126 / 469
第二章 海上編─オールアウト号─
第114話 料理対決 真っ最中
しおりを挟む
──滑り……取り終わったぜ!
やっとだ。やっと、タコの滑り取りが終わった……。
まさか、タコの滑り取りが、こんなにも心を疲弊させるとは思いもしなかった。
「──六百数え終わったぞ! 残り、千と八百だ!」
船長の大声が聞こえた。──時間で換算すると残り三十分ぐらいか? それにしても、ダシ作りから始めると時間がかなりキツい。
俺は先ほど水につけておいたダシの元を、火にかける。
そして手早く、もうひとつの沸騰させておいた鍋に塩を入れ、滑りを取ったタコを入れた。
「──だし作りと、茹でダコ作りの同時進行だ!」
タコの切り身を熱湯につけると、直ぐ様のぼせたかのように赤く染まっていく。
しかし箸を刺すと、まだまだ固く火が通りきっていないことが分かる。──これは、もう少し茹でないとだめだな。
ふと、隣の鍋を見ると、昆布とホタテの貝柱が入ったダシが沸騰しかけている。
慌てて鍋の中から、昆布と貝柱を取り出し「──あちち!」っと、火傷しかけながらも火から避け、大量の鰹節を入れた。
このまましばらく置いておき、その間に茹で上がったタコを切ろう。
火が通ったのを確認後、鍋からタコを出し冷水で冷やした。
そして、まな板の上に乗せ1、5センチ角に切っていく。
ここでポイントになるが、なるべく一つ一つに、吸盤が残るように切るのがコツだ。
「吸盤のコリコリが食感になるんだよな。よし、こんなものか?」
タコを切り終わり、次の作業に移る。
その前に、なんとなく気になり相手のチームを見ると、何やらフライパンから炎が上がっていた。
「フ、フランベだと!」
フランベとは、主にフランス料理で使われる調理法だ。
例外もあるが、フライパンで肉や魚を加熱料理した際に、最後の香り付け等で使われる技術……。
彼女がそれを知っていることも驚きなのだが。
「早すぎるだろ? もしかして一品だけじゃないのか?」
まだ二十分以上ある。仕上げだとしたら、まだ明らかに早い……何か意図があるのか?
相手が気にはなるものの、自分の調理に集中した方が良さそうだ。相手はかなり強敵かもしれない!
俺は、しばらく置いておいたダシを、布で濾しながら別の鍋に移していく。──綺麗な黄金色だ、なんとかダシが取れたみたいだ。
良し! なんとかタコの身も、ダシも準備が整ったぞ!
一区切りつき「ふぅ……」と息を吐く。
ハーモニーを見ると、彼女もこちらに気づいたのだろう。
右手を握り親指を立てた。──ハーモニーの方も、だいたい完成してるみたいだな。後はタネにして焼くだけだ!
「──千と二百数え終わった! 残り半分だ!」
ん? 後二十分なのか! 急がないとギリギリだぞ。
ハーモニーが準備をしてくれた卵をボールに入れ、その上からダシを入れた。
後は醤油で少し味付けをして──手早くかき混ぜる!
おおよそ混ざったら、少しずつ小麦粉を入れ、ダマが出来ないように気をつける。
「焦るな……細心の注意を払うんだ! 食感に関わるからな、落ち着け……俺!」
一度混ぜ終え、その中に海老のすり身と青のりを加え。タネを絡ませるようにもう一度かき混ぜた。
「よし、これでタネが完成したぞ!」
「──残り六百! 各チーム完成を急いでくれ!」
後十分……落ち着いて焼けば、まだ間に合うはずだ!
ハーモニーに温めておいて貰った銅板に、少し多めの油を引き、タネを銅板の穴が見える程度に入れた。
──ジュワ~!!
タネが焼ける音と香りに「おおおぉぉぉ!」っと観客から歓声が上がる。
ここで手早く材料を……! あれ? タコが少なくなっているような……まぁいいか。
タコを各穴に一個ずつ。その後、天カスを先に入れ、その上からまぶすように、長ネギ、紅しょうがを投入した。
そして再び、上からタネを被せるように掛ける! ──よし、後は焼くだけだ!
「──カナデ様、中々の腕前のようですが、その程度なのですか?」
自分達の厨房から、こちらの焼き作業中にティアが声を掛ける。
そして、ふんぞり返り俺を指差した。
「カナデ様、甘いです! 甘ちゃんです! 奥の手とは、最後にとっておくものなのですよ!」
それだけ口にすると、彼女に吸い込まれるように風の流れが変わった……。
──おい……嘘だろ!?
「我、契約に従い力を欲す者なり、我が魔力を糧に鋭利なる旋風を生み出したまえへ……」
彼女は、自身の目の前に右手を掲げた。
吸い込まれた風がその右手に集まり、可視化して小さな渦が姿を現したのだ!
「テュエッラ・アネモスイオ・クスィフォス!!」
呪文名と同時に、ティアは何かが入った大きなボールの中に、風の渦を押し付けた。
風の魔法で、材料が次々と粉々になっていく……何を作るか分からないが、料理に魔法を使ってくるのは予想外だ!
彼女の行動に、どこか焦りが出てしまったのだろう。──くそぉ、失敗した!
慌てていたかためか、ひとつ目をひっくり返すが形が崩れてしまった。
「まだ少し早かったか、焦るな俺!」
こんな時、ミコが起きてたら俺も魔法で……。
状況は非常に悪く、会場の歓声はティア一色になってしまった。
観客の心は、彼女によって鷲掴みにされたようだ。──くそぉ。この状況で、俺達に勝てる見込みはあるのだろうか?
