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第三章 リベラティオへの旅路

第233話 エルクシル(上)

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「──そうか……わっちらの知らぬ間にそのような事があったか……」

 俺とハーモニー、キサラギさんの三名は、事が済むと大樹の和室に戻ってきた。
 そこで俺の目の前で起こったこと、見たことを彼女達に説明したのだ。

「あぁ、そして最後に黒装束の男は背中から翼を生やし、飛んでいったんだ。追いかけるにも、魔力が足りなくて……すまない、キサラギさ……」

「なんじゃと!? 今背中から翼を生やしたと言うたのか、ぬしよ!」

 とてつもない剣幕で、キサラギさんは俺との距離を詰める。
 突然のことで、俺もハーモニーも驚きを隠すことができていない……余程、その男が異質なのだろうか?

「翼を持つということは神か魔族じゃが、神がこの世界で剣を持ち、そんなことをするとは思えん。……その男は魔族と考えるのが妥当じゃな」

「この世界には、そんなやつらまで存在するのか……?」

 神に魔族って、そんな眉唾物が存在する世界……。
 いや、十分考えられるか……俺は実際に信じられない様な事を散々見てきた。今さら否定する方が可笑しいな。

「カナデさん……過去の四種族戦争の事は前に聞いてますよね~? その四種族とは【ヒューマン】【エルフ】【獣人】【魔族】の四種なのですよ~……」

「そ、そうだったのか? 俺はてっきりドワーフがその一種だと思ってたんだが……」

「いや、あやつらは戦争そのものには介入しておらんのじゃ。一等級の武器は作りおるくせに、争い事となると全く興味を示さんかった。戦争の間は地中深くに隠れておったわ」

 た、確かにルームを見ていれば納得かもしれない。
 面倒事はほとんどせず、何かしら作ってばかりだからな。
 種族全体にそう言った傾向があるなら、戦争なんて面倒事に関わるとは思えない。

「その戦争中に魔王が誕生しての、魔族は魔王の配下に……最終的には他三種族と魔王の率いる【魔族】との争いになったのじゃ。その時に限りドワーフの一部は手を貸してくれたのじゃがな」

 なるほど、似たような話は前にも聞いたがそう言うことか?
 ドワーフの協力……即ち聖剣の誕生の事だろう。

「しかし魔王は倒され、魔族は姿を見せんくなった。……その魔族が何故今更になって現れたのか。グローリアの者と一緒だったと言うのもな……嫌な予感しかせんの」

 確かに、これがあの国の王の差し金なら洒落にもならないな……。
 他国の村を滅ぼしたり、集落を襲わせるなど、宣戦布告にも等しい。

「奏よ、この件についてはこちらに任せてもらおう。わっちの方から各国へと連絡させてもらう」

 キサラギさんはそれだけ言うとその場を立ち、何処かに歩き去ろうとした。

「──ま、まってくれ。キサラギさん、エルクシルの件を忘れてないか?」

 国家間の揉め事で、急ぎなのは分かる。しかし俺からしたら、愛着のない国の心配よりトゥナが心配だ。
 ……不謹慎で身勝手かもしれないが。

「……そうじゃったな、娘を助けるという話じゃったな」

「そうだよ、だから頼むよ俺達にエルクシルをくれないか?」

 俺の発言に、キサラギさんの表情がさらに曇る。再び元の位置に戻り、真っ直ぐと俺を見つめた。

「前にも言ったはずじゃ、エリクシルは渡せん。……許せ、奏」

「──でも、協力するって約束しただろ!」

 約束が違うじゃないか! トゥナを助ける事が出来るから俺はあなた達に協力したんだぞ!

「まぁ待て、焦るでない。──まったく、この事になるとすぐに焦りよる。忠告したつもりじゃったが、わっちの記憶違いか? ……ぬしにとって、その娘は余程大切な存在と見える」

 ぐぅの音も出ない。確かに前にも同じことを言われたし、熱くなっていたのも事実だ。
 キサラギさんが信用に値しない人ではない。そんな事は分かっているのに……。

 彼女が言うように、この世界に来てこの集団クランは初めての繋がりだ。
 その中の一人でも欠けて欲しくない……こんな優柔不断な俺でも、これだけはハッキリと言える。──彼女達を大切に思っている! ……っと。

「先程の件もそうじゃが、これから話すことは他言無用じゃ。奏よ、約束ができぬのであれば、話はここまでとさせてもらう」

「わ、わかった……約束する。だからトゥナ助ける手伝いをしてくれ」

「いい子じゃ。ではまず、エリクシルを渡せぬ理由から説明するとするかの──」
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