1 / 17
1章
第1話 婚約破棄の宴
しおりを挟む
王都最大の夜会場。
煌びやかなシャンデリアが天井から光を放ち、貴族たちが華やかな衣装を身に纏い、優雅な音楽に合わせて談笑していた。
その中心にいるのは、王太子エドワード・ライオネル・ルードと婚約者である私、アリシア・フォン・グランベルだった。
私は、背中まで流れる青い髪をきちんと整えた姿だ。
その鮮やかな青髪は、夜空を思わせる美しさを湛え、存在をさらに際立たせている。
鋭い瞳と整った顔立ちは、どこか気高く、剣士としての覚悟を物語っていた。
一方で、エドワードはその完璧な容姿と威厳を兼ね備えていた。
金髪を丁寧に整え、その瞳は淡い碧色で、どこか冷たさを感じさせる。
高身長でがっしりとした体躯は、王太子としての風格をさらに引き立て、身に纏う真紅の王家の礼服は威厳そのものだった。
私はいつもと変わらない姿で、控えめな微笑みを浮かべていたが、その瞳にはわずかな疲れが宿っていた。
剣術の訓練や社交界で日々忙しく、この貴族社会は馴染みづらい場所だった。
それでも、婚約者であるエドワードは、剣士としての私を認めてくれていた――そのはずだった。
しかし、その「揺るがないはずのもの」は、この夜、無惨に崩れ去る。
「諸君、静粛に」
エドワードが場を制し、高らかに声を上げた。
注目が彼に集まる。
王太子としての威厳に満ちた態度に、誰もが耳を傾けた。
「本日、この場を借りて、皆様に重要なご報告があります」
エドワードの声はよく通り、会場は瞬く間に静まり返った。
私は何の話か知らず、少し首を傾ける。
だがその次の瞬間、彼の口から放たれた言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「私は本日をもって、アリシア・フォン・グランベルとの婚約を解消いたします」
まるで鐘の音が響くように、その言葉が会場中に染み渡った。
「え……?」
私の脳が一瞬、思考を止める。
婚約破棄――今、何と言った?
「理由は、彼女が王妃として、私の妻としてふさわしくないからだ」
エドワードは続けて冷淡に言い放つ。
「女性らしい優美さが欠け、剣術ばかりに没頭し、社交界での立ち振る舞いも不適切だ」
周囲からざわめきが聞こえる中、エドワードの隣に現れたのは侯爵家令嬢のセリーナ・ベルトラム・ヨーゼルだった。
金色の髪を美しく結い上げ、完璧な笑顔を浮かべた彼女は、まさに絵に描いたような理想の貴婦人だ。
「まぁ、当然の判断ね」
セリーナが私に冷たい視線を向ける。
「剣術にうつつを抜かすなんて、王妃としての自覚が足りませんわ。エドワード様も、さぞご苦労されたことでしょう。」
「その通りだ」
エドワードは満足げにうなずきながら、私を一瞥する。
「お前はいつも剣ばかり振り回して、俺の顔に泥を塗ってきた。王妃は美しく優雅であるべきだというのに、お前はそれを理解しなかった」
私は拳を強く握りしめた。
血の滲む努力をした自分が、こうして公然と侮辱される理由がわからなかった。
「剣が何だというの? 私はあなたのために――」
「黙りなさい!」
セリーナが私の言葉を遮る。
「王太子妃たる者が、剣を振り回して恥を晒すなんてあり得ないわ! あなたのような下品な女が王家の名を汚すことを、私たちは許さないのよ!」
その場にいた貴族たちからも、くすくすと嘲笑が漏れる。
誰もが私を見下す目を向けていた。
「セリーナ……」
エドワードが優しく彼女の肩に手を置く。
「君のような気品溢れる女性こそ、王家にふさわしい。君が隣にいれば、俺は最高の王になれる。」
セリーナはその言葉に満足げに微笑んだ。
彼女にとって、王太子と結婚する理由は明白だった。
(セリーナの目的は……権力か)
彼女の笑顔の裏には、欲望と計算が渦巻いていた。
私は周囲の笑い声や侮蔑の視線を感じながら、静かに立ち上がる。
そして、冷たい声で言った。
「婚約破棄、お受けします」
その言葉を最後に、私は背筋を伸ばしてその場を去った。
背後では祝福の声や笑い声が響いている。
だが、私は振り返らない。
(私が女性らしくない? それでいいわ。これからは、もっと自分のために生きる)
夜の街灯が揺れる中、私は孤独に歩き出した。
その瞳には悔しさと怒り、そして微かな決意の光が宿っている。
煌びやかなシャンデリアが天井から光を放ち、貴族たちが華やかな衣装を身に纏い、優雅な音楽に合わせて談笑していた。
その中心にいるのは、王太子エドワード・ライオネル・ルードと婚約者である私、アリシア・フォン・グランベルだった。
私は、背中まで流れる青い髪をきちんと整えた姿だ。
