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第三章 リベラティオへの旅路

第179話 喧嘩

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 太陽が真上に上がり、俺達は昼食のため馬車を止めて休憩することにした。
 照り返す日差しは、地面から昨晩の雨の水分を奪い、地面を乾燥させていく。
 周囲には木々などの障害物はなく、地平線も見ることが出来る。

 そんな穏やかな昼下がり、俺は一つの覚悟を胸に、ミコに声をかけたのだった。

「ミコ。楽しんでるところ悪いけど、一緒に来てくれないか? 二人で少し話がしたいんだが……」

「ダメカナ! ボクはシンシの面倒を見ないといけないシ!」

 そう言葉にするミコは今、シンシにボサボサになっている髪をとかされている最中だ。──どっちが面倒を見ているのやら……。

「ミコ様、シンシ様は私達が見ておきます。カナデ様とお話に行かれてはどうでしょうか?」

「そうよ? ミコちゃん。カナデ君も、ミコちゃんがシンシ君に取られて、少し寂しいと思うの。ミコちゃんはお姉さんなんだし、少しの間なら我慢できわよね?」

 二人ともナイスアシストだ! なんか色んな汚名がくっついてきたけど、今回は聞かなかったことにしよう……。保護者である俺が我慢しないとな。

「うーん……しかた無いかな、分かったシ! お姉さんのボクが、可哀想なカナデとお話してくるシ! 我慢するカナ!」

 自称お姉さんのミコが立ち上がり、仕方ないなと、両手を上げて、やれやれとポーズをとった。

 その姿を見て「よろしくね? ミコちゃん。カナデ君仕方ないから」や「そうなんです。カナデ様はとても仕方ないのです」と微笑むトゥナとティアの両名から、とても辛辣しんらつな言葉が飛び出した。

 本音では無いよな? ミコに話を合わせているだけ……きっとそうだ。

 ミコは俺の目の前まで飛んでくると、両手を腰に当て、とても大きな態度で俺に声をかけた。

「それで、何の用カナ? 早く済ませてほしいカナ」と……。

「あぁ……少し場所を移動しようか?──」


 ──馬車から三十メートル程だろうか? 離れた場所で、俺は本題に移ることにした。

「あのさ、ミコ。シンシ事なんだけど……少しだけ構いすぎじゃないか?」

「──シンシはボクの弟分だし! お姉さんが弟の面倒を見るのは当たり前カナ!」

 ソワソワしているミコは「用件がそれだけなら、もう行くカナ!」と言い、シンシの元へと飛んでいこうとした。

「そうじゃない、ちゃんと聞けよ!? シンシは次の村に着いたら安全な場所……アラウダのギルドで面倒を見てもらうんだぞ。今朝、俺は皆に説明したよな?」

 早朝、馬車を出す前に今後の予定をメンバーと確認してから動いたはずなのに、まるで初めて聞いたかの様な顔でミコは驚いている。

「何でカナ──酷いカナ!」

 ミコは怒りながらも、俺の胸ぐらをつかんだ。──こいつ、朝遊んでたからな……。

「やっぱり話を聞いてなかったのか? 俺達の冒険は、魔物と戦ったりすることもある、とても危険な冒険なんだよ。そんな冒険に……幼いシンシは連れていけないだろ?」

「ボクが守るし! だから一緒に居たいカナ!」

 ミコは駄々をこねる子供のように、確信の無い無責任とも取れる発言をした。──必死なのわかる、一緒に居たい気持ちも分かるけど……。

「ダメだ! 俺だって何度も死にかけてるんだぞ? それに子供の体力での長旅は、シンシの幼い体には負担になる。そんなの……可哀想だろ?」

「じゃ……じゃぁボクが残るカナ! それならシンシとずっと一緒だモン!」

 残るって……俺達と離ればなれになってもいいのかよ!?

「……無銘は置いていけないぞ? どうしても残るって言うなら、シンシが担いでる剣に入れば良いだろ?」

「なっ──あの剣には入れないカナ! 何でも入れる訳じゃないし! なんでまたボクを追い出そうとするカナ!」

「──ならどうすればいいんだよ! ワガママばかり言うんじゃない!!」

 つい出してしまった大声は、周囲響き渡り離れている他のメンバーにも声が届いてしまった様だ。
 心配そうに、こちらを見ている。

 ──はっ!

 目の前を見ると、ミコが両目に涙を溜め、必死で泣くのを堪えている。──俺は……なんで怒鳴って。

 大人げない自分の物言いに、後悔した。
 しかし、ここで引くわけには行かない──。

「──シンシをは村に置いてく……これは決定事項だ! それが……シンシの為なんだ」

 シンシの為……。それは本当にそう思っている。
 ただ、この時の俺はそれを言い訳に、ミコの気持ちを無視したまま、自分の感情をぶつけただけだった。
 それを、彼女の涙をみて気づかされる事となった。

 もしかして俺は、本当にシンシ嫉妬していたのかもしれない……っと。

 だから、ミコが残ると言った時に、少しの熱くなって怒鳴ってしまった。
 冷静で居続け事が、出来なかったのだ……。

「カナデなんか……カナデなんか大っ嫌いカナ!」

 大声で怒鳴りながら、ミコはシンシの元へ飛んで行く。

 俺が伸ばした手はくうを掴み、重さも温もりも感じることのないまま、力なく垂れ下がるのだった。
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