異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第2話 初仕事~研磨

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「ねぇねぇ、ソコのさん! 良かったら少し俺の話を聞いていかないかな?」

 俺が現在いる場所は国の施設を除き、この町で一番大きい建物

 未開の地の開拓、魔物の討伐、素材の回収などの雑用を、冒険者に依頼といった形で紹介する、異世界版のハ○ーワークみたいな場所だ。
 他にもこの王都のギルドは、魔物や収集品の大型買い取り施設、酒場や冒険者用の学校まで完備されている。


 俺は半日ほど前、突然訳も分からず異世界に召喚され、ハズレだと言われて挙句、はした金だけ持たされ城から追い出された……。

 その後、何とか生きのびるため色々と調べてみたものの、金もほとんど無く、身分もあやふやな俺は、まともな仕事につけるわけもなく、このギルドの一角を借りて商売をさせてもらっている訳だ。

「おぉ? 俺の事かい? 兄ちゃん。中々みる目があるじゃないか。」

 城であの男に投げつけられた金で、砥石や油、ハンマーや拭い紙などの品を購入した。
 そして冒険者相手に武器のメンテナンスで、生活費を稼がせてもらうことにしたのだ。
 ギルドには売り上げの十パーセントを納めることで話をつけたのだが。完全に足元を見られた、手痛い出費である。

「俺は鑑定のスキルもあるから、見る目だけには自信があるんですよね」

 俺は「鑑定」と言い、自身のスキル発動中に輝く、赤い片目を指差しながら目の前の冒険者にアピールする。

「なるほど……鑑定持ちか、それで話ってなんだ?」

 こちらの世界に来て、何故か言葉だけは初めから通じたおかげで助かったな……。
 原理は分からないが、こちらの世界に召喚された時にと呼ばれる特殊能力が手に入り、現在も有効活用させてもらっているわけだが……。
 しかし、それも会話することが出来なければ宝の持ち腐れであった。

 城を出た後自身を鑑定したみたが、スキルの名称は鑑定眼かんていがん。あの城では鑑定スキルと言われていたが、どういうわけか若干名称が違うようだ。

 俺の鑑定眼は人や物の能力を、文字や数字で教えてくれる物らしい。ただし、他の鑑定スキルとは決定的に違うことがあった。

 城で陛下……あのおっさんが言っていた『鑑定スキルが機能していないではないか』の発言が気になり、あの後金を出し普通の鑑定持ちに協力してもらい確認をした。

 その結果、俺だけ見えているものが他の鑑定スキル持ちと、少し違うことに気づいた。

 例えばそれが、生き物を見た場合、その生き物の体調、健康状態によるステータスの変化が。
 例えばそれが、物体であれば、消耗などで起こる物体の変化後の状態や寿命……耐久力の値まで見えてしまうのだ。

「あのですね? 冒険者さんは歴戦の戦士だと思うのですが……冒険者さんの武器が少々痛んでるのを見つけたから、つい声をかけてしまったのです」

 俺の歴戦の一言に気を良くしたのか、にやける顔を隠せないようだ。

「そうだな、確かに買ってからずいぶん使い込んだからな」

 冒険者はそう言うと目を細め、自身が持つ剣を握りしめる。
 まるで今までの戦いを思い出すかのように……。

「そこで、冒険者さんに良いお話があるんです! 俺にその剣をメンテナンスさせてくれませんか? お代はお安くしますよ?」

 目の前の冒険者は、何だ商売かと呆れた顔でその場を後にしようとした。
 
 マズイ! このままだと何処かに行ってしまう! 何か、何か足を止めさせる言葉をかけなければ。

「──偉大な冒険者さんはよく目につきます。その方の武器が曇っていたりしたら、貴方に憧れを抱いたり、目標にしている後輩は残念がりますね……」

 冒険者の足はピタッっと止まり「ふん、いくらだ?」っと聞いてきた。──これはチャンスだ!

 「俺も、貴方のような方の武器をメンテナンス出来れば、今後の商売にはくが付きます。本来なら3500Gの所を3000Gでどうでしょうか?」

 目の前の冒険者は、自身の白い無精髭ぶしょうひげを指で触り、考える様なそぶりをみせる。

 「ふむ、それでは頼もうか?」

 思ったより早い決断の後、冒険者は腰から自分の剣を抜き差し出した。
 俺は正座し、剣を両手で受け取ると頭を下げ、それを両手を引き寄せるようにして、胸元辺りまで引き寄せる。

 ──鑑定!

【鉄の剣(中サイズ)】

 攻撃力200-100

 耐久度15/30

 刃を鞘に納めたまま、丁寧に反対側を向け両面を観察する。ステータスの確認もだが、鞘の装飾や状態を一度堪能するためだ。

 ──なるほど……特にこれといった特徴もない量産品みたいだな。

 一八〇度手早く剣を回し、利き手で柄を握り、勢いよく音を出さないように引き抜いた。まぁこれは、正直なところパフォーマンスも含まれている。

 両刃の等身を拭い紙で拭いて驚いた。──何だこれ……。刃こぼれやさびが浮いてるじゃないか。

 木製のタライに水を張り、研磨石をいくつか水に浸した。そして、その中から一番目の粗い研磨石を選び剣を研いでいく。

 まずは、荒い研磨石で『研削けんさく』を行う。何度も何度も擦り、目に見える刃こぼれを無くしていく。大まかに表面を削っていく作業だ。

 しかし、これを忘れてはならない……。研磨石で削る行為は剣の刃を研ぎ寿命を減らしていく行為だ。
 それでも切れない刃で斬り続けるよりも、定期的に行う方がよっぽど剣の寿命は延びる。

 研磨石を徐々に目の細かい物に変え、何度も擦り……それを何度も繰り返し、最終的に『研磨』を行う。少しずつ仕上げ、刃を立てていく。

その後水でよく洗い、拭い紙で完全に拭き取る。──ひとまず、これぐらいで良いだろうか?

剣を真っ直ぐ立て、剣身けんしんをよく見る。──鑑定。

【鉄の剣(中サイズ)】

 攻撃力200+50
 
 耐久度15/30

 攻撃力がかなり変わったな。驚いた……研磨を行うだけで元の能力の最大値を超えたのか……。

 これぐらいで十分だろう、まだまだ手を加えることは出来るが……斬れすぎて、本人が自分の力量を誤認するのも使い手のためにならないな。

 油を布に含ませ、剣身を磨き錆止めをおこなった。サービスで装飾部も拭き、新品のように仕上げて鞘に納める。

「はい、完成しましたよ」

 剣を回転させ手に取りやすい向きに変える。そして、冒険者の男に手入れをした剣を差し出した。
 しかし、その冒険者は何故か俺を見つめボーッとしている。

「冒険者さん?」

「あっ、あぁ!」

 目の前の冒険者は、慌てるように剣を受け取った。そして、その後支払いをしてくれたのだが──あれ……?3500Gあるぞ?
 
「あの、支払いの金額が……」

 俺がそれだけ口にすると、目の前の彼は「いいよ」っといいながら背を向けた。

「いい仕事を見せてもらった。それに見合った額を払ったつもりだ。いや、むしろ足りないぐらいかな?」

 そう言って、彼はそのまま手を振りながら歩き去っていく。

 あの器量、歴戦の冒険者ってのもあながち間違いじゃないかもな。
 彼の背を見て先程の言葉への感謝と、彼に幸あれと、俺は正座のまま頭を下げ一礼をしたのであった。
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