上 下
305 / 469
第四章 新天地

第292話 大したもんですよ

しおりを挟む
 二頭引きを一頭引きに改造してたため、出発するまでにずいぶん手間は掛かったものの、資材を使いつつも何一つ欠けること無く、何とか無事に再出発することができた。

 ──そして半日程。
 
「やっと開けた場所に出た……それにしてもずいぶん歩いたのに、道中ほとんど崖崩れもしてなかったな?」

 ここに来るまでも何度か魔物に襲われはしたものの、相手の数が少なかったのと、何よりソインさんの指揮のお陰もあり、山道を無事に抜けることが出来た。 

「ここいらも、元は戦時中に使われてたルートだったらしいで? 今では商人が使ってるらしいわ」

「なるほど、通りで整備されてる訳だ。それにしても、見るような景色も無くて退屈だったよ」

 目の前には、広大な開けた大地が広がっている。
 いつしか寒さも和らぎ、視界に映る木々はどれも紅葉に染まっていた。

 ──ん? 前の馬車が止まったぞ、何かあったんだろうか?

 しばらく様子を見ていると、ソインさんが前の方から歩いてきた。

「カナデ君、少し早いが今日はここいらで野宿としよう。山を背にできた方が警戒しやすいからね。それでも明日の昼頃には到着する予定だけど……それでいいかい?」

「はい、分かりました。それでは馬車を移動しますね」

 馬車を一ヶ所に並べて停車をした。
 各自作業の担当は決まっており、交代で仕事にあたる。
 それ以外は焚き火を囲むよう、食事や休憩を取り始めたのだ。

 俺もミコ、ルーム、ソインさんと今後の打ち合わせを予て食事を取っていた。
 すると、何やら女性が二人ほど、こちらに向かって走って来てるような……。

「──カナデさん初めまして! 私はマダと言います。これ私が作ったの、貴方に食べて貰いたくて……」

「あ、はい。えっと、ありがとうござ……」 

「──ちょっと、抜け駆けはズルいわ! カナデさん、ナナが作った方を先に食べて!」

 何だ!? 急に女の子がやって来たと思ったら、目の前で揉め始めたぞ?

 喧嘩が勃発するかと思った、その時──。

「──君達! カナデさんは心に決めた方が居るんです! さぁ、貴女方は仕事に戻って下さい!」

 突然現れたシバ君が間に割って入ると、二人の女性はブツブツ呟き、恨めしそうにその場を去っていった。

「これは……二度目のモテ期到来か?」

 悪い気はしないが、流石にたぢろいでしまうな……シバ君に助けられたよ。

「この前の情報漏洩のせいやないか? 兄さん肩書きだけはすごいからな。あと、顔が緩んでるで?」

「おほん! きっと、親しみやすく感じてくれた……って解釈でいいんだよな?」

「……」

「ってちょっと、ルーム黙らない! ──いいんだよな!?」

「……いや~兄さん。ウチを黙らせるなんて、大したもんやわ」

 それ、全然誉めてないだろ……。
 どちらにしても、周りが気を使わなくて済むなら都合はいいか。

「それにしても助かったよ、シバ君ありがとう」

「気にしないで下さい。何たって僕は、カナデさんの親友ですからね!」

 あれ、いつの間にか親友に格上げされてるぞ……まぁいいけど。

「ところでソインさん。さっきの続きですが、目的地の事をあまり詳しく聞かされて無いんですよ。知ってたら教えてくれませんか?」
 
「あぁ、そうだったね」

 ソインさんは何処からともなく地図を取り出し、皆が見えるよう広げて見せた。
 そしてリベラティオ北部を指差し、説明を始める。

「中立国リベラティオ、エルフの国エルフィリア、獣人の国ライオネル。その国境線の交わる土地──それがカナデ君、君に託された土地だよ。未来の混血の村になる場所だね」

 地図上には、真新しい線が書き足されている。
 ……なるほど、思いの外広いな。

 地図で見る限り、山も森も川もある。
 海は少しばかり遠いが、リベラティオからここまでの距離で換算すると、片道二日、三日ほどだろう。
 これなら、自然の恵みは当てに出来そうだな。

「そしてここは──【聖剣】の誕生した地だと、言い伝えられているんだ」

「……えっ!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...