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第一章 グローリア大陸編

第11話 ヘッポコ?有能?

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 あの後、俺達一行は買い物を終え、町の外に出るため正門まで来た……。来たのは良いのだが。

「検問してるな……」

「検問してるわね……」

 そりゃ~そうだよな……指名手配したのなら当然出入り口も閉める……。閉じ込めてさえしまえば、逃げられる事は無いもんな?

「困ったわね……何か手を考えないと……」

 建物の影から出口を覗き込み、可愛らしい声で「うぅ~ん」と頭を悩ませるトゥナ……。
 コチラの都合で頭を悩ませてくれている訳だし、俺からも何かアイデアを提示しないとな……。とりあえず。

「──鑑定!」

 スキル鑑定眼を使い、周囲を見渡す……何か脱出する為のヒントでも……と思ったのだが。──なるほど、なるほど……無い事も無いか。

「外に出るだけなら、手が無い事も無いんだけど?」

 俺の発言を聞き、何やら考え込むトゥナ。──浮かない顔をしているが、どうかしたのだろうか?

「さっき宿で話してた事もあるから、嫌な予感しかしないのだけど……」

 嫌な予感って……成功率には自信があるんだけどな……。地球にいた頃じゃ無理だけど、この前の感じとこの無銘なら行けるはず!

「門から離れた外壁を……例えばこの辺りををスパンッ! と斬って外に出るとか?」

 そう言いながら外壁を叩きながら、得意気に話す俺の顔を見て、トゥナは深いため息をついた。

「当然却下ね……」

「えっ?」

 ──何で! 外壁の耐久力なら、じいちゃんの無銘で斬れる自信があるぞ? 息をするようにスパンッ! と斬れる自信があるのに……何で却下なんだよ。

 俺の納得してなさそうな顔を見て、呆れながらも笑顔で理由を口にする。

「外壁も、立てられた意味があると思うのよ……外壁が無い部分から魔物が入ってきたりしたら、町は大混乱よ?」

 ──う……ごもっともだ……。

 う~ん、ダメだな……こっちの世界に来て、ステータスのお陰もあってか自分の身体能力が上がった気がする……。その上、じいちゃんの無銘があまりにも斬れるものだから、無自覚に斬りたい衝動に襲われているのかもしれない……。自重せねば。

 目の前を通りすぎていく、馬車を指差しながら「定番だと行商の人にかくまってもらうとか?」と案を出してみたものの。

「荷物検査もしてるみたいよ? 何より行商が手配書を見てたら、カナデ君が売られる可能性もあるわ」と案の定却下された……。

 う~む八方塞がりだ……。困ったもんだな。
 この町で長居するのはリスクが高い……何とか早めにこの町を出たいのだが。

『何でそんなに悩んでるのカナ? 普通に通ればいいと思うシ』

 だから、それができたら始めから苦労してないだろ…。
 あそこの、偉そうな態度の人達に見つかったら不味いんだって。

『うん、だから魔法で姿をチョイチョイっと隠して、こそこそ通っちゃえばいいんじゃないカナ?』

 ──って! そんな事出来るのかよ! 何でもっと早く言わないんだ。俺、斬っちゃうとか恥ずかしいこと言っちゃったじゃないか……。

『だって起きたの、今さっきなんだモン……。カナデはすぐ斬りたがって危ないヤツカナ……』

 ぐぅ……お気楽精霊に危ないやつ認定された……。なんとも複雑な気分だ。

『どういう意味なのカナ!』と念話で叫んでいるミコを放置して今の話をトゥナに伝えることにした。

「どうも、魔法で姿が消せるらしいけど?」

 それをトゥナに告げると、彼女は頭を抱えて「何でもっと早く言わないの……?」と言われてしまった。──それは俺がもうミコに言ったから……って俺に言ってるの? ミコに対して言ってるんだよね?

