記憶の破片に悩まされる令息

ぺこ

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ふわぁ、いつもより少し長く寝てしまったみたいだ。
メイドがもう部屋に入って朝の準備をしている。
「おはようございます。ローゼシア様。」
起きた僕に気付き、メイドが挨拶をする。

「おはよ、ベロニカ。」
ベロニカは僕の専属メイドで歳は24歳。
頭が良く、かなりの仕事人間だ。
お金を貯めることに生きがいを感じているらしい…

ベロニカが顔を拭いてくれたり着替えさせてくれる。そろそろ高等部に上がり寮に入るのでこの日常も無くなると思うとちょっぴり寂しい。

「ローゼシア様、今日のご予定はどうなさいますか。」
ベロニカの無機質な声が響く。

「そうだな、今日は特に用事はないが、そういえばそろそろお兄様の誕生日だから、何かプレゼントを渡したいんだ。」

「左様でございますか。それでは明日のお出掛けの準備を致します。」

「ありがとう、助かるよ。」

「使用人として当然のことでこざいます。」
うーん、ベロニカとはかなり小さい頃から話しているが、一向にこの機械的な会話から抜け出せない。

彼女が仕事人間たる所以なのかもしれないが、少し寂しくはある。
ベロニカにもプレゼントを渡してみようかな。
あまり深い意味にならないプレゼントを渡さなくては…。

さて、お兄様のプレゼントはどうしようか、正直あの人は僕にも分かるぐらいブラコンなのでそこら辺の石を渡しても喜びそうだ。

でも石を渡すのは良くないので他の物を探すか…
今は次期侯爵としての勉強が忙しそうだし、ペンとか、実用的なものを渡そうかな。

「ローゼシア様、朝食に致しましょう。」
他のメイドに伝言を頼んだベロニカが、朝食を乗せたトレーを運び、机に置く。

「ん、ありがとう。」
目玉焼きにレタスと切られたトマトをパンに挟んだサンドウィッチ、スープはコンソメスープのようだ。
よだれが出そうなほど美味しそうだ…。

実は朝食はベロニカが作っていて、前に料理長が倒れて朝食が作れなかった時に、緊急でベロニカが作ってくれた朝食が美味しく、これからの朝食はベロニカの作ったものがいいと我儘を言ったのだ。

小さい時に言ってずっと続けていたのだが、少し前に負担ではないかと聞いたら、

『いえ、逆に朝食を作るだけで給料が上がったので嬉しい限りです。』

と、あまり笑わないベロニカが少しだけ口角を上げて嬉しそうに言っていたのを覚えている。

よく考えたらベロニカが一番欲しいプレゼントは出世か給料アップなのかもしれない…。

朝食を食べ終わり少し庭を散歩していると。

「ゼシィッ♡!!」
ガバっといきなり背後から抱きつかれた。
「ルビア兄様っ、苦しいですっ!」
案の定サルビアお兄様だった、結構きつめに抱きつかれているから苦しい。

「すまんすまん、久しぶりにゼシィに会えたからつい嬉しくなってしまって。ま、座ってお兄様と話してよ。」
僕を腕から解放し、ベンチに座り、膝を叩く。
「…ルビア兄様…?」
無言で膝を叩いている、まさか膝に乗れと…?
僕を何歳だと思っているんだ。

「…?どうしたのゼシィ、昔はよくこうして喋っていたではないか。」
さも当然かのように言う。

「お兄様…僕はもう今年で12歳です。高等部になるのです。子供じゃないんですよ。」
といい、お兄様の隣に座る。

「そうか…」
寂しそうに少し顔を下に向ける、横に流した綺麗な純白の三つ編みが揺れる。

何か悪いことをしてしまった気分になるな…
「しょうがないですねルビア兄様は…」

僕は"仕方なく"お兄様の膝に乗ってあげた。

「ゼシィっ!!」
お兄様は黄金の瞳をキラキラと輝かせ、僕に再度抱きつく。

「だから苦しいですって!ルビア兄様ぁ!」
脚をばたばたさせて、まだまだ勝てない身長で足掻く。

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