記憶の破片に悩まされる令息

ぺこ

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あぁ、またか。

もうこの感覚にも慣れてきたような気がする。

ぶぶっとスマホの通知音が鳴る。
『もうすぐ着くよ!』
今日は向と遊ぶ約束をしていた。
俺は既にその場所に着いているようだ。
数分して、金髪がこちらに走ってくるのが見えた。

「ごめん、待った?」

「いや全然、早く行こうぜ。」
正直こんなイケメンと一緒にいると周りの視線がすごく気になる。
約束していた映画を観に行くため、映画館へ足を運ぶ。

ポップコーンやジュースを買って、いざ映画、と思っていたのだが…

何故俺は今こいつとラブコメ映画を観ているのだろうか。

あららら…物凄く熱烈なキッス…あはー、すんごい…お幸せになって下さいまし?

じゃなくてね?!?!

あれ、俺達が観るのって昔やってたドラマのリメイク版って聞いてたんだけどな。
しかも向は向でなんでそんな楽しそうなんだ?

てか俺の1000円は…?

失ってしまった1000円の喪失感と疑問ばっかりであっという間に映画が終わり、向に聞いた。

「おい向、俺達が観るのってあれじゃなかったよな?」

「そうだねぇ、何か間違えちゃったみたい。でも面白かったしいいでしょ?」

「いやいやいいわけ無いだろ。周りカップルだらけなのに俺達だけ男同士とか…はずい。」

「ふぅーん?もしかしてさ、意識してくれた?」
にやにやと向が聞く。

「はぁ?んなわけねぇじゃん。勘違いす ん な!」
向の胸にとんとんと指を強く押し、そっぽを向く。

「………、そうかぁ!そうだよねぇ!」
…今の間、何だ?そっぽを向いていたせいで顔が見れなかった。少し引っかかる。

「あぁ、それより腹減った、ファミレス行こう、ぜ…。」

「…そうだね、そうしよう。俺ステーキ食いたい。」
振り返ったほんの一瞬、見間違いかと疑うほど、向の顔が冷え切っていた。

何か吹っ切れてしまったように。

そこで夢が覚めてしまった。

「はぁっ…はぁっ…、」
物凄く冷や汗をかいている。

向のあの表情が頭から離れてくれない。
ヘディと良く似たあの顔が。

もう既に部屋の中は真っ暗で、カーテンの隙間から漏れる月明かりが己を照らしている。

少し深呼吸をすると、思考が冴え渡ってきた。
大丈夫、向はヘディとは別人なんだし、そもそも夢の話だ。

そう自分に言い聞かせているのに、何だろうこの胸騒ぎは。

「大丈夫。」

その言葉で自分の中に漂う違和感に蓋をした。

結局あの後寝てしまったようで、朝日が差し込んでいる。

今日はお兄様のプレゼントを買いに行く日だ。
切り替えていこう。 

拭いきれない違和感を無視して、お出掛けの準備をすることにした。
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