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第一章 目覚め

第5話 昔の家2

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 王都サラームに入ろうとしたものの、魔物ヒポの侵入を警戒した兵により、わっちらは追い返されてしまう。
 その対策のため、当時住んでおった家に来たのはいいのじゃが……。

「これはまた、ずいぶんと生い茂っておるわ」

 当時住んでいた我が家は、確かに残っておった。
 しかし建物の大半は草木で覆われており、外壁の一部しか確認が出来ない。

 ふむ、今の状態では到底中に入ることも出来そうにないか……。仕方がないの。

たくましく育っているところすまぬ、じゃが少し避けてもらおう」

 わっちはパンッ! っと大きく手を叩く。
 そしてゆっくり手を広げると、木々が家への道を作るように動き出した。

「出入り口は確保した。これで、何とか入ることは出来よう」

 トンネル状に開かれた先には、どれ程使われておらなかったか分からぬ程の、くたびれた扉が現れた。

 わっちは木々のアーチを潜り抜け、ドアノブを回す。

「懐かしの我が家……っと言ったところかの?」

 今し方握ったノブだけ手に残り、ドアは奥へと倒れた。

 これは倒壊しないのが不思議なぐらいじゃ。
 おそらくは、外壁に絡み付いておる蔦のお陰じゃな。

 わっちは魔術で生み出した蔦で、転倒を防ぐ補強を施し、中へと足を踏み入れた。

「ライト!」

 声を上げると、地面に転がっておるランタンから淡い光が放たれる。

 それにしても凄いホコリじゃなー。薬が無事ぶじじゃといいんじゃが。

 床下の収納庫を探しだし、その蓋を開ける──。

「確かここに入れた記憶が……。お、良かったわ、保存魔術がまだ効いておる。二つとも問題ないようじゃな」

 わっちは二つの瓶を取り出し、そのうちの一つから、紫色の丸薬を手のひらの上に出した。

「さぁヒポ、これを食べるが良い」

 これを食べれば、問題はすべて解決するはずじゃ。そのはずなのじゃが……。

「なんじゃ、どうした。匂いはこんなんじゃが、効果は保証するぞ」

 しかしいくら勧めようが、ヒポは口にしようとはしなかった。
 それどころか後退りをしながら、わっちから距離を取って行く。

「なんじゃ、わっちの薬が信用できぬか? …………良いから観念せい!!」

 逃げようとするヒポを蔓の魔術で縛り付け、わっちは無理やりヒポの口の中に丸薬を放りこんでやった。

 すると、みるみる内にヒポの体が縮み始めたのだ。

「くっく。ずいぶん愛らしくなりおって」

 最終的に、手のひらに乗せる事が出来る程のサイズに縮むと、無理やり苦い丸薬を飲ませたのを怒ったのじゃろう。
 手のひらに乗ったヒポは、わっちの指に噛みついてきおった。

「噛まれても全然痛くないの。このようすじゃ、寝首をかくのは、随分先のことになりそうじゃな?」

 おー拗ねておる拗ねておる。

 抵抗しても無駄じゃと分かったのだろう、ヒポはわっちの手の上で、ふて寝を始めた。

「でもこれなら、道具袋にも隠れることが出来る。我ながら良いアイデアじゃ」

 比較的綺麗なバックを探しだし、薬とヒポを中へと入れた。

 これで問題は解決、あとは町へ入るだけじゃが。

「他にも使えそうな物は持っていくが……。ほとんどが使い物にならぬの、流石に保存食も全滅じゃ、いったいどれ程の月日が流れたと言うのじゃ?」

 あの村におったときは、季節さえ分かれば暦など誰も気にする必要などなかっらからの……。
 詳しいものに聞くか、調べぬかぎりは分からぬか。

「まあ良い、元よりその気。そうじゃ、折角ここまで来たんじゃ、わっちも着替えておこうかの?」

 流石に、こんな血塗れのヒラヒラしたドレスでは不味い。
 こんな格好をしておったら、今度はわっちが疑われてしまう事は必至じゃ。

「洋服棚は無事じゃといいんじゃが……。お、こっちの保存魔術も働いておるわ、流石わっちがこしらえただけの事はあるの、しかし問題はサイズじゃな」

 まぁ、長ければ縛るなりすれば良いか。

「今の世は魔女に風当たりが強いしの。なるべく悟られぬコーディネートの方が良いかの?」

 わっちは長袖のシャツ、ショートパンツにニーソ、ロングブーツを手に取る。
 そしてさっそく、袖を通す事に……。

「──な、なんと言うことじゃ!!」

 今までの人生で、一番の驚きじゃった。
 何故なら袖を通した衣類は、丈、肩幅に胸囲、胴囲すべてがジャストサイズだったのじゃ。

「当時のわっち、ゆうに成人を越えておったんじゃぞ!! 他所なり小柄じゃとは思っておったが、まさか十三のこむすめと同じスタイルとは……」

 わっちは長い髪を結い、丈の短い外套を手に取り羽織る。

 涙が出そうじゃ、特にペッタンコが……。って──誰がペッタンコじゃ!!
 
 頭の中で突っ込みを入れていると一人の人物が脳裏に浮かび上がる。

「ルーカス……よもや、ロリコンじゃったか?」

 わっちは想い人であった男の性癖に、疑問を持たざるをえなかったのじゃった……。
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