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第四章 新天地
第298話 試合に勝って勝負に負ける
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勿体ぶりながらも、俺は彼女らの期待に答えることにした。
「これは【縮地】と呼ばれる歩法術の特訓なんですよ」
「縮地……初めて聞くね。それは一体どんなものだい?」
じいちゃんに指導を受けていたものの、中々体に染み込まず体得が出来てない、帯刀流の技の一つ。
口で説明するのは……少し難しいか?
「えっと、実際にやってみた方が早いですね……ソインさん、軽く勝負をしませんか?」
「勝負? いいよ、どんな勝負をお望みかな?」
勝負と言った途端、目付きの変わるソインさん……。──流石騎士団の長、気迫が違う。
「ソインさんは、その場所で立ってて下さい」
「ふむ、了解した」
俺は一歩踏み出し、ソインさんにやっと手が届くか届かないかの位置に立つ。──これぐらいでいいかな?
「勝負の内容は、俺が一歩踏み出しソインさんに触れたら俺の勝ち、ソインさんは俺が動いたのを見た瞬間に、触れられないように避けてください。動く前に動いたら、それもソインさんの敗けですからね?」
彼女が少しでも下がれば、俺の手は届かない。
これなら彼女に縮地の凄さをアピール出来るだろう。
「練習行きますよ、準備はいいですか?」
「ああ、確認など不要だよ。いつでもかかってくるといい」
少しの間の後、俺は普通に一歩踏み出し手を伸ばした。
それを見た彼女は、意図も容易く体を引き俺が触れるのを避けたのだ──。
「これでいいんだね?」
「はい、大丈夫です! 今度は縮地を使って動きますね」
深く深呼吸をする。
現状無意識では出来ないが、今の俺なら意識すれば出来るはず!
「準備はいいですか?」
「確認は不要といったのに……律儀な子だな。いつでもおいで」
「「…………」」
流石トゥナの指南役だった人……凄い集中力だ。
纏っている空気でわかる、ピクリとも足を動かせば、容易く避けられると。
騎士団所属のソインさんは、訓練をしている一流の騎士……だからこそ──効果が高いはず!!
俺は不意に縮地を使い、音を立てること無く一歩を踏み出した──。
「……なっ⁉︎」
「はい、触りました。ソインさんの敗けですね」
俺が伸ばした手は、彼女の腹に触れた。
状況が理解できないはず……きっと彼女は、いつの間にか触られていたと錯覚しているのだろう。
「これは驚いたな。いつの間に動いたんだい?」
「これが帯刀流の縮地です。筋肉で初動を行うのではなく、重心の移動で一歩目を踏み出します」
一流の騎士だからこそ、相手を確り観察し、動作を予測するもの。
「しかし、それはただの足運びの話だろう?」
そう、彼女の言うようにただの足運びだ。
蹴って進むのではなく、倒れながらギリギリまで足を出さない……。
危険を感じて反射的に足を出す、そんな生き物の本能を圧し殺す、基礎であり極意でもある。
「普通の動作と違い、筋肉の動きが無く使い手の視線も動き難い。予備動作がほぼ無く、相手には目にも止まらぬ早さで移動したと錯覚させることが出来るのです」
「なるほど。確かに、サシの戦いでは間合いも大切な一つの要素……気づいた時には相手が懐にいる、なんてのは考えただけでもゾッとするね」
一見地味に見えるがこの歩法、一ノ太刀と二ノ太刀が重要な抜刀術に非常に噛み合っているのだ。
古武術など、他の流派でも存在するが、名称が違うこともある。
「納得してくれたようでなによりです」
そう。だからこれは──価値のある特訓だ!
意味不明に見える特訓、派手さ零の新技……決して恥ずかしい物ではない!
「しかしすごい汗だね。余程の集中力を必要とするようだ」
「……はっはっは。まぁ、そうですね」
言えない、手を付いたときソインさんの腹筋で突き指したなんて言えない!?
「そ、そろそろ戻りましょうか? 本格的な開拓初日です、遅れるわけにはいきませんしね」
そう言いながら、指の痛みを隠し俺は逃げるようにその場を去っていく……。
「流石に……誰にも悟られるわけにはいかないからな」
彼女の女性としての名誉……何より帯刀のイメージが下がってしまう。
試合にかって勝負に負けた。俺は彼女の腹筋相手に、そんな気分にさせられたのだった……。
「これは【縮地】と呼ばれる歩法術の特訓なんですよ」
「縮地……初めて聞くね。それは一体どんなものだい?」
じいちゃんに指導を受けていたものの、中々体に染み込まず体得が出来てない、帯刀流の技の一つ。
口で説明するのは……少し難しいか?