その鮮やかな青髪は、夜空を思わせる美しさを湛え、存在をさらに際立たせている。
鋭い瞳と整った顔立ちは、どこか気高く、剣士としての覚悟を物語っていた。
一方で、エドワードはその完璧な容姿と威厳を兼ね備えていた。
金髪を丁寧に整え、その瞳は淡い碧色で、どこか冷たさを感じさせる。
高身長でがっしりとした体躯は、王太子としての風格をさらに引き立て、身に纏う真紅の王家の礼服は威厳そのものだった。
私はいつもと変わらない姿で、控えめな微笑みを浮かべていたが、その瞳にはわずかな疲れが宿っていた。
剣術の訓練や社交界で日々忙しく、この貴族社会は馴染みづらい場所だった。
それでも、婚約者であるエドワードは、剣士としての私を認めてくれていた――そのはずだった。
しかし、その「揺るがないはずのもの」は、この夜、無惨に崩れ去る。
「諸君、静粛に」
エドワードが場を制し、高らかに声を上げた。
注目が彼に集まる。
王太子としての威厳に満ちた態度に、誰もが耳を傾けた。
「本日、この場を借りて、皆様に重要なご報告があります」
エドワードの声はよく通り、会場は瞬く間に静まり返った。
私は何の話か知らず、少し首を傾ける。
だがその次の瞬間、彼の口から放たれた言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「私は本日をもって、アリシア・フォン・グランベルとの婚約を解消いたします」
まるで鐘の音が響くように、その言葉が会場中に染み渡った。
「え……?」
私の脳が一瞬、思考を止める。
婚約破棄――今、何と言った?
「理由は、彼女が王妃として、私の妻としてふさわしくないからだ」
エドワードは続けて冷淡に言い放つ。
「女性らしい優美さが欠け、剣術ばかりに没頭し、社交界での立ち振る舞いも不適切だ」
周囲からざわめきが聞こえる中、エドワードの隣に現れたのは侯爵家令嬢のセリーナ・ベルトラム・ヨーゼルだった。
金色の髪を美しく結い上げ、完璧な笑顔を浮かべた彼女は、まさに絵に描いたような理想の貴婦人だ。
「まぁ、当然の判断ね」
セリーナが私に冷たい視線を向ける。
「剣術にうつつを抜かすなんて、王妃としての自覚が足りませんわ。エドワード様も、さぞご苦労されたことでしょう。」
「その通りだ」
エドワードは満足げにうなずきながら、私を一瞥する。
「お前はいつも剣ばかり振り回して、俺の顔に泥を塗ってきた。王妃は美しく優雅であるべきだというのに、お前はそれを理解しなかった」
私は拳を強く握りしめた。
血の滲む努力をした自分が、こうして公然と侮辱される理由がわからなかった。
「剣が何だというの? 私はあなたのために――」
「黙りなさい!」
セリーナが私の言葉を遮る。
「王太子妃たる者が、剣を振り回して恥を晒すなんてあり得ないわ! あなたのような下品な女が王家の名を汚すことを、私たちは許さないのよ!」
その場にいた貴族たちからも、くすくすと嘲笑が漏れる。
誰もが私を見下す目を向けていた。
「セリーナ……」
エドワードが優しく彼女の肩に手を置く。
「君のような気品溢れる女性こそ、王家にふさわしい。君が隣にいれば、俺は最高の王になれる。」
セリーナはその言葉に満足げに微笑んだ。
彼女にとって、王太子と結婚する理由は明白だった。
(セリーナの目的は……権力か)
彼女の笑顔の裏には、欲望と計算が渦巻いていた。
私は周囲の笑い声や侮蔑の視線を感じながら、静かに立ち上がる。
そして、冷たい声で言った。
「婚約破棄、お受けします」
その言葉を最後に、私は背筋を伸ばしてその場を去った。
背後では祝福の声や笑い声が響いている。
だが、私は振り返らない。
(私が女性らしくない? それでいいわ。これからは、もっと自分のために生きる)
夜の街灯が揺れる中、私は孤独に歩き出した。
その瞳には悔しさと怒り、そして微かな決意の光が宿っている。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
レオーネ様は婚約者に問いたい
雪塚 ゆず
恋愛
生まれつき魔力の所有量が多かった小国の姫レオーネは、その力を目的とされ大国の王子と婚約した。
時は流れレオーネは十五歳となり、大国の学園へ留学することに。
顔を合わせた婚約者は、態度がどことなくぎこちない。
レオーネは婚約者に問いた。
「私の今後の身の振り方に対して、何かご要望はありますか?」
そして婚約者は答える。
「婚約、なかったことにしないか」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる