上 下
140 / 469
第二章 海上編─オールアウト号─

第128話 新たな大陸

しおりを挟む
 航海最終日となる早朝。

 太陽から降り注ぎ光は肌を焼く……。
 潮風が肌にまとわりつき、汗がにじみ出る。──しかし、それらが睡眠を妨害しているにも関わらず目を中々開けることが出来ない。

 何故ならば、昨日興奮のあまり中々寝付けなかった為だ。
 今も頭に甚平の上着を被り、太陽光を逃れ、意地でも睡眠を取ろうと試みたのだが……。

「──っおぉ!」

 しかし、突然の大きな船の揺れが、それを許してはくれなかった。

 慌てて外を覗くと、窓枠の外には波が立っており、アウトリガーも畳まれている。──いつの間にか、通常の海域に戻っている? 今のは波による船の揺れの様だな……。

 過去にも例がある、今回は、魔物の襲撃じゃなさそうで胸を撫で下ろした。──はぁ……流石にもう寝る気分ではないかな。

 仕方がないので顔を洗い、身支度を整える。
 そうは言っても、鏡がないため自分の姿を確認することは出来ないのだが、まぁこれで良しとしよう。

 事情は察しがついているが、念のために部屋を出て、甲板に向かった。

 通路を抜け船の上に出ると、まず目についたのは大空高く延びる帆柱に吊られているTシャツだ。
 そして、隙間から差し込む太陽の明かりが、否応なく俺の目を覚まさせた。──不思議だ、この明かりに照らされていると、それだけで平常心が保てなくなるんだよな?

 謎のトラウマを抱きつつも、その場で伸びをした。──今日もいい天気だ!

「──開始二日目で、早速朝の訓練は終わりなんですか~? 本当ダメリーダーですね~……」

 聞き慣れた、皮肉まじりのかわいい声が俺を罵倒する。

 普段なら何かと言い返すところだが、今日の俺は寛大だ! 
 寝不足もあるが、なんたって本日やっと両足で大地を踏みしめることが出来るのだ!
 ハーモニーの可愛い罵声など、今の俺にはご褒美でしかない!

「おはようカナデ君、ハーモニーも私も、カナデ君が早朝訓練来るの、楽しみにしてたのよ?」

「──べ、別に、私はた、楽しみになんてしてないですからね~!」

 えっと、ツンデレさんかな?
 それにしても、楽しみにしてくれてたのか。
 それは少し、悪いことをしたな……。

「それで、今日はどうして遅かったのかしら?」

「はっはっは。今日は陸に上がるのが楽しみで、夜寝付けなかったんだよ」

 そう言いながら胸を張る俺を、さげすむような目で見るハーモニー。しかし、気にならいのだよ!

「ふふっ、カナデ君子供みたいね? じゃぁ、明日からは私が起こすわよ?」

 おぉ、マジか! 美少女に起こされるなんて、本気でご褒美じゃないか! 

「──是非お願いするよ!」

 懇願こんがんする俺に、ハーモニーは人を殺せそうな程の、きっつい視線を浴びせてきた。

 蛇に睨まれた蛙とはこの事だろうか? 俺はその視線に、なす統べなく愛想笑いを浮かべ、両手を上げた。

「と、ところで? ティアが見当たらないみたいだけど?」

 こう言うときは話をすり替えるに限る。
 じいちゃんがよく……言っては無かったけど、都合の悪いときとかはよく使ってたっけ?

「ティアさんは昨日、部屋に戻った途端大量の鼻血を出されて、今は貧血で寝ていますよ~?」

 とんでもないことを平然な顔で答えるハーモニー。──彼女も、えらく慣れたものだ。俺が知らないだけで、鼻血を吹いたのも一度や二度じゃなさそうだな……。

「尊いとか呟いてたわね……心配だわ……」

 おそらく、トゥナは純粋に心配しているのだろう。
 しかし、俺はティアの頭の方が心配だ。

 ハーモニーも同じことを考えているのか、 何処か遠いと所を見ている気がするんだけど……。

 不意に船の進行方向を見ると、目の前には広大なパノラマ……とでも言うべきだろうか?
 見渡す限り広がる、驚くほど広大な大陸が現れた。

「なぁ二人とも、陸地、陸地が見えてきたぞ!」

 あまりにも嬉しくて、つい年甲斐もなくはしゃいでしまった。──これでシャツ呪縛から逃れられる。思えばこの航海、最初から最後まであれに怯えていた気がする。

「──カナデうるさいカナ! お目め覚めちゃったカナ!」

 こいつも居たな……こいつには、終始食料を奪われて……いや、きっとこれからもそうなんだろうな?

 ミコは怒っている様だけど──しかし、今日の俺は止まる事を知らない! このテンションにミコも巻き込んでやる!

「良いから見てみろって! 大陸だよ大陸! もしかしたら旨いものもあるかもしれないぞ?」

「旨いもの? それって美味しいものの事カナ! 早く行くシ! 今すぐいくシ!」

 発言のチョイスを誤ってしまったようだ。マジックバックを飛び出だしたミコは、大陸に向かい合い飛び立とうとしていた。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 間一髪、何とかミコを捕まえる事が出来た。──こいつの食べ物に対する執念……凄すぎるだろ?

「離すカナ! ボクのご飯が待ってるカナ!」

「落ち着けって! 逃げない! ご飯は逃げないから!」

 そんなやり取りをする俺たちの姿を見て、トゥナとハーミニーは他人事のように、微笑む。

 まったく……この様子だと、大陸についても俺の波乱万丈な生活は、しばらく続きそうだな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...