最弱王子なのに辺境領地の再建任されました!?無気力領主と貧困村を救ったら、いつの間にか国政の中心になってた件について~

空月そらら

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1章

第39話 大蜘蛛をルドルフの館に

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 森の中、静寂を破るようにフェンリルの足音が響いていた。

 その背中には、大蜘蛛が慎重に乗せられている。

 大蜘蛛は時折、小さな声で苦しげに呻き、そのたびに俺の心は締め付けられるような痛みに襲われた。

 大蜘蛛が負ったブラックウルフによる傷の深さを俺が正確に測ることはできない。

 だが、その表情や弱々しい声が、今すぐ治療を施さなければ命が危ないことを雄弁に語っている。

 一方で、俺の鞄の中に収まった小蜘蛛たちは、驚くほど静かだった。

 恐怖で震えているのか、それとも母親が傍にいるという安心感からか、全く騒ぐ様子はない。

 鞄から小さな頭がピョコンと飛び出すことが時々あったが、すぐに引っ込む。

 まるで、外の状況を確認しているかのようだった。

「もう少しだ、大蜘蛛。耐えてくれよ」

 俺はその巨大な体に届くように声をかけた。

 フェンリルもまた、いつもの堂々とした威風ではなく、慎重に一歩一歩を踏みしめて進んでいる。

 その頼もしさに感謝しながら、俺はさらに足を速めた。

 やがて、木々の間からルドルフの館が姿を現した。

 荘厳な門と、その奥に広がる手入れの行き届いた庭園が目に入る。

 すると、門の前に立つ門兵は、俺たちの姿を見て一瞬固まった。

 そして、目を大きく見開きながら声を上げた。

「ちょ、こ、これは!?」

 門兵の視線は俺ではなく、フェンリルの背中に乗る大蜘蛛に釘付けだ。

 無理もない。

 こんな巨大な魔物を連れてくるとは思わなかったのだろう。

「俺がテイムした魔物だ。話は聞いているだろう?」

 俺が冷静に言うと、門兵は慌てた様子で頭を下げた。

「は、はい! ですが、まさかここまで巨大な魔物とは思わなくてですね……」

「そうだろうな。だが、今はそれどころじゃない。こいつは重傷だ。急いでルドルフとルーカを呼んできてくれ」

「しょ、承知しました!」

 門兵は深々と頷き、館の中へと駆け込んでいった。

 その間、フェンリルはじっと佇んでいる。

 その背中に乗る大蜘蛛もまた、動かずに俺を見つめていた。

 その瞳には、痛みの中でも俺を信じようとする意思が宿っているように見える。

「大丈夫だ、すぐに治療してやるからな」

 俺はそう囁きながら、大蜘蛛の体にそっと触れた。

 その感触は冷たく、生命力が失われつつあることを感じさせた。

 それでも、俺の言葉に応えるように、大蜘蛛が微かに頷く。

 しばらくして、館の大きな扉が開いた。

 そこから出てきたのは見慣れた顔、ルドルフとルーカだった。

 だが、その表情はいつもと違い、驚愕に染まっている。

「殿下、早いご到着で……ええ!? こ、これは……!」

「す、すごく大きい……!」

 ルドルフとルーカの視線は大蜘蛛に釘付けだった。

 普段は冷静沈着なルドルフも、この場面ばかりはその表情を保つことができないらしい。

「俺がテイムした魔物だ。だが、大蜘蛛の傷が酷くてな。ルーカの治癒魔法が必要なんだ」

 俺の真剣な声に、ルドルフは事態の緊迫感を察したようだった。

「ルーカ、急いで治療を!」

「は、はい!」

 ルーカが俺たちの方へ駆け寄る。

 その瞬間、大蜘蛛は大きく息を吐き出し、体を微かに震わせた。

