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第一章 グローリア大陸編

第34話 フィーデス町

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 クルム村を出て数日。
 俺達は、初日の盗賊事件以降はこれと言ったトラブルもなく、無事に目的地の町の目前まで来ていた。

「皆さん~、フィーデス町が見えてきましたよ~」

 御者席からのハーモニーの声を聞き、ほろを持ち上げ荷台から身を乗り出すと、目の前には歴史のありそうな教会を中心に、多くの建物が並び立ち並んでいた。
 魔物除けの為だろうか? グローリアよりは高くないものの、この町もぐるっと一周、煉瓦の外壁で囲まれていた。

 町の手前では二股に別れた川が流れている。
 町への入り口は、川をまたぐ様に鉄と木の橋で繋がれていた。
 町の規模で言えば、王都グローリアには負けてはいるもの、町並みの美しさだけなら、俺はこのフィーデス町の方が好きだな。

 川沿いに進んできた俺達は、そのまま馬車で町へと続く橋に差し掛かる。
 川幅は広く、これも魔物を寄せ付けない堀の変わりにもなっているようだ。
 馬車から顔を覗かせると、川は緩やかに流れており、魚の影や、鳥が羽休めに水面に体を預けている。

「おぉ! 綺麗な町だな!」

「そうでしょ~そうでしょ~」
 
 俺の言葉を聞いてか、明らかに上機嫌なハーモニー。──余程この町が好きなんだな。

 すぐ隣から、俺と同じように顔だけを出すトゥナが「確かこの町はガラスが有名と聞いたことがあるけど?」と、ハーモニーに質問した。

「そうですね~、昔はガラス作りも盛んだったのですが、今はシリカ砂を集める為のコストの都合で、作ってるところは少ないです~……」
 と、少し寂しそうに答える。──コストの都合って……異世界でも世知辛な。むしろ異世界だからなおさらか?

「それでも今も、観光のお客さん向けに、ガラス工房で自作の物が作れるんですよ~? それに、綺麗なガラス製品が、今もなお町に多く残っているのです~。それが目当てで観光に来られる方がいるぐらいに~!」
 
 片手で手綱を握り、開いた片手でガッツポーズをするハーモニー。

 あぁ~アレか! 棒に息吹き込んでクルクルするやつ! 何か、鍛冶と精通するところもありそうだし、時間があれば行ってみたいものだ。

 ハーモニーのガイド付きで橋を渡り終えた俺達は、入り口の検問所で入場許可を取る。
 ハーモニーは身分証、俺達はギルドの護衛依頼書を見せ無事通ることができた。
 指名手配されている手前、正直ドキドキしたが。この世界の情報伝達手段や警備が、割りとザルなお陰か? 不気味なほど、特に問題になないんだよな……。
 もしかしたら、俺のイメージは黒髪と甚平だけだったのか……。それはそれで傷つくな。

 門を越え町中にはいると、そこにはこの世界に来て始めていた見る、ガラス製品が多く目に留まった。
 ランプや窓ガラス、一枚物ではないが透明のショーウィンドウまである。
 ガラス製品も気になるが、町並み全体も煉瓦仕立てで、まるで中世ヨーロッパの町中のようだ。

 開いた口が塞がらないとは、この事か。まるで、おとぎ話の……夢の世界に紛れ込んだかのようだ。

 馬車は人波をかき分け、町の中央に向かう。
 そして俺達は、この町一番の高さのある建物、教会へとたどり着いた。

「到着しました~。トゥナさん、カナデさん、大変御世話になりました~」

 そう言葉にしたハーモニーは、トゥナの持っている依頼書に任務完了のサインをする。
 その上から用紙に手の平を当てると、うっすらと煙が上がり、手を離すとソコにはハーモニーの手形があった。

 魔法か何かだろうか……? ファンタジー世界ならではの風景だ。

 目の前で行っていたやり取りも興味深いが、建物も中々におもむきがある。

 見上げると、ステンドグラスを主体に複数の薔薇窓ばらまどが、外から見ても美しい。
 職人の手で作られただろうソレは、華々しく。つい目を奪われてしまう、洗練された繊細なデザインだ。──少しさびれているのが気にはなるが……。

「カナデさんも~ありがとうございました~」

 差し出されたハーモニーの右手を、俺は「こちらこそ楽しい旅だったよ」と握り返した。

「──ボクも握手するカナ!」

 バックから飛び出ようとしたミコを、俺は慌てながらも押さえつけた。──人目があるっていうのに……まったく。

「カナデ君、そろそろ行きましょうか? それでは、大変お世話になりました」

「元気でな? また顔見たら、気軽に声を掛けてくれよ?」

 俺とトゥナは、教会を背にしてギルドに向かって歩き出した。多少のトラブルはあったものの、悪い依頼じゃ無かったな。

「皆さん~! ご達者で~!」

 と、いいながら、その場を去っていく俺たちに向かって手を振るハーモニー。
 それを見て手を振り替えすトゥナと、バックから飛び出そうとするミコを制止する俺。──そのうちバックにファスナーつけてやろうか……。

 初めて乗ったけど、馬車の旅も中々に乙なものだな? 揺れが少なければもっと良かったのだが……。
 もし、自分の馬車を手に入れる機会があれば、サスペンションみたいなものも作ってみるのも楽しいかもしれないな。

 ──って! その前に自分の鍛冶工房だろ? でも工房を構えた後には荷物運搬用の馬車はやはり必要か……。

「カナデ君? カナデ君!」

 ボーっと考えている俺に、トゥナが話しかけていた。

「ご、ごめん。考え事してた……」

「もう、何回も声かけたのに……。前気を付けてね? ボーっと歩いてると人とぶつかるわよ?」

 頭を抱え呆れながらも、その後すぐに笑顔を俺に向けるトゥナ。
 怒られている中不謹慎かもしれないが、そう言った時に軽く剥れるトゥナが、また可愛いと思ってしまった。

「それで……何だっけ?」

「まったく……。カナデ君が明後日の方に歩いていちゃうから、待つように声を書掛けたの。ギルドに報告行くんでしょ?」
 
 そう言って彼女が指差す方を見ると、ギルドの看板らしきものが見えた。
 
 依頼は、無事に帰って報告完了後、報酬を貰う。ソコまでが依頼だからな。遠足と同じだよな……。

「ほらコッチだから」と、俺の手を引き歩き出すトゥナ。
 不意の事で、抵抗も心の準備も出来てなかったんだけど、嬉しい反面、少々……と言うよりは、かなり恥ずかしい。

 ギルドの扉を開け、そのままズイズイと建物の中に入って行く。もちろん? 俺の手を引いたままだ。
  引っ張られながらも、初めての町のギルドをキョロキョロと見回す俺。お上りさんの見えたに違いない。

 内装的には、グローリア城下町のギルドに近いかな? 酒場があり、受付があり、人々でごった返している。
 そしてこの町のギルドでも、俺は美少女に手を引かれ注目を浴びているわけで……。

 俺達は報告のため、ギルドの受付に近づくと「あらあら? とても仲良くやっているようですね?」と、若干怒り気味の、聞き覚えのある声がした。

 
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