異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第二章 海上編─オールアウト号─

第119話 手入れ[new]

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「最近やたらバタバタしてたしな……今日は、久しぶりに心行くまで無銘をメンテナンスしようかな?」

 手入れ道具を一式準備して、正座をした。
 座り方にルールがあるかは、正直なところよく知らない。
 ただ俺は、真剣に刃物に向き合う……そんな時は、必ず正座で作業することを心掛けていた。

 俺はおもむろに拭い紙を口に咥える。──よし、堪能するぞ!

 左手で無銘の鞘を握り、膝の上のあたりまで運ぶ。この時、刃をうえに向けて持つ。
 そして、右手でつかを握りしめた。

 ──トン、トン、トン!

 部屋の扉を叩く音が聞こえた……。
 どうやら、俺と無銘の仲を邪魔するものが現れた様だ。

 目の前に横にしたまま、ゆっくりと地面に無銘を置き、俺は拭い紙を口から離した。

「──はい、どうぞ!」

 途中で作業を止められるよりは、来客を早めに帰し、作業に没頭したいと思ったのだ。

「こんにちは、カナデ君少し大丈夫かな?」

 来客の招待は、防具を外した愛らしいキャミソール姿のトゥナであった。
 右手には、レーヴァテインを握りしめているが、何かあったのだろうか?

「どうしたんだよトゥナ。レーヴァテインなんて持ってきて、調子が悪いのか?」

「違うの、少し時間が出来たからちょっとね?」

 それだけ言うと、彼女は俺に合わせてなのか? すぐ隣の床に座った。

「無銘の手入れなの?」

「あぁ。丁度今、始めようと思ってな?」

 流石に相手がトゥナじゃ、厄介払いは出来ないな。
 なに、普段から最低限は管理してるし、明日改めて本格的にメンテナンスすればいいか?
 そう思い、道具を片付けようとしたときだった。

「──あ、あのね、カナデ君。貴方に、剣の手入れを教えてもらいたくて今日は来たの!」

 突然口にした彼女の言葉に、手が止まった。そして、一つの可能性が頭をよぎった。

「──も、もしかして、俺はクランエルピスをクビになるのか?」

「そんな事、ある訳無いでしょ……カナデ君、自分がリーダーなの忘れちゃったのかしら?」
 
 覚えてはいるが、その上でクビなのか? っと思ったのだ。なんたって武器の管理は、俺の数少ないアイデンティティーな訳だし……。

「常に一緒に居れる保証があるわけじゃ無いでしょ? 依頼で別々に行動することもあるかもしれないし、専門家から教えてもらった方がいいかな? って思ったのよ」

 な、なるほどな? 良かった、船から降りたらお払い箱とかじゃなくて……。
 でもそう言う事なら、このタイミングは丁度いい。

「分かった。今から実演しながら、トゥナでもやってもらっていい、簡単な手入れを教えるよ」

 そう言いながら、俺は無銘を手に取り引き抜こうとした。

「──ちょっと待って! 今日は、それを咥えないでいいの?」

 そう言いながら、トゥナは置いている拭い紙を指差した。
 俺はそれを手に取り「これか?」っといつものように咥え、また口から離した。

「本当は咥えるように心掛けてるけど、これを咥えてたら説明できないだろ?」

 俺はクスリと笑って見せる。
 それにつられるように「それもそうね」と、トゥナも可愛らしく笑って見せた。

 俺は拭い紙を、笑っているトゥナの目の前に広げて見せた。

「それじゃぁ今日は、何でこれを咥えるか説明しようか?」

「はい、カナデ先生!」と、トゥナは真面目な顔をする。
 彼女の口にした先生の響きに、ちょっとだけドキっとしたのは秘密だ。

「おほん! この武器、俺の世界では刀と呼ぶんだけど、昔この刀を使っていた人達を侍って呼んでいたんだ」

 尊敬の眼差しを向けるトゥナに、少しだけでもカッコいいところを見せたいと張りきる。──これが得意分野なんだ、格好つけるならここでしょ!

「侍は心を大事にする剣士でな? そんな彼らは、扱う武器にも心を持って接していたんだ」

 実際は見たこと無いが、そうであってほしい……。
 今の台詞には、自身の願望も含まれていた。

「刀もそうだけど、剣にも弱いものがあるのは分かるか?」

「えっと……衝撃とかかしら? 刃こぼれにも繋がるし……」

 あぁ、少し質問の内容が悪かったか?
 しかし流石トゥナだ、斬れる事を気にしないものなら、出てこない解答だったかもな。

「確かにそれもそうだ。ただ今回は別のもの正解は【水】なんだよ」

 俺の発言に、トゥナは手をパンッ! と相槌ちを打った。

「なるほど。水に濡れると錆びてしまうからね? じゃぁ口に咥えるのは話さないようにって事かしら?」

「ご名答! 一説には刀に息をかけないためとも言われているが、本質は刀に唾などの水分を飛ばさない。そう言った気遣い、つまり【心】の現れが、口に布や紙を咥える行為の由縁なんだよ」

 そう言いながら、俺は先程の拭い紙を床においた。
 こう言った理由もあり、俺もなるべく咥えるようにしていたのだ。

「そうなのね……私のレーヴァテインも、カナデ君のそう言った気遣いが……心があってこそ、今の切れ味や美しさな訳ね?」

 そう言いながら、トゥナは俺が床に置いたばかりの拭い紙を手に取る。

 そしてそれを──不意に咥えて見せたのだ!!

「トゥ、トゥ、トゥ! トゥナさん!?」

 彼女は知ってか知らずか、そのままレーヴァテインを覗いて見せる仕草をして、俺に向けてウィンクをした。

 そしてレーヴァテインをゆっくりと床に置き、拭い紙を口から離しながら「こんな感じかしら?」と、無垢な笑顔を俺に向けたのだ……。

 俺はまさかの彼女の行為に、心臓が高鳴り口をパクパクさせた。

「──これがカナデ君がたまに言う、粋ってやつなんでしょ?」

「あ、あぁ……そうだな……」

 俺はこの後も、心中穏やかじゃないまま、トゥナに手入れについて説明するにであった。
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