上 下
64 / 72
1章

第64話 エトラと話

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、ここが左軍か……」
 
 俺は息を切らしながら、左軍の陣に着いた。

 すると左軍の隊長は、俺を見つけるとゆっくりと近づいてくる。
 
 そして俺の目の前に来ると、跪き口を開いた。
 
「カーメンさん、た、大変です」
 
 左軍の将軍は傷だらけだ。

 恐らく敵を食い止めるために全力を尽くしたんだろう。
 
「エトラはどこだ? 魔王軍はどうなっている?」
 
 俺は傷だらけの将軍に質問する。

 すると将軍は重々しく口を開いた。
 
「さ、先ほど左軍に突然上位種の魔物が大量に出現し、一気に形勢が逆転されました。ですがエトラさんは諦めず、ありとあらゆる軍略を用いて魔物の侵攻を止めました」
 
 傷だらけの将軍は悔しそうに呟く。

 被害を最小限に……か、エトラは凄いな。
 
 だが俺は左軍を見渡すと、かなり多くの兵が傷ついていることが分かる。
 
「ではどうしてエトラがいないんだ? 魔物を押し止めていたんだろ?」
 
 俺がそう聞くと、傷だらけの将軍は下を向きながら答える。
 
「今エトラさんは天幕にて治療中です。かなり重傷のようで……」
 
「だ、誰にやられたんだ? エトラを守る兵士は精鋭だったはずだ!」
 
「そ、それが、突然現れた銀髪の男にやられたと」
 
 俺はその言葉を聞いて、膝から崩れ落ちた。
 
 その話を聞いた時、頭が真っ白になった。

 その銀髪の男というのは間違いなく魔王だろう。

 原作ではボスキャラの中で最恐のキャラだ。

 だがこの世界は原作のストーリーとだいぶ異なってしまっている。

 そのため魔王が侵攻しているかどうか分からなかったのだが。
 
「取り合えずエトラと話がしたい。通してくれ」
 
 俺がそう頼むと、将軍はゆっくりと頷く。

 そして俺は天幕に入っていくのであった。

 ★

 天幕に入ると、エトラはベッドに横たわっていた。

 その横では医者らしき人がエトラを治療している。
 
 そしてエトラが俺に気づくとゆっくりと口を開いた。
 
 だがその目は虚ろで生気がない。

 俺は治療中の医者に許可を取り、エトラの横まで行く。
 
「エトラ!」
 
「カ、カーメンさん、すみません……」
 
 エトラは辛そうに呻く。

 その姿はかなり痛々しい。
 
 俺がそんなことを考えていると、エトラは辛そうな目のまま、ゆっくりと口を開く。
 
「左軍は序盤劣勢でしたが、私が軍略を駆使してなんとか持ち堪えました。しかし、突然現れた男によって一気に形勢が逆転しました。その男の魔力量は桁違いで、私達では到底敵いませんでした」
 
 エトラはそこまで言うと、ゆっくりと息を吐く。

 そしてさらに話を続けた。
 
「今は予備軍を投入し、前線は何とか持ち堪えていますが、もう長くは持ちません。銀髪の男が前線にいる限り、いくら兵士がいてもあの魔力量によって焼かれてしまいます」
 
 俺はエトラの報告を聞き、思わず地面を叩く。

 このままでは前線が崩壊し、すぐに魔物がこちらまで攻めて来るだろう。
 
「前線にて精鋭兵の隊長達が銀髪の男を足止めをしていますが、もう長くは持たないでしょう」
 
 エトラはそこまで言うと、大きく息を吐く。
 
 俺はそんなエトラを見ながら、思わず口を開いた。
 
「ありがとうエトラ、君はよく戦った。後のことは俺が何とかしよう」
 
 俺はそう言って椅子から立ち上がる。

 今の現状を把握して、これから何をすべきか考えなければ。

 そして天幕から出ていこうとすると、エトラが俺を止めるかのように声を出す。
 
 その小さな声は俺にしか聞こえないような声で俺の耳に届いてきた。
 
「奴はいくつか魔法書を持っていました」
 
 エトラはゆっくりと俺の目を見ながら、そう言った。

 魔法書……おそらくSS級のアイテムだろう。

 各国に1つ存在するかぐらいのレア物。

 つまり奴には魔術の才能があり、魔力量が常人と桁違いということだ。

 だがそれは俺も同じだろう。
 
「ありがうエトラ。ゆっくり寝ててくれ」
 
 俺はそう呟いて天幕から出る。

 そして辺りを見渡し、決心を固める。
 
「さて、やるか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑ お気に入り登録をお願いします! ※ 5/15 男性向けホットランキング1位★  目覚めたら、妹に無理やりプレイさせられた乙女ゲーム、「ルーナ・クロニクル」のモブに転生した俺。    名前は、シド・フォン・グランディ。    準男爵の三男。典型的な底辺貴族だ。 「アリシア、平民のゴミはさっさと退学しなさい!」 「おいっ! 人をゴミ扱いするんじゃねぇ!」  ヒロインのアリシアを、悪役令嬢のファルネーゼがいじめていたシーンにちょうど転生する。    前日、会社の上司にパワハラされていた俺は、ついむしゃくしゃしてファルネーゼにブチキレてしまい…… 「助けてくれてありがとうございます。その……明日の午後、空いてますか?」 「えっ? 俺に言ってる?」  イケメンの攻略対象を差し置いて、ヒロインが俺に迫ってきて…… 「グランディ、決闘だ。俺たちが勝ったら、二度とアリシア近づくな……っ!」 「おいおい。なんでそうなるんだよ……」  攻略対象の王子殿下に、決闘を挑まれて。 「クソ……っ! 準男爵ごときに負けるわけにはいかない……」 「かなり手加減してるんだが……」  モブの俺が決闘に勝ってしまって——  ※2024/3/20 カクヨム様にて、異世界ファンタジーランキング2位!週間総合ランキング4位!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...