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第一章 グローリア大陸編
第23話 刀匠の孫2
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接着代わりに使われる藁に、火をつけ灰になるまで燃やしていく。
乾燥した空気の中、白煙は高く舞い上がる……それを眺めながら汗を拭い、深呼吸をする。──この後は作業の手を止めることが許されない……。
──よし!
選別した軟らかい金属だけを重ねて、テコ棒の上に乗せる。それを先ほどの燃やした藁とその灰で包み崩れないように泥で巻まいた……。──火炉に入れるぞ!
テコ棒に乗せられた金属を、火炉の中の灰を舞い上がらせながらも入れ込んだ。
鞴を使い、鉄が沸くまで空気を送り温度を上げる……。視力、聴力を限界まで集中させ鉄が沸くのを判断しなければならない……。
その間、周囲は物音もなく、ただ炭が焼ける音と香りだけが部屋を満たしている。揺らぐ炎を見ていると、呼吸すらも忘れてしまいそうになる。
重ねた金属を火炉から引き抜き。泥をブラシで払い金床の上に乗せた。沸かされた鉄は赤白く染まり、熱は容赦なく周囲の物を照らしながら熱していく。
「──こい!」
俺の一言と共にドワーフは大槌を振るった。火花は四方八方に飛び散り、叩かれた部分の金属の形状が少しずつ変化する。金属同士をくっつける鍛練の工程だ。一般的な鍛冶のイメージはこれだろう……。
金属が冷えて行く中、何度も……何度も叩き。藁を付け、再び鉄を火炉で沸かした……。目の前で揺らめく、赤々と揺らめく炎が俺の心を高揚させていく……。
金属が沸いたことを確認し、再び金床に乗せる……俺は小さめの槌に持ち替えて、金床を二度カンカンっと叩いた。それに合わせ再びドワーフが大槌で二度鉄を打つ。
俺が二度叩くと、ドワーフが二度、一度叩くと、一度……。時おり打つ場所を小槌で指定して。叩くたびに火花と汗が宙を舞う。表面に浮いたスラッグをブラシで払い。何度も……何度も叩く。
俺の合図に従いドワーフが叩く作業、これを相槌を打つと言う。あの相槌を打つと呼ばれる言葉の語源はこれだ。
それを幾度か繰り返すと、徐々に鉄が薄くなってきた。その金属の上に鏨を乗せ「この上を叩け!」と、声を出した。
「──ふぅんぬ!」
激しい息づかいと共に、ドワーフは指示通り鏨を叩く……。加工中の金属に縦向きの痕を刻んでいく。
槌を巧みに使い、痕にそって折り曲げる……形を整え、藁を付け……火炉に入れ鉄を沸かす。
とても地味な作業だ……それ故にこの工程はキツイ……縦に横にと、交互に五、六回程は繰り返さなければならないのだ……。しかもそれは内側の金属、心鉄部分の話だ。外側に巻かれる皮鉄は、これを最低でも十五回は繰り返したい──。
──どれぐらい繰り返しただろうか……?
「坊主! まだ叩くのか!」
刀の手法は西洋剣と比べ物にならないほど、叩いて折ってを繰り返す……。不純物を取り除くために…… 炭素量の調節の為に。
恐らくドワーフのおっさんも経験したことが無いのだろう……大槌を降る力が弱くなっている。
「なんだ? もうバテたのか! ドワーフってのは口だけなんだな!」
この作業がどれだけキツイか俺は良く知っている。前までは俺がじいちゃんの作業に、その大槌を振るっていたのだから……。しかし、妥協をされたら困るんだよ。ここは大事な工程の一つなんだから‼
「若造が……なめた口を聞くんじゃねぇよ!」
ドワーフが振るう槌に再び力が入る。──ありがたい……! 今、俺できる最高の一振りを作らなければならないんだ!