やっとだ。やっと、タコの滑り取りが終わった……。
まさか、タコの滑り取りが、こんなにも心を疲弊させるとは思いもしなかった。
「──六百数え終わったぞ! 残り、千と八百だ!」
船長の大声が聞こえた。──時間で換算すると残り三十分ぐらいか? それにしても、ダシ作りから始めると時間がかなりキツい。
俺は先ほど水につけておいたダシの元を、火にかける。
そして手早く、もうひとつの沸騰させておいた鍋に塩を入れ、滑りを取ったタコを入れた。
「──だし作りと、茹でダコ作りの同時進行だ!」
タコの切り身を熱湯につけると、直ぐ様のぼせたかのように赤く染まっていく。
しかし箸を刺すと、まだまだ固く火が通りきっていないことが分かる。──これは、もう少し茹でないとだめだな。
ふと、隣の鍋を見ると、昆布とホタテの貝柱が入ったダシが沸騰しかけている。
慌てて鍋の中から、昆布と貝柱を取り出し「──あちち!」っと、火傷しかけながらも火から避け、大量の鰹節を入れた。
このまましばらく置いておき、その間に茹で上がったタコを切ろう。
火が通ったのを確認後、鍋からタコを出し冷水で冷やした。
そして、まな板の上に乗せ1、5センチ角に切っていく。
ここでポイントになるが、なるべく一つ一つに、吸盤が残るように切るのがコツだ。
「吸盤のコリコリが食感になるんだよな。よし、こんなものか?」
タコを切り終わり、次の作業に移る。
その前に、なんとなく気になり相手のチームを見ると、何やらフライパンから炎が上がっていた。
「フ、フランベだと!」
フランベとは、主にフランス料理で使われる調理法だ。
例外もあるが、フライパンで肉や魚を加熱料理した際に、最後の香り付け等で使われる技術……。
彼女がそれを知っていることも驚きなのだが。
「早すぎるだろ? もしかして一品だけじゃないのか?」
まだ二十分以上ある。仕上げだとしたら、まだ明らかに早い……何か意図があるのか?
相手が気にはなるものの、自分の調理に集中した方が良さそうだ。相手はかなり強敵かもしれない!
俺は、しばらく置いておいたダシを、布で濾しながら別の鍋に移していく。──綺麗な黄金色だ、なんとかダシが取れたみたいだ。
良し! なんとかタコの身も、ダシも準備が整ったぞ!
一区切りつき「ふぅ……」と息を吐く。
ハーモニーを見ると、彼女もこちらに気づいたのだろう。
右手を握り親指を立てた。──ハーモニーの方も、だいたい完成してるみたいだな。後はタネにして焼くだけだ!
「──千と二百数え終わった! 残り半分だ!」
ん? 後二十分なのか! 急がないとギリギリだぞ。
ハーモニーが準備をしてくれた卵をボールに入れ、その上からダシを入れた。
後は醤油で少し味付けをして──手早くかき混ぜる!
おおよそ混ざったら、少しずつ小麦粉を入れ、ダマが出来ないように気をつける。
「焦るな……細心の注意を払うんだ! 食感に関わるからな、落ち着け……俺!」
一度混ぜ終え、その中に海老のすり身と青のりを加え。タネを絡ませるようにもう一度かき混ぜた。
「よし、これでタネが完成したぞ!」
「──残り六百! 各チーム完成を急いでくれ!」
後十分……落ち着いて焼けば、まだ間に合うはずだ!
ハーモニーに温めておいて貰った銅板に、少し多めの油を引き、タネを銅板の穴が見える程度に入れた。
──ジュワ~!!
タネが焼ける音と香りに「おおおぉぉぉ!」っと観客から歓声が上がる。
ここで手早く材料を……! あれ? タコが少なくなっているような……まぁいいか。
タコを各穴に一個ずつ。その後、天カスを先に入れ、その上からまぶすように、長ネギ、紅しょうがを投入した。
そして再び、上からタネを被せるように掛ける! ──よし、後は焼くだけだ!
「──カナデ様、中々の腕前のようですが、その程度なのですか?」
自分達の厨房から、こちらの焼き作業中にティアが声を掛ける。
そして、ふんぞり返り俺を指差した。
「カナデ様、甘いです! 甘ちゃんです! 奥の手とは、最後にとっておくものなのですよ!」
それだけ口にすると、彼女に吸い込まれるように風の流れが変わった……。
──おい……嘘だろ!?
「我、契約に従い力を欲す者なり、我が魔力を糧に鋭利なる旋風を生み出したまえへ……」
彼女は、自身の目の前に右手を掲げた。
吸い込まれた風がその右手に集まり、可視化して小さな渦が姿を現したのだ!
「テュエッラ・アネモスイオ・クスィフォス!!」
呪文名と同時に、ティアは何かが入った大きなボールの中に、風の渦を押し付けた。
風の魔法で、材料が次々と粉々になっていく……何を作るか分からないが、料理に魔法を使ってくるのは予想外だ!
彼女の行動に、どこか焦りが出てしまったのだろう。──くそぉ、失敗した!
慌てていたかためか、ひとつ目をひっくり返すが形が崩れてしまった。
「まだ少し早かったか、焦るな俺!」
こんな時、ミコが起きてたら俺も魔法で……。
状況は非常に悪く、会場の歓声はティア一色になってしまった。
観客の心は、彼女によって鷲掴みにされたようだ。──くそぉ。この状況で、俺達に勝てる見込みはあるのだろうか?
0
お気に入りに追加
481
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる