勇者は善良な魔王を殺したい

おかゆ

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14.秘密

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リゴからべルムへの手紙②

それともう1つ。
隠してて悪かった。

籍は入れてないが、妻がいる。
訳あって、彼女は隠れて生活をしなければならない。
子どもも2人。
双子の女の子だ。

俺が死んだら、5日後に妻へ連絡が行くようになっている。
薄紫色の髪の背の高い女だ。
瞳は青。
額に鋭い銀の角が生えているからすぐ分かると思う。

この手紙をお前が読むタイミングがいつになるか分からないが、もし、妻と娘達に何かあったら、気にかけてやって欲しい。

何も説明出来ずに死んで悪いな。
俺も色々あるんだよ。

お前は長生きしろよ。
そのために、俺の魔力も寿命もやったんだからな。





「ああ…悪い…気絶してたのか?」

ヴァシスは目を覚まし、自分が悪魔に抱えられて飛んでいることに気が付いた。

頬にあたる風が冷たい。
頭がクラクラする。

【貧血だろう。思ったより…出血したからな。着いたぞ、宝石の森だ】

眼下に広がる柔らかな光。
魔王城に攻め込む直前に来た場所だ。

懐かしい。
あの日あの時、皆生きていたのだ。
生きて帰って、プユケの故郷に行く約束はもう果たせない。
最期に、ここにまた来たかった。

「そこに、降ろしてくれ」

魔王城が見える開けた高台に、悪魔に連れてきて貰い、腰を降ろして水色に発光する大きな木にもたれ掛かる。
ハラハラと、輝く七色の葉が地面に落ちて輝いた。

貧血なのだろうか。
物凄く眠たい。

魔王城の光が見える。
ベルムはまだ眠っているだろうか?
リゴは上手く蘇生できるだろうか?
リューナ様は、ヴァシスが勝手に出ていった事を怒るだろうか?
そういえば、オークと釣りの約束をしていたのに果たせなかったな。

悪魔がゆっくりヴァシスの隣に座る。

「お前…本当に悪魔か?」
【なぜだ?】

「なんで隣に座る?」
【お前の隣に座りたいからだ】

悪魔は、ヴァシスを見つめて答えた。

かなり高身長だが細身だ。
見た目は、人間で言う30代前半ぐらい。
ただ、悪魔なので、コッペ爺様のように、とんでもない年齢の可能性が高い。

顔色が悪く常に無表情で、声に抑揚もないのに、どうも会話の内容がおかしい。
気持ちが悪いぐらい親切だ。

封印された悪魔は、封印した人間が憎いはず。
さっさと人間の願いを叶えて、殺して食いたいはずなのに、コイツは細かなヴァシスの要求に丁寧に答えていく。

暫く無言で、魔王城を見つめていた。
少し、空が明るくなってた気がする。

ヴァシスは、べルムの気持ちから逃げた。
リゴの件が無くても、いずれ離れたくなっていたと思う。
これで良かった。


【あそこに戻りたいか?】

「何を言っている。俺はお前に今から殺されるんだろう」

【殺しはしない。他に方法がある。お前にとっても、俺にとっても地獄だろうが、死ぬよりは良いと思う。生きてさえ居れば…なんとでもなる。お前と俺が、会えたように】

「は…?」

やはりこの悪魔は様子がおかしい。
ヴァシスは、離れようと身をよじった。


【こっちへおいで、イアス】


頭の中に、悪魔の声が響く。
体が動かなくなった。

緊張して震えるヴァシスの呼吸だけが、聞こえる。

声も出せない。

目の前の悪魔は、少し、微笑んでいるように見えた。
ゆっくり近づいてきて、ヴァシスの肩を掴み、抱き寄せる。

こわばっていた体の力がガクッと抜ける。
一切力が入らない。

されるがまま、悪魔の膝の上に座り、もたれ掛かる形になった。

目だけ動かして、悪魔の顔を確認する。
白い瞳の外側が、赤く光っている。
何か、神経を操る魔法を使っているようだ。

抵抗する気は無いが、この悪魔の目的が分からない。
殺しはしないと言っていた。
では、なんだ?何をする気だ?

緊張し、警戒するが体に全く力が入らないヴァシスの頬に、悪魔は口付けた。

悪魔がゆっくり顔をあげる。
その顔は、もう悪魔の顔ではなかった。

褐色の肌。白くて長い髪。
2本の黒い角。深紅の瞳。


…べルム…?


驚いて、彼の名前を呟いたが、相変わらず声は出ず、かすれた空気を吐き出すだけだった。






「悪魔は人間と契約する時、従う対価としてその命と魔力を得ることが出来る。しかしそれだけではない…」

べルムの顔をした悪魔は、べルムの声で話し始める。
ヴァシスは、彼の顔から目を背けた。
今、彼の顔を見ては行けない。
思い出してしまう。

「悪魔は数が少なく群れない。寿命も長いので基本的には子孫を残す必要も無い。しかし、契約者が悪魔の子孫を残す事が可能な種族であれは…従う対価として子を産ませることもできる」

「……」
ヴァシスは、力の抜けた体で何とか考える。
どうするのが良いだろう。
この状態では自死することも不可能だ。

「悪魔と他種族と交わることでその子どもは他種族の力を得ることが出来る。悪魔はそうして、力を得てきた。契約者を食って力を得るか、食わずに子を成し子に力を与えるか、選ぶことが出来る」

ヴァシスは、諦めて目を閉じた。
このイカれた悪魔の言っていることが本当であれば、自分は今から強姦されるという事だ。
悪魔の子を産む?
産まれる前に契約者が死ぬか、産んだ後に子どもを殺してしまえば終わる話だと思った。

しかし、その思考を読んだのか、べルムの顔をした悪魔が、頬を撫でてくる。

「契約者は、子を宿した後、5年間催眠状態になる。最愛の相手との子どもであると認識し、子どもを愛す。よって、自殺や子どもを殺すことはできない。5年間で子どもは自立できるようになり、お前の元から去るだろう。そこで契約は完了する。それまで耐えてくれ」

「……」

悪魔は自身の羽織っている黒いマントを外し、地面に広げた。
ここでやる気か?

「ベッドが良いか?」

やめろ気持ち悪い。

「早くべルムの所に戻った方が良い。彼の何を恐れている?お前を愛してくれているのは理解出来ているだろう?周りの事をあまり深く考えすぎない事だ。お前が、どうしたいか。お前はお前の気持ちに従うだけで良い」

黙れ。アイツの顔してアイツの声で喋るな。

「声が出せないと不便だな」

悪魔は、ヴァシスをマントの上に横たえて、首元にキスをする。
喉が軽くなり、声が出るようになった。

「べルムの所には帰れない。死ぬつもりでお前の封印を解いたんだ。さっさと殺して食えば良いだろ!」

「何故帰れない?お前が出ていったと知ったら彼は血眼になってお前を探すだろう。お前を愛しているからだ。お前が怖がっているのは…彼の気持ちが変わる事か?それは未来の事だからどうなるか誰にも分からない。変わったって良いじゃないか。そこに愛が存在していなかった訳では無いだろう?永遠に変わらない物など無いのだから」

この悪魔は何をさっきからベラベラと。
これから人を犯すというのに、愛だのなんだの…

悪魔は喋りながら、器用にヴァシスの服を剥ぎ取っていく。
右足に手が掛かるとジリジリとした痛みを感じた。
回復魔法で傷口は塞いだものの、まだ当分痛みは残るようだ。

「すまない、痛むか?」
「うるさい。もう…いいから早くしろ」

過去、体を売ったり盗みを働いていた際、捕まって強姦されたことは2度ある。
この状態で苦痛を感じずに早く終わる方法は、体の力を抜き、頭を空っぽにして自分の呼吸だけに集中する事だ。

空を見上げる。
宝石の森の木々の葉が、白、紫、水色、ピンクと発光しながら風に揺れていた。
森全体が柔らかい光に包まれている。

星も出ていると思うが、ヴァシスの目は霞んでいてよく見えない。
森が明るすぎるのかもしれない。

悪魔は恐ろしく丁寧な手つきで時間をかけてヴァシスの穴を解し、何種類かの魔法を使いながらゆっくり挿入した。

「そんな…ダラダラやってたら終わらない…早く動けよ」

「ダメだ。傷がつく。足も痛むだろう?」

「…っ…」

べルムの顔と声で、優しくしないで欲しかった。
思い出してしまう。

べルムに会いたい。
べルムの傍に居たい。
でもそれが出来なくなるのが怖い。
失うのが怖い。
だから、最初から要らない。
彼を自分の1番にしなければいい。
そうしたら、自分が彼の1番で無くなっても気にしなくていい。
綺麗なまま、彼の幸せを祈ることが出来る。

「イアス…泣くな…すまない…」

悪魔がヴァシスの頬の涙を拭って初めて、自分の目から涙が流れ落ちて居る事に気が付いた。

苦しい。

べルムの言うことを聞かずに足を切断して、勝手に逃げた上に、悪魔に孕まされた状態で帰れる訳が無い。

「やだ…べルム…や…嫌いにならないで欲しい…ごめんなさい…ごめん…っ」

泣いている上に揺さぶられ、腹の中を貫かれている。
息が出来なくなって、鼻も詰まって、思考も停止していた。

「べルム…ああっ…ごめん…ごめん…んっ…あ、気持ちいい…あ、あ、あ、あ…!!」

体が痙攣して、仰け反る。
何度か意識が飛び、酸素を求めて喘ぐ。

悪魔が低く呻いて射精をした。
腹の中に熱を感じながら、ヴァシスは涙で濡れた瞼を閉じた。





「べルム様!大変ですにゃーーーー!!!」

早朝に、ドガン!と大きな音を立てて扉を開いたシャムが部屋に転がり込んできた。

ベルムは目をこすって、のっそり起き上がる。

「もう少し落ち着けないか、シャム…お前一応、俺の右腕だよ…」

ヴァシスを起こさないよう、静かに脱ぎ散らかした服を着て、部屋の入口付近の椅子に腰掛ける。
シャムにも座るよう促した。

「あ、朝早くにごめんなさいにゃ!!これを見てくださいにゃ…!」

ブルブル震えたシャムから2枚の紙を受け取る。
リゴから、べルムに宛てた手紙だった。

「は…!?これどこにあったの!?」

「リゴ様のご家族がいらっしゃったので…生前使ってたお部屋にご案内しましたにゃ。何か形見になるようなものは無いかと一緒に探していた時に見つけましたにゃ…!お部屋のベッド横の棚にありましたにゃっ」


『ベッドの横の本棚の1番下の引き出しにはエロ本があるからそれはお前に全部やる。』


リゴが、あの時言っていた場所か。

「待て、リゴには家族なんか居ないだろう?虐待していた親族が来たのか?」

「そのお手紙に書いてありますにゃ…あわわ…勝手に読んでしまってすみませんにゃ…実は、奥様と娘さんがいらっしゃいますにゃ…」

手紙には、虹色の髪の女とその息子の肉体を勝手に実験に使った事と、家族の事が記されていた。

「シャム、お前知ってて俺に隠してたか?」

「ヒェッ!すみませんにゃ…!実はリゴ様に頼まれて以前から僕が奥様と娘さんと連絡をとったり…頼まれて食料やお金を渡しに行ってましたにゃ…」

「なるほどね」

家族に5日後に知らせるのはシャムの役目だったのだそうだ。

だがシャムは最後に一目でも会わせてあげたくて自分の判断で、埋葬の前に知らせてあげたという事だった。

今日葬儀に来た魔族の中に、薄紫の髪の女と、その娘二人の姿を思い出した。
娘達が、かなり大泣きしていたので覚えている。
生前リゴにお世話になったと言っていたが…
きっとあの3人だ。

「シャム、この虹色の髪の種族の死者蘇生の件はリゴから何か聞いているか?全て話せ、知っている事全部、嘘偽り無く」

殺気を浴びせられたシャムは縮こまってその場に平伏する。
猫の姿から人型に変化して、頭を垂れた。

「この件に関しては僕は知りませんでした。でも、昨日の葬儀の後…奥様から…ヴァシス様に合わせて欲しいとお願いされてしまって…何故かと尋ねたら、リゴ様を蘇生して貰えないか頼めないかと…僕は、死者蘇生は、迷信だと思ってますが、一部本気で信じている魔族が居ることは知ってましたので…それは出来ないとお断りをして…理解してくれたようなのですが…」

…ヴァシスは…?

振り返ってベッドを確認する。
ベッドが膨らんで居たのでそこにいるかと思っていたが、そこに居たのは白いクマのぬいぐるみだった。

「おいシャム、ヴァシスはどこへ行った!?」

「え…ご一緒ではないのですか?あれ本当だ居ない…」

しまった!
リゴが家族に5日後連絡が行くようにしたのは、自分の蘇生を諦めさせる為だ!

「城の兵士全員で城と周辺を探させろ!」
「分かりました!」





ママに『ちにく』を届けてすぐにククとピピはお城に戻った。
シャムが用意してくれたお部屋だ。
リゴが、使っていた部屋だと言っていた。

あの時、ママはずっと慌てた様子でヴァシス様に謝っていた。
何か、間違ってしまったかと思って驚いたが、ママは『ちにく』を受け取ってくれた。

なので、リゴもこれで起きるだろうと思う。

ククとピピは、リゴの事が大好きだった。
月に1度沢山のお土産を持って遊びに来てくれる。

ママは、リゴの事が多分好きだったので、結婚すれば良いのに、と提案したけど出来ないのよ、と言った。
ククとピピのパパは産まれる前に死んでしまったようで、会ったことは無い。
写真もないので、全然どんな人か分からなかった。

リゴがパパになってくれれば良いのに、とリゴにも言ったことがあったけど、リゴは困った顔で笑っていた。

シャムもたまに遊びに来てくれて、お土産やおもちゃを沢山持ってきてくれる。



数日前シャムが来た時に急に、リゴが死んじゃったとママに伝えていた。

ママは、その日からずっと泣いている。

ククとピピは、ママとシャムの話を聞いていた。
ヴァシスという人に『ちにく』という物を貰うと、リゴが起きてまた遊んでくれると言っていた。

ママはシャムにお願いしたけど、ダメと言われてしまって、また泣いていた。

なんで『ちにく』があると起きれるのか聞いたら、ママも昔、リゴに『ちにく』を貰って、起きた事があると言っていた。

可哀想なので、ククとピピがママの代わりに、ヴァシスという人を探すことにした。



部屋の前にいた黒猫の獣人に聞いたら、その人はすぐに見つかった。


ククとピピの隣の隣の部屋に居て、お部屋に入っていいと言って貰えたので、ママとリゴの話を伝えて、シャムにダメと言われた事も伝えた。

「ヴァシス様、ちにく持ってる?ククね、リゴに起きて欲しいなぁ」

「リゴに、ちょっとあげちゃダメかな?ピピね、お礼にクッキー焼いてきてあげるからお願い!」

「ちにく」が、何かよく分からなかったけど、ヴァシス様が持っていて、貰えればリゴが起きて、ママが喜ぶ事は分かっていた。

ヴァシス様は、全部お話をした後に、良いよ、と言ってくれた。

「分けてあげるには入れ物が必要だからね、用意できるかな?あと、少し準備がいるから夜まで待ってて欲しい。リゴは今、礼拝堂で、ママも今夜はそこに居るんだよね?じゃあ墓地で待ち合わせしよう。できる?」

「うん!」

ヴァシス様は、とても優しい。
ククとピピの頭を撫でで笑ってくれた。

天使様だと思った。

リゴが起きたら、ママとリゴと、ククとピピで、美味しいクッキーを沢山焼いてヴァシス様にプレゼントしよう!

きっとヴァシス様も喜んでくれるはずだ。













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