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第四章 新天地

436話 嘘

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「お父様、俺は大人しく言うことを聞く。だから大切な人達にだけは、手を出さないでいてくれないでしょうか?」

 膝をついたまま、鎮を見つめる。
 当然本心からではない。卑怯だとは分かっているが、なんとか隙を作るための一芝居だ。

「目上の者の前で正座……。ジジイの奴、中々面白い教育をしたんだな」

 鎮は玉座から離れ、こちらに向かいゆっくりと歩幅を進める。
 俺は恐怖と、嘘をついている罪悪感を感じ、視線を落とた。

「だが──」

 視界の先。瓦礫の上に、見知った鞘が音を立て落ちたのだ。

「──ジジイから、嘘のつきかたは教わらなかったようだな?」

「なっ!?」

 俺は咄嗟に無刃を掴み、抜刀を放った。
 それは鎮が振り下ろす無銘の一撃を、何とか受け止めるに至る。
 そして払い除けながら、後方へと飛び退く事に成功した。

「これは驚いた、この刀で斬れないのか。その辺の残骸で試し切りしたときは、軽々と切れたんだけどな?」

 確かにヤバかった。
 俺の手に握られている刀が無刃これでなければ、今ので殺られていた。

 周囲を見渡すと、試し切りをしたような残骸がゴロゴロ転がっている。
 俺は横目で無刃を確認した。

 いや、少しだがこちらが斬れている。刃がついているといないじゃ、やはり差が出る……。

『大丈夫だよ、カナデ兄ちゃん。この器わ決して折れない──だから思う存分戦って!!』

 小さく入った斬り込みが、みるみるうちに消えていく。

 そうか、ミコも使っていた自己修復。
 確かにこれなら、不利をものともしない。
 それより──。

「鎮……どうして急に斬りかかって来た。あの時の約束は嘘だったのか?」

 こちらの問いかけに、目の前の男はただ笑うのみ。
 そしてまた、無銘を振り上げ斬りかかってきた。

「あっ? 渚さんと同じなんだよ──嘘をつく時の癖がな!!」

 一振り受け流すと、鎮は連続して斬りかかってくる。

「嘘をつくときはな、目を泳がすな、乾いた唇を舐めるな、後はまばたきが多い──」

「くっ……」

 重い。一振り一振りが重すぎる。
 俺は大振りの一振りを縮地で避け、納刀後。体を捻り、回転を加えた渾身の一撃を鎮に向け振った。

「母さんと同じとか、そんなの知るかよ!!」

 やっと出来た反撃を「おっとっと」っと、ふざけた様子で受け流される。
 
 やっぱり駄目だ、力の差がありすぎる。
 隙を作るか、その差を埋める手を打たないと……。

「思ってた通りだ、子供ってのは本当に言うことを聞かないものだ。まぁ、一筋縄じゃ行かないのは分かってたけどな。安心しろ、さっきお前を言った殺すってのは嘘だ」

 は? こいつ、今さら何を言って。
 今さらそんなことを言って、騙される訳が……。

「前にも言った気がするが、お前は渚さんの大切な忘れ形見だからな」

 つまり、鎮は俺を殺したくないと。
 これは好都合だ、その油断につけいる隙が、きっと……。

「──だからな、手足を斬り、その上で飼ってやるよ! 安心しろ、ここにポーションがある。いてぇだろうが、手足が千切れようと死にはしねぇからよ。特等席で人類の終わりを堪能させてやるよ」

 そう言って、何本かのポーションを取り出して俺に見せる。

「まったく……。悪趣味にもほどがあるだろ」

 そんなの、殺された方がよっぽどましじゃないか。
 敗北した時の末路を聞かされ、背中に悪寒が走ったのだった。

 
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