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第二章 海上編─オールアウト号─

第114話 料理対決 真っ最中

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 ──滑り……取り終わったぜ!

 やっとだ。やっと、タコの滑り取りが終わった……。
 まさか、タコの滑り取りが、こんなにも心を疲弊ひへいさせるとは思いもしなかった。

「──六百数え終わったぞ! 残り、千と八百だ!」

 船長の大声が聞こえた。──時間で換算すると残り三十分ぐらいか? それにしても、ダシ作りから始めると時間がかなりキツい。

 俺は先ほど水につけておいたダシの元を、火にかける。
 そして手早く、もうひとつの沸騰させておいた鍋に塩を入れ、滑りを取ったタコを入れた。

「──だし作りと、茹でダコ作りの同時進行だ!」

 タコの切り身を熱湯につけると、直ぐ様のぼせたかのように赤く染まっていく。
 しかし箸を刺すと、まだまだ固く火が通りきっていないことが分かる。──これは、もう少し茹でないとだめだな。

 ふと、隣の鍋を見ると、昆布とホタテの貝柱が入ったダシが沸騰しかけている。
 慌てて鍋の中から、昆布と貝柱を取り出し「──あちち!」っと、火傷しかけながらも火から避け、大量の鰹節を入れた。

 このまましばらく置いておき、その間に茹で上がったタコを切ろう。

 火が通ったのを確認後、鍋からタコを出し冷水で冷やした。
 そして、まな板の上に乗せ1、5センチ角に切っていく。
 ここでポイントになるが、なるべく一つ一つに、吸盤が残るように切るのがコツだ。

「吸盤のコリコリが食感になるんだよな。よし、こんなものか?」

 タコを切り終わり、次の作業に移る。
 その前に、なんとなく気になり相手のチームを見ると、何やらフライパンから炎が上がっていた。

「フ、フランベだと!」

 フランベとは、主にフランス料理で使われる調理法だ。
 例外もあるが、フライパンで肉や魚を加熱料理した際に、最後の香り付け等で使われる技術……。
 彼女がそれを知っていることも驚きなのだが。

 「早すぎるだろ? もしかして一品だけじゃないのか?」

 まだ二十分以上ある。仕上げだとしたら、まだ明らかに早い……何か意図があるのか?

 相手が気にはなるものの、自分の調理に集中した方が良さそうだ。相手はかなり強敵かもしれない!

 俺は、しばらく置いておいたダシを、布でしながら別の鍋に移していく。──綺麗な黄金色だ、なんとかダシが取れたみたいだ。

 良し! なんとかタコの身も、ダシも準備が整ったぞ!
 一区切りつき「ふぅ……」と息を吐く。

 ハーモニーを見ると、彼女もこちらに気づいたのだろう。
 右手を握り親指を立てた。──ハーモニーの方も、だいたい完成してるみたいだな。後はタネにして焼くだけだ!

「──千と二百数え終わった! 残り半分だ!」

 ん? 後二十分なのか! 急がないとギリギリだぞ。

 ハーモニーが準備をしてくれた卵をボールに入れ、その上からダシを入れた。
 後は醤油で少し味付けをして──手早くかき混ぜる!

 おおよそ混ざったら、少しずつ小麦粉を入れ、ダマが出来ないように気をつける。

「焦るな……細心の注意を払うんだ! 食感に関わるからな、落ち着け……俺!」

 一度混ぜ終え、その中に海老のすり身と青のりを加え。タネを絡ませるようにもう一度かき混ぜた。

「よし、これでタネが完成したぞ!」

「──残り六百! 各チーム完成を急いでくれ!」

 後十分……落ち着いて焼けば、まだ間に合うはずだ!
 ハーモニーに温めておいて貰った銅板に、少し多めの油を引き、タネを銅板の穴が見える程度に入れた。

 ──ジュワ~!!

 タネが焼ける音と香りに「おおおぉぉぉ!」っと観客から歓声が上がる。
  ここで手早く材料を……! あれ? タコが少なくなっているような……まぁいいか。

 タコを各穴に一個ずつ。その後、天カスを先に入れ、その上からまぶすように、長ネギ、紅しょうがを投入した。
 そして再び、上からタネを被せるように掛ける! ──よし、後は焼くだけだ!

「──カナデ様、中々の腕前のようですが、その程度なのですか?」

 自分達の厨房から、こちらの焼き作業中にティアが声を掛ける。
 そして、ふんぞり返り俺を指差した。

「カナデ様、甘いです! 甘ちゃんです! 奥の手とは、最後にとっておくものなのですよ!」

  それだけ口にすると、彼女に吸い込まれるように風の流れが変わった……。

 ──おい……嘘だろ!?

「我、契約に従い力を欲す者なり、我が魔力を糧に鋭利なる旋風を生み出したまえへ……」

 彼女は、自身の目の前に右手を掲げた。
 吸い込まれた風がその右手に集まり、可視化して小さな渦が姿を現したのだ!

テュエッラ・アネモスイオ・クスィフォス旋風刃!!」

 呪文名と同時に、ティアは何かが入った大きなボールの中に、風の渦を押し付けた。
 風の魔法で、材料が次々と粉々になっていく……何を作るか分からないが、料理に魔法を使ってくるのは予想外だ!

 彼女の行動に、どこか焦りが出てしまったのだろう。──くそぉ、失敗した!

 慌てていたかためか、ひとつ目をひっくり返すが形が崩れてしまった。

「まだ少し早かったか、焦るな俺!」

 こんな時、ミコが起きてたら俺も魔法で……。

 状況は非常に悪く、会場の歓声はティア一色になってしまった。
 観客の心は、彼女によって鷲掴みにされたようだ。──くそぉ。この状況で、俺達に勝てる見込みはあるのだろうか?
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