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序章

第15話 専属メイド

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「し、師匠、大丈夫ですか?」

「ああ、俺は大丈夫だ」
 
 俺はセシルとの戦いでかなり魔力消耗してしまったが、なんとか意識を保てるほどには回復できた。
 
「それじゃ、帰るか」
 
 俺がそう言うと、セシルは『待ってくれ』と言いながら、俺が帰ろうとするのを止める。
 
「せ、せめて名前を教えてくれないか?」
 
「申し訳ないが、俺は面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なんだ、仮面を被ってるのもその為だ」
 
 まあ今のは少し苦しい言い訳だが、納得してほしい。
 
 俺がそんな事を考えていると、セシルはしょんぼりとしながら頷く。
 
「分かった、では『仮面の男』と呼ばせてもらう」
 
 正直、呼び名はどうでも良い。

 仮面を取って騒ぎになるよりかは気が楽だ。
 
「それでは私達は次の仕事があるので、これで失礼する」
 
 そう言うとセレスは他の騎士たちを引き連れて移動していく。
 
 そしてブライロン伯爵の方を見ると、何だか申し訳ない表情をしていた。
 
「時間を取らせてしまい申し訳無い」
 
「いえいえ、俺も勉強になりましたよ」
 
 俺がそう言うと、ブライロン伯爵は満面の笑みを浮かべる。
 
「馬車はもう手配しております、どうぞご乗車ください」
 
 ブライロン伯爵の手配により、メイドさんが俺達の元まで馬車を引き連れて来る。

 俺はメイドさんに感謝の言葉を言い、馬車に乗り込む。

 するとブライロン伯爵が俺に向かって口を開く。
 
「本当にありがとうございました!」
 
「また魔物が出たら、いつでも呼んでください」
 
 そして馬車が動きだし、俺達はブライロン伯爵邸を後にする。

 王都まで着く間、俺は馬車の窓から外を眺めていると、クレハがこちらをじっと見つめている。

 そういえばさっきから口数が少なくなっていたけど、何かあったのだろうか。

 そう思っているとクレハが突然口を開く。

「師匠、お話があります!」
 
「お、おう」
 
 突然大きな声を出すので驚いてしまった。

 クレハは真剣な表情で俺を見つめる。
 
 これはかなり重要な話かもしれない。

 ここはしっかりと聞いたほうが良さそうだな。
 
 俺は姿勢を正して、話を聞く姿勢をとる。

「私、師匠と離れるのが嫌なんです」
 
「うんうん」
 
「だから、私をメイドとして雇ってください!」
 
「うんう……ん?」
 
 一瞬聞き間違えかと思ったが、どうやら聞き間違えではないようだ。

 今クレハは、俺のメイドになりたいと、そう言っている。

 原作では主人公である第二王子、アデルの専属メイドをするという役割になっていたはず。

 だが、クレハを俺の専属メイドにしても良いのだろうか?

 メイドにするということは、俺の正体を知られると言うことでもあるのだ。
 
 だから俺は少し不安になってしまう。

 そうしていると、クレハは俺に詰め寄る。
 
 「ダメですか? 私、師匠に恩返しがしたいです」
 
 クレハは目を潤ませて、俺の手を握ってくる。

 その目は本気の眼差しだった。
 
(これは断りにくい雰囲気だな……)
 
 そんな目で見つめられると断れなくなってしまう。
 
「正直言って、俺もクレハと一緒にはいたい。だけどな、俺について来たらクレハの命が狙われるかもしれないんだぞ」
 
 俺はクレハにそう告げる。
 
 すると、クレハは俺の手を強く握りしめて口を開く。
 
「別に構いません、私は命を狙われても」
 
 セシルは真剣な眼差しで俺を見る。
 
(はぁ、これは俺が折れるしかないのかな)
 
 俺はそう思いながらため息を吐く。
 
「それじゃあ俺の正体を知ってもか?」
 
 俺は顔に付いている仮面を外し、自分の顔を見せる。
 
「俺はハーキム王国の第一王子、ロラン・レット・ハーキムだ」
 
 俺はクレハに自分の正体を伝える。

 そんな俺をクレハは口をぽかんと開けながら見つめてくる。
 
 そして、数秒後に我に返る。
 
「只者ではないとは思ってましたけど……王子とは……」
 
 クレハは驚きの表情をしている。

 まあそりゃあそうだろうな、一国の王子がこんな格好してるとは思わないだろうからな。
 
「俺に関わると命の危険がある。それでも俺について来るのか?」
 
 俺は改めてクレハに確認をする。

 王族同士の争いは非常に残酷だ。

 身内であろうと、容赦なく殺してしまう。

 そんな争いにクレハを巻き込んで良いのだろうか?

 すると、クレハは真剣な表情で口を開く。

「私は師匠に、ロラン師匠について行くと決めました」
 
 クレハは俺の目を見ながらそう言った。

 その目は何の迷いもなかった。

 どうやら覚悟は出来ているみたいだ。

 ならば俺が言うべきことは何もないだろう。
 
 俺は笑みを見せながら口を開く。
 
「分かった、クレハを俺の専属メイドとして採用しよう」
 
「ほ、本当ですか!!!」
 
 俺がそう言うと、クレハは嬉しそうに笑う。
 
「それじゃあ、メイドとして『夜』のお世話もしっかりします!」
 
「よ、夜? よく分からないが、夜はしなくていいぞ?」
 
 俺はクレハの言っている事がよく分からなかったが、まあ気にする事ではないだろう。
 
 こうして俺はクレハを専属メイドとして雇うことになった。

 これからどんな事が起こるか分からないけど、クレハと一緒ならば乗り越えられる気がする。
 
 そして雑談をしながら、王城へと向かうのだった。
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