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第四章 新天地

第341話 ミスリルの王

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「ミスリン達……なんだよな?」

 流れ出る血が、目に入る……。

 俺の前には、縦横四メートルを優に超える金属質の塊が、視野を遮っていた。
 そしてそれは、時計回りにこちらに振り向く。

 頭には金に輝く王冠を乗せ、まんまるな目と三日月形の口は、普通のミスリルスライムと比べて、格段に巨大になっていた。

 俺は鑑定眼を使い目を凝らすと、聞き捨てならない名前が浮かぶ。

「ミスリルキング……笑えない冗談だ」

 まさか、合体までしてみせるとは……。
 それに強い。ステータスも、バルログに引けを取らないぞ。
 
「「「我らが友よ、時間稼ぎは任されたり。今のうちに回復を」」」
 
 大きな声が反響し、体が震えた。
 どうやら、大きくなったのは体だけじゃないようだ。
 
 バルログに向き直るミスリルキング。
 目の前のシュールな光景に、つい自然と言葉と思考が止まる──。

「「「積年の恨み、今こそ果たさん。推して参る!!」」」

 ミスリルの体が縦に潰れ薄くなる、そして元に戻る反発力を使ったのだろう、一瞬でその場から飛び立ち、激しい風圧を残し目の前から消え──。

 ──ズドォォォォン!!!!

「は、早い!?」

 今、一瞬とはいえあの巨体を見失った!?
 
 ミスリルキングは、その体の質量を生かしバルログに体当たりを行った。
 あの速度とミスリルの体、当然バルログは衝撃に耐え切れず、音を立て後方に倒れこむ。
 
 その後、上に飛び乗りマウント取りに行くミスリルキングを、バルログは大剣で薙ぎ払い、力づくで体制を立て直した。

 超重量級の二匹の攻防は、岩や壁、地面などの地形を容易に変えていく……。 

「はっはっは……まるで怪獣映画でも見てるようだな……」

 俺は圧倒されていた。

 単純な強さだけなら、引けを取らない自信がある。
 ただ巨体による戦闘は、圧が違う。
 一度一度の衝突で、空気が揺れるようだった。

『カナデ──早く回復カナ!』

「そ、そうだった!」

 目の前の光景に見とれてしまっていた。
 
 マジックバックからポーション取り出し、栓を引っこ抜き、中身を口に流し込む。
 
「早く回復してくれ!」

 俺の回復中、状況はミスリン達に不利な展開に動いていた。

 例えば相手が俺で、対峙したとしよう。

 先程見せた姿を見失った一撃。きっと俺なら、あれでやられてたに違いない。
 断言しよう、それほどまでにミスリルキングは強い。

 しかし、今回は相性が悪い……。
 相手は同格かそれ以上の大きさの化け物、しかも自らを再生し、特別タフだと来てる。

 つまり最強の盾と、盾を持った最強の矛の対決だ。後者が有利なのは、言うまでもない。

「状況が良くないな……」

 大きくなったミスリン達は、先程見た通り瞬間速度は上がっているものの、持続的な早さは、ほぼほぼ変わってはいない。
 しかし増えた面積が、バルログの攻撃を当たりやすくしてしまっている。

「良し、何とか出血が止まった……今応援に──不味い!?」

 ミスリルキングの体当たりが、バルログに直撃したかと思われた──しかしバルログは球体のボディーをガッシリと掴み、口からは炎が漏れ出す……。
 
「ブレスが来る──逃げろ!!」

 ミスリルキングは自らの形状を変え距離を取ろうとするが、バルログは離そうとはしなかった。
 轟々たる炎は、無情にもミスリルスライムの王を襲ったのだ──。
 
「「「ピギャァァァーー!?」」」

 もがき苦しむミスリルキングから、悲鳴が上がる。
 金属のボディーだ、例え熱で形を変えないとしても温度は上がり、外皮の中にまで浸透するだろう……。

「まってろ、今行くぞ──!」

 俺がたどり着く前だ、そんな絶望的な状況に動きがあった。
 王冠が鉄板のような板に形を変え、炎にさらされるミスリルキング本体を、庇い始めたのだ。

「──ミスリンか!?」

 自らを犠牲にあんなことをするのは、特別仲間思いのアイツに決まっている!

 俺は必死に走った。──急げ、あんなのもつはずがない!!

「やめろぉぉーー!!」

 俺の叫び声も虚しく、炎のブレスを吐き終わると同時に、焦げたミスリンが元の形へと戻る。
 バルログは不適な笑みを浮かべると、自由落下していくミスリンを、その後ろに居るミスリルキングと共に右手の大剣で凪ぎ払った──。

 勢いよく吹っ飛び、激しく壁に叩き付けられたミスリルキングは、バラバラになり元のミスリルスライムへと戻ってしまった……。

「オモイシッタカ! ドレダケアガコウト、オマエタチ、エサ。ムリョク!!」

 無力だって? あんなにも健闘しただろ!?

 今すぐにでも駆け付けてやりたい……しかし、俺がここを離れれば、奴はミスリン達の元へと向かうだろう。

 動けるミスリルスライムは、ミスリンだと思われる個体に近づき、悲しそうに泣いていた。

「……嘘、だろ?」

 
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