕を……見せてやろう!

「そうだな。せっかくならメイド服も着て貰えれば、なおよしかな?」
「うっ……。なんかマサムネさん、私のあしらい方が上手くなってないですか? 少し、悔しいです……」

 本当に悔しそうに、両頬を膨らませて見せる。
 可愛らしいのだが、それ。なんか癖になっていないか?

「俺みたいなのがダンジョンで生き残るには、見て、学習して……少しばかり小賢こざかしくないと生き延びれないからな?

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その後俺達は、出発の準備を終えシャルに簡単な引き継ぎを済ませる。

「じゃぁすまないが、留守を頼むぞシャル」

 俺達の話を聞いたサクラは、ハッとした顔をした。そして、シャルに何かを耳打ちしているようだ。

 すると、シャルは「ほ、本当にするんですか!」っと大きな声をあげる。
 そして謎のため息の後、俺のすぐ手前まで歩きだし──。

「──え、えーっと……ご無事にお帰りになられて下さい。それではいってらっしゃいませ。だ、旦那様!」

 ──っと、スカートをちょいっとつまみ、可憐にお辞儀を見せたのだ。
 その慣れない初々しい仕草が、可愛らしく ……なんと言えば良いのだろうか。

「これは……二人に一本とられたかな?」

 今のは悪く無かったと、俺も心のどこかで思っている。
 これは素直に敗けを認めておくべきだ。
 そう思ってしまう辺り、俺も男であり、まだまだ青いのかも知れないな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ
ファンタジー
 中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。  蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。 [未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]  と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。  ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。  ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎    

灰色の冒険者

水室二人
ファンタジー
 異世界にに召喚された主人公達、  1年間過ごす間に、色々と教えて欲しいと頼まれ、特に危険は無いと思いそのまま異世界に。  だが、次々と消えていく異世界人。  1年後、のこったのは二人だけ。  刈谷正義(かりやまさよし)は、残った一人だったが、最後の最後で殺されてしまう。  ただ、彼は、1年過ごすその裏で、殺されないための準備をしていた。  正義と言う名前だけど正義は、嫌い。  そんな彼の、異世界での物語り。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

aradoar234v30
ファンタジー
 主人公の公一が引っ越先の押入れの襖を開けると、そこには少女が居た。  前の住人の特別な趣味の人形ではなく生きている本物の少女だった。  少女は驚く公一を尻目に押入れの中にあるぽっかりと空いた穴の中に引きずり込む。  そして着いた先は薄暗い大ホール。そこには金銀の財宝が山と積まれている薄暗い大広間だった。  渋々ダンジョンの攻略依頼を受け行動に移す公一だったが、そこはダンジョン最深部。  ボスキャラクラスのモンスターが闊歩する世界だった。転移時に付与されたチートスキルと宝物を使いダンジョン世界の完全攻略を目指す。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...