「まぁいいわ、今追求しても仕方ないしね? じゃぁ、私は先に行くから外で落ち合いましょう」

 それだけ言うと帽子を深く被り直し、すたすたと正門に向かって歩いて行き、俺達はその姿を見送った。──トゥナは何事もなく通過したようだな。

 それじゃ~、俺達も見失う前に行こうか? ミコ、俺の姿を消してくれ。

『分かったカナ! 光魔法インビジブル!』とミコが返事と共に魔法の名前を唱えた。

 その直後、彼女と無銘が淡く輝きだす。鞘の先の方から順に透明になり、視認できなくなっていく。
 そして、ものの数秒で俺の全身が完全に見えなくなったのだ。──おぉ~、これスゴいな……使い方次第で悪用し放題だぞ……。

『カナデ、よこしまカナ……』と言う声が頭のなかに響いた。

 そうだった~……変なことを考えると、ミコに全部ばれてしまう! 明鏡止水めいきょうしすいだ! 明鏡止水……。

 俺は検問を受けてるトゥナの方へ、なるべく無心に……音が鳴らぬよう、注意を払い駆け出した。

 それにしても、ミコって意外と有能なのな……? 正直ダメなタイプの精霊かと思ってたよ。

『見直したカナ! エッヘンだシ!』

 姿の見えないはずのミコが、腰に手を当てふんぞり返る姿が目に浮かぶ様だ……。まったく、そういう所がダメそうに見えるんだぞ?

『ダメそう言うシ! もっと褒めろだシ!』

 そうこうしてミコと念話でじゃれてるうちに、検問もあっさり突破して門の外に出ることができた。

 町から少し先の街道沿いで、トゥナが警戒をするように辺りを見渡している。──あれは、俺を探しているのだろうか?

 俺は足音を立てず彼女に近づき、驚かそうとイタズラ心で彼女の頭を帽子の上からポンポンと撫でた。
 突然の事で驚いたのだろう……彼女はまるで、驚いた猫のように全身を震わせ、ひとっ飛びで俺から距離をとったのだ。

「カッ、カナデ君なの?」

「ごめん、ごめん、そんなに驚くと思わなくて」

 そう言いながらミコに頼んで姿を見えるようにしてもらうと、彼女も俺をみて肩の力が抜けたようだ……。──冗談半分の出来心だったとは言え、あんなに驚くとは……悪い事をしたな……。
 帽子越しに触れた、彼女の頭の柔らかく、ほのかな暖かさを思い出し、より罪悪感を感じ猛反省をした。

「驚いたわ……急に頭に触れるものだから……」

「本当にごめん……」と深く頭を下げる俺を見てか、優しく微笑むようにトゥナが口を開いた。

「次同じことしなければいいわ。それより今は、何とか無事に抜けられたことを喜びましょ」

 あっけらかんとする彼女の態度に、今回は甘えさせてもらおう。過ちは今後の活躍で挽回して見せるさ!

「それにしても本当、何とかって感じだな。俺も緊張のせいなの倦怠感けんたいかんがスゴいよ、それに少し眠く……」

 明るく振る舞い話をしていると、無銘からミコが出てきて俺のバックの中へ「うんしょ、うんしょ」と言いながら潜り込んできた。──なんか、こいつの定置になってないか?

 そんなミコから突如、驚くべき発言がなされたのだ。

「──カナデのそのだるさ、ボクがカナデの魔力使ったからカナ? 魔力消費すると疲れるシ!」

「おい、そう言うことは先に言ってくれよ……。て言うか、魔法って俺の魔力っての使うのかよ!?」

 鑑定眼で自身を見ると確かに減っている……。この世界に来て、初めて魔力を使ったのが自分の意識しないところって……。

「ボクの魔力使ったら疲れるモン。いいんじゃないカナ? 見つからなかったんだシ! それにトゥナンの頭だってこっそりとなでなで出来たでカナ? カナデ、可愛いトゥナンに興味しんしんだったシ?」

 ちょっと待て! そんな言い方したら、俺が気になる女の子にセクハラした人みたいに聞こえるだろ! ちょっと驚かせてみようかと思っただけなのに……。

「ふぅ~ん……カナデ君には、そう言う趣味趣向があるのね? 今後は気をつける事にしましょ」

 ほら! 勘違いしちゃったじゃないか! そりゃ~ちょっとは触ってみたいって下心もあったけど……。

「トゥナさん、違うからね? 純粋に脅かすつもりで……ドッキリのつもりで……」

 そう、誤解なんだ!セクハラとかじゃないから!

「カナデ君……さっきので、もし覗きとかしたら……分かってるわよね?」

 トゥナはその一言だけ残し、外套の裾を翻し、スタスタと先に歩いて行った……。そして、俺はその後を慌てるように追うのであった。
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