「えっと、実際にやってみた方が早いですね……ソインさん、軽く勝負をしませんか?」
「勝負? いいよ、どんな勝負をお望みかな?」
勝負と言った途端、目付きの変わるソインさん……。──流石騎士団の長、気迫が違う。
「ソインさんは、その場所で立ってて下さい」
「ふむ、了解した」
俺は一歩踏み出し、ソインさんにやっと手が届くか届かないかの位置に立つ。──これぐらいでいいかな?
「勝負の内容は、俺が一歩踏み出しソインさんに触れたら俺の勝ち、ソインさんは俺が動いたのを見た瞬間に、触れられないように避けてください。動く前に動いたら、それもソインさんの敗けですからね?」
彼女が少しでも下がれば、俺の手は届かない。
これなら彼女に縮地の凄さをアピール出来るだろう。
「練習行きますよ、準備はいいですか?」
「ああ、確認など不要だよ。いつでもかかってくるといい」
少しの間の後、俺は普通に一歩踏み出し手を伸ばした。
それを見た彼女は、意図も容易く体を引き俺が触れるのを避けたのだ──。
「これでいいんだね?」
「はい、大丈夫です! 今度は縮地を使って動きますね」
深く深呼吸をする。
現状無意識では出来ないが、今の俺なら意識すれば出来るはず!
「準備はいいですか?」
「確認は不要といったのに……律儀な子だな。いつでもおいで」
「「…………」」
流石トゥナの指南役だった人……凄い集中力だ。
纏っている空気でわかる、ピクリとも足を動かせば、容易く避けられると。
騎士団所属のソインさんは、訓練をしている一流の騎士……だからこそ──効果が高いはず!!
俺は不意に縮地を使い、音を立てること無く一歩を踏み出した──。
「……なっ⁉︎」
「はい、触りました。ソインさんの敗けですね」
俺が伸ばした手は、彼女の腹に触れた。
状況が理解できないはず……きっと彼女は、いつの間にか触られていたと錯覚しているのだろう。
「これは驚いたな。いつの間に動いたんだい?」
「これが帯刀流の縮地です。筋肉で初動を行うのではなく、重心の移動で一歩目を踏み出します」
一流の騎士だからこそ、相手を確り観察し、動作を予測するもの。
「しかし、それはただの足運びの話だろう?」
そう、彼女の言うようにただの足運びだ。
蹴って進むのではなく、倒れながらギリギリまで足を出さない……。
危険を感じて反射的に足を出す、そんな生き物の本能を圧し殺す、基礎であり極意でもある。
「普通の動作と違い、筋肉の動きが無く使い手の視線も動き難い。予備動作がほぼ無く、相手には目にも止まらぬ早さで移動したと錯覚させることが出来るのです」
「なるほど。確かに、サシの戦いでは間合いも大切な一つの要素……気づいた時には相手が懐にいる、なんてのは考えただけでもゾッとするね」
一見地味に見えるがこの歩法、一ノ太刀と二ノ太刀が重要な抜刀術に非常に噛み合っているのだ。
古武術など、他の流派でも存在するが、名称が違うこともある。
「納得してくれたようでなによりです」
そう。だからこれは──価値のある特訓だ!
意味不明に見える特訓、派手さ零の新技……決して恥ずかしい物ではない!
「しかしすごい汗だね。余程の集中力を必要とするようだ」
「……はっはっは。まぁ、そうですね」
言えない、手を付いたときソインさんの腹筋で突き指したなんて言えない!?
「そ、そろそろ戻りましょうか? 本格的な開拓初日です、遅れるわけにはいきませんしね」
そう言いながら、指の痛みを隠し俺は逃げるようにその場を去っていく……。
「流石に……誰にも悟られるわけにはいかないからな」
彼女の女性としての名誉……何より帯刀のイメージが下がってしまう。
試合にかって勝負に負けた。俺は彼女の腹筋相手に、そんな気分にさせられたのだった……。
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