日が沈み……暗闇が世界を支配する中も、炉の明かりと鉄を叩く音は鳴り止まなかった……。ただ、時間だけが刻々と過ぎ去っていったのだった──。
「──で……出来た……」
材料を組み合わせ、形を整え、焼き入れも無事に終わった……。
研磨こそまだされていないが、イメージ通りの一振り。それが今、目の前に誕生したのだった……。
刃の根本はロングソードと同じぐらいだが、先端に行くほど細くなっている。彼女に合わせて……フォルトゥナの為だけに俺が打った、刺突剣の亜種をイメージした一品だ。
力の弱い彼女が、相手に一番、致命打を与える事が出来る、突きを主体に出来る剣……。突いても折れにくく、引き抜きやすい形状の長細い三角形の刃。
その上で、剣筋をコントロールしやすくする為に、なるべく手元に重心を持ってきたのである。
「ドワーフのおっさん……ありがとうございました! イメージ通りの……最高の剣が出来たよ!」
俺は最敬礼で感謝の言葉を述べ、約束の金をその場に置いた。そして作ったばかりの剣をかついで、店を出ようとしたのだが……。
「──小僧! ちょっと待て!」と、店を出ることを止められたのだ。
その言葉に振り替えると、ドワーフのおっさんは俺の払った金を指差し「さっきはすまなかった……! いい仕事を……最高の仕事をさせてもらった! この金はいらん、持って帰ってくれ!」と、言い始めたのだ。
俺としては、十分に満足したものが出来たんだけどな……。それに見合った金は払いたい。
しかし、そう言うときの職人の頑固さは、嫌と言うほどよ~く知っている。──どうしたものだろうか……。
俺に金を払わず帰る選択肢はなかった……。いい仕事だったからこそ、彼にも……生まれたばかりのこの剣の為にも、対価に合ったものを支払うべきだと思っているからだ。
──そうだ!
「それじゃあ、これを完成させたいからもう少し場所を貸してくれよ?」
「構わないがこの金は受けとらんぞ?」
まぁそう言うだろうな……だから!
「じゃぁ、ドワーフのおっさんは、その間にこの剣の鍔を作ってくれ! 急ぎで頼むよ。俺はそう言う芸術じみたのはできないからな。勿論、急ぎの作業だから金はしっかり出すよ」と、ドワーフが返したいと言った金を指差した。
ドワーフのおっさんは、俺の言葉に「ワッハッハッ」っと大きな声で笑い始めた。──落としどころは、これで正解だったみたいだな。
「ワシの名前はガイアじゃ! その仕事喜んで受けてやる」と親指で自分を指し笑顔で答えた。
その姿を見て、にやつく顔を我慢できず笑いながら「俺の名は帯刀 奏だ!」と、同じように親指を立て、今できたばかりの友に自己紹介をした。
どちらから共なく、差し出された拳がぶつかり合う……。
鍛冶屋の外では、大きな太陽が闇を照らし、世界を明るく照らし始めた……。それはまるで、新しい一日が始まった。もう起きる時間だぞ? と言わんばかりに。
しかし、この村には一軒だけ今だ熱から覚めることのない建物があった。
小さな村の小さな鍛冶屋では、鉄を叩き、鉄を削る音が今だ鳴り止まないでいたのだった。
乾燥した空気の中、白煙は高く舞い上がる……それを眺めながら汗を拭い、深呼吸をする。──この後は作業の手を止めることが許されない……。
──よし!
選別した軟らかい金属だけを重ねて、テコ棒の上に乗せる。それを先ほどの燃やした藁とその灰で包み崩れないように泥で巻まいた……。──火炉に入れるぞ!
テコ棒に乗せられた金属を、火炉の中の灰を舞い上がらせながらも入れ込んだ。
鞴を使い、鉄が沸くまで空気を送り温度を上げる……。視力、聴力を限界まで集中させ鉄が沸くのを判断しなければならない……。
その間、周囲は物音もなく、ただ炭が焼ける音と香りだけが部屋を満たしている。揺らぐ炎を見ていると、呼吸すらも忘れてしまいそうになる。
重ねた金属を火炉から引き抜き。泥をブラシで払い金床の上に乗せた。沸かされた鉄は赤白く染まり、熱は容赦なく周囲の物を照らしながら熱していく。
「──こい!」
俺の一言と共にドワーフは大槌を振るった。火花は四方八方に飛び散り、叩かれた部分の金属の形状が少しずつ変化する。金属同士をくっつける鍛練の工程だ。一般的な鍛冶のイメージはこれだろう……。
金属が冷えて行く中、何度も……何度も叩き。藁を付け、再び鉄を火炉で沸かした……。目の前で揺らめく、赤々と揺らめく炎が俺の心を高揚させていく……。
金属が沸いたことを確認し、再び金床に乗せる……俺は小さめの槌に持ち替えて、金床を二度カンカンっと叩いた。それに合わせ再びドワーフが大槌で二度鉄を打つ。
俺が二度叩くと、ドワーフが二度、一度叩くと、一度……。時おり打つ場所を小槌で指定して。叩くたびに火花と汗が宙を舞う。表面に浮いたスラッグをブラシで払い。何度も……何度も叩く。
俺の合図に従いドワーフが叩く作業、これを相槌を打つと言う。あの相槌を打つと呼ばれる言葉の語源はこれだ。
それを幾度か繰り返すと、徐々に鉄が薄くなってきた。その金属の上に鏨を乗せ「この上を叩け!」と、声を出した。
「──ふぅんぬ!」
激しい息づかいと共に、ドワーフは指示通り鏨を叩く……。加工中の金属に縦向きの痕を刻んでいく。
槌を巧みに使い、痕にそって折り曲げる……形を整え、藁を付け……火炉に入れ鉄を沸かす。
とても地味な作業だ……それ故にこの工程はキツイ……縦に横にと、交互に五、六回程は繰り返さなければならないのだ……。しかもそれは内側の金属、心鉄部分の話だ。外側に巻かれる皮鉄は、これを最低でも十五回は繰り返したい──。
──どれぐらい繰り返しただろうか……?