 限界が近づいているのだろう。

「大丈夫だ、もうすぐ救える」

 俺はそう囁きながら、大蜘蛛の冷たい体に触れた。

 その感触は、命の灯火が消えかけていることを感じさせる。

 ★

 ルドルフの館の庭園の一角で、ルーカが静かに魔法の準備を始めた。

 その手には淡い光が宿り、優しく大蜘蛛を包み込むように輝いている。

 俺は大蜘蛛のそばに膝をつき、その様子を見守っていた。

 ルーカの治癒魔法は以前にも見たことがあるが、こうして間近で見ると、その繊細さと力強さに圧倒される。

 淡い光が大蜘蛛の傷に吸い込まれていくたびに、その黒い体が少しずつ楽になっていくようだった。

 大蜘蛛は最初、痛みのせいか体を硬直させていたが、徐々にその緊張が解けていくのがわかった。

 その瞳には、どこか安心したような色が浮かんでいる。

「もう少しだからね。頑張って」
 
 ルーカが優しく声をかけると、大蜘蛛は微かにその大きな足を動かした。

 彼女の声が届いている証拠だろう。

 俺はそんな光景を見ながら、大蜘蛛の命が助かることに胸を撫で下ろしていた。

「……ルーカ、本当に頼りになるな」
 
 思わず口をついて出た俺の言葉に、ルーカは少しだけ頬を赤らめたように見えたが、すぐに真剣な表情に戻った。

 彼女もまた、大蜘蛛を救うことに全力を注いでいるのだろう。

 治癒魔法の光が消えたのは、それからしばらくしてのことだった。
 
 ルーカは額の汗を拭いながら、俺に向き直る。

「これで、大蜘蛛の傷は塞がりました。ただ、完全に回復するには少し時間がかかるかもしれません。でも、命の危険はもうありません」
 
 その言葉に、俺は思わず息を吐き出した。

 緊張が解け、心の中に温かな安堵が広がっていく。

「助かったよ、ルーカ。ありがとう」

「うん!」
 
 俺がそう言うと、ルーカは控えめに笑みを浮かべながら頷いた。

 大蜘蛛はまだ少し疲れているようだったが、その瞳には力が戻ってきているのが分かる。

 俺はそっとその巨大な体に触れた。

 すると、大蜘蛛はゆっくりと頭を持ち上げ、俺を見つめ返してくる。

 その瞳の奥には、感謝と信頼が宿っているように感じた。

「この先、お前たちに頼みたいことがある」
 
 俺は大蜘蛛と、その鞄の中でじっとしている小蜘蛛たちに向けて語りかけた。

 彼らのためにできることを約束するためだ。

「まず、これからはお前たちに衣食住を保証する事を約束しよう」
 
 大蜘蛛はその大きな体をゆっくりと動かしながら、俺の言葉に耳を傾けているようだった。

 小蜘蛛たちも、鞄の中でピョコピョコと動き始める。

 彼らが俺の言葉に興味を持っているのが伝わってきた。

「その代わりだ。これからは俺たち、そしてエルウァイ領のために力を貸してほしい。お前たちが持つ力は、この領地を守るためにきっと必要になる。俺たちと共に戦ってくれないか?」

 俺の言葉に、大蜘蛛はしばらく静かに俺を見つめていた。

 そして、まるでその提案を受け入れるかのように、ゆっくりと頭を下げる。

 鞄の中から小蜘蛛たちも次々に顔を出し、チョコチョコと動き回った。

 その様子が、母親に賛同しているように見えて微笑ましい。

「ありがとう、大蜘蛛。ただ、戦闘に関しては俺の後ろにいるフェンリルと共に協力して欲しい」

 俺はそう言って、大蜘蛛の体を優しく撫でた。

 その感触はまだ少し冷たかったが、命の力が確かに宿っているのを感じる。

 ルーカとルドルフも、その光景を穏やかな表情で見守っていた。

 こうして、俺と蜘蛛たちとの新たな絆が結ばれたのだった。
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