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第二章 海上編─オールアウト号─

第103話 海上の神秘1

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「──へ、変形だって!」

 何だよ、その男心をくすぐる響きは……くそ、粋じゃないか!
 しかし、素直に信じていいのか?
 どうせプリントTシャツに変更したぜ! とかそんなオチだろ?

「いいねぇいいねぇ~! その期待と疑心が混ざりあった顔。おっと、平然を取り繕おうとしても駄目さ。戦友の事なら、なんでもお見通しだぜ?」

 腕を組み、俺の表情を見ながら満面の笑みを浮かべる船長。

 くそぉ、完全に見透かされている、そんなに分かりやすい顔をしていただろうか? でも、仕方ない! 男の子は変形、合体には目がないのだ。

 彼女達も俺と船長の話を聞いていたようだ──。

「ティアさん、変形ってなんですか?」

「教えてくださいよ、知ってるんですよね~? もしかして、変な形と言う意味でしょうか~?」

「いえ、ただ形状が変わるだけですよ? 勿体ぶるほどでも無いですよ」

「「へぇ~」」

 ──こ、この質量の物体の形状が変わる、それがどれだけ凄いことなのか、彼女達には分からないのか!
 まったく、そろいも揃って「へぇ~」だけって、ロマンが分かってないよな?

 どうやら、こちらの世界でも変形、合体は、大半の女性は興味を示さないものらしい。
 いたく残念だ……。

 船長にも聞こえていたのだろうか? 落ち込んでしまったのか、若干筋肉のピクピクに元気が無くなっている。

「いいさ、いいさ! 聞いて驚け、見て笑え!」

 ──いや、笑ったら駄目だろ。その台詞、偶然だよな? 偶然だよね?

 船長は階段を上り、操舵室に上がる。
 そして今まで以上の大きな声で、船員達に指示を出した。

「お前達! 舷外浮材げんがいふざい形態にシフトするぞ、配置につけ!!」

「──アイアイサー!」

 船長の覇気のある号令により、船員達が船が揺れるほどの声をあげた。
 そして、あわただしく動き出したのだ。──前回のTシャツの事もある、過度な期待はだめだ!

 しかし今回は、若干人間不振に陥る俺を、良い意味で裏切ってくれる事となった。

「セイフティーを解除しろ!」

 船長の掛け声と共に、船の両端に付いている、金属の爪のようなものが甲高い音をあげ持ち上がる。──ギ、ギミックだと! これは、興奮するなって言う方が無理だろ!

「速力減速、風力下げろ~! 全アーム展開! ──お前ら、声を出していけ!」

 オールアウト号は急速に速度を落とす、それと同じくして、船員達が船に付いている大型の木製の歯車を回し始めた。

マーソォルマッスル! マーソォルマッスル!」

 掛け声と共に歯車が回り、連動して繋がれていた巨大な鎖が動き出す。
 船の両サイドに付いていた、長細い形状のパーツが軋みをあげ始めた。どうやら船に乗る前気になっていたパーツは、折り畳み式のアームになっていたようだ。

 アームは延びる度に船を震わせ、水面に向かいドンドンと延びていく。
 そして最終的に、長細い謎のパーツは、水面のすぐ近くで止まったのだ!

「おぉ~……」

 少し感動してしまった。その姿は、船から翼が生えたようにも見え無くもない。 

 音と振動が鳴りやんだな? ひとまずこれで変形は終了なのだろうか。
 俺は様子をうかがうように船長の顔を見る、するとバッチリ目があったのだ。

 船長は「ハイ、ズドォーン!」とワンポーズ【ダブルバイセップス・バック】を決めた。

 ──ど、どうやら完成のようだ……。

 回りの船員を見渡すと、汗でシャツは濡れ息が荒くなっている。

「こ、この形態に……どんな意味があるんだ?」

 うちに秘めてた心の声が、興奮のあまりに漏れた。それを耳にしたのだろう、船長が俺に向かって拳を握り親指を立てる。

「直ぐにわかるさ! 今は筋肉を震わせその時を待つがいい!」

 き、筋肉を? とりあえず、このまま待てってことなのだろうか?

 彼の言う通り、俺はその時を待った。
 先程の演出もあり、俺の疑惑は一切無くなっていた。
 彼の言う、その時で胸がドキドキで一杯になる。
 そして、その時は程無くしてしてやってきた。

「──って何だよアレ!」

 俺は目を疑った、自分が知っている常識から余りにも逸脱する事象を目の前にしたのだ、驚くのも当然だろう。

「ど、どう言うことだよ! 目の前の海が無くなってるじゃないか!」

 文字通り、目の前の海が無くなっていたのだ。世界がそこで途切れているかの様に、航路上に海が存在しない。──こ、このまま行ったら落ちるぞ! そんな時だ──!

「──ちょ、ちょっと!」

 ビ、ビックリした。突如ハーモニーが俺に抱きついて来たのだ。
 彼女は目の前に見えた光景に震えているみたいだ。──俺も怖いけどな!

 しかし、船長や他のメンバーを見ても、今の状況に慌てているものがいない……。

 先ほど出した、翼みたいなので飛べるとでも思っているのだろうか?
 これだけの質量を、あのアームで支えきることなんて出きるわけがないだろ! まして、飛ぶことなんて……。

 俺とハーモニーが慌てふためくものの、無情にも船は進み、海の崖に近づいていく。
 制止を促す俺の声に、皆して「大丈夫だから」と言い、俺の意見を受け入れてはくれなかった。──み、皆の言葉を信じるしかない!

「総員、対ショック警戒体制! 沈むぞ!」

 オールアウト号は速度を維持したまま、海の切れ目に向かって進んで行く。もう、この勢いでは止まる事が出来ない!

 ──お、落ちる!

 俺は覚悟を決めた。抱きついているハーモニーの頭を、守るかのように強く抱き締めて……。

 世界最速船オールアウト号は、白波を越え、海の境目を勢い良く飛び出していったのだった……。
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