「坊主! まだ叩くのか!」
刀の手法は西洋剣と比べ物にならないほど、叩いて折ってを繰り返す……。不純物を取り除くために…… 炭素量の調節の為に。
恐らくドワーフのおっさんも経験したことが無いのだろう……大槌を降る力が弱くなっている。
「なんだ? もうバテたのか! ドワーフってのは口だけなんだな!」
この作業がどれだけキツイか俺は良く知っている。前までは俺がじいちゃんの作業に、その大槌を振るっていたのだから……。しかし、妥協をされたら困るんだよ。ここは大事な工程の一つなんだから‼
「若造が……なめた口を聞くんじゃねぇよ!」
ドワーフが振るう槌に再び力が入る。──ありがたい……! 今、俺できる最高の一振りを作らなければならないんだ!
日が沈み……暗闇が世界を支配する中も、炉の明かりと鉄を叩く音は鳴り止まなかった……。ただ、時間だけが刻々と過ぎ去っていったのだった──。
「──で……出来た……」
材料を組み合わせ、形を整え、焼き入れも無事に終わった……。
研磨こそまだされていないが、イメージ通りの一振り。それが今、目の前に誕生したのだった……。
刃の根本はロングソードと同じぐらいだが、先端に行くほど細くなっている。彼女に合わせて……フォルトゥナの為だけに俺が打った、刺突剣の亜種をイメージした一品だ。
力の弱い彼女が、相手に一番、致命打を与える事が出来る、突きを主体に出来る剣……。突いても折れにくく、引き抜きやすい形状の長細い三角形の刃。
その上で、剣筋をコントロールしやすくする為に、なるべく手元に重心を持ってきたのである。
「ドワーフのおっさん……ありがとうございました! イメージ通りの……最高の剣が出来たよ!」
俺は最敬礼で感謝の言葉を述べ、約束の金をその場に置いた。そして作ったばかりの剣をかついで、店を出ようとしたのだが……。
「──小僧! ちょっと待て!」と、店を出ることを止められたのだ。
その言葉に振り替えると、ドワーフのおっさんは俺の払った金を指差し「さっきはすまなかった……! いい仕事を……最高の仕事をさせてもらった! この金はいらん、持って帰ってくれ!」と、言い始めたのだ。
俺としては、十分に満足したものが出来たんだけどな……。それに見合った金は払いたい。
しかし、そう言うときの職人の頑固さは、嫌と言うほどよ~く知っている。──どうしたものだろうか……。
俺に金を払わず帰る選択肢はなかった……。いい仕事だったからこそ、彼にも……生まれたばかりのこの剣の為にも、対価に合ったものを支払うべきだと思っているからだ。
──そうだ!
「それじゃあ、これを完成させたいからもう少し場所を貸してくれよ?」
「構わないがこの金は受けとらんぞ?」
まぁそう言うだろうな……だから!
「じゃぁ、ドワーフのおっさんは、その間にこの剣の鍔を作ってくれ! 急ぎで頼むよ。俺はそう言う芸術じみたのはできないからな。勿論、急ぎの作業だから金はしっかり出すよ」と、ドワーフが返したいと言った金を指差した。
ドワーフのおっさんは、俺の言葉に「ワッハッハッ」っと大きな声で笑い始めた。──落としどころは、これで正解だったみたいだな。
「ワシの名前はガイアじゃ! その仕事喜んで受けてやる」と親指で自分を指し笑顔で答えた。
その姿を見て、にやつく顔を我慢できず笑いながら「俺の名は帯刀 奏だ!」と、同じように親指を立て、今できたばかりの友に自己紹介をした。
どちらから共なく、差し出された拳がぶつかり合う……。
鍛冶屋の外では、大きな太陽が闇を照らし、世界を明るく照らし始めた……。それはまるで、新しい一日が始まった。もう起きる時間だぞ? と言わんばかりに。
しかし、この村には一軒だけ今だ熱から覚めることのない建物があった。
小さな村の小さな鍛冶屋では、鉄を叩き、鉄を削る音が今だ鳴り止まないでいたのだった。
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