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第三章 リベラティオへの旅路
第184話 食べ歩き
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アラウダ村、到着から──二日後。
──ドンッ!
っと、何かを叩く音が室内に響き渡った。
俺の両手は強く握られ、熱を持つ。
「くそ……! 解決の糸口すら見えないじゃないか!」
どれだけ考えても、どれだけ話し合っても、安全面と体への負担の両方を同時に解決する方法が見当たらない。
休憩を増やし、護衛をつけ、ゆっくり旅をして行くか……ダメだ、そんなのいくら金があっても足りないし、ミコが姿を現せないなら、本末転倒だ……。
不意に振り向くと、ミコとシンシが俺をじっと見つめていた。
熱くなり机を叩きながら大声をあげてしまった為か、二人は驚き、少し怯えているようだ。──しまったな……。
「ごめん、何でもないんだ。気にしないで遊んでてくれ」
その言葉に二人はまた遊び出すものの、時々こちらを気にしているようだ。──ダメだ……イライラしているな。少し頭を冷やさないと。
そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「──はい、どうぞ」
扉が開き、その先からはトゥナが顔を覗かせる。
「トゥナ、どうかしたか?」
未だ頭から生えているケモノ耳を、ペタンっと力なく倒すその表情は、何かを心配しているようにもうかがえる。
「えっとね……。カナデ君が、少し根をつめてるようだから気になって。ずっとこもりっきりでしょ?」
彼女の心配の原因は、どうやら俺にあったらしい。──言われてみれば……二日間ほとんど部屋からも出ていないな。
「ねぇ、カナデ君。気晴らしに、一緒に夕御飯でも行かない? もちろんミコちゃんとシンシ君も」
夕食? もうそんな時間なのか。言われてみれば腹も減って……。
窓の外を覗くと日は既に落ち、薄暗くはあるものの、村はロウソクの明かりやランプの明かりに彩られていた。
「そうだな。ずっと室内にいても気が滅入るか……」
「うん、だから行きましょ? 大丈夫。まだ何も焦ることは無いわ」
目の前にいる、心配そうな彼女の顔を見たら、断りも出来ないか……。
「そうだよな、何か食べに行くか?」
トゥナが差し出した手を掴み、席を立ちながら「ミコ、飯に行くぞ」と声を掛ける。
俺はミコをマジックバックに詰め、トゥナとシンシをつれ、部屋を出た──。
──この村の通り道は、馬車がすれ違うことが辛うじて出きるほどの広さだ。
商店街……と言えるほど大きなものでもないが、ちらほらある食品を取り扱っている店の中からは、店員が客を捕まえようと大きな声で客引きをしている風景が目立つ。
「他の皆は、食事に誘わなくていいのか?」
「うん、大所帯になっちゃうしね。それに皆は、先に食事済ませたわよ? 今頃は、今後の事を話し合ってるはず」
そうだよな……問題が解決しないまま村から出るわけにもいかない。
何か対策をするにも費用がかかるし、どれだけ宿泊できるかなど、今後の事は打ち合わせる必要があるよな?
「──って、それなら俺も行かないと!」
そう言葉にすると「カナデ君待って!」とトゥナは俺を呼び止め、シンシを抱きかかえ俺に向けた。
「カナデ君の、今のお仕事はこっち! 皆で食事に行くんでしょ? シンシ君もお腹、空いてるわよね?」
シンシが「お腹すいたヨ~」と、棒読みで抱っこを要求してきたのを、俺はだまって抱きかかえた。──もしかしたら、コイツなりに空気を読んだのかもしれないな。
「折角の機会だから食事に行きましょ? 私も食べてなかったからお腹すいちゃった」
「あ、あぁ~……わかったよ」
口にはしてないが、正義感が強いトゥナがここまで言うんだ。たぶん他のメンバーもグルなのだろう。
──皆には気を使わせてばかりだな……。
食堂みたいな店は見つからず、食べ物を扱う店の大半は持ち帰りがメインの様だ。
あまり大きくはない村だ、ほとんどの人が自分達の家で食事を済ませるのであろう。
仕方なく俺達は、色んな物を少しずつ買って食べる、食べ歩きスタイルを取ることにした。──実は、あまり経験なかったから、憧れてたんだよな。
「い、良いのかしら? こんな風に食事をとって……何だかお店の人に、悪いことをしているみたいだわ」
トゥナも慣れていないのか……いや、王族なら経験が無いのだろう。食べ歩きに抵抗があるらしい。
それでも、同じように食べ歩いている人は何人かいる……。
「ほら、あそこ見てみろよ俺達だけじゃないし気にするなって。俺のふるさとだと、観光がてら結構やってるぞ?」
テレビ番組での話だけどな。
観光名所なんかでは、こう言った光景が日常的に見られるのだろうか?
その点、子供は凄いな……与えるもの与えるものバクバク食っていく。
特にマジックバック内のミコが、バック越しにバシバシ俺を叩いて……酷い。
串焼き、ちょっとした煮物、ケバブ擬き。色んな物を食べ、俺はの腹はかなり満たされた。
「どうだ? シンシ、腹一杯になったか?」
マジックバック内のミコは、未だに寄越せとアピールしているが、この際無視しよう。際限がない……。
「うん、カナデ兄ちゃん。僕、お腹一杯だヨ!」
シンシはとびっきりの笑顔でそう答えた。
常日頃、彼を観察していたものの、記憶こそ失くしたままだが、心の傷などは表立っては見当たらない。
記憶が無いからこそ……なのかもしれないが。
それにしても、短い間だけど随分溶け込んだな。よし! 帰ったら、もうひと頑張りするか!
そう思った時だ。
シンシが足を止め、急に遠くを見てボーッとし始めた。
「シンシ君、何か見えるの?」
トゥナの問いかけに、答えたのかは分からない。
ただその時、シンシは一言だけ呟いた。
「──ママとパパだ……」っと。
──ドンッ!
っと、何かを叩く音が室内に響き渡った。
俺の両手は強く握られ、熱を持つ。
「くそ……! 解決の糸口すら見えないじゃないか!」
どれだけ考えても、どれだけ話し合っても、安全面と体への負担の両方を同時に解決する方法が見当たらない。
休憩を増やし、護衛をつけ、ゆっくり旅をして行くか……ダメだ、そんなのいくら金があっても足りないし、ミコが姿を現せないなら、本末転倒だ……。
不意に振り向くと、ミコとシンシが俺をじっと見つめていた。
熱くなり机を叩きながら大声をあげてしまった為か、二人は驚き、少し怯えているようだ。──しまったな……。
「ごめん、何でもないんだ。気にしないで遊んでてくれ」
その言葉に二人はまた遊び出すものの、時々こちらを気にしているようだ。──ダメだ……イライラしているな。少し頭を冷やさないと。
そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「──はい、どうぞ」
扉が開き、その先からはトゥナが顔を覗かせる。
「トゥナ、どうかしたか?」
未だ頭から生えているケモノ耳を、ペタンっと力なく倒すその表情は、何かを心配しているようにもうかがえる。
「えっとね……。カナデ君が、少し根をつめてるようだから気になって。ずっとこもりっきりでしょ?」
彼女の心配の原因は、どうやら俺にあったらしい。──言われてみれば……二日間ほとんど部屋からも出ていないな。
「ねぇ、カナデ君。気晴らしに、一緒に夕御飯でも行かない? もちろんミコちゃんとシンシ君も」
夕食? もうそんな時間なのか。言われてみれば腹も減って……。
窓の外を覗くと日は既に落ち、薄暗くはあるものの、村はロウソクの明かりやランプの明かりに彩られていた。
「そうだな。ずっと室内にいても気が滅入るか……」
「うん、だから行きましょ? 大丈夫。まだ何も焦ることは無いわ」
目の前にいる、心配そうな彼女の顔を見たら、断りも出来ないか……。
「そうだよな、何か食べに行くか?」
トゥナが差し出した手を掴み、席を立ちながら「ミコ、飯に行くぞ」と声を掛ける。
俺はミコをマジックバックに詰め、トゥナとシンシをつれ、部屋を出た──。
──この村の通り道は、馬車がすれ違うことが辛うじて出きるほどの広さだ。
商店街……と言えるほど大きなものでもないが、ちらほらある食品を取り扱っている店の中からは、店員が客を捕まえようと大きな声で客引きをしている風景が目立つ。
「他の皆は、食事に誘わなくていいのか?」
「うん、大所帯になっちゃうしね。それに皆は、先に食事済ませたわよ? 今頃は、今後の事を話し合ってるはず」
そうだよな……問題が解決しないまま村から出るわけにもいかない。
何か対策をするにも費用がかかるし、どれだけ宿泊できるかなど、今後の事は打ち合わせる必要があるよな?
「──って、それなら俺も行かないと!」
そう言葉にすると「カナデ君待って!」とトゥナは俺を呼び止め、シンシを抱きかかえ俺に向けた。
「カナデ君の、今のお仕事はこっち! 皆で食事に行くんでしょ? シンシ君もお腹、空いてるわよね?」
シンシが「お腹すいたヨ~」と、棒読みで抱っこを要求してきたのを、俺はだまって抱きかかえた。──もしかしたら、コイツなりに空気を読んだのかもしれないな。
「折角の機会だから食事に行きましょ? 私も食べてなかったからお腹すいちゃった」
「あ、あぁ~……わかったよ」
口にはしてないが、正義感が強いトゥナがここまで言うんだ。たぶん他のメンバーもグルなのだろう。
──皆には気を使わせてばかりだな……。
食堂みたいな店は見つからず、食べ物を扱う店の大半は持ち帰りがメインの様だ。
あまり大きくはない村だ、ほとんどの人が自分達の家で食事を済ませるのであろう。
仕方なく俺達は、色んな物を少しずつ買って食べる、食べ歩きスタイルを取ることにした。──実は、あまり経験なかったから、憧れてたんだよな。
「い、良いのかしら? こんな風に食事をとって……何だかお店の人に、悪いことをしているみたいだわ」
トゥナも慣れていないのか……いや、王族なら経験が無いのだろう。食べ歩きに抵抗があるらしい。
それでも、同じように食べ歩いている人は何人かいる……。
「ほら、あそこ見てみろよ俺達だけじゃないし気にするなって。俺のふるさとだと、観光がてら結構やってるぞ?」
テレビ番組での話だけどな。
観光名所なんかでは、こう言った光景が日常的に見られるのだろうか?
その点、子供は凄いな……与えるもの与えるものバクバク食っていく。
特にマジックバック内のミコが、バック越しにバシバシ俺を叩いて……酷い。
串焼き、ちょっとした煮物、ケバブ擬き。色んな物を食べ、俺はの腹はかなり満たされた。
「どうだ? シンシ、腹一杯になったか?」
マジックバック内のミコは、未だに寄越せとアピールしているが、この際無視しよう。際限がない……。
「うん、カナデ兄ちゃん。僕、お腹一杯だヨ!」
シンシはとびっきりの笑顔でそう答えた。
常日頃、彼を観察していたものの、記憶こそ失くしたままだが、心の傷などは表立っては見当たらない。
記憶が無いからこそ……なのかもしれないが。
それにしても、短い間だけど随分溶け込んだな。よし! 帰ったら、もうひと頑張りするか!
そう思った時だ。
シンシが足を止め、急に遠くを見てボーッとし始めた。
「シンシ君、何か見えるの?」
トゥナの問いかけに、答えたのかは分からない。
ただその時、シンシは一言だけ呟いた。
「──ママとパパだ……」っと。
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