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第一章 グローリア大陸編

第32話 円満解決

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 結局俺は、盗賊子分達が差し出してきた武器変わりの農具を受け取り、それに変わり食事を渡した。──こいつら、武器も無しに魔物がいる世界で生き残れるのだろうか?

 そんなことを考えるものの「無茶苦茶うまいでヤンス!」と泣きながら食べる姿を見ていると、ツッコミづらいな……。

 それにしてもコイツらの武器、なたに斧に鎌って……。完全にネタだろ、農業でもやるつもりだったのか?
 使い込み方も、石を叩いたみたいな刃物の欠けかたからみると、実際に農作業で使われていたと思われる。

「なぁ、いい加減事情を説明しろよ? お前達、何で盗賊なんてやってるんだ」

 素朴な疑問だ。もう、盗賊に向いてるとか向いてないとか、そう言ったレベルの話じゃない。
 盗賊という名の劇団か、お笑い芸人とさえ思えてきたぞ?

 子分達は「あにさんなら」と、皆して帽子を取り出した……。──何だろう、この俺に対する謎の信頼は……吊り橋効果か?

「──っは?」

 俺は、彼らが帽子をとった姿に驚いた……。
 なんと彼らの頭には、兎のような長い耳がついていたのだ。

「え? 兎人族とじんぞくなの!」

 トゥナとハーモニーも、彼らの姿を見て驚いているようだ……。
 エルフやドワーフがいるし、彼女達は今さら驚くことでもないと思うのだが……。
 俺からしても、何でバニーガールじゃないんだよ! 位なもので……。

「トゥナも驚いてるみたいだけど、やっぱりおっさんがまずいのか?」
 
「カナデ君……何言ってるのよ。兎人族って争い事とか嫌いな種族の代名詞なのよ? 臆病で有名なの」

 あぁ~、なるほど。それについては妙に納得だ。

 こいつら、終始何かに怯えてるもんな? まぁ、何かの正体はトゥナなんだけど。

「その臆病な兎人族……だっけか? が、何で盗賊なんて大それた事をしたんだよ?」

 臆病なおっさんが盗賊って。完璧に就職先を間違ってるだろ?

「元々はあっしらは、クルム村の厩舎で働いていたでヤンスよ。でも亜人嫌いの領主に、仕事と住む場所を奪われて、町を追い出されたんでヤンス。わ、悪い事だとは思ったでヤンス! でも、生きるために仕方なく馬を拝借してきたでヤンスよ……」

 クルム村って、朝まで俺達がいた町か。話を聞くと彼らの境遇には、少なからず気の毒には思うな……。
 人間って生き物は、未知のものや自分より優れている部分を持つものを、恐れたり妬んだりすることもあるからな……。
 かと言って、彼らに優れている所が、あるかは知らないが。

「人間なのに……。その時に、あっしらを救ってくれたのが親分だったでヤンス。盗賊って言ったって、本当は人質を取って、脅し、金品を奪って路賃にするつもりだったでヤンスよ。命を奪ったりとか、絶対無理でヤンス!」

 生きる為……か。俺もトゥナに出会っていなかったら、あるいは。

 彼らの言葉を聞くも、悠然ゆうぜんたる態度で、トゥナが彼らに近づいていく。

「それにしても少しやり過ぎじゃないの? 私、結構酷い事言われたわよ?」

 彼女の一言に三人組が体を寄せ合い、同じ様に小刻みに体を震わせる。その姿は、確かに小動物の様だ。──おっさん共のこの姿、見れたものじゃないな……。

「ご、ごめんなさいでヤンス。でも、あれは演技でヤンスよ! 親分がテンション上がって、あそこまであおらなかったら、この先の逃げ場のない藁の餌トラップで足止めできる予定だったでヤンス!」

 藁の餌トラップって……。

 しかし全容が見えてきたぞ?
 言われてみれば、あの時親分さんと揉めてたな。馬車の故障は予定外だったのか、てっきり危険な罠や仲間でも居ると思ってたんだけど。

「それが事実か、後で罠を確認しに行く。正直に話すなら今だぞ?」っと念のために脅しをかける。

「好きにするでヤンス!」

 そう言う彼らは、うっすら潤んだ瞳で俺をじっと見つめる。──嘘はついてなさそうだ……。

「トゥナの姉御に喧嘩売ったときも、皆でやればいいのに。臆病なあっしらを思って、親分一人で姉御に決闘を挑んで……おやびんが……おやびんが」

 ──おやびんやめい!

 トゥナに視線を送ると、幾分いくぶんか居たたまれない気分なのだろう。 先程から、彼女の視線が泳いでいる。
 まぁ理由はともあれ、結局のところ悪いのはこいつらなんだけどな? 少なくとも馬泥棒してるわけだし。

「それでこの後解放されたとして、お前たちはどうするつもりなんだ?」

 思い詰めるような顔をして三人組は俯いてしまった。
 しばらくすると、エースケがゆっくり口を開き「あにさんに優しくされてずっと悩んでたでヤンス……あっしら罪を償いたいでヤンスよ! 怯えて、悔やんで生きるのはゴメンでヤンス」と答えた。

 俺個人としては、そう思えるなら彼らにとって、やり直せるちょうどいい機会かもしれないと思うのだが……。

 そんなやり取りを聞いていてか、横からトゥナが「止めておきなさい!」と一言大声を上げた。

 てっきり、トゥナは、罪を償う事には賛成だとは思ってたんだけど。止めておきなさい?
 無意味にそんな事を言う彼女ではない「どうしてなんだ?」と俺はトゥナに問いかけた。
 恐らく、それなりの理由が……あると思ったからだ。

「あなた達が罪を告白して詰所に行ったら、まず待っている罰は……死刑よ?」

 は? ただの……と言うのは不謹慎か? でも、馬を盗んだだけで死刑って!

「何でそんな重い罰なんだ。窃盗と恐喝だろ? コイツらの罪って」

 確かに軽犯罪と言いがたい。
 でも、命を差し出さないといけないほどでもないだろ? 馬の盗難以外、実害あった訳じゃ無いんだ……。

「この国では、窃盗は軽い罪では無いのよ。それより一番の問題は」

 トゥナはそれだけ言うと、ゆっくりと彼らを見た。
 俺はその行動で、トゥナが言いたいことを察することができた。──亜人だからって事か? そんな理不尽な理由がまかり通るのか? この世界は……。

 三人組も、黙って俯いてしまったしまった……薄々は感じていたのだろう、その事実に。

 その暗い雰囲気の中、ハーモニーが急に手をあげて「あなた達が盗んだお馬さんを、コッソリ帰して来たならですが~? 私の所で面倒みましょうか~?」と、驚きの発言をしたのだ。

「いやいや! 曲がりにも犯罪者だぞ? そんな事いいのか?」

「大丈夫ですよ、私の家は教会ですので~。家の孤児の子供達には亜人さんも多いですし、大人の男手も欲しいですしね~。彼らのような境遇の方を、聖母マザーも見捨てたりしないと思いますよ~」

 う~ん、でも犯罪者をかくまうって良いのか? 色々問題な気もするんだが……。

 視線をトゥナに向けると、彼女は頭を抱えながらため息をつき「いいんじゃないかしら? この国の教会は国に並ぶ権力が有るから、簡単に手は出せないわ。それに罪を懺悔ざんげするなら教会よね。労働力は必要でしょうしね?」と一言。

 しかし俺は、そんな彼女の広角が上がっているのを見逃さなかった。──彼女も……甘いな。そんなところは粋だぜ。

 俺達の話を聞いていた元盗賊達は、揃いも揃って目を潤ませハーモニーを見つめた。

「で、でもいいんでヤンスか? 迷惑になるんじゃ……」

「いいんですよ~その代わり衣食住は与えられますが、賃金とかは出ませんよ~? ほぼタダ働きでもいいのなら……ですが?」

 ハーモニーはいい笑顔でそう答えた。全く……商魂逞しい子だよ。

「ありがとうでやんす……。ハーモニーの姉御!」

 大の大人が三人して泣きながら、見た目中学生位の女の子に、頭を下げる姿は中々にシュールだ。

 取りあえず、無事解決ってことでいいのか? これ